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サイクル ロードレース コラム 2021年8月20日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第6ステージ】誰もが驚嘆させられる強さを証明したマグナス・コルトをログリッチも称賛「彼こそ勝利に値する」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ライバルを置き去りにするマグナス・コルト

ライバルを置き去りにするマグナス・コルト

ピュアスプリンターの祭典、マドリード最終日フィニッシュを制してから5年。オールラウンダーにクライマー、パンチャー、さらには上れるスプリンター……の猛烈な追い上げを振り切って、マグナス・コルトが激坂のてっぺんまで逃げ切った。ひたすら安全に走り終えることだけを心掛けたはずのプリモシュ・ログリッチは、危険回避ついでにライバルチームの猛攻をさらりと躱した。3日前に手放したばかりのマイヨ・ロホをも、あっさり取り戻した。

「スペシャルだよ。だってまるで違う方法だもんね。ここまでの勝利は常に集団スプリントだった。僕があらゆる地形で、しかも今日のような上りフィニッシュでも逃げに乗って勝てるのだということを、証明することができて嬉しい」(コルト)

悪夢のような巨大な集団落車の翌日、幸いにも、すべての選手がスタートラインに並んだ。総合争いから完全に脱落したロマン・バルデは「膝の腱を痛めたけど、希望的観測を抱いてる。まだブエルタは始まったばかりだ」と前を向き、一番に地面に転がり落ちたマッズ・ウルスシュミットも「幸いにも怪我は上半身だけ。脚は無事だからペダルはこげる」と続行を宣言した。右腕全体を包帯で覆い、休息日までは生き残りモードでゆっくり行くつもりのデンマークチャンピオンにとって、なにより悔やまれるのは、この第6ステージは「逃げ切りが決まる可能性が高い」こと。

だからこそスタート直後から熾烈なアタック合戦が繰り広げられた。約1時間の奮闘の果てに、43km地点、まんまとジョアン・ボウとライアン・ギボンズが抜け出した。プロトンの監視をかいくぐり、さらにイェツセ・ボル、ベアトヤン・リンデマン、そしてマグヌス・コルトも前へと突き進む。そして走り出してから50km、ついに5人の逃げ集団が出来上がった。

メイン集団の統制役はトレック・セガフレードが引き受けた。たとえ理想的な形で手にしたものではなかったといえ、生まれて初めてのマイヨ・ロホをまとうケニー・エリッソンドのために、隊列を組み上げた。淡々としたリズムが刻まれたおかげで、多くのチームにとっては、ほんの一息つける時でもあった。逃げ集団には最大7分のタイム差を与えた。

「ナーバスな1日だったから、僕らは集中し続けなきゃならなかった。それでも僕はしっかりと味わったし、楽しんだよ」(エリッソンド)

もちろん158.3kmの短距離走では、そうそうのんびりもしていられない。真っ先にしびれを切らしたのはバイクエクスチェンジだ。逃げが決まってからわずか25kmほど先で、大集団スプリントからアルデンヌクラシックまでこなすマイケル・マシューズのために、集団前方で牽引を開始。道の果ての全長1.9km、平均勾配9.1%という超激勾配へ向けて、急速に距離を縮めていく。

しかも本日のアトラクションは、それだけではなかった。なにしろ残り約60kmで、道は海岸線へと入る。激坂突入前には海辺の小さな周回コースも2回こなさねばならない。いくつもの曲がり角と、5度の方向転換、さらに田んぼの真ん中を突き進む極細道のおまけつき。だから風の高まりを感じて……あらゆるチームが一斉に前方へと競り上がった!

総合系チームも、区間狙いのチームも、入れ代わり立ち代わり最前列を奪い合う。プロトンは時に蛇行し、一列棒状になり、いつしか後方から脱落者が生まれ始めた。真っ先に千切れたのは、バルデやミケル・ニエベ、ウルスシュミット等々、前日の集団落車の犠牲者だった。

集団を牽引するモビスター

集団を牽引するモビスター

被害はさらに拡大する。特に残り33km、イネオス・グレナディアーズが凄まじい加速を切った。地理や風土を熟知しているはずの地元チーム、モビスターも先頭へずらり並び、もちろんユンボ・ヴィスマも安全確保に走る。すると、たまらず前から30番目くらいで、亀裂が生じた。ひときわ体の小さいマイヨ・ロホのエリッソンドは、あっという間に後方へ吹き飛ばされた。長身で痩身の昨大会総合3位ヒュー・カーシーもまた、罠にはまった。

幸か不幸か、イネオスのトリプルエース格の1人、アダム・イェーツも後方に取り残された。英国チームは減速を選び、数キロ先で、脱落者たちの大半はメイン集団へと復帰した。ちなみに2周回目にも、同じような試みが、今度はモビスターやドゥクーニンク・クイックステップの主導で行われた。またしてもカーシーは後方に脱落し、やはりチームメートたちの奮闘で、2度目もなんとか復帰を成功させた。

後方の猛加速は、タイム差の減少を意味した。逃げの5人は、最終激坂にわずか20秒リードで突っ込んだ。フィニッシュ地から50kmほどの土地で生まれ育ったボウは、最後にありったけの力を振り絞ると、後方へと消えていった。コルトがいよいよ毅然と加速を切ったのは、残り1.6km。ただリンデマンだけが必死にしがみついた。もはやメインプロトンは9秒背後に迫っていた。

