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サイクル ロードレース コラム 2021年7月19日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第21ステージ】史上最年少で2度目のツール総合制覇!圧倒的強さを誇ったタデイ・ポガチャル「東京には新しい経験をしに行く」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第21ステージ|Cycle*2021

天に3本の指が突き上げられた。1本はモン・ヴァントゥ、2本は個人タイムトライアル、そして3本目はピュアスプリンターたちだけに許されてきたパリの大集団スプリント!3つの異なる力を1つの身体に宿らせるワウト・ファンアールトには、敢闘賞などという基準のあいまいなものなど必要なかった。ただ自らの脚力だけで、シャンゼリゼの表彰台に上った。タデイ・ポガチャルは22歳で早くも2度目のマイヨ・ジョーヌ戴冠式に臨み、36歳マーク・カヴェンディッシュは、史上オンリーワンにはあと一歩及ばなかったけれど……完全復活の3週間の終わりに、10年ぶりにマイヨ・ヴェールを持ち帰った。

3勝目を掴んだワウト・ファンアールト

シャンゼリゼで3勝目を掴んだワウト・ファンアールト

「信じられない。このツールは驚きに満ちていて、まるでジェットコースターのようだった。こんな週末で大会を締めくくれるなんて、予想以上だよ」(ファンアールト)

3週間前にひどく肌寒いブルターニュから走り出した2021年ツール・ド・フランスが、夏空のパリに帰って来た。前夜サンテミリオンの個人タイムトライアルで、総合争いはすべて決着し、最終日は例年通りのんびりと幕を開けた。序盤に相次いだ集団落車のせいで、出走リストに名を連ねた184人のうち、最後まで生き残れたのはわずか141人だけだった。フランスの首都にこれほど小さなプロトンがたどり着くのは2007年大会以来初めてで(ただし当時は198人出走)、だからこそ誰もが笑顔で、パリまでの道すがら、互いの健闘を称え合った。

しかし小さくたって、勇ましいプロトンだった。ポガチャル曰く「イージー(ゆるい)」な雰囲気は、シャンゼリゼの石畳の上で、いつもの「フルガス(全力)」へと切り替わる。シュテファン・ビッセガーが加速し、カスパー・ピーダスンとハリー・スウェニーと共に飛び出したのがきっかけだった。

途中でピーダスンとパトリック・コンラッドが入れ替わったが、逃げる3人の背後では、この最終日に残された2つの勝負の1つ目が激しく火花を散らした。つまりマイヨ・ヴェール戦線に残る2人……大会4日目から緑ジャージをしっかり着込むカヴェンディッシュと、連日の中間ポイント収集でじわじわと追い上げてきたマイケル・マシューズが、今大会最後の中間スプリント。カヴがメイン集団内で先頭通過=4位15ptを手に入れ、6位通過10ptのマシューズとの得点差を40ptに再び押し開いた。

美しいシャンゼリゼ通り

美しいシャンゼリゼ通り

もちろんフィニッシュラインでは最大50ptが配分されていたため、数字の上では、最終フィニッシュラインを越えるまでは逆転の余地は残されていた。昨大会もマイヨ・ヴェール争いは最終日の中間ポイントで確定したが、最終スプリントまでもつれ込んだのは、必然か偶然か、なんとカヴェンディッシュ本人が緑を勝ち取った2011年大会が最後だった。

だからこそドゥクーニンク・クイックステップはこの日も精力的にレースを制御し続けた。残り33kmからメイン集団で新たなアタックの波が生まれ、直後に逃げを吸収すると、そこから初日マイヨ・ア・ポワのイーデ・スヘリンフが特攻カウンターを仕掛けた。すでに最初の逃げ潰しにも動いたジュリアン・アラフィリップが、すかさず後輪に張り付いた。この日が人生最後のシャンゼリゼ……となるフィリップ・ジルベールも前に飛び乗るも、現役世界王者に勢いを殺され、アタックの試みは長くは続かなかった。

