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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第1ステージ】東京五輪・個人TT金メダリストが開幕ステージ制覇!大会3連覇を目指すログリッチ「いまだ初日を終えただけ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか無料動画
Cycle*2021 ブエルタ・ア・エスパーニャ 第1ステージ
ゴールドに光り輝く栄光を、素早く赤色に上書きした。7月28日に東京五輪・個人タイムトライアルで金メダルを手にしたプリモシュ・ログリッチが、わずか2週間半後のスペインで、トップタイムを叩き出した。全長7.1kmの個人タイムトライアルを8分32秒98で駆け抜けると、184選手の頂点に立った。
プリモシュ・ログリッチ
「クレイジーだね。今日の結果にハッピーだし、満足してる。好調であることの証だし、素晴らしい1日になった」(ログリッチ)
南欧全体を襲う熱波の中で、今ブエルタ最初の順列がついた。着工800周年を祝うブルゴス大聖堂の、荘厳な正門階段から、誰もが孤独にストップウォッチとの戦いへと走り出していく。
真っ先に好タイムを記録したのが、イネオス・グレナディアーズのトップバッターとして登場したアダム・イェーツだ。全体の22番でスタートし、コース前半2.5kmの3級登坂を猛スピードで駆け上がると、フィニッシュでは8分52秒08の暫定首位に立つ。残念ながらイネオス2番出走のディラン・ファンバーレに9秒リードされ、あっさり首位転落してしまうものの……最終的には区間16位(ファンバーレは6位11秒差)。前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスでの落車で、背中に不安を抱えていたが、「自分の全力を尽くすことができた。良いスタート」と胸をなでおろす。
一方、3級峠からの下りをありったけのスピードで攻めたのが、アレクサンデル・アランブルだった。フィニッシュ頂上の中間計測ではイェーツから2秒、ファンバーレから1秒遅れながら、フィニッシュではトップタイムを5秒塗り替えた。ツール・ド・フランスの最終日シャンゼリゼで8位に入って以来、ほぼ4週間ぶりのレースで「自分の調子に確信はなかった」とは言うものの、82番スタートのスペイン人スプリンターはそこから約1時間40分に渡ってホットシートを温めることになる。
つまり幾人もの個人タイムトライアル巧者たちの初日マイヨ・ロホの野望を、アランブルは握り潰した。スロベニア国内TT王者に3度上り詰めたヤン・トラトニク(3位8秒差)も、トラックで数々のタイトルを手にしてきたトム・スクーリー(4位10秒差)やチェコ国内TT3度優勝ヨセフ・チェルニー(5位10秒差)も、アメリカTTチャンピオンジャージを身にまとうローソン・クラドック(8位13秒差)をも退けた。
山をもっともっと高速で駆け上がったセップ・クスにも、アランブルは負けなかった。山はクスより7秒遅かったが、下りとその後の平坦部分では、16秒も早く走った。ところで山岳ジャージを手にした純正クライマーに対して、わずか2秒遅れで山頂を越えたのがセップ・ファンマルク。ずばり青玉ジャージ獲りに向かったのだとか。ただし同じセップながらも、後者はご存知、石畳スペシャリスト。おかげで後半は「タンクが空っぽ」になり、最終的には1分27秒遅れの180位で初日を終えている。
また翌2日目平坦ステージの終わりにマイヨ・ロホ着用を夢見るライバルスプリンターたちの、わずかな希望をも、アランブルは蹴散らしたようにみえる。すでにブエルタで3日、ジロで8日、総合リーダーを着た経験のあるマイケル・マシューズは8秒突き放した。そもそもマシューズは首位からすでに14秒遅れ(9位)ているから、単なる大集団フィニッシュでは逆転総合首位に立つことはできない。ボーナスタイムは中間ポイントで最大3秒、フィニッシュで最大10秒。数字の上で可能なのは、総合12秒遅れの7位、新人賞ジャージをまとうアンドレア・バジオーリまで。
ただ、アランブルは、念願のグランツール初区間勝利を叶えられなかった。どうしても1人だけ、追い払うことができなかったからだ。それが最後にスタート台に上がった、ログリッチだった。
「もちろんちょっとがっかりしている。区間勝利まであとほんの少しだったんだから。でも正直に言うと、ログリッチが今日の優勝大本命だと予想していたんだ。とにかく、自分のパフォーマンスを誇らしく思うし、僕にとっては良いスタートになった」(アランブル)
東京五輪の個人タイムトライアル金メダリストは、誰の目から見ても明らかに大本命だった。そして前日のオンライン記者会見で「初日TTに勝利の秘訣なんてない。短距離だからスタートからフィニッシュまでひたすら全力で走る。それだけ。いわば全秒・全力さ」と笑っていたログリッチは、その宣言通りに、約8分半の全力疾走を実現させた。
お決まりのテレマークポーズを披露
「フルスピードで突っ走った。どこで差がついたのかは分からない。とにかく高速で上り、下りではコーナーをうまく生き残り、平地ではプッシュし続けなきゃならなかった」(ログリッチ)
ただ実際はスタートはほんの少し控えめに、徐々にペースを上げていったというログリッチは、山頂は同僚クスより3秒遅く=アランブルより4秒早く通過した。果敢にコーナーを攻めた下りと、「ペダルをハードに回し続けた」という平地は、もはや誰よりも早かった。最終的にフィニッシュラインでは、ログリッチのリードは6秒にまで広がっていた。
「ラインを越えた時、もはやなんの力も残っていなかったほどさ」(ログリッチ)
ログリッチにとってグランツール区間12勝目、うち個人タイムトライアルによる成果は6勝目に達した。また2019年ジロ初日TT、2020年ブエルタ初日の山岳ステージに続き、グランツール初日優勝はなんと人生3度目。ちなみに同ジロは5日間守り続けた後、第6ステージで逃げ選手にジャージを譲り、昨ブエルタはやはり6日目に、雨具の着用にもたついているうちに分断にはまり……ジャージを一旦失っている。もちろん、昨秋は奪い奪われの果てに、自身2度目のブエルタ総合優勝を持ち帰っている。
「いまだ初日を終えただけ。3週間レッドジャージを守れるかどうかは状況次第だ。もしかしたら明日が重大なステージになる可能性だって十分にある。難しいステージはこの先もたくさん待ち受けている」(ログリッチ)
たしかにアレクサンドル・ウラソフはわずか14秒遅れで踏みとどまり、ブエルタ集中のため五輪行きを諦めたロマン・バルデも、17秒遅れと満足な結果で終えた。モビスターの「ダブルエース」、エンリク・マス&ミゲルアンヘル・ロペスは、それぞれ18秒差と21秒差と悪くない走りを披露。一方「トリプルエース」で乗り込んできたイネオス勢に関しては、アダム・イエーツ20秒差、五輪ロード金メダリストのリチャル・カラパス25秒差、3大ツール全制覇へ挑むエガン・ベルナル27秒差で並ぶ。またジュリオ・チッコーネが27秒差。昨ブエルタ総合3位ヒュー・カーシーは33秒差。
今ジロでバーレーン・ヴィクトリアスの代替リーダーとして総合2位という立派な成績を収めたダミアーノ・カルーゾは、21秒差に踏みとどまり、今ブエルタこそチームエースとして総合表彰台に乗りたいミケル・ランダは、39秒の遅れを喫した。その2人を支える大役を担い、自身15回目のグランツールに走り出した新城幸也は、ログリッチからちょうど1分遅れで静かに初日を終えている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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