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サイクル ロードレース コラム 2021年7月16日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第18ステージ】若き王がノーギフトでピレネー完全制圧。総合優勝目前のポガチャル「いつだって楽しむことを忘れてはならない」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第18ステージ|Cycle*2021

フィニッシュエリアで巻き起こったブーイングさえも、きっと絶対王者にとっては勲章だ。タデイ・ポガチャルがピレネーの山頂フィニッシュ2連戦を完全制圧し、マイヨ・ジョーヌの威光をまざまざと見せつけた。22歳の若く汚れなき王者としてマイヨ・ブランはもちろんのこと、山男たちのわずかな夢をも打ち砕き、昨大会同様に山岳ジャージをも身にまとう。カニバル。かつて史上最強の自転車選手エディ・メルクスがほしいままにした、その恐ろしきあだ名が、山のあちこちにこだました。

ポガチャル

フィニッシュするタデイ・ポガチャル

「自転車ファンは赤玉ジャージが大好きだから、手に入れられたのは最高だね。でも僕は決してこのジャージを取ろうと考えていたわけじゃない。最優先は黄色。いつだって黄色だ」(ポガチャル)

2021年ツール・ド・フランスにおける、文字通り、最後の総合直接対決の日。今ステージを終えると、あとは平坦なスプリント2区間と個人タイムトライアル1区間だから、つまり「逃げ」で何かを目論む選手たちにとってもまた最後のチャンスだった。しかも130kmにも満たない短距離ステージだからこそ、スタートフラッグが振り降ろされると同時に、3選手が矢のように飛び出した。

もちろんマテイ・モホリッチ、クリストファー・ユールイェンセン、ショーン・ベネットの3人だけで打ち止めのはずがない。いまだ15チームが区間勝利を手にしていないし、いまだ山岳賞の行方も決まっていない。……しかもフィニッシュ地の山頂には、フランス共和国大統領も応援にやって来る!

そう、革命記念日は失敗に終わったけれど、フランス人にはこの日も奮闘する理由があった。だからこそスタートから10kmほどの4級峠では、初日マイヨ・ジョーヌのジュリアン・アラフィリップが得意の爆発力を炸裂させた。そこにピエールリュック・ペリションが追いつくと、実によく協力し合い、32km地点でまんまと先頭集団をとらえた。

山入り前、62.7km地点の中間ポイントでは、アラフィリップが1位通過の任務遂行。連日の奮闘でマイヨ・ヴェールを死守し続ける同僚マーク・カヴェンディッシュのために、ライバルが大量ポイントを収集するチャンスを握りつぶした。1分13秒差の後方集団では、肝心のカヴが先頭通過=5位通過を成功させる。連日のウルフパックの奮闘に応えるように、マイヨ・ヴェール争いで改めてリードを38ptに開いた。

ひたすらめまぐるしい展開は続く。先頭はいつしかアラフィリップとモホリッチの2人きりになり、その背後では、やはりフランス選手たちが意地を見せた。まずはピエール・ローランが動き、ピエール・ラトゥールが単独で追いかけた。ケニー・エリッソンドが合流し、ヴァランタン・マデュアスもやはり孤独に飛び出して……。ピレネー入りしてから連日攻撃を諦めないダヴィデ・ゴデュもまた、オマール・フライレ、ルーベン・ゲレイロ、ヨン・イザギレを連れて前方へと突進した。

先頭のアラフィリップ

先頭のアラフィリップ

祖国の期待を背負う者たちは、伝統のトゥルマレ峠で、栄光を追い求めた。残り41.3km、霧の深い山道で、ついに追走組はアラフィリップ&モホリッチをとらえる。フランス人5人を含む9人の集団が形成された。

ただゴデュはそう長くは待たなかった。第11区間モン・ヴァントゥへ向かう道すがら、熱にやられ、嘔吐や頭痛に悩まされたフレンチクライマーは、「大好きな山脈の大好きな山」で、奮起を誓っていた。しかも2019年大会に先輩ティボー・ピノが勝ち取った思い出の場所だ。逃げを活性化させるため、思い切りスピードを上げた。

「ヴァントゥでの失態にとてつもなくがっかりさせられた。だからピレネーでは、自分自身にリベンジしたかったんだ。宣言通り一か八か全力でアタックを打った。ポガチャルやヴィンゲゴーとかち合わないためには、あらかじめ先行しておく必要があるからね」(ゴデュ)

あまりにゴデュが勇ましくリズムを刻んだせいか、逃げの友たちは次々と脱落して行った。ただ本気で「区間勝利と総合トップ10入り」を狙っていたからこそ、本音を言えば、「あと2〜3人は側に残っていて欲しかった」のだという。なにしろトゥルマレ山頂を越えても、いまだ道は35km以上残っている。特に下りは長く、向かい風がひどい。協力者が絶対に必要だった。

しかし山頂手前1.2kmで、ゴデュの側に残ったのは、同じピュアクライマーのラトゥールただ1人だけ。しかも先頭通過で「ジャック・ゴデ賞」を獲りに行った直後、ダウンヒル開始と共に、下り苦手なラトゥールはあっさりと後輪から離れた。思いもかけぬ形で、残り33km、ゴデュは独走態勢へと突入した。

