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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第12ステージ】今大会2勝目にしてブエルタ通算5勝目!マグナス・コルト「みんなが素晴らしい仕事をしてくれた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかレース後に頭から水をかぶるマグナス・コルト
大逃げの果てにライン手前150mで飲み込まれたわずか24時間後、マグナス・コルトが力強くガッツポーズを振り上げた。本来得意とする中集団スプリントで、今大会区間2勝目をもぎ取った。最初から最後まで緊迫感に包まれたステージの半ばには、大きな落車も発生。これまで築き上げられてきたヒエラルキーが一瞬で崩れ去りかねない、そんなヒヤリとさせられるような瞬間だった。
「チームメートたちは僕を信じてくれたし、みんなが素晴らしい仕事をしてくれた。僕らはトライしたかったし、本当に上手くやり遂げた。勝利をつかみ取ることが出来て最高にハッピーだ」(コルト)
逃げが決まる。プロトンの大半はそう信じていた。コルドバを起点に2つの輪を描くステージ最終盤に、2つの峠が待ち構えていたせいだ。しかも前日逃げたマグナス・コルトは「たしかにコースは僕向きだけど……」と言葉を濁し、前日チーム全員で集団制御に努めたマイケル・マシューズに至っては、「そもそもコースは逃げ向きだし」と少々他人事。
当然のように無数の飛び出しが繰り返された。ところにより40度を超える酷暑にも関わらず、多くの選手が夢中でアタックに参加した。時速50kmを超える打ち合いだった。
「スタート前にチームと話し合いをして、今日は集団スプリントに持ち込むための仕事はしないと決めていた。だから他の選手たちがバトルを繰り広げている間、僕はリラックスして後方で座っていることが出来たんだ」(コルト)
スタートから75km、ミケル・イトゥリア、サンデル・アルメ、セバスチャン・バーウィックが前方へ踊りだしても、スピードはちっとも下がらなかった。15秒差ほどの綱引きが延々と続けられた。しばらく先でイェツセ・ボルとフレン・アメスケタが後を追い、マキシム・ファンヒルス、スタン・デウルフ、チャド・ヘイガもブリッジを試みた。そしてフィニッシュまで残り85km、3つの小さな塊は、1つにまとまる。
ここでプロトンはようやくスピードを緩めた。走り出してから1時間50分、ついに逃げは許された。わずか22秒しかなかったタイム差は、ほんの5km先で1分15秒にまで広がった。ところが、これ以上、平地でのリードは開かない。
スプリントに持ち込む。マッテオ・トレンティンが、こう固く誓っていたせいだった。「小さい逃げをコントロールし、終盤の上りでピュアスプリンターを振り払う」との宣言通り、すぐにUAEチームエミレーツの仲間たちを前線へと配置。徹底したタイム差制御に乗り出した。
かろうじてタイム差が少し開いたのは、1つ目の山岳、3級サン・ヘロニモの登坂中のみ。1度目のフィニッシュライン通過時に1分11秒あった差は、この日最大の1分45秒にまで拡大した。ただ、これは単に、UAEが走行速度を微妙に調整したせいに違いない。ピュアスプリンターにとっては速すぎて、しかし自陣の「上れるスプリンター」トレンティンが苦しまぬ程度に控えめな、そんなテンポを巧みに保ち続けた。
UAEが黙々と働く背後では、不意に、大きな集団落車が発生したこともある。残り55km、3級登坂中ながらも、道は軽い下り基調だった。前からほんの10番目ほどの一団が、まとめてなぎ倒された。ユンボ・ヴィスマ、モビスター、イネオス・グレナディアーズの面々が草むらに放り出された。なにより2日前にマイヨ・ロホを手放したばかりの総合3位プリモシュ・ログリッチや、総合8位アダム・イェーツが転がり落ちた!
「ほぼチーム全員が落車に巻き込まれた。スペイン特有の滑りやすい道で、しかも路面にはオイルが浮いていたように思う。厄介ではあったけれど、本当のダウンヒルが始まる前に6人で前に戻ることができた。プリモシュとステフェン(クライスヴァイク)はかなり激しく落車したけど、問題はなかった」(クーン・ボウマン)
針金のフェンスが張りめぐされていたせいか、決して全員が無傷で抜け出せたわけではない。ただ幸いにも、ログリッチもイェーツも目立つ怪我なく、UAE率いる集団に素早く復帰を果たした。そして同集団は、2度目のフィニッシュライン通過時には、逃げをもはや28秒差にまで追い詰めていた。
続く2つ目の山岳、2級14%峠の上りで、逃げに終止符が打たれた。すでに1つ目の上りで、この日33歳の誕生日を迎えたヘイガは脱落していた。2年前に逃げ切り勝利をもぎ取ったイトゥリアが、下りで単独アタックを試みたこともあった。2つ目の上りが始まると、4大会前に山頂フィニッシュ制したアルメが、最後の悪あがきを行った。しかし、山頂にたどり着く前に、UAEが先頭からあえなく引きずり降ろした。
スプリントに持ち込ませない。目まぐるしい展開の中で、数人のクライマーはこんな決意を抱いた。山頂まで残り2.5km。ジュリオ・チッコーネがアタックを仕掛けて飛び出した。ジャイ・ヴァインはすかさず反応し、ロマン・バルデも後を追った。さらにセルヒオルイス・エナオも少し先で合流する。フィニッシュ手前18.8kmの山頂では、後方に27秒差を押し付けた。
しかも4人の背後では、山岳賞2位のバルデを警戒してか、山岳ジャージ姿のダミアーノ・カルーゾが前方へと競り上がった。そのまま総合6位ジャック・ヘイグを引き連れていったものだから、自ずと総合勢が後に続いた。30人ほどにまで小さくなったメイン集団は急速にスピードを上げ……おかげでトレンティンもマシューズも、コルトさえも滑り落ちてしまった!
