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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第20ステージ】総合勢を振り切り23歳クレモン・シャンプッサンが初優勝「最後まで全力を尽くした」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかクレモン・シャンプッサン
最後の直接対決の機会に、王者たちが最後の意地を張り合った。19日間かけて築き上げられてきたはずのヒエラルキーは、ところどころ入れ替わった。ただプリモシュ・ログリッチの頂点は、固く揺らがなかった。3週間の終わりのカオスの中で、クレモン・シャンプッサンが泥臭く渾身の一撃を決めた。
「最後まで全力を尽くした。一緒に逃げた2人のチームメートが、僕を1日中助けてくれた。絶対に失敗は出来なかった」(シャンプッサン)
総合争いに無関係で、個人タイムトライアルにも重きを置かない選手にとっては、この日がほぼ戦い納め。後悔なくブエルタを締めくくるために、多くの選手が、2021年グランツール最後のラインステージを全速力で走り出した。激しいアタック合戦は延々1時間にも渡って繰り広げられた。幾多の志願者の中から、ついに力づくで飛び出してたのは16人。42km地点で逃げ集団が出来上がった。
今大会すでに幾度となく見られたように、チームDSMが、大量3人で飛び乗った。しかも区間2勝マイケル・ストーラーと、区間1勝ロマン・バルデとで、貪欲にラストチャンスを仕留めに来た。もちろん残る5つの山で、ストーラーの山岳賞を確する目的もあった。
いまだ1勝目を追い求めるアージェードゥゼール・シトロエンもまた、まんまと3選手を送り込んだ。2021年グランツールでいまだ勝ち星のないスペインからも、異なる3チームの3選手が揃った。チーム総合首位を確実にしたいバーレーン・ヴィクトリアスは、マーク・パデュンを前に滑り込ませるのも忘れなかった。
マイヨ・ロホのログリッチにとって、目障りな選手は1人も紛れていなかった。ユンボ・ヴィスマは極めて静かに隊列を走らせた。200kmを超える長いステージを折り返す頃には、タイム差は12分近くにまで広がっていた。
「ステージ前半はナイスだったね。僕らはテンポを刻むだけでよかった。でも後半に周りが全力疾走に切り替えるだろうことは予測してたんだ。だって最後の山岳ステージだったから」(ログリッチ)
ログリッチの読みは当たった。残り100kmを切った直後、つまり起伏モニュメント顔負けの激しいアップダウンの連続に、いよいよ突入しようというタイミングだった。突如としてイネオス・グレナディアーズが、プロトン前線へと駆け上がった!
エガン・ベルナルとユンボ・ヴィスマの選手たち
グランツール常勝軍団が、エガン・ベルナル総合5位&新人賞とアダム・イエーツ総合6位で満足できるはずもなかった。3人がリタイアし、もはや補佐役は3人しか残っていなかったが、猛烈なスピードアップに踏み切った。急加速と急勾配でプロトンをあっという間に小さく絞り込んだ。たった20kmほどの牽引で、逃げとのタイム差を5分に縮めてしまったほど、恐ろしいテンポだった。
後方からの圧力を受けて、徐々に先頭集団は結束力を失っていく。それでも2つ目の山頂までは、かろうじてDSMが統制力を保った。ストーラーが高速テンポで山を上り、アタックを抑えつつ、山岳ポイントも着実に収集。しかし、フィニッシュまで75km、山頂からの下りでマッテオ・トレンティンがダウンヒル特攻を仕掛けた。逃げ集団は一気に分裂し、その後は果てしない再合流と再分裂を繰り返すことになる。
3つ目の1級峠では、パデュンが黙々と逃げの友たちを引いた。トレンティンとライアン・ギボンズ、つまりUAEチームエミレーツの2人が長らく後輪に張り付いていたこともあった。DSMとAG2Rもいつしか2人ずつに揃った。山道がようやく終わりに近づいた頃、パデュンは前を降りるのだが、おかげで余裕を4分20秒保ったまま山を乗り越えた。