ツール史上84回目のトゥルマレ登坂は、総合勢たちをも大きくふるい分けた。序盤から集団制御に努めてきたUAEチームエミレーツに変わり、総合3位リチャル・カラパス擁するイネオス・グレナディアーズが、急激に走行リズムを跳ね上げた。2012年から2019年までの8年で7回の総合制覇を成し遂げてきた常勝軍団は、ほぼ間違いなく、2年連続でマイヨ・ジョーヌは失敗に終わった。せめて区間1勝が欲しかった。ちなみに昨大会でクフィアト&リチャルの感動的なステージ勝利を祝ったのも、やはり第18ステージだった。

自軍の元ツール総合覇者ゲラント・トーマスや昨総合3位リッチー・ポートさえこの山に置き去りにした加速は、総合4位リゴベルト・ウランを突き落とした。前日総合2位の座から後退したばかりだった。決して1日限りのバッドデーだったわけではなく、調子はすでに下り坂に差し掛かっていたのかもしれない。グランツール総合2位×3回の実力者は、この日だけで9分近いタイムを失った。ウランの総合争いには完全に終止符が打たれた。

急な坂道を上るポガチャル

急な坂道を上るポガチャル

そんなメインプロトンから、山頂間際には、ワウト・プールスとマイケル・ウッズが飛び出した。今大会最後から2つ目の超級山岳で、ポイントを巡る最終激選。赤玉ジャージを3日連続で身にまとう前者が、巧みに4位通過で10ptを収集した。6位通過の後者との総合ポイント差を16ptに開き、なにより前日の山頂勝利で突如11pt差に迫ったポガチャルを、かろうじて21pt差に押し戻す。

……ただし抵抗むなしく、今大会最後の超級フィニッシュで(しかも得点は2倍された)、19pt差に逆転されてしまうのだけれど。パリまでの3日間で残された山岳ポイントは2ptのみ。つまりもはや逆転不可能で、両者が大会8日目からこつこつ積み重ねてきたすべての努力は、無に帰した。

たったひとりで下りを全力でこなし、わずか15秒差で最終峠リュズ・アルディダンに突入したゴデュの希望もまた、フィニッシュまで残り9.5kmで打ち砕かれた。そもそも最終峠で5人の隊列を走らせ、夢中で逃げをすべて回収したイネオス隊列だって、もはや1人しかアシストを残していなかったマイヨ・ジョーヌにあっさり目標を握りつぶされるのだ。残り5.5km、そのたった1人のアシスト、ラファウ・マイカがメイン集団最前列に駆け上がる。高速テンポで15人にまで絞り込んだ。

そして仕上げはまたしてもマイヨ・ジョーヌ。残り3.2km。今大会すでに何度も繰り返してきたように、ポガチャルが自らの脚で、ライバルを一気に選り分ける。

たしかに総合2位ヨナス・ヴィンゲゴーには、アシストが1人ついてきた。つまり補佐役にして第15ステージ覇者のセップ・クスは、先頭で状況制御役を買って出た。カラパスはひたすらポガチャルから目を離さない。むしろ後輪に必死に張り付いてきた7位エンリク・マスが、残り1kmから1度、2度、と渾身のアタックを試みた。

しかし22歳の偉大なるチャンピオンを出し抜くことなど不可能だった。残り600mで力強く加速すると、そのまま霧に覆われた山頂へ、悠々と突っ走った。ノーギフト。誰にも憐れみなど施さなかった。

「楽しむこと。これがスポーツをする上で大切なことだと思ってる。これは単なるゲームなんだ。時には勝ち、時には負ける。でもいつだって楽しむことを忘れてはならない。監督やコーチからもこう常々言われてるよ。今日だってタフなレースだったけれど、僕は心から楽しんだ」(ポガチャル)

2021年ツールを通して強さを見せつけた3選手が、前日同様、この日も順に上から3つの地位に納まった。ポガチャルは昨年同様3つ目の区間勝利を手に入れ、昨年同様に黄・赤玉・白と3枚のジャージを身にまとう。2位ヴィンゲゴーとのタイム差は5分45秒へと広がり、ウラン脱落後に新たに4位浮上のたベン・オコーナーには、8分18秒というとてつもない大差を有する。

マイヨ・ジョーヌ

マイヨ・ジョーヌ

「(総合優勝の確信は)50%。まだレースは3日間残っているし、何が起こるか決して分からない。いまだにバッドデーが訪れる可能性だってある。タイムトライアルで6分失ったことだって、実際にあった。でも、僕は、自分自身を信じているんだ」(ポガチャル)

今年の山が終わった。落車や悪天候続きでひときわ厳しかった18日間を、144人が生き抜いた。初日マイヨ・ジョーヌの世界王者アラフィリップに、「目標はいずれも叶わなかった」けれど敢闘賞を持ち帰ったゴデュ、そしてフランス人として総合最上位(8位)ギヨーム・マルタンが、凍えるような山頂で大統領の祝福を受けた。4人の狼にしっかりと守られて、マイヨ・ヴェール姿のカヴェンディッシュも、無事に制限時間内でリュズ・アルディダンの山頂へとたどり着いた。メルクスの大記録を超えるステージ35勝目をつかむために、翌日、史上最速スプリンターは平地へと帰還する。いよいよパリが見えてきた。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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