スプリント勝負
スプリントに持ち込む。もはや、上れるスプリンター全員が、こう誓っていたはずだ。だから上りで遅れたトレンティンは、チームメートの助けを借り、下りで猛烈に追いかけた。あまりに必死になりすぎたせいか、メイン集団最前列に駆け上がっただけでは飽き足らず……そのまま4人を追って飛び出してしまったほど。しかもヨン・イサギレが追いかけてきたせいもあり、向かい風の中、5kmほどトレンティンは不毛な追走を続けてしまう。
一方で前日とは異なり控えめに過ごしてきたマシューズは、残り12km、いよいよ作業に取り掛かった。いまだ側に残していた6人で隊列を組み上げると、凄まじい追い上げを見せた。残り8.5kmではまんまとトレンティンを回収した。
「1つ目の登りの時点で、今日のステージは狙わないとチームに話してあった。僕にとってはきつすぎると思ったから。でも歯を食いしばって、山を越えた。その後はチームメートたちが隊列を組み、僕がプリントに向かえるようすべてを尽くしてくれた」(マシューズ)
ただ山で抜け出した4人には、少々手こずらされた。そのせいでUAEとバイクエクスチェンジは一時的な共闘態勢さえ組んだ。長い平坦路で、チッコーネ、バルデ、エナオは恐ろしい抵抗を続けた。ついには残り1.3kmで飲み込んだ。ヴァインは1人で抵抗を続けたが、最終ストレートでその野心を握りつぶした。
しかし追走側の犠牲も少なくなかった。1日中働いてきたUAE最後のアシストは、ラスト1kmのアーチをくぐった直後に消えていった。バイクエクスチェンジだってわずか12km前には6人も残していたというのに、ラスト数キロのがむしゃらさが響き、もはや最終発射台ルカ・メズゲッツしか残していなかった。
EFエデュケーション・ファーストは、そもそも山を下りた時点で、生き残ったメンバーはコルトとイェンス・クークレールのただ2人だけ。それでも残り5kmで、2チームの背後にきっちり滑り込んだ。さらに残り600m、ヴァイン吸収のタイミングを上手く利用して、鮮やかに最前列へと駆け上がった。
集団スプリントを制したのはマグナス・コルト、ブエルタ通算5勝目!
「昨日に比べて脚は少し重かったけれど、なんとか2つの山を乗り切った。最後はクークレールがとてつもない仕事を成し遂げてくれた。スプリントのための完璧なポジションに連れて行ってくれたんだ」(コルト)
クークレール、コルト、さらにドゥクーニンク・クイックステップのアンドレア・バジオーリの3連結は、一瞬で後方に空白を作り出した。メズゲッツにはその穴を埋めきれなかった。マシューズ自らが差を詰めようと飛び出したが、バジオーリの背中をとらえる前に、すでにコルトはスプリントを切っていた。また、そんなマシューズの後輪から、トレンティンは一歩も抜け出せなかった。
「最後はコルトに少し蹴散らされてしまった。彼らチームは、僕らに比べて、スプリントを切るタイミングが良かった。でも全体的に見れば、僕らは本当に素晴らしいチームパフォーマンスをしたと思う」(マシューズ)
ちょうど1週間前の木曜日、山頂フィニッシュで逃げ切り勝利を果たしたコルトが、大会2週目の木曜日に、スプリント勝利をさらい取った。今大会2勝目にして、ブエルタでは通算5勝目。ツールの区間1勝とあわせるとグランツール区間6勝目だが、ちなみにプロ7年目にして、いまだジロは走ったことがない。
最後は同僚のサポート無しでスプリントに向かったバジオーリは、生まれて初めてのグランツール区間「2位」。もちろん「でも僕が欲しかったのは勝利だけ」と悔しい気持ちのほうが大きい。マシューズは3位、トレンティンは4位で奮闘むなしく1日を終えた。
ルイス・メインチェス、ヤン・ヒルト、レイン・タラマエという実力派クライマーに支えられたオドクリスティアン・エイキングは、危なげなく先頭集団でフィニッシュ。人生3度目のマイヨ・ロホ表彰台を楽しんだ。翌第13ステージは山のない平坦ステージだから、大会4日目のタラマエのように落車に巻き込まれさえしなければ……少なくともあと1日は赤いジャージを満喫することが出来るはず。
たとえ大きな落車に巻き込まれようとも、この日はログリッチも、イェーツも、1秒たりとも総合ライバルから失わなかった。つまり10日後のマイヨ・ロホを争う者たちに、順列もタイム差も一切の変更はなかった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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