激勾配フィニッシュを制したマグナス・コルト

激勾配フィニッシュを制したマグナス・コルト

「僕に勝機があるのか、タイム差が十分なほどに大きいのか、正確に把握するのは難しかった。だって総合系選手たちは、上り前から高速で場所取り合戦を繰り広げていたから。それでも僕はいまだに小さなタイム差を保っていて、あとは出来る限り速くフィニッシュまで行くしかなかった」(コルト)

総合系チームからは、再びイネオスが積極策に転じた。ジョナタン・ナルバエスが猛然と激勾配を牽引。後輪に引き連れているはずのリチャル・カラパスとエガン・ベルナルを、一時は置き去りにしてしまうほど、凄まじい加速だった。

カーシーは3度目の、そして決定的な後れを喫し、もはやエリッソンドも前にしがみつけなくなった。ポケットクライマーは素早く気持ちを切り替えた。被害を最小限に食い止めるために無理するよりは、次の逃げに備えよう、と。

「だからベストの選択は、タイムを失うことだった。今からの目標は区間勝利。すでに区間3位に終えているし、再びアタックへと飛び出したい」(エリッソンド)

ナルバエスの献身の後は、いよいよエースたちがぶつかり合う番だった。それにしてもにぎやかなバトルだった。ピュアクライマーのミゲルアンヘル・ロペスが先を急ぎ、登りもTTもこなすウラソフが穴を埋め、上れるスプリンターとパンチャーの間を行ったり来たりのマシューズがためらわずせっせと前を引いた。だって先方にはまだ、似たような脚質のコルトが逃げ続けているのだ。

残り500mでは、我慢しきれず、マシューは大胆にアタックさえかけた。しかし並み居る総合上位勢を振り払うことも、コルトをとらえることも不可能だった。逆にラスト300mで発進したログリッチは、苦もなくライバル全員を引き離した。ただし、手を伸ばせば届きそうな距離にいるコルトには、ついに手が届かなかった。

それとも、手を伸ばさなかったのか。今春パリ〜ニースの第7ステージで、序盤から逃げ続けたジーノ・マーダーをログリッチが残り20mで追い抜いてしまったような、そんな残酷な光景は繰り返されなかった。なにより残り150mでもう一踏みし、さらに一段階スピードを上げたコルトは、誰もが驚嘆させられるほどに強かった。

「残り150mくらいで振り返ったら、ログリッチが迫って来るのが見えた。自分の持てるすべてをスプリントに費やした。幸いにも彼を背後に留め置くことが出来た」(コルト)

レース最終盤に強さを見せつけたログリッチ

レース最終盤に強さを見せつけたログリッチ

「マグヌスは強かった。素晴らしい脚を残していたし、彼こそ勝利に値する。僕に関して言えば、それほど勝利にはこだわっていなかったんだ。まずなによりも安全に乗り切りたかった。問題を避け、それからこの上りを楽しみたかった」(ログリッチ)

1勝目下り後の大集団スプリント、2勝目大集団スプリント、3勝目下り後の逃げ切り少人数スプリント、4勝目山岳越え下り後の中集団スプリント……と、コルトのこれまでのグランツール勝利には、下り、もしくはスプリントの要素が必ず入っていた。しかし5勝目の今回は、激坂フィニッシュへの独走逃げ切り。ただ2021年春先にはパリ〜ニース最終日できつい上り基調のスプリントを制し、初夏のルート・ドキシタニーで早くも1級峠への単独逃げ切り勝利をつかんでいた。近頃流行りの脚質不明なフィニッシャーへと、28歳コルトは着々と進化しつつあるのかもしれない。

やはり多様な脚質をあわせもつログリッチは、コルトと同タイム2位で終了。6秒のボーナスタイムも手に入れた。2秒後にアンドレア・バジオーリが、4秒後にアレクサンドル・ウラソフとエンリク・マスがフィニッシュ。GCライダーたちと渡り合ったマシューズは6秒後に、ベルナルとアレハンドロ・バルベルデは8秒後に1日を終えた。

また積極策にでたモビスターからはロペスも9秒後に滑り込み、つまりエース級3人が頼もしい脚を見せた一方で、同じように精力的に場をかき回したイネオスは、上述の8秒差ベルナル以下は、イエーツ25秒差、カラパス27秒差と冴えず。「もしかしたら僕らはミスを犯したのかもしれない」とベルナルは小さな後悔も抱く。前日の落車で身体を痛めたランダは27秒遅れだった。

カーシーは最終的に2分50秒を失い、総合では4分28秒遅れの33位に陥落。前日のバルデに続き、またひとり、早くも優勝争いから脱落していった。

そして3日ぶりに、ログリッチは、あまりにもあっさり自分の元に戻って来た赤いジャージと対面した。嬉しいけれど、悩ましい。そんなマイヨ・ロホに対する心境を、ログリッチは「甘い心配」と表現した。

「マイヨ・ロホを手にするのはいつだって最高だ。グランツールの最後に、それを手にすることが出来た場合は特に。サンティアゴ・デ・コンポステーラで最強なのは誰なのか、これから見えてくるだろう。まだ道のりは長い。これは始まりでしかなく、僕らは自分たちの仕事に集中していく」(ログリッチ)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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