運ぶべきエーススプリンター、カレブ・ユアンを3日目の落車で失ったロット・スーダルは、スウェニー、ジルベールに続いて、今度はブレント・ファンムールを前に送り出した。4日目にぎりぎりまで逃げ続けた「トーマス・デヘントの後継者」の試みに、再びスヘリンフが同調。EFエデュケーション・NIPPOも、ビッセガーと入れ替わるように、ミケル・ヴァルグレンが前進した。新たな3人組の背後でも、当然のようにウルフパックは隊列を組んだ。決して25秒以上の余裕は与えない。

全部で8周回の華やかなシャンゼリゼランが、残り1周半に迫った頃、同僚シリル・ゴティエに連れられスーパー敢闘賞フランク・ボナムールも今大会7度目の特攻へ出た。特別審判団の投票は3‐2でファンアールトに軍配が上がったものの、一般投票でボナムールが3-3の同点に戻した。最終的にレース委員長の鶴の一声で大会全体の赤ゼッケンに決まったフランス人は、応援の声をくれた母国のファンに、改めて勇姿を見せつけた。

最周周回の始まりを告げる鐘が鳴ると、ドゥクーニンクの指揮のもと、予定通りにすべての逃げは回収された。3年前のツール総合覇者ゲラント・トーマスが集団最前線に競り上がると、アラフィリップが潰しにかかり、ボーラ・ハンスグローエのタンデムアタックもきっちりと穴を埋めた。ほぼ完璧な仕事を続けてきたウルフパック列車は、マイヨ・ヴェールを連れて有終の美へと突き進んだ。

ちなみに過去4度シャンゼリゼを制し、道の隅々まで知り尽くしているはずのカヴェンディッシュにとって、コース上に「未体験」の部分もあった。たとえばコンコルド広場進入前に通過するリヴォリ通り。カヴが最後にパリでスプリントをした2015年は、広々とした大通りだった。しかしパリ市の自転車利用促進計画に則り、2019年から道幅は大幅に減少された。つまりトンネルを抜け出し、ジャンヌダルク像の前を左折しリヴォリに流れ込む地点=残り約1.5kmで、プロトンはどうしても細く長く伸び、場所取りが激しくなる。

さらに昨大会ベネットを栄光に導いたドゥクーニンク・クイックステップにとっても、実は2021年のコースは「未体験」。これまではコンコルド広場からシャンゼリゼ大通りへと緩やかに右折すると、あとは350mの全力ダッシュが待ち受けているだけ。ところが今年は最終ストレートは700mへと引き延ばされた。つまり走行リズムやタイミングは昨季までとは異なった。なにより、不規則な石畳上の、しかも微妙な上り基調のスプリント距離が、2倍に伸びたのだ。

マーク・カヴェンディッシュ

マーク・カヴェンディッシュ

そのシャンゼリゼ入り口で、カヴェンディッシュは最終発射台ミケル・モルコフからはぐれてしまった。ヤスパー・フィリプセンと争うように、ファンアールトの後輪に潜り込むしかなかった。そのファンアールトは、マイク・テウニッセンーー2019年ブリュッセル開幕初日スプリントを制し、偉大なるエディ・メルクスからマイヨ・ジョーヌを手渡されたーーの、頼もしい背中をただ見つめているだけでよかった。力強い牽引で、最前列へと導かれると、残り220m、あとは自らの特別すぎる脚でスプリントを切った。

「(4人に減って)小さいけれど、信じられないほどの働きをしてくれたチームに感謝したい。特にマイクが僕を完璧なポジションへと連れて行ってくれた。僕らのようなチームにとって、コーナーを曲がった後にも上がっていけるチャンスがより増えた。マイクには全幅の信頼を置いていたから、ただ僕は彼の後輪にしがみついていくだけだったよ。今日のリードアウトはワールドクラスだったね。脱帽だ!」(ファンアールト)

個人タイムトライアル制覇から約24時間後の、シャンゼリゼ大集団スプリント制覇。2週目のモン・ヴァントゥ2重登坂ステージでの逃げ切り優勝を含めて、ファンアールトは今大会3つ目の勝利をつかみ取った。3度目のツール参戦で通算区間6勝目。大会序盤のマイヨ・ジョーヌ獲りは失敗し、しかも永遠のライバル、マチュー・ファンデルプールに6日間の黄色独占を許したが、代わりに大会の閉幕2日間を席巻した。すなわち右肩上がりのまま、ファンアールトは東京五輪へと乗り込む。