山頂では、やはりストーラーが1位通過を果たした。ここで10ポイントを重ね、山岳賞2位以下の逆転は数字上不可能となった。さらに4つ目の山でも2位3ポイントを重ね、総計80pt。ストーラーが青玉ジャージを持ち帰るための、残された唯一の条件は、完走だ。
「チームDSMが成し遂げたことに満足している。今日の僕らは素晴らしい仕事をした。3人が逃げに乗り、コース途中ではポイントを収集した。チームは本当にファンタスティックな走りを実現させた。願わくば、ステージ勝利も争いたかったけどね」(ストーラー)
この3つ目の上りで、総合エースたちの最終戦争が勃発した。アシスト3人が死力を尽くした後、イネオスが動いた。残り60km。イェーツが真っ先にアタックを打った。続いてベルナルが加速に転じた。ライバルたちが穴を埋めに走った勢いを利用して、またしてもイェーツがカウンターを放った。
この素早い3連発に、総合3位ミゲルアンヘル・ロペスが対応できなかった。遠ざかっていくライバルたちを、すぐに追いかけ始めた。しかし総合4位ジャック・ヘイグと総合6位イェーツは、総合表彰台に上る絶好のチャンスを見逃さなかった。ヘイグのために、前ではジーノ・マーダーが全力で引き離しにかかり、イェーツのために、背後ではベルナルが同時沈没の道を選んだ。
見事なチームワークを発揮したバーレーンとイネオスに対して、ロペスは孤独だった。総合2位エンリク・マスがチームメートを待つことなど不可能だった。イネオオスと同じく、たった3人しか残っていないアシストは、すでに千切られた後。もちろん他チームの選手は、誰ひとり協力を申し出てはくれなかった。
しかもバーレーンは、前からパデュンさえ呼び戻した。3人で猛烈に牽引を続けた。残り35km前後でようやく後方からホセ・ロハスが追いつき、ロペスのために引き始めた時には、すでにライバルからの遅れは4分以上にも開いていた。
そして、ロペスは、自転車を降りた。昨ジロ初日落車リタイア、今ツール第19ステージ未出走に続き、グランツール3大会連続で途中棄権。「ただ失う一方の戦いを止めることに決めた」「こんなやり方でブエルタの終わりを迎えたなんて悲しい」と、当夜コメントを発表している。
パデュンが後退する直前、3つ目の山の下りで、逃げ集団からはギボンズが先行を始めていた。DSMとAG2Rをそれぞれ2人ずつ含む9人との差は、あっという間に1分半にまで広がった。協力し合って追走する代わりに、幾度も抜け駆けアタックが繰り返されたせいだった。4つ目の上りで、55秒差に縮めたものの、下りで再び差は1分40秒にまで開く。
むしろパデュンが引っ張る一団が、後方からどんどん近づいてきた。残り9.7km、最終峠の麓で、先行ギボンズ以外の逃げは、すべてマイヨ・ロホ集団に回収された。逃げ選手たちの望みは、完全に断ち切られた……わけではなかった。カルメジャーヌに言わせると、むしろ「ちょっとした幸運」だった。
なにしろギボンズの後方で、まずはパデュンが相変わらず作業を続行した。約3kmに渡って一定テンポを刻んでくれたおかげで、逃げの残党たちは息がつけた。逃げの1人、ミケル・ビスカラが先行を試みた時も、ただパデュンが黙々と対処した。
勾配が10%から16%に跳ね上がるタイミングを狙って、残り6.3km、イェーツがアタックを切った。ログリッチは軽々と対応し、マスは後輪に張り付いた。ヘイグは、今大会これまで何度も繰り返してきたように、自分のペースで着実に追い付いた。
総合上位勢のバトル
2021年ブエルタ総合上位4名の揃い踏み。1位ログリッチ、2位マス、(暫定)3位ヘイグ、(暫定)4位イェーツによる、今大会最後の睨み合いが始まった。イェーツは再び加速を試みた。後輪では同じ光景が繰り返された。ログリッチが仕掛けると、やはりマスは張り付き、イェーツはヘイグに追走を押し付けた。
