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サイクル ロードレース コラム 2021年7月18日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第20ステージ】特別な脚ですべてを凌駕したファンアールトが2つ目の区間勝利!総合優勝に王手をかけたポガチャル「今の瞬間を素直に堪能している」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第20ステージ|Cycle*2021

真実は、ぶどう畑の中にあった。近い未来の栄光と、そう遠くない未来の道筋を予感させるような走りで、ワウト・ファンアールトが今大会2つ目の区間勝利を手に入れた。黄色い衣のタデイ・ポガチャルは、すでに手にしていた大きなタイム差のおかげで、静かに、危険を冒すことなく、2021年ツール最終日前夜の個人タイムトライアルを走り終えた。22歳の早熟なチャンピオンは、2度目の総合優勝へ王手をかけた。

ワウト・ファンアールト

ワウト・ファンアールト

「個人タイムトライアルとは、いつだって難しく、自分との闘いだ。でも今日はほぼパーフェクトな1日となった。脚は良く動いた。本当に勝てて嬉しい」(ファンアールト)

けだるい午後だった。フランスが世界に誇るボルドーワインの産地には、グラス片手の陽気な応援客が詰めかけた。そもそも30.8kmの全力疾走とは言うけれど、焼け付くような太陽の下、142選手全員が真剣にストップウォッチと立ち向かったわけではない。すでに前日で自分なりの戦いを終えたたくさんの選手や、翌日のスプリントに体力を温存したい者たちは、夏休みの雰囲気を味わいながらゆったりとペダルを回した。この日の朝に今季限りの引退を発表したアンドレ・グライペルや、今季末での引退宣言は「最終決定ではない」アレハンドロ・バルベルデ、さらには「人生最後のツール」と宣言するトーマス・デヘントは、沿道からただ自分のためだけに贈られる歓声をきっと心から楽しめたに違いない。

3年ぶりのツール帰還を、決して思い通りに成功させられなかったクリス・フルームもまた、フィニッシュエリアではほっとした笑顔になった。現役最多グランツール総合7勝を誇る36歳は、全盛期であれば優勝も望めたであろうタイムトライアルステージを、勝者から5分28秒遅れの123位で走り終えた。

「僕にとってはすごく難しいツールで、失望もしている。でも難しい日々をこうして乗り越えることができて、自信も得られたんだ。願わくば元のレベルを取り戻したい。とにかく一段一段、ステップ・バイ・ステップで行くしかない。ファンのみなさんには感謝したい。たくさんの応援をもらえたとてもスペシャルなツールだった」(フルーム)

もちろん強脚ルーラーたちは、待ちに待ったパリ到着前日の独走種目で思い切りリミッターを外した。ポガチャルの総合制覇ために3週間働き続け、なにより不出場の昨大会でさえ「専用TTアドバイザー」役を務めたミッケル・ビョーグは、真っ先に好走を実現させた(最終的には7位)。今春のパリ〜ニースで区間を制して以来、すっかりTTスペシャリストとして定着したシュテファン・ビッセガーが、すぐさま暫定首位の座を入れ替える(5位)。

ぶどう畑を走るアスグリーン

ぶどう畑を走るアスグリーン

ウルフパック列車を連日引き続け、シャンゼリゼでもおそらく重要な任務を担う予定のカスパー・アスグリーンは、ステージ半ばでトップタイムを更新。約1時間40分に渡りホットシートを温め続けた(2位)。今大会のタイムトライアル2区間にとてつもなく意欲を抱き、第2中間計測地点までトップで突き進んだ欧州TT王者シュテファン・キュングさえ、デンマークTT チャンピオンに17秒及ばなかった(4位)。

しかし特別な脚が、すべてを凌駕した。集団スプリントにも風にもめっぽう強く、今年はモン・ヴァントゥ×2回の大逃げ勝利で世界を唖然とさせたワウト・ファンアールトが、最後の仕上げに本来得意とする種目を勝ち取った。偉大なるボルドーワインの産地、ポメロル(第1計測地点)とモンターニュ(第2計測地点)を最高タイムで駆け抜けて、グラン・クリュのシャトーが点在するサンテミリオンに35分53秒34でたどり着いた。全出走選手の中で唯一35分台を叩きだし、走行時速は51.5km。

優勝が決まった直後にファンアールトは「ツール・ド・フランスの個人TT優勝は、キャリアにおける大きな目標のひとつ」と振り返ったが、ベルギーにとっては、1985年以来ぶりのツール個人TT制覇だった。もちろん翌日の最終日では、その型にはまらぬ唯一無二の脚質を活かして、祖国ベルギーに2008年以来のシャンゼリゼスプリント勝利さえ持ち帰るつもりらしい。

