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サイクル ロードレース コラム 2021年9月4日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第19ステージ】仲間に支えられた絶好調男マグナス・コルトが今大会3勝目!「彼なしではなにも出来なかった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マグナス・コルト

表彰台に呼ばれるのを待つマグナス・コルト

スタートからフィニッシュまで全力疾走。3週目の終わりに、全長191.2kmのコースで繰り広げられた、ひどくハイスピードな追いかけっこ。軍配は逃げる側に上がった。今大会絶好調のマグナス・コルトが、3つ目の勝利をもぎ取った。

「本当に素敵だ。夢のようだし、目を覚ましたくない」(コルト)

そもそも道は逃げ向きだった。ステージ序盤に3つの中級山岳が待ち受けていたし、その後も細かいアップダウンが延々と続いた。ピュアスプリンターチームはおそらくコントロールを放棄するだろうし、総合勢たちが動くには、起伏が易しすぎる。だからこそ、ここまでの18日間で思い通りの成績を出せなかったチームと、貪欲に新たな勝利を追い求める者たちとが、こぞって前方へと突進した。

すぐに24人の巨大な逃げが出来上がった。3人滑り込んだカハルラル・セグロスRGAを筆頭に、17チームが前に並んだ。チーム総合首位にこだわるバーレーン・ヴィクトリアスはきっちり1人送り出した。

ところが、いつまでたっても、プロトンの蓋は閉まらない。納得できないチームが複数存在したからだ。たとえば1人も前に送り込めなかったイネオス・グレナディアーズ。総合表彰台乗りが難しくなった今、せめて区間1勝を手にブエルタを締めくくりたかったに違いない。トーマス・ピドコックやパヴェル・シヴァコフが、勢力的にブリッジをしかけた。

チームDSMとバイクエクスチェンジもまた、逃げが気に食わなかった。各チームからニコ・デンツとロバート・スタナードが先頭集団に入っていたのにも関わらず。EFエデュケーション・NIPPOが2人紛れ込んでいたせいかもしれない。しかも、そのうちの1人は、すでに区間2勝を手にしたコルトだ。つまり集団がそのまま逃げ切った場合、デンツやスタナードがスプリントでコルトに蹴散らされるのは……目に見えていた。

まずは追加人員を送り込もうと考えた。この日最初の山岳を利用して、DSMはロマン・バルデやマーティン・トゥスフェルトが、バイクエクスチェンジはアンドレイ・ツェイツがそれぞれ後を追った。ただし、逃げ集団が大きく膨らむことに対して、プロトンは賛同しなかった。後を追いかけた数人は、イネオスもろともすぐさま回収された。

次の選択肢は、高速で追いかけて、逃げを回収すること。願わくばそのままスプリントフィニッシュにも持ち込みたい。スタートから約22km、1つ目の山を越えた時点で、先頭集団のリードは約1分半。まずはバイクエクスチェンジが隊列を組み上げると、本格的な追走へと乗り出した。

集団制御などという生易しいものではなかった。今大会いまだ区間勝利に縁のないオージー集団は、ひたすら高速で追いかた。2分45秒以上のタイム差は与えなかった。後方から迫りくる圧力に屈したのか、2つ目の山に入る前には、早くも前方から6人が脱落した。アップダウンが繰り返される厳しい地形を、あまりに全力で突っ走り続けたものだから、3つ目の山ではファビオ・ヤコブセンがメイン集団についていけなくなった。

そこから先、約135kmに渡って、区間3勝のピュアスプリンターはグルペットで過ごすことになる。もちろんヤコブセンの側には、頼もしいウルフパックの仲間4人がついていた。前日までの山頂フィニッシュ2連戦を最終グルペットで、しかし余裕を持って乗り切ったように、この日も問題なく走り終えた。ステージ最下位ではあったけれど、きっと嬉しいフィニッシュだった。数字の上でポイント賞首位が確定したのだから。あと2日乗り切れば、最終日サンティアゴ・デ・コンポステラの表彰台の上で、ヤコブセンは緑の栄誉を勝ち取る。

集団を牽引するチームDSM

集団を牽引するチームDSM

ピュアスプリンターを振り払った後も、メイン集団の突進は続いた。残り120kmを切ると、バイクエクスチェンジに代わって、DSMが猛烈な牽引へと乗り出した。区間3勝ではまだ足りないとでも言うように、山岳賞上位2人のマイケル・ストーラーやバルデまでもが、最前列でせっせと作業に励んだ。当然ながら、前方集団では、DSMのデンツは先頭交代を完全に放棄した。

残り70km。タイム差は1分半。協調を失った逃げ集団は、早くも分裂を始めた。邪魔者を振り払おうと、アンドレアス・クロンやアンドレア・バジオーリ、クイン・シモンズは幾度もジャブを打った。ローソン・クラドックも加速を切った。残り59kmでルイ・オリヴェイラが飛び出すと、ついには7人が脱落。逃げ集団は11人に小さくなった。

