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【Cycle*2021 アークティックレース・オブ・ノルウェー:レビュー】6年前の後悔を晴らして北極圏の王となったヘルマンス「仲間たちのハードワークが無駄にならなくて、本当に良かった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかベン・ヘルマンス
あの時とは違うフィナーレが待っていた。第3ステージでマルセルヴの頂上フィニッシュを制したベン・ヘルマンスは、過去の失敗を繰り返すことなく、今度こそ総合リーダージャージを守り切った。6年越しの思いを実らせて、初めてのアークティックレース・オブ・ノルウェー総合優勝を手に入れた。
「本当にこの勝利が嬉しい。僕はこれ以下の成績を手にするために来たわけじゃない。やり遂げることができて最高だ」(ヘルマンス)
変わらないものも多かった。2年ぶりにプロトンを受け入れた北極圏の自然は、今まで通り驚異と感動に満ちていた。沿道の市民たちの国旗への愛と、自転車競技に対するあふれんばかりの熱狂も、また不変だった。
マルクス・フールゴーの突進力もちっとも変わっていなかった。おかげで新型コロナウイルス感染拡大による2年ぶりの大会開催だったにも関わらず、前回大会をまたぐ区間2連覇。2019年最終ステージはラスト6.3kmで単独アタックを仕掛け、2021年開幕ステージは残り3km弱で飛び出した。いずれも最終盤に小さな丘を抱く周回コースで、プロトンを最後まで翻弄してみせた。前回は同タイムぎりぎりで後続を振り払いプロ初勝利を手にし、今回は2秒差で逃げ切りを決めた。3年前は新人賞ジャージを持ち帰った26歳が、今年は総合リーダージャージをまとう名誉を手に入れた。
「スーパーハッピー。明日はジャージを守りに行く」と語っていたフールゴーだが、後方集団でスプリントを制した母国の先輩アレクサンドル・クリストフに、翌日すぐに譲り渡すことになる。第2ステージも勝利こそマーティン・ラースに奪われたものの、クリストフは2日連続で2位に滑り込むと、ボーナスタイム(6秒×2)を利用して総合首位に駆け上がったのだ。当然モニュメントやシャンゼリゼの栄光を知るクリストフにとっては、勝てずに着た黄色い衣を、素直に喜ぶことができるはずもない。それどころか「かなり失望している」と本音を漏らした。
むしろ2日目の幸せな男は、ノルウェー第3の男フレドリック・デヴァースネスだろう。3つの山岳をすべて先頭で乗り越えると、狙い通りに山岳ジャージを肩に羽織った。もちろん最終的な目標は……500kgの鮭。「アイ・ラヴ・サーモン!」と世界中に鮭への愛を表明しつつ、続く3日目も逃げ集団へと飛び乗り、最終峠を除くあらゆる山で1位通過ポイントをかき集めた。
その第3ステージの最終峠マルセルヴで総合争いは大きく動いた。2015年、この山で勝利をつかんだヘルマンスは、イスラエル・スタートアップネーションのチームメートたちに開幕前から告げていた。同じ場所で勝ちたい、自分のために集団制御をして欲しい、と。
ノルウェーの雄大な自然の中をプロトンは走り抜けた
「最終峠へ向けて、僕はチームの5人全員を補佐役として残していた。だから彼らに全力で牽引し、集団を疲弊させるよう指示を出したんだ。その間、僕自身は、自分のテンポを保ち続けた。みんなは完璧な仕事を成し遂げてくれた」(ヘルマンス)
残り2km、アタックを潰すために同僚セバスチャン・バーウィックが飛び出して行った直後に、「少しヒヤリとさせられた」ことも。昨大会2位ワレン・バルギル、同山岳賞オドクリスティアン・エイキング、さらには2年前のU23世界王者サムエーレ・バティステッラに今ジロ山頂区間勝利ヴィクトル・ラフェ……と、あらゆる危険人物がバーウィックについていってしまったからだ。ただしヘルマンスは「パニックにはならなかった」。しかも結果的には、この動きこそが、「ライバルたちの力を殺いでくれた」と振り返る。
