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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第10ステージ】マイケル・ストーラーが独走勝利で今大会2勝目!マイヨ・ロホを掴んだエイキングが歓喜「言葉で上手く表すことができない」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマイヨ・ロホのオドクリスティアン・エイキング
巨大な逃げは、2つの栄光につながっていた。マイケル・ストーラーは独走で今大会2勝目を手にし、オドクリスティアン・エイキングはチーム史上2人目のマイヨ・ロホとなった。プリモシュ・ログリッチは願い通りに総合首位の座を離れつつ、衝撃的なアタックでーー落車のサスペンスもあったけれどーー、イネオス・グレナディアーズのエース2人を後方へと突き放すことに成功した。
レース後に笑顔を見せるマイケル・ストーラー
「前回よりもさらに信じられない。今ブエルタでは区間1勝を夢見ていたのに、10日目を終えた時点で2つも勝ってしまった」(ストーラー)
休息日明けはクレイジーなスピードで幕を明けた。時速50km弱の飛び出し合戦は、約80kmにも渡り続いた。熾烈なバトルをかいくぐり、前方に飛び出す権利を得たのは31人。前方には全23チーム中17チームの名前が並び、チームDSM、AG2Rシトロエン、EFエデュケーション・NIPPOは3人ずつ送り込んだ。今ブエルタすでに逃げ切り勝利を上げたストーラーとマグナス・コルトや、1日だけマイヨ・ロホを着たケニー・エリッソンドの姿もあった。
イネオスの2人も潜む先頭集団の背後では、1人も逃げなかったユンボ・ヴィスマが隊列を組んだ。大幅に減速すると、夏休みの終わりの海岸道路で、ゆっくりとペダルを回した。タイム差は面白いように開いていく。わずか20kmほど逃げた先で差は5分、さらに20km先で7分半。残り54km地点、ついには総合で9分11秒遅れにつけていたエイキングが、暫定マイヨ・ロホに躍り出た。
「僕は総合で9分以上の遅れだったから、ジャージ獲得なんてほぼ奇跡のようなものだった。でも無線で8分差、9分差、10分差、と聞こえてきて……現実的に可能だと理解した」(エイキング)
たしかに第1週目のログリッチは、赤ジャージを手放したがっていた。この夏のツール・ド・フランスを総合8位で終えたギヨーム・マルタンが逃げ集団に紛れていようが、どうやら構わなかった。ちなみに今ツールは「生まれて初めて」区間狙いで乗り込んだマルタンだが、途中で総合狙いに転換。一方で今ブエルタは「もちろん総合8位以上」を狙うと宣言しつつ、休息日前に早くも9分39秒を失っていた。
海沿いの雄大な景観の中を走る
「ひらめきを感じて、逃げに飛び乗った。総合順位を上げようなんて考えてもいなかったし、そもそも逃げが最後まで行くとは想像してなかった。でもタイム差が広がっていくのを見て、当然マイヨ・ロホを考え始めた」(マルタン)
タイム差はその後も拡大する一方だった。昨秋の山岳賞マルタンを暫定2位に押し上げつつ、最終的には14分近くまで広がった。当然ながら、これは、逃げ切りを意味した。複数人を送り込んだチームを中心に、勢力的に先頭交代を続けてきた巨大な逃げ集団は、残り39kmで早くもステージ争いモードへと切り替えた。
区間を勝ちたいなら、残り27kmから始まる2級峠を解決せねばならない。だからこそ上れるスプリンター、マッテオ・トレンティンとアレクサンデル・アランブルは、早めに仕掛けることにした。麓までいまだ12kmも残っているというのに、勢い良く前へと飛び出した。しばらく先でフロリス・デティエとヘスス・エラダも合流し、約30秒差で上りへと飛び込んだ。
しかし、上りが始まるやいなや、4人はあえなく引きずり降ろされる。変わってルイ・オリヴェイラが先行を試み、エリッソンドが後を追った。やはり上れてスプリントもできるコルトのために、EFは追走を企てたし、ドゥクーニンク・クイックステップのパンチャー2人、つまりアンドレア・バジオーリとマウリ・ファンセヴェナントも積極的に立ち回った。グランツール大逃げ2勝のリリアン・カルメジャーヌや、そんな先輩から逃げのノウハウを学んだというクレモン・シャンプッサンも攻撃的に走った。
山道の終盤4kmに入ると、勾配は跳ね上がる。そのタイミングを逃さなかった。残り19.5km、ストーラーが大きな加速を切った。第7ステージでも、やはり、勾配が平均10%超に跳ね上がる瞬間を狙った。この日は約11%が1kmに渡り続くゾーンを突いた。追いすがるシャンプッサンを振り払い、強い向かい風の中、力強く独走態勢へと持ち込んだ。
「最終峠で自分がなにをすべきなのか正確に把握していた。僕はアタックを打たねばならなかった。タイミングを察知し、飛び出した。上手く行くことを願いつつ」(ストーラー)
ストーラーは先頭で山頂へたどり着いた。たったひとりで後を追いかけたシャンプッサンには、33秒の差を押し付けていた。マイヨ・ロホをかけ28秒差で睨み合うエイキングとマルタンのせいで、少々協調に欠けた7人の小集団が、さらに3秒後に続いた。
ただ4日前は上りきった先でステージは幕を閉じたが、この日はフィニッシュまでいまだ16.1km残っていた。ストーラーは決して危険を恐れず、ダウンヒルでも攻めの姿勢を貫き通した。
マイケル・ストーラーが今大会2勝目