「今夜の便で東京に飛ばなきゃならないのに!乗り遅れなきゃいいけど。でもシャンゼリゼの勝利はプライスレスさ。五輪ではロードも個人TTも狙っていくよ。もちろんすごく難しいだろう。それに今のところは、今週末の勝利に自分でも呆然としている状態なんだ」(ファンアールト)

なによりベルギーチャンピオンは、母国の大先輩メルクスの、史上最高の地位を守り切った。背後で出口を見失ったカヴの、区間35勝目を阻み、少なくとも2022年夏まではツール・ド・フランス史上最多区間勝利はメルクスとカヴェンディッシュの34勝のまま。それでも一時のどん底から這い上がり、今ツールで完全復活を遂げたカヴは、区間3位でポイント賞を確定。10年ぶりのマイヨ・ヴェールを、9年ぶりのシャンゼリゼ表彰台を、きっと心から楽しんだ。

「シャンゼリゼで再び緑をまとえるなんて、想像さえしていなかった。でも、僕は、今ここにいる。僕が愛してやまないこのレースを再び走れたこと、そして僕が今大会で成し遂げたことは、僕にとってはまるで夢のようなもの。信じられないほど幸せだ」(カヴェンディッシュ)

来年5月に37歳になるカヴェンディッシュに、果たして史上最多35勝を手にするチャンスが再びめぐって来るかどうかは分からない。またファンアールトの宣言を聞く限り、再びマイヨ・ヴェールを着る可能性は、早くも大幅に減ってしまったかもしれない。

「まだやりたいことはいくつか残っている。今度はいつかマイヨ・ヴェールを狙って今大会に乗り込みたいんだ。これぞ僕の胸の中にある、次の目標さ」(ファンアールト)

高速の争いの背後で、ポガチャルは、UAEチームエミレーツの仲間たちと静かにフィニッシュラインを越えた。最終日前夜の逆転で1日しかマイヨ・ジョーヌを着られなかった昨大会とは違い、14日間黄色の日々を過ごしてきた果ての戴冠だった。また昨9月は母国の先輩を頂点から引きずりおろし、少々複雑な思いを抱えていたが、今度こそ晴れやかに、無邪気に、勝利を楽しむことができた。

総合上位3選手

総合上位3選手

「どれだけ僕が幸せに感じているか、言葉では表すことができない。自分がずっと抱いてきた夢を、はるかに超えるような快挙だからね。去年は強烈な感動を抱いた。今年もまた、こうして表彰台の最上段に立ったけれど、異なる感動を覚えた。なにより自分の2つの勝利を心から誇らしく思う」(ポガチャル)

史上最も若くして2度目のツール総合制覇を成し遂げた22歳は、表彰式では2年連続で、総合首位マイヨ・ジョーヌ、山岳賞マイヨ・ア・ポワ・ルージュ、新人賞マイヨ・ブランと忙しく着替えた。個人タイムトライアル1勝に、山頂フィニッシュ2勝。総合2位ヨナス・ヴィンゲゴーに5分20秒、3位リチャル・カラパスに7分03秒もの大差をつけ、2021年ツール・ド・フランスを完全に我が物とした。いわゆる「メルクス風」に大会を圧倒したポガチャルは、この先どこに向かうのか。

「まだ分からない。記録のようなものは現時点では考えてない。ただ今は、パリを楽しみたいだけ。他の2つのグランツールは、当然、今後狙っていくことになるだろうね。初めてのグランツールで初めて表彰台に乗ったブエルタは、すごく楽しかったから、また挑みたい。昔から大好きなジロにも、いつかは出たいよ」(ポガチャル)

ただし、まずは、東京五輪から。今4月のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝でワンデー適性さえも証明したポガチャルは、ファンアールとを含む他のツール一団より1日遅れで東京に乗り込む。時差ボケや高温多湿のせいで「難しいだろう」と語りながらも、目指すはひとつ。

「東京には新しい経験をしに行く。モチベーションは高いよ。だって五輪だからね。たった4年に1度しかない可能性を、僕はつかみたい。勝利のために戦う」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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