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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第7ステージ】マイケル・ストーラーが置き土産のステージ勝利!ログリッチはほぼ無傷でマイヨ・ロホを堅守「今後も僕らはベストを尽くすよ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマイヨ・ロホのプリモシュ・ログリッチ
いたるところでアタックと駆け引きが繰り返された。上っては下る地形に合わせ、せわしなく先頭の顔ぶれは入れ替わった。それでも逃げに5枚のカードを送り込み、有利な展開に持ち込んだチームDSMから、マイケル・ストーラーが勝利の権利を引き当てた。攻撃に転じたアレハンドロ・バルベルデは直後に地面に落ち、現時点における史上最後のスペイン人ブエルタ総合覇者は、涙で戦いの場から去って行った。総合ライバルたちから繰り出された無数のジャブを、プリモシュ・ログリッチは巧みにかわし、ほぼ無傷でマイヨ・ロホを守り切った。
「自分がブエルタの区間勝者になれるなんて思ってもみなかった。上手く勝利をつかむことができて本当に嬉しいし、驚いてもいる」(ストーラー)
開幕から1週間。待ちに待った本格的な山がやってきた。ほぼヨーイドンでいきなり1級山岳によじ登るレイアウトも、行く手に6つの難峠が待ち受ける苦行も、勇敢な者たちの胸をときめかせただけだった。
すぐに7選手が逃げ出した後も、メイン集団前方では執拗な加速合戦が繰り広げられた。最後尾では大急ぎでグルペットが出来上がり、1級の山道の終盤で、前の7人も引きずりおろされた。代わりに山頂へ向け18人の大きな一団が突進し、最初の山岳ポイントを奪い合った。現ミケル・ランダ、元サイモン・イエーツのアシスト役ジャック・ヘイグが1位通過。パヴェル・シヴァコフとセップ・クスが後に続いた。
下りで一旦はメイン集団に追いつかれた面々だが、次なる山へ向けて、再び数人ずつ前へと飛び立っていく。4人が行き、2人が続き、さらに23人が塊になって追いついて。スタートから55km、ついに29人の大きな逃げ集団が出来上がった。
出場23チーム中17チームが前方に揃った。すでに7人の逃げにも顔を出していたチームDSMは、この時も2人、1人、2人と計5選手が前に並んだ。2日前の落車で総合争いの希望が断たれたロマン・バルデの姿もあった。また最初の山岳でポイント収集に走った3人を筆頭に、ユンボ・ヴィスマ1人、アスタナ・プレミアテック2人、バーレーン・ヴィクトリアス1人、イネオス・グレナディアース1人、モビスター2人と、総合争い真っただ中のチームもこぞって人員を送り出した。
雄大な景色の中を走る
逃げの目的は、区間勝利、山岳ポイント収集、前待ち……だけではなかった。ずばり「マイヨ・ロホ獲り」の野心を抱く者たちさえいた。総合わずか1分42秒差のヤン・ポランツに、総合2分09秒差のフェリックス・グロスシャートナーが滑り込んだ。3分31秒差のジョフリー・ブシャールだって、2019年ブエルタや2021年ジロとは違って、ずばりこのブエルタでは「総合上位入り」を目指していた。自ずと先頭集団の牽引は、UAEチームエミレーツのマッテオ・トレンティンが引き受けた。誰の協力が得られずとも、黙々と作業に励んだ。メイン集団からは最大4分差を奪った。2019年ジロではマリア・ローザを2日間着用したスロベニア人は、同僚の熱心な献身のおかげで、しばらく暫定マイヨ・ロホの座を楽しんだ。
一方で圧倒的多数を誇るDSMは、時々最前列に競り上がると、バルデを山岳ポイント収集へと解き放った。こうして2つ目の山岳では、ケニー・エリッソンドを退け、楽々と先頭通過を成功させた。そのせいでトレンティンは前から振り落とされるのだが……下りを利用して、再びポランツのもとに帰って来た。3つ目の峠でもまったく同じ行動を取ったDSMに、だからUAEはちょっとした抵抗を試みた。やはり山頂間際にバルデが隊列から発射されると、ポランツが山頂スプリントを挑んだのだ。しかも競り勝ち、1位をさらい取った!