ところが、ここで、短い下りが挟まれた。4人は先を急ぐ代わりに、攻撃を一旦停止し、少し息をついた。
「僕もかなりきつかったけれど、総合上位勢も疲れていたんだと思う。勾配が厳しい部分で、彼らが飛び出していった時、僕はついていけなかった。スピードが速すぎた。でも、幸いにも、道は少し緩やかになった。しかもマーダーが前へ連れて行ってくれた」(シャンプッサン)
ビスカラは4人を追い越したし、マーダーはシャンプッサンや、もう1人のDSMクリス・ハミルトンを連れて4人に追い付いた。もちろん残り4km、再び道が上り始めたタイミングで、イェーツがスピードを上げると、逃げの残党たちはまたしても振り払われる。
「なんとかしがみついていたんだけど、再び総合勢がアタックして、僕はついていけなくなった。僕には速すぎた。でもその後も粘った。まるでタイムトライアルのように走り続けた」(シャンプッサン)
残り3.5km。ついにはギボンズも捕らえられた。ただし、たった1人で45km近くも逃げてきたアフリカ大陸王者は、その後1kmに渡って総合上位4人と並走することになる。残り3kmでマスがアタックに転じた時などは、カウンターでやり返したほど。ただ再び追い付いてきたビスカラに、うっかり反応したせいで、最後はイェーツのカウンターに沈められた。
アタックと睨み合い、加速と減速を繰り返してきた4人の関係は、徐々に膠着状態に陥っていく。壁のような山道には大勢のファンが詰めかけ、凄まじい歓声を上げていた。しかも主役たちの背後には、レースカーがぴたり。そんなあらゆる要素を、シャンプッサンは利用した。残り1.7km。後方から突如として姿を表すと、全力で4人を追い越した。
クレモン・シャンプッサンが嬉しいプロ初勝利
「総合勢を再び追い上げた時、ラッキーなことに、彼らは顔を見合わせていた。僕は彼らにとって危険人物ではないし、彼らよりほんの少しだけ速く駆け上がらなければならないぞ、と自分に言い聞かせた」(シャンプッサン)
フレンチクライマーは無我夢中で走った。一気に20秒近い差を押し付けた。それでもなお顔を見合わせる4人に、またしてもビスカラやハミルトンが追い付いてきた。ようやく4人が追撃体制に入ったのは、残り1kmのアーチを越えてから。しかし、もはや、シャンプッサンをとらえることは出来なかった。ジャージのジッパーを閉める暇もないまま、フィニッシュラインまでがむしゃらに走り続けた「シャンププ」は、2位以下を6秒差で振り切った。
プロ入り2年目の23歳が、嬉しいプロ初勝利。なによりチームが同一シーズンのジロ、ツール、ブエルタでそれぞれ区間を勝ち取るのは、2006年以来の快挙だった。創設30年目を祝うAG2Rにとっては、最高のプレゼントとなった。
6秒後に区間2位でフィニッシュラインを越えたログリッチは、イエーツとマスに2秒差を、ヘイグに6秒差を新たに押し付けた。東京五輪個人タイムトライアル金メダリストは、総合2位マスに対して2分38秒のリードを手に、最終日33.8kmの独走へと走り出す。
またマーダーとパデュンの協力でロペスを蹴落としたヘイグは、堂々総合3位へと浮上した。マーダーも総合5位にジャンプアップ。しかもベルナルが首位から7分近く遅れてフィニッシュしたせいで、新人ジャージさえ手に入れた。もちろんバーレーン・ヴィクトリアスはチーム総合首位を堅守。2位ユンボには10分以上の余裕を有している。
イネオスは今区間なにひとつ手に入らなかったが、果敢に攻め、今大会最後のラインステージを大いに盛り上げた。イエーツは総合4位に浮上。3位ヘイグとの1分差は、最終日にどう変わるだろうか。6位後退ベルナルの、3大ツール全総合制覇は、つまり来秋以降に持ち越しだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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