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サイクル ロードレース コラム 2021年8月26日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第11ステージ】ログラが激坂フィニッシュで全ライバルを圧倒!マスとの一騎打ち制し「僕のほうがほんのちょっと強かった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マスとの一騎打ちを制したログリッチ

マスとの一騎打ちを制したログリッチ

マイヨ・ロホを失った翌日に、プリモシュ・ログリッチがレースを支配した。ユンボ・ヴィスマに命じて1日中プロトンコントロールを行い、激坂フィニッシュでは全ライバルを圧倒した。実際に赤いジャージをまとうオドクリスティアン・エイキングは、ゆっくりと満喫する暇こそなかったものの、着実に総合首位の座を守った。

「ハードで、ショートで、ホットなステージだった。僕もすごく苦しんだ。でも最後には、幸運なことに、勝てるだけの十分な力が残っていた」(ログリッチ)

スタートから25kmで、5人が逃げ出した。乗り遅れたブルゴスBHは異議を唱えたが、複数のビッグチームが力づくで蓋を閉めた。80km近くも時速50km弱でぶっとばした前日に比べれば、つまり比較的あっさり飛び出し合戦はケリがついた。

ただし、その後しばらくはゆったりとした時間を過ごせた前日とは違い、この日はすぐに厳しい監視体制が敷かれた。早くも今大会3度目の逃げとなるマグナス・コルト、ヨナタン・ラストラ、ジョアン・ボウに、さらにはハーム・ファンフックとエドワード・プランカールトの背後では、ユンボ・ヴィスマとバイクエクスチェンジが集団牽引に従事した。今大会2人目のマイヨ・ロホを抱えるアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオには、ほとんど仕事をさせなかったほど。

135kmに満たない短距離ステージで、タイム差が2分半に達することはなかった。たいていは1分半から2分の間で行ったり来たり。

オリーブ畑の間を駆け抜ける道は、延々とアップダウンをはらみ、残り87km地点では小さな集団落車も発生。バーレーン・ヴィクトリアスのワウト・プールスと新城幸也も巻き込まれたが、幸いにもすぐに走り出している。

逃げ切りを許す気のないメイン集団は、残り30kmを切ると、いよいよ戦闘モードに切り替えた。しかもこの日唯一の山岳の前後には、テクニカルな下りが待ち構える。イネオスとバイクエクスチェンジに混ざって、モビスターやイネオス・グレナディアーズも存在感を増し始めた。バーレーンやUAEチームエミレーツも前線に競り上がった。残り約17km、山の麓で、差はすでに50秒を切っていた。

逃げに出るコルト(先頭)

逃げに出るコルト(先頭)

じわじわと追い詰められていった前の5人のうち、4人は、この2級への上りでメインプロトンに回収された。唯一の例外がコルトだ。今大会の第6ステージ、約100kmの大逃げの果てに、すでに激坂フィニッシュをもぎ取っている。あの日も5人で逃げた。ログリッチの激しい追い上げを振り切り、「タイム差ゼロ」での勝利だった。2度目の成功を信じない理由などコルトにはなかったはずだ。

しかしメイン集団は、無情にも、コルトを追い詰めていく。マイケル・マシューズ擁するバイクエクスチェンジは一段階速度を増した。総合13位ダビ・デラクルスが飛び出しを試みた後方では、ログラを守るステフェン・クライスヴァイクが恐るべき山の脚を披露した。フィニッシュ手前8kmの山頂へ向けて青玉ジャージのダミアーノ・カルーゾがダッシュし、2位通過する頃には……差は25秒前後にまで減っていた。

2級山頂からの下りでは、たった1人のコルトと、いまだ30人ほどがひしめくメイン集団とが、緊迫した綱引きを続けた。下りの底にたどり着き、道がじわじわと上り始めても、かろうじて均衡は保たれていた。

しかも残り1.5kmから、勾配は一気に跳ね上がるのだ。ラスト1kmのアーチをくぐる頃、コルトの虎の子はもはや15秒のみ。

さらに、そこから先は、平均勾配9.7%の恐ろしい激坂がフィニッシュラインまで伸びていた。上れるスプリンターを背負うバイクエクスチェンジを力づくで押しのけ、モビスターが猛然と競り上がった。勾配24%ゾーンでは、ユンボが誇るピュアクライマー、セップ・クスが先頭にひらり躍り出た。残り650m。両チームのエースによる、一騎打ちの準備は整った。