もちろん下りで飛ばして、トレンティンはまたしても最前列へ上がって来た。ただ体力は無尽蔵にあるわけではない。先頭を引いたまま中間ポイントを首位通過するとーー2017年大会はわずか2ポイント差で緑ジャージを逃したーー、その直後に、持てる力を全て使い果たした。約50kmの奮闘だった。
つまり4つ目の上りで、戦いは新たな局面を迎えた。いよいよDSMが数的有利を生かした波状攻撃を開始する。バルデが真っ先に揺さぶりをかけ、ストーラーがカウンターを打った。
激坂ゾーンを独走しみごと区間優勝を果たしたマイケル・ストーラー
「僕らチームが成し遂げたことに、いまだに衝撃を受けているよ。1つもミスを犯さなかった。信じられないような集団的努力だ」(ストーラー)
ちょうど同じ頃、約4分背後のメイン集団でも、戦いのゴングが鳴らされた。真っ先に動いたのはモビスターだ。残り43.9km、ホセ・ロハスに連れられて、総合4位アレハンドロ・バルベルデが急加速。すばやくリチャル・カラパス、アダム・イエーツ、ダビ・デラクルス、ジーノ・マーダーという総合11位から18位までの4人が、流れに飛び乗る。逃げ集団には2人のモビスターが「前待ち」していたし、メイン集団には総合2位エンリク・マスと3位ミゲルアンヘル・ロペスも控えていた。イネオスの「トリプルリーダー」の2人も動いた。当然ながらログリッチの側に残るステフェン・クライスヴァイクは、牽引スピードを一段上げた。
飛び出して1kmにも満たない、軽い下り部分に差し掛かった時だ。バルベルデが路面の穴でバランスを崩す。そのまま右半身を激しく道路に叩きつけ、さらに道路脇にへと放り出された。ガードレール激突や崖下転落がなかったことだけは、本当に幸いだった。自ら立ち上がる力は残していたし、すぐにロハスが手を差し伸べに向かった。一度は自転車にまたがり、走り出しもした。チームメートたちの温かい後押しもあった。
残り35km、バルベルデは再び地面に足をついた。無念のリタイア。駆けよって来た監督ホセビセンテ・ガルシアの肩で泣きじゃくった。人生30回目のグランツールは、人生最後のグランツールにする予定だった。年頭に今季限りでの引退を宣言した41歳の胸には、どんな想いがよぎったのだろうか。当夜チームからの発表によれば、右鎖骨の骨折が見つかったとのこと。翌日に地元ムルシアで手術を受ける予定だ。
直後には、まるでバルベルデの意志を引き継ぐかのように、同僚ロペスがアタックに転じた。落車の影響なく1人突進を続けていたカラパスに追いつき、そのまま加速を続行する。今度はログリッチ本人が、楽々と穴を埋めてみせた。ユンボのアシストたちは再び隊列を組み、メイン集団を統制下に置いた。
一方の逃げ集団に、もはや落ち着く暇なんてなかった。4つ目の山頂目指して今度はシヴァコフが先行を開始、バルデは後輪から巧みに抜き去った。ただし2人の争いを巧みに利用して、アタックを企てたのがローソン・クラドックで、そのまま猛スピードでダウンヒルを開始した。すでに半分近くに数を減らしていた逃げの友たちとの差を、じわじわと開いていく。しかし、すでにここまで何度も見られたように、やはり下りの先で追いつかれた。
合流してきたのはシヴァコフとストーラー。5番目の上りでは、この2人がクラドックを置き去りにした。下りでは、またしても合流し、そして最終6番目の上りが始まるとともに、ついに決別した。代わりに一時は1分もの差をつけた逃げ集団から、最終峠の上りが始まるとすぐに、アンドレアス・クロンとカルロス・ベローナに追いつかれてしまう。
