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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第5ステージ】ヤスパー・フィリプセンが豪快に区間2勝目をもぎ取った!「前回よりさらに美しい勝利だ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか仲間と勝利を喜ぶフィリプセン(左)
ぴりぴりした1日の終わりに。期待通りの大集団スプリントで、ヤスパー・フィリプセンが豪快に区間2勝目をもぎ取った。一方で恐れられていた横風分断は起こらなかった。しかし緊迫したせめぎ合いの中で、巨大な集団落車がレイン・タラマエからマイヨ・ロホをむしりとった。2日前に共に逃げたケニー・エリッソンドが、決して望んではいなかった形で、新たに総合首位の座に立った。
「最高だね。昨日は思い通りのスプリントができずがっかりしたけど、今日の勝利で、新たなページをめくることができた。チームと共にこの瞬間を楽しみたい」(フィリプセン)
今大会3つ目の平坦ステージも、これまでの2つとほぼ同じパターンで幕を開けた。つまりスタートフラッグが振り降ろされると同時に、3人が飛び出して行く。もちろん全員が地元スペインの招待チームだ。すなわちブルゴスBHのペラヨ・サンチェス、エウスカルテル・エウスカディのシャビエル・アスパレン、そしてカハルラル・セグロスRGAのオイエル・ラスカノ。前日第4ステージはうっかり乗り遅れたカハルラルも、この日は無事に最前線で存在感を見せつけた。
その前日の最終盤に落車で少々ひやりとさせながらも、無事にマイヨ・ロホを守り切ったタラマエは、「リラックスした時間を過ごしたいな」とスタート前に願っていた。だからこそアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオの仲間たちは、穏やかに集団制御を行った。序盤50kmをゆっくりと走り、逃げ集団には7分のタイム差を与えた。
そこから先はスプリンターチームが自発的に作業を分担した。なにしろフィリプセン曰く「今ブエルタでおそらく最もフラットなステージ」なのだ。すでにフィリプセンとファビオ・ヤコブセンとでスプリント1勝ずつ手にしたアルペシン・フェニックスとドゥクーニンク・クイックステップ、さらに今度こそアルノー・デマールを勝たせたいグルパマ・エフデジが、それぞれ1人ずつ最前線に牽引役を送り出した。
しばらく特筆すべきことは起こらなかった。ただ走行スピードは上がり、逃げとのタイム差は見る間に縮んでいく。同時に集団内部の緊迫感は、じわじわと、着実に上がっていく。
残り53km地点に、中間ポイントが組み込まれていたせいでもある。前日と同じくヤコブセンは小さなスプリントを競わなかったが、この日は新たにデマールが加わった。集団内トップ通過=4位通過は、ただし前夜に緑のジャージを失ったばかりのフィリプセンがさらい取った。
なにより中間ポイントを終えた直後に、コースの進路が、南東から南へとがらりと変わるせいだった。さらに20km先では、再び東への直角カーブも待ち受けていた。スペイン特有のなんにもない荒野を貫く一本道は、うんざりするほど真っ直ぐで、そこに、もしも、強い横風が吹き付けたら……分断の試みが巻き起こる可能性は十分にあったのだ!
たしかに風は吹いていた。南東からの……中間ポイント直後はプロトンの左斜め前からの、カーブを回った後は右斜め前からの風だった。あらゆるチームが危機回避のために前方へと詰めかけた。スプリンターチームも、総合系チームも、激しく場所取りを繰り返した。体の大きなアシストたちはがむしゃらにペダルを回し、エースは必死に同僚の後輪にくらいついた。
決して風は弱くはなかった。向かい風を全身にもろに喰らい、逃げの3人は、1人ずつ後方へと押し返されていった。残り34km地点でサンチェスが脱落し、残り22km地点ではアスパレンが力尽きた。ラスカノだけは残り15.7kmまで孤独に粘り続けたが、せわしなく最前列を奪い合い、神経質に蛇行する大きな集団に、あえなく飲み込まれていった。
しかし横風分断は生まれなかった。ぎゅうぎゅうに密集したプロトンには、代わりに別の悲劇が襲い掛かる。残り11.7km。集団前から20番目ほどを走っていたマッズ・ウルスシュミットが、突如として横転した。周囲の選手たちはまるでドミノのようになぎ倒された。ミケル・ニエベは顔面から血を流し、ロマン・バルデはぼろぼろのジャージのまま座り込んだ。ミケル・ランダは手を打ち付けたし、ミゲルアンヘル・ロペスやリチャル・カラパスもブレーキをかけざるを得なかった。半分以上の選手が後方で足止めを喰らった。ほぼ丸ごと巻き込まれたチームも少なくなかった。
道幅いっぱいに、自転車と選手が無残に折り重なる。その真ん中にマイヨ・ロホの姿もあった。どうやら自転車交換に手間取った。しかもスタート前のタラマエは「今日は1日中、ケヴィン・ファンメルゼンの後ろにくっついていくつもり」と語っていたが、そのファンメルゼンは地面に横たわっている。無傷の40人ほどが遠ざかって行き、すぐさま2つの大きな塊が前を追いかけ始めたが、そこにタラマエが滑り込むことは出来なかった。