ログリッチvsマス。たしかに前日、2人は、総合首位と2位から陥落していた。それでも、間違いなく、これぞ2021年ブエルタ・ア・エスパーニャの頂上対決。前区間終了時点で28秒差で睨み合う2人が、激坂の上で時に顔を見合わせ、時には文字通り肩と肩とをぶつけ合った。短いようであり、それでいて永遠に続くようにも思える、凄まじい駆け引きが繰り広げられた。

ラインまで、あと、たったの約150m。必死に逃げ続けてきたコルトは、無残にも2人に追い越された。とてつもない勢いで駆け上がる他の総合上位勢も、次々とピンクのジャージを抜き去っていく。総合タイムを追い求めていないコルトには、もはや全力でペダルを踏む理由がなくなった。あとはフィニッシュラインまで、ジグザグとのんびり上った。区間勝利どころか、「ファン投票」による敢闘賞すら手に入らぬまま、49秒遅れの区間25位で1日を終えた。

「出来る限りの力を尽くした。でも残念ながら、今日の僕には、なにも出来ることはなかった。あと4、5秒あれば、もしかしたら結果は違っていたのかもしれないけど。でも自分の走りには満足してるんだ」(コルト)

ログラとマスの熱い激闘は、残り50mで決着がついた。先に仕掛けたスペイン人を、パンチ力で秀でるスロベニア人が軽々と退けると、フィニッシュラインを一番で駆け抜けた。前日は監督陣やチームメートの反対を押し切って、フィニッシュまで25kmも残してまさかのアタックを打ち……逆に落車で心配をかけてしまったログリッチだったけれど、この日はチームの働きに応える区間2勝目を手に入れた。

市内の激坂フィニッシュを制したのはプリモシュ・ログリッチ

市内の激坂フィニッシュを制したのはプリモシュ・ログリッチ

「僕が得意とする地形だったし、最高のチャレンジだった。これを可能にしてくれたチームのみんなに、大いに感謝したい。昨日だっていい1日だったし、僕自身はポジティヴにとらえたいと思ってるけど、今日は勝利を手に入れた。素敵だね」(ログリッチ)

しかもマスにペダルで3秒差をつけ、さらに首位のボーナスタイム10秒を収集した。おかげでログリッチは、マスに対する総合リードを、28秒から35秒差へと開いた。ちなみにログラの今大会ボーナスタイム総計は22秒、マス10秒だから、真の走行タイム差は23秒となる。

「エンリクはすごく強かった。幸いにも、僕のほうがほんのちょっと強かったけどね。彼は明らかに絶好調で、同時に最も危険な男だよ。だからこそ彼は総合で僕に最も近いんだ」(ログリッチ)

窓からレースを見る子ども

窓からレースを見る子ども

総合でその次に近いミゲルアンヘル・ロペスが5秒差の区間3位に、さらにその次のジャック・ヘイグが7秒差の区間4位に飛び込んだ。やはり7秒差でアダム・イェーツ、ロマン・バルデ、フェリックス・グロスシャートナー、アレクサンドル・ウラソフが続き、エガン・ベルナルは11秒差と、また少しだけタイムを失った。

肝心の総合首位エイキングもまた、11秒差の区間10位でフィニッシュラインを越えた。1日中マイヨ・ロホを監視し続けた総合2位ギヨーム・マルタンも、同タイム区間11位で走り終えた。2人のタイム差は58秒のまま、一切の変化はなかった。

「僕にとって最大のジャージライバルはログリッチとマルタンだった。タイムを失いたくなかったから、とにかく2人から離れなかった。最後の数メートルでマルタンを追い越して、トップ10に滑り込んだんだ。満足しているし、本当に素晴らしい1日だった」(エイキング)

ちなみに激坂の途中で肩をぶつけ合ったログラとマスは、フィニッシュ後に声を掛け合い、笑顔で和解している。この件に関するマスのコメントは、極めて爽やかだ。

「あれは単なるレース中の事故。向こうは僕が上がってくるのが見えなかっただけだし、僕の方もブレーキをかけられなかった。フィニッシュ後に僕は彼に声をかけたし、彼も謝罪してきた。僕らの関係は良好だよ」(マス)

チーム一丸となりタイム差制御に励んだマイケル・マシューズは、23位と悔しい結果で終えた。

また同じような脚質のアレクサンデル・アランブルは、前日ログリッチが転んだのと同じ下り坂で落車し、膝を4針縫う怪我。この日はスタートを切らなかった。区間2勝、ポイント賞2位のヤスパー・フィリプセンは発熱で不出走だった。3週間の戦いも折り返し地点に差し掛かり、184人で走り始めたプロトンは、168人に数を減らした。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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