「だってすごくスペシャルなステージだからね。シャンゼリゼでの勝利は、すべての選手が追い求める夢。だから僕も狙っていく。今ツールは区間2勝ですでに大成功と言えるけど……だからって狙わない手はないよね?」(ファンアールト)

そもそも今大会のファンアールトは、得意の地形が多い序盤で区間とマイヨ・ジョーヌを争った後、東京五輪の個人TTに向けて調整モードに入る予定だった。しかし所属チームのユンボ・ヴィスマは序盤から落車に悩まされ続け、8人中4人が大会を去った。つまりヨナス・ヴィンゲゴーの総合表彰台乗りのため、つい2日前のピレネー越えまで、ファンアールトは山岳アシスト役をもきっちり務め切った!

「今ツールはチームにとってひどく厳しいものになった。でも最後にはこうして、区間3勝とヨナスの総合2位という成績を手にすることができた。アメージングだ。たった4人になったけれど、僕らは自分たちの戦いを誇りに思ってもいい」(ファンアールト)

その総合2位のヴィンゲゴーは、チームメートから32秒遅れの区間3位に飛び込んだ。そもそも「よりパンチャー向け」(byファンアールト)の第5ステージTTでは、ワウトより3秒速いタイムでやはり区間3位に入ったが、「より身体の重いルーラー向け」(byファンアールト)の今区間でも、TTへの高い適性を改めて証明した。ちなみに東京五輪TT代表アスグリーンも含めデンマークは、本日の区間トップ10に4選手を送り込んでいる。

おかげで前日まで総合3位リチャル・カラパスに対するリードはぎりぎり6秒だったが、第20ステージの終わりには、ヴィンゲゴーは1分43秒もの余裕を有していた。24歳で挑んだ初めてのツール・ド・フランスで……トム・デュムラン欠場による補欠からの繰り上がり+エースのプリモシュ・ログリッチの落車リタイアで急遽総合エースに昇格と、思わぬ形で転がり込んできたチャンスをきっちり射止め、ヴィンゲゴーは最終総合2位の座をほぼ確定させた。またカラパスは2019年ジロ総合優勝、2020年ブエルタ総合2位に続き、パリでは生まれて初めてのツール総合表彰台に上る。

総合2位と3位に変動がなかったように、総合トップ19までは、個人TTによる順位入れ替えは一切なかった。ベン・オコーナーは、ウィルコ・ケルデルマンに32秒差を9秒差にまで詰められたが、総合4位の座を死守。1日だけ総合2位を体験したギヨーム・マルタンは、フランス人として総合最上位の8位を……つまり自身初の総合一けた台を守り切った。

そして全142人の最後に走り出したポガチャルが、明るい光の色に包まれて、3週間の総合争いを締めくくった。57秒差を大逆転した10カ月前のように、スーパーカー並みにぶっ飛ばす必要はもはやなかった。そこから始まる総合争いに向けて、ポールポジションを全力で獲りに行った第5ステージとも異なる。この3週間の戦いで、総合2位以下には、すでに埋めることなど不可能なほどの大差をつけていた。この日の30.8kmで、ヴィンゲゴーから25秒詰められたが、いまだに差は5分20秒も残している。

マイヨ・ジョーヌ

マイヨ・ジョーヌ

「レース前は『よし、全力で行こう』と自分を鼓舞したし、モチベーションも高かった。でも、もしかしたら、アドレナリンが少し足りなかったのかもしれない。たしかに最速の1日ではなかったね。でも、走りながら、喜びを噛みしめた。沿道からの応援の声にも励まされた。自分のベストは尽くしたし、パフォーマンスにも満足してる」(ポガチャル)

フィニッシュラインでは、小さく、拳を握りしめた。昨大会王者から、今大会王者へと呼称が変わった瞬間だった。何事もなければ、この24時間後には、ポガチャルはシャンゼリゼの表彰台にマイヨ・ジョーヌを着て立っている。

「今はこの瞬間を楽しみたい。リラックスして、明日のパリを満喫したい。去年は自分を含め、誰も僕が勝つとは思ってさえいなかったからね。だから感情が右から左へとひたすら大きく揺さぶられて、楽しむどころじゃなかったんだ。でも今年はもっと今の瞬間を素直に堪能している。それに去年はコロナ禍によるあらゆる規制のせいで、あまりお祝いができなかった。でも、今年は直後に五輪があるから、やっぱりお祝いはできないんだけど(笑)。五輪後には……ただ静かな時間を過ごしたい。穏やかに、心を鎮めるために」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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