集団落車
「またしてもラッキーな落車だったんだ。僕はほぼ問題ないし、ジャージさえ無傷だ。ただ好ポジションにつけていたのがよろしくなかった。だって落車は前方近くで起こったし、後方にいた選手たちはすり抜けていけたんだから」(タラマエ)
前方のプロトンは、決して無情にスピードアップしたわけではない。残り8kmで2つ目の追走グループが前をとらえ、120人ほどまで人数を戻した後も、しばらくは控え目な速度を保ち続けたのだ。ただし永遠に待つわけにはいかない。残り6.5km。再び前方プロトンはフルスピードへと転じた。
しかもロペスやカラパスは上手く抜け出し、ランダもアシストたちの尽力で前線復帰しーー新城幸也は自転車を頭上に抱え、歩いて現場を抜け出すと、その後メイン集団で猛烈に働いたーー、バルデがさえチームメートに支えられながら走り出した。その一方で、タラマエをサポートするはずの同僚は、どこにも見当たらなかった。しばらく孤独な追走を余儀なくされた。前から降りてきたチームメート2人が、ようやくマイヨ・ロホに合流したのは残り4km。すでに前方プロトンとの遅れは、1分40秒差に開いていた。万事休す。
落車の恐怖を味わったせいか、先頭集団はさらにクレイジーに前方へと急いだ。ただ幸いにも、タイム救済措置が発動する最終3kmに入ると、総合系チームは最前列から退いた。集団密集度は下がり、おかげでテクニカルなラスト2.5kmで、スプリンターチームは思う存分火花を散らすことができた。UAEチームエミレーツがロータリーを巧みに攻略し、アルペシン・フェニックスが、最終コーナーへ先頭で突っ込んだ。
そのまま全長900mの長い最終ストレートを、アルペシン隊列は最後までリードし続けた。必死で競り上がって来るグルパマ&バイクエクスチェンジ隊列の先行を決して許さず、後輪で機をうかがい続けたアルベルト・ダイネーゼやフアン・モラノを振り払った。行く手を塞がれながらも、上手くスペースを見つけぎりぎりで加速を切ったヤコブセンも、あと一歩、追い上げが足りなかった。アルペシン列車と、フィリプセンが、間違いなくこの日は最強だった。
今大会2勝目を挙げたヤスパー・フィリプセン
「前回よりさらに美しい勝利だ。ラスト5kmを見ていただければ分かるけど、僕らチームは一丸となって戦った。信じられないほど、誰もが互いに力を尽くしあう。みんなで仕事を成し遂げるのは、本当に素敵だよ」(フィリップセン)
フィリプセンにとっては今大会早くも2勝目。もちろん今年のジロでグランツール区間勝利の喜びを初めて味わったばかりのアルペシンは、わずか3カ月で、早くも区間5勝目を手にしたことになる。現時点ではドゥクーニンク・クイックステップの6勝(ツール5、ブエルタ1)に次ぎ、バーレーン・ヴィクトリアス(ジロ2、ツール3)、ユンボ・ヴィスマ(ツール4、ブエルタ1)と共に2021年グランツール区間勝利数2位タイを誇る。
不運なタラマエは、最終的には先頭集団から2分21秒遅れで、フィニッシュラインへたどり着いた。総合では1分56秒差の27位に陥落し、2日間楽しんできた赤いジャージを脱いだ。翌ステージは白地に青玉の山岳ジャージを着て走る。幸いにも計算上では、少なくとも1日は、ジャージを失う危険はない。
またタラマエが遅れた影響で、前日までの総合2位から13位までは、1つずつ総合順位を上げた。さらに前第4ステージ終了時点で総合14位だったバルデが、12分32秒遅れでフィニッシュしたため、15位以下の選手は2つずつジャンプアップ。
そして3日目にタラマエと共に逃げ、25秒差の総合2位につけていたエリッソンドが、赤いジャージに身を包んだ。前方で落車を逃れた後、分断で遅れたチームの総合エース、ジュリオ・チッコーネの居場所を確認したり、その後は安全なポジションへ導くために奮闘したりと、自分の総合順位のことなどすっかり頭から抜けていたという。
エリッソンド
「こんな方法でジャージを獲りたかったわけじゃない。でも自転車レースというのは、風が吹けば、リスクが上がるもの。タラマエが落車でジャージを失ったのは、残念に思う。でも、いくらレース中にこんなことが起こって欲しくはないと願っても、やはり起こってしまうものなんだ」(エリッソンド)
2016年ブエルタでは、5日間山岳ジャージを着用したことがある。しかし2013年にスペイン最難関アングリルの山頂で栄光を味わったポケットクライマーにとって、総合リーダージャージは、あらゆるステージレースを含めて生まれて初めての経験だ。そのプロセスに納得できなくても、総合2位プリモシュ・ログリッチとの差はたったの5秒しかなくても、30歳のパリジャンは、我が身に訪れた幸運を大いに満喫するつもりだ。
「ただこのジャージを楽しみたい。チームのみんなと早くホテルに帰って、一緒においしいディナーを食べたいな」(エリッソンド)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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