ヘルマンスはマイペースでライバルたちに追いつくと、あとは自らの脚でライバルたちを圧倒した。エイキングの加速にすかさず反応し、ロングアタックのラフェは力強い追走でとらえた。締めくくりに、山頂へ向けてスプリントを切るだけで良かった。
クイーンステージを制し、黄色いジャージを手にしても、ヘルマンスの戦いはいまだ終わりではなかった。6年前の苦い思い出を忘れられるはずがない。13年間のプロ人生で、生まれて初めてリーダージャージを身にまとったのは、まさに2015年のこの山だった。しかし総合7秒リードで最終ステージに乗り込みながら、最終的に1分33秒遅れの総合9位で大会を終えることになる。最終盤の自身のメカトラ、さらには集団追走中にBMCのチームメートが落車に巻き込まれたせいだった。
しかも今大会はわずか4秒差でエイキングが、6秒差でラフェが背後につけている。あれから5大会で総合ジャージを経験し、うち3大会で総合優勝をもぎ取ってきたヘルマンスは、だからこそ極めて用心深く最終日を過ごした。
スタート直後に大量9人が逃げ出したのはむしろ好都合だった。タイム差は決して3分以上は与えなかったが、かと言って「あまりにタイム差を縮めすぎてしまわぬよう」、チームメートと共にプロトン制御に努めた。総合ライバルにボーナスタイムをさらわれる危険性を、少しでも減らすためだった。
イスラエルチームの期待通り、逃げ集団の中から、フィリップ・ワルスレーベンとニキ・テルプストラが一騎打ちで勝利を争った。しかし今季限りで引退を決めているという(そして考え直したほうがいいのかなと思い始めている)33歳の前者が、いまだ来季の去就は不明瞭な37歳の後者を打ち破った背後では、ラスト500mの急坂でエイキングが飛び出した……!
「エイキングのアタックは予測していたけど、ついていけるだろうと考えていたんだ。だけど彼はすごい加速を切って、わずかながら距離を明けられてしまった。少しパニックに陥ったよ。ラインを越えた後も、正式な結果が出るまで、ナーバスな気分だった」(ヘルマンス)
ヘルマンスにとって幸いだったのは、前にもう2人、逃げ選手が残っていたこと。1人目アレクサンドル・ドゥレットルのおかげで、エイキングの3位通過=ボーナスタイム4秒収集は阻止できた。さらにその直後にフィニッシュした2人目エリック・レッセルと、背後に連なる5位集団全員に、エイキングからわずか2秒遅れのフィニッシュタイムが記録された。区間11位で走り終えたヘルマンスも、つまり総合リードを4秒から2秒へと減らしただけで済んだ。
「チームメートたちのためにも心から嬉しく感じる。彼らは今日もまた素晴らしい仕事を行ってくれた。仲間たちのハードワークが無駄にならなくて、本当に良かった」(ヘルマンス)
ついに6年前の後悔を晴らし、ヘルマンスが北極圏の王になった。2秒差で総合2位に泣いたエイキングは「逆に僕の闘争心に火がついた」と次のレースでのリベンジを宣言し、「景色が見たくて」今大会行きを希望したというラフェは、総合3位と新人ジャージを射止めつつ、「まだ僕のピークには達していない。つまり今成績は次に向かうモチベーションでしかない!」と、やはりシーズン後半戦のさらなる成功へと野心を燃やす。
本音では最終日にもスプリントしたかったクリストフは、最終的に2位×2回でポイント賞首位に終わった。会期中にはアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオへの来季移籍が発表されたが、新しいジャージに着替える前に、9月末世界選手権と10月3日パリ〜ルーベと忙しい秋が待っている。
そして念願どおりに、2日間逃げたデヴァースネスが、山岳賞に輝いた。「このジャージが僕のキャリアを大きく引き上げてくれるものだといいけど」と、コンチネンタルチーム所属24歳は、まさに鮭の滝登りを誓う。ちなみに500kgの鮭は、「1人で食べるには多すぎる」ため、チームのみんなで美味しく分け合う予定だとか。
文:宮本あさか
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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