「アレハンドロが攻撃に転じると無線で聞かされて、体力温存に努めていたんだ。でも、その後しばらく無音になり、それから、アレハンドロの落車について聞かされた。でも僕は前にいたから、区間ステージに向けて心を切り替えなきゃならなかった。自分自身にそれができるかを問いかけた」(ベローナ)
しかもベローナには合流後2度アタックを打たれた。2度目に放たれた加速は、最終4kmに待ち受ける、激坂突入のタイミングだった。ただし黙々と自分のペースを刻んだストーラーが、追いつき、追い越した。勾配10%を超えても、脚はくるくると回り続けた。14%を超えると、さすがに、踏み込む脚がぎこちなくなった。それでも同ゾーンのショックを少しでも和らげようとジグザグ走行したベローナや、1つ目の山岳から努力を繰り返してきたシヴァコフに、もう2度と並ばれることはなかった。約150kmのクレイジーな化かし合いと、最終3.2kmの独走の果てに、ストーラーが人生初めてのグランツール勝利を手に入れた。
「おそらくステージ序盤に僕はちょっと夢中になりすぎてしまった。最後に3人になってからも。もしかしたらストーラーのことを、すこし、過小評価していたかもしれない。でも彼は本当に上手くやってのけた」(シヴァコフ)
7月にプロ1勝目を手にしたばかりの24歳にとって、4年間過ごしてきたサンウェブ〜DSMへの良い置き土産となった。来シーズンからはグルパマ・FDJの一員として、バルデとではなく、ティボー・ピノの相棒として走る。そのバルデは3つの山でポイント収集に走ったが、シヴァコフは4つの山で得点を積み重ねた。区間はベローナに次ぐ3位で終えたが、表彰式では青玉ジャージを身にまとう栄光を手に入れた。
メイン集団ではモビスターとアスタナが先手を仕掛け、イネオスも先頭争いを繰り広げるも、壁のようなゾーンにはとクライスヴァイクが完璧な先導でログラを導いた。イエーツの加速で集団は一気に小さくなり、ロペスの加速についていけたのは7人だけ。つまりログリッチ、イエーツ、エンリク・マス、エガン・ベルナル、アレクサンドル・ウラソフ、そしてルイス・メインチェス。その後さらにイエーツが2度畳みかけるも、もはやこの7人の塊が大きくばらけることはなかった。ストーラーから3分33秒後(ウラソフは3分46秒後)に、一団はフィニッシュラインを越えた。
「厳しい1日だった。すごく暑かったし、最初の上りから早くも全力だった。今日は色々な動きが見られたし、今後もまた違うチームの違う総合候補によって、同じような動きが起こるだろう。でもご覧のようにチームメートは素晴らしい仕事をしたし、今後も僕らはベストを尽くすよ」(ログリッチ)
気になるマイヨ・ロホ獲得作戦は、この日の終了時では、逃げ集団内の誰一人として成功させられなかった。グロスシャートナーは1分32秒後、ポランツは2分29秒後に山頂にたどり着き、それぞれログリッチの8秒後の総合2位、38秒差の5位に浮上した。やはり逃げたヘイグは7位57秒差に、クスは8位59秒差へと、大きくジャンプアップしている。
おかげで2週間後に総合上位につけている予定のマス、ロペス、ベルナルは、1つずつ総合順位を下げた。ウラソフは3つ下げ、逆にアダムは1つ上げてトップ10圏内へ。代わりにマイヨ・ロホ集団から30秒失ったジュリオ・チッコーネ、ファビオ・アル、ミケル・ランダがトップ10圏外に陥落。カラパスは総合順位こそ2つ上げたものの、首位までの距離は2分48秒差に開いた。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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