「たとえ路面が乾いていても、この地域の道は滑りやすい。それでも高速で下らなきゃならないことは分かってた。満足な下りができた。タイム差を保つには十分だった」(ストーラー)
残り1kmのアーチは21秒リードでくぐり抜けた。残り100mまで全力疾走を止めなかった。そこから3度、ストーラーは後ろを振り返った。誰も追い付いてこないことを確認すると、最後の25mで、ようやく喜びを爆発させた。
第7ステージで人生初めてのグランツール区間勝利を手にしたストーラーが、早くも2つ目の勝利を楽しんだ22秒後、ファンセヴェナントを先頭に4選手がフィニッシュラインに飛び込んだ。そこにはエイキングの姿もあった。マルタンは後方に置き去りにしてきたし、ログリッチは最終的に11分49秒遅れてフィニッシュに戻ってくる。すなわち生まれて初めてのマイヨ・ロホが、エイキングのもとにやってきた。
またレイン・タラマエと共に、第3ステージにチーム史上初めてのグランツール総合リーダージャージを獲得したアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオにとっては、わずか1週間後に2人目の総合リーダーを祝うこととなった。
「すでにチームメートがレッドジャージを着ているから、チームにとってはボーナスだね。僕にとってはスペシャルなボーナスだ。このことが果たしてどんな意味を持つのか、言葉で上手く表すことができない。とてつもなく大きなことさ」(エイキング)
ちなみに7月のツールでは、第15ステージの下りで大きく遅れを取り、総合2位から9位へと陥落したマルタンにとっては、この日も下りが鬼門だった。フレンチクライマーは、エイキングから29秒遅れでフィニッシュにたどりついている。
「道は少し滑りやすくて、実際、僕も1度ヒヤリとさせられた。2月に南スペインで行った合宿で落車をしていたから、同じミスを繰り返したくなかったんだ」(マルタン)
ユンボの統制下で静かに過ごしてきたメイン集団は、逃げ切りも、マイヨ交代劇も許したけれど、戦いを放棄したわけではなかった。2級峠の接近と共に強烈な牽引を始めたのは、モビスターだった。総合2位エンリク・マスは「スタート前には言いたくなかった」けれど、下りが危険で、滑りやすいことを十分に知っていた。しかも総合3位ミヘルアンヘル・ロペスの証言によれば、「今日の目標は下りを安全に切り抜けること」だった。そのためには山頂を好位置で越え、先頭でダウンヒルを開始せねばならぬ。
こんなモビスターの行動に、イネオスも乗じた。いよいよ道が上り始める頃には、リチャル・カラパスが最前列を引いていた。と、その時だ。マイヨ・ロホをまとうログリッチが、突如として前方へと飛び出した!
プリモシュ・ログリッチ
「リスクを冒さなければ、栄光はつかめない」(ログリッチ)
総合首位が、山の麓で、フィニッシュまで25km以上も残して、まさかの単独アタック。プロトンを一気に混乱へと陥れた。総合5位エガン・ベルナルは「選手としての本能」で反応した。モビスターの2人は顔を見合わせ、むしろ総合4位ジャック・ヘイグが真っ先に追走態勢に入った。
さすがに差が40秒に開いたところで、モビスターも走行リズムを上げた。途端に今ジロ総合覇者ベルナルが脱落する。そもそも総合6位アダム・イェーツは後方に沈んだまま。イネオスの強敵2人を置き去りにしつつ、マス、ロペス、ヘイグは先を急いだ。
猛烈に山を上り詰めたログリッチは、そのままの勢いでダウンヒルに飛び込んだ。道の特性を知り尽くしたマスが、落車を避けるため「過剰なほどの注意」を払い、開幕前に「コースはひとつも下見をしていない」と豪語した赤ジャージは、果敢にコーナーを攻めた。いや、攻めすぎた。右カーブで車輪を滑らせ、地面に倒れ落ちた。
40秒を失った2019年ジロ第15ステージの下り落車や、2度の落車で総合優勝を逃した2021年パリ〜ニース、さらには途中棄権に追い込まれた2021年ツール第4ステージの悪夢が蘇る。ただこの日のログリッチは、すぐに立ち上がった。大きな怪我がないのは幸いだった。慎重に、しかし確実に下ってきたライバル3人に、そのまま捕らえられてしまったとしても。
ログリッチはマス、ロペス、ヘイグに回収され、さらに下りきった先で総合9位フェリックス・グロスシャートナー、総合11位アレクサンドル・ウラソフ、さらにはチームメートにして総合8位セップ・クスも合流してきた。最終的に区間勝者から11分49秒遅れで、ログリッチ集団は休息日明けのステージを締めくくった。ベルナルとイェーツがラインを越えたのは、37秒後だった。
「落車さえなければ、もっと上手くやれただろう。でもそれほど悪くはなかった」(ログリッチ)
前日までの1位ログリッチ、2位マス、3位ロペス、4位ヘイグまで、互いのタイム差は一切変わらぬまま、総合順位を2つずつ下げた。つまりログリッチの新たな立場は、総合首位エイキング、2位58秒差のマルタンに続く総合3位2分17秒差。いわゆるマイヨ・ロホの責務からは、再び解放されたことになる。
またベルナルもやはり順位を2つ下げ7位に後退したが、すぐ前を行く4人との距離は自ずと37秒開いた。イエーツは6位から9位に、ジュリオ・チッコーネは7位から11位に落ちた。代わりに8位クスが2人を追い越している。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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