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サイクル ロードレース コラム 2021年8月16日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第2ステージ】ヤスパー・フィリプセンがグランツール区間2勝目でチームの偉業に貢献「最初の大きな目標は達成できた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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Cycle*2021 ブエルタ・ア・エスパーニャ 第2ステージ

ポジティヴなスパイラルに乗って、ヤスパー・フィリプセンが勝利をもぎ取った。2021年にチーム創設以来初めてグランツールへの出場権を手にしたアルペシン・フェニックスが、ジロ第2ステージ、ツール第2ステージに続く、ブエルタ第2ステージ勝利。これは同時に、大会最初のスプリントステージ全制覇でもあった(ツールは第3ステージ)。

ヤスパー・フィリプセン

ヤスパー・フィリプセン

「昨日チームチャットでその話題をしたんだ。夢見てたけど、なるべく考えないようにしてた。でもチームメートたちが最前線で素晴らしい仕事をしてくれた。本当に幸せだし、チームのみんなは自分たちを誇りに思ってもいい」(フィリップセン)

大会最初のラインステージは、いわゆる定型に則って幕を明けた。スタートと同時に、3選手が弾かれたように飛び出していく。つまりカハルラル・セグロスRGAのセルヒオ・マルティン、エウスカルテル・エウスカディのシャビエル・アスパレン、そしてブルゴスBHのディエゴ・ルビオ。収集すべき山岳ポイントはなく、中間ポイントさえひどく遠くに設定されていたけれど、主催者ワイルドカード枠で出場した地元3チームにとって初日逃げは義務のようなもの。わずか15kmほど走った先で、あっさり最大4分ほどのタイム差を奪った。

もちろん後方メイン集団では、スプリンターチームが静かに制御を開始した。まずはアルノー・デマール率いるグルパマ・FDJが隊列を組み、ほんの少し先でファビオ・ヤコブセン擁するドゥクーニンク・クイックステップも人員を前線に配置した。真夏の太陽が照りつける下で、2チームは淡々とコントロールに勤しんだ。

心配されていた風は、意地悪をしなかった。風向きの変化を意味するカーブが近づくたびに、プロトン内は軽い緊迫感に満たされたが……カーブを抜け出すたびに、いつだって集団は落ち着きを取り戻した。おかげで前方3人との距離は、ヨーヨーのように、伸び縮みを繰り返した。たとえば残り60kmで30秒にまで小さくなった差は、50kmでは再び1分半に広がった。

それでも逃げ集団のリードは、じわじわと、確実に、減っていく。最後の見せ場を作ろうと、フィニッシュまで残り31.5km、逃げ集団からルビオが飛び出した。他の2人を振り払うと、チームの本拠地ブルゴスへと向けて、独走をへと乗り出した。

「ファンのために全力を尽くした。あまりタイム差はつかなかったけれど、最後にトライした。横風か追い風を期待していたんだけど、でも、向かい風だった」(ルビオ)

残念ながら、ほんの10kmほどの孤独な奮闘の果てに、完全に息の根を止められてしまうことになる。2017年大会4日目、2019年14日目に続く人生3度目の敢闘賞を手に、残り20.5kmで、ルビオはメイン集団へと飲み込まれていった。

プロトン

プロトン

プロトンはこれ以上は待てなかったのだ。なにしろ残り16.7kmに、中間ポイントが組み込まれていた。しばらく前から隊列を走らせていたアスタナ・プレミアテックは、ルビオ吸収と同時に猛烈な牽引へと切り替えた。さらには前夜6秒差で総合2位に泣いたアレクサンデル・アランブルを、前方へと送り出す。同ポイントに設置された、最大3秒のボーナスタイムを手に入れるために。

ただし、特に山の多いブエルタにおいては、スプリンターたちにとっても緑ジャージ用ポイントを収集する貴重な機会なのだ。だからこそドゥクーニンク列車に引かれて、ファビオ・ヤコブセンが首位通過=20ポイント=3秒をさらい取った。競り負けたアランブルは、2位2秒で満足するしかなかった。

勝負モードに突入したプロトンは、もはやスピードを落とさなかった。グルパマやドゥクーニンク以外のスプリンターチームも、熾烈な場所取りを繰り広げた。スプリントには興味のない総合系チームも、落車や分断を恐れてこぞって前に競り上がった。参加全184選手が狭い道にぎゅうぎゅう詰めになり、残り4km、恐れていた事態が発生する。集団落車ーー。