ただ肝心のデンツはやすやすと逃げに踏みとどまった。一方でスタナードは後方メイン集団へと下がって行ったのだが……これはバイクエクスチェンジの作業復帰を意味した。残り46km、DSMの追走隊列に、バイクエクスチェンジカラーも加わった。

2チームが力をあわせたことで、追走の威力はますます増した。いまだ約1分あったタイム差は、ほんの10kmほど走っただけで30秒に縮まった。もはや吸収は時間の問題かと思われた。予想外の集団スプリントフィニッシュへ向けて、流れが傾き始めた……。

しかし初グランツールを戦う20歳が、凄まじい抵抗を見せる。残り34km。2年前のジュニア世界王者は、この日最後の上り坂で大きく加速を切った。デンツと少し言葉を交わした直後だった。

「何人か奇妙な作戦を続けている選手がいた。だから上りで彼らを蹴落とすのが、最善の策だと判断した」(シモンズ)

すぐに反応したオリヴェイラと共に、シモンズは全力を振り絞った。上り坂のてっぺんの中間ポイントさえ、脇目も振らずに突き進んだ。直後に5選手が追い付いてきた時、協力しない輩はすべて消え去っていた。もちろんアントニー・ルーは、後方のアルノー・デマールのことを考えなくもなかったようだ。それでも2009年大会で「秒差なし」逃げ切り勝利を実現させた34歳は、「先頭交代を抜けることは絶対にしなかった」と断言する。

残り26km、つまり先頭は7人に絞り込まれた。シモンズ、オリヴェイラ、バジオーリ、クロン、クラドック、コルト、ルーは、完璧な共同戦線を張った。「誰ひとり策を弄する選手はいなかった」(シモンズ)し、「みんな恐ろしいほど全力で先頭を回した」(ルー)。警戒合戦で脚が止まることも、抜け駆けアタックでリズムが崩れることもなかった。7人は決して先頭交代を止めなかった。

30秒あった余裕は、DSM隊列のがむしゃらな牽引で一時20秒にまで縮まったが、残り8kmで再び30秒へと広がった。ラスト7kmでシモンズは逃げ切りを確信し、ラスト5、6kmでコルトも信じ始めた。バルデやストーラーといったピュアクライマーたちの牽引作業は、もはや限界に達していた。そして残り2.5km。前方にいまだ2人を残すEFと、マイヨ・ロホ擁するユンボ・ヴィスマとが、プロトン前方で減速を促した。約190kmも続いてきた追走に、終止符が打たれた。

ぎりぎりまで回し続けた7人は、残り1kmのアーチをくぐると、ようやく協力体制を解消する。前方でおそらく唯一、自分の勝利を追い求めてはいなかったであろうクラドックの後ろに、みなが縦一列に並んだ。そのままフィニッシュ手前300mの最終コーナーまで、誰も動かなかった。抜け出した瞬間、最年少シモンズが、真っ先にロングスプリントに挑んだ。

ただスプリントに一番強く、チームメートのおかげで一番有利なコルトの立ち位置が、揺らぐことはなかった。もがくライバルたち一瞬で突き放すと、至極当然のように、悠々と勝利をさらった。フィニッシュラインでコルトは右腕を天に突き上げ、その背後では、クラドックが両腕で幾度となくガッツポーズを振り上げた。

ガッツポーズを振り上げたクラドック

ガッツポーズを振り上げたクラドック

「クラドックにはお礼を言わなきゃならないね。とてつもなく素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。今日の逃げの中で、彼なしでは、文字通り僕はなにも出来なかったに違いない」(コルト)

コルトにとっては、ヤコブセン、ログリッチと並ぶ今大会ステージ3勝目。また第6ステージは単独逃げ切り、第12ステージは約40人の集団スプリントと、すでに2つの異なる勝ち方を披露してきたコルトだが、3つ目はいわば「逃げ切り+スプリント」というハイブリッドな勝利だった。

そしてコルトの歓喜からわずか18秒後、メイン集団がフィニッシュラインへとなだれ込んだ。8位争いのスプリントは、DSMのアルベルト・ダイネーゼが制した。バイクエクスチェンジのマイケル・マシューズは13位で、徒労の1日を締めくくった。

開催委員会が予定していたフィニッシュタイムより約20分も早くステージは終わり、ログリッチは自身にとって50枚目のグランツールリーダージャージを身にまとった。ちなみにジャージコレクションはピンク5枚、黄色11枚、赤34枚!

レース後に息子を抱きかかえるログリッチ

レース後に息子を抱きかかえるログリッチ

「クレイジーだね。願わくばこれを、最後まで守りたい」(ログリッチ)

大多数の総合勢は何事もなく狂乱の1日を終えたが、残り44km、ルイス・メインチェスは地面に激しく転がり落ちた。骨折こそなかったものの、顔面を打ち付け、短時間ながら意識を喪失。前区間の好走で総合10位に食い込んだばかりだというのに、閉幕まで2日を残して、無念のリタイアを余儀なくされた。代わりにダビ・デラクルスが総合10位に浮上した。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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