ボーラ・ハンスグローエから数人が地面に投げ出された。集団の約半分が後方に取り残され、中でもイネオス・グレナディアーズのエース格の1人アダム・イェーツと、昨大会総合3位ヒュー・カーシーが罠にはまった。しかもタイム救済措置が発動する残り3kmには、ほんのわずか足りない。2人の総合上位候補には、それぞれがフィニッシュラインを通過した時点のタイムが、ステージタイムとして記録された。イェーツは31秒、カーシーは38秒を失った。

ひとまわり小さくなった集団内では、いよいよアルペシンも主導権争いに加わった。UAEチームエミレーツも猛烈に先頭を競り合う。ヤコブセンは一時ウルフパック列車からはぐれたが、全長1.5kmの長いストレートに入ると、しっかり前線に戻ってきた。

一方で1日中勢力的に働いてきたグルパマ列車が、残り1kmで、脱線してしまう。最終ストレートを4人で駆け上がっている最中に、軽く他チームと接触。デマールが少し後方に下がり、連携が崩れた。なにより最終発射台ジャコポ・グアルニエーリは「スピードを落とさなければならなかった」。デマールはすぐさま追い付いたとはいえ、上手くスピードを取り戻すことができぬまま。ツールのリベンジを誓い、専用アシスト2人を引き連れスペインへ乗り込んできたフレンチクライマーは、悔しい14位でステージを終えることになる。

4年前に区間4勝と大暴れしたマッテオ・トレンティンが、フアン・モラノを背負って残り350mから猛烈な加速を始めると、あらゆるスプリンターたちが後輪へ飛び乗った。150mでそのモラノが解き放たれると、背後に小さく体を縮めて潜んでいたマイケル・マシューズが道のど真ん中へと躍り出る。ヤコブセンはすかさず右側を選んだ。

しかし、目の前のマシューズが動いたあと、フィリプセンはほんの一瞬だけモラノの後ろに留まった。そして残り70m、スリップストリームを利用して左側からすり抜けると、そのままフィニシュラインめがけてハンドルを投げた。初日個人タイムトライアルは下りで落車し、最下位で1日を終えたが……2日目は一転、最上位でステージを締めくくった。

「今日はすべてが正しいポイントで、正しいタイミングで遂行された。僕はチームの仕事を仕上げることができて、ただただ嬉しい」(フィリプセン)

今年がグランツールデビューのアルペシン・フェニックスにとって、早くも区間4勝目。しかも世界最高峰のUCIワールドチームではなく、ひとつカテゴリーが下がるUCIプロチームながら……2021年3大ツール全てで区間勝利を手にした最初のチームとなってしまった!

また昨秋はUAEのジャージ姿でブエルタ区間1勝目を懐に収めたフィリプセンは、嬉しいグランツール区間2勝目を獲得。ティム・メルリールと共にダブルスプリントエースを託されたツールでは、区間2位が3回、3位が3回と悔しい思いを繰り返してきたが……ようやく嫌な流れを断ち切れた。1日の終わりには、生まれて初めて、グランツールのポイント賞ジャージも身にまとった。

僅かの差で勝利したフィリプセン

僅かの差で勝利したフィリプセン

「最初の大きな目標は達成できた。一発目のスプリントで上手くやれて、心から満足してる。これからはみんなで次の勝利を取りに行く。スプリントだけではなく、他の地形でもね」(フィリプセン)

1年前のポーランドで生死をさまよう大怪我を負い、この場で走っていることさえ奇跡的なヤコブセンは、2位フィニッシュ。「喜ぶべきなんだろうけど、全然嬉しくない」とリベンジを誓う。マシューズはピュアスプリンターに混ざっての3位に満足する。

そして必死にもがいたアランブルは5位終了で、ステージボーナスを収集することはできなかった。つまり中間スプリントで稼いだ2秒を手に、総合ではプリモシュ・ログリッチを4秒差に追い詰めるに留まった。ちなみにディフェンディングチャンピオン自体は、「別にマイヨ・ロホを彼に取られても構わなかったんだけど」なんて語る。

もちろんログリッチは、3週間後のマイヨ・ロホを見つめながら、目の前の1日を安全に乗り越えられたことにはほっと胸をなでおろす。

「こういった落車が多発し得るステージでは、サバイバルモードで走り続けなきゃならないんだ。ちょっとした幸運も必要だ。幸いにも、僕らは上手く切り抜けた」(ログリッチ)

当然ながら、いまだ総合10秒以内には4人が、30秒以内には35人が、1分以内には67人がひしめく。翌日3日目の1級山頂フィニッシュを終えれば、早くも、渋滞は解消されているに違いない。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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