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サイクル ロードレース コラム 2021年7月15日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第17ステージ】最難関フィニッシュでポガチャル擁するUAEが強さを証明。マイヨ・ジョーヌ「僕はひたすら祈るだけ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第17ステージ|Cycle*2021

黄色の牙城はさらに堅固に築き上げられた。2021年ツール・ド・フランスの最難関フィニッシュで、タデイ・ポガチャルが山頂を我が物とし、マイヨ・ジョーヌとしての揺るぎない立場を誇示した。絶対君主にひたすら追従した区間2位ヨナス・ヴィンゲゴーが総合2位に、区間3位リチャル・カラパスが総合3位に浮上し、パリでの表彰台の顔ぶれが見えてきた。

ポガチャル

ジャージに刻まれたチーム名を誇らしげに触るポガチャル

「ファンタスティックな日になった。今ツールで一番難しい山で勝つことができて嬉しいし、マイヨ・ジョーヌを着て勝利を手にしたことが誇らしい。この上ない幸福を感じるよ」(ポガチャル)

もう「湿った花火」なんて言わせない。午前中にはシャンゼリゼ大通りで共和国建国を祝うパレードが行われ、午後にはピレネーの山奥で、フランス人たちが栄光の日を夢見た。ピエール・ローランはスタート直後に加速した。ジュリアン・ベルナールも孤独に奮闘した。なにより序盤6人の逃げに、4人のフランス戦士が気を吐いた。

アントニー・ペレスの加速がきっかけだった。スタート地からほんの15kmほどの町で生まれ育った地元っ子の先導に、「パリジャン」ドリアン・ゴドンが続いた。外人部隊のダニー・ファンポッペルとルーカス・ペストルベルガーも加わった。さらにプロトンの蓋が閉まってしまう前に、仏人のアントニー・テュルジスとマキシム・シュヴァリエも慌てて飛び出すと、10kmほど先で追いついた。ステージ序盤は120km近く平地が続いたせいか、逃げ6選手は、極めて楽々と8分半近いタイム差をむしり取った。

もちろん後方のメイン集団では、マイヨ・ジョーヌ親衛隊UAEチームエミレーツが黙々と制御を務めた。大会5日目で事実上の権力掌握を果たした後、実に8回もの逃げ切り勝利を許してきたポガチャルだが、この日はどうやら少々状況は異なった。

「区間を狙うか、守備的に行くか。50−50だった。これまでも区間を獲りたくなかったわけではないけど、強力な逃げが多く、制御は難しかった。だからそれほど力を使わず、守備的に走るほうを選んできた。でも今日はコントロール可能だと思ったんだ。たった6人の逃げだったし、タイム差をそれほど与えなければ、最後に区間を争いに行けるかもしれない、と」(ポガチャル)

ステージ序盤の長い平地ゾーンの終わの、中間ポイントの手前1kmだけは、主導権をドゥクーニンク・クイックステップに手渡した。緑首位マーク・カヴェンディッシュ擁するウルフパックは、2位マイケル・マシューズ、3位ソンニ・コルブレッリを相手に火花を散らす。ただ必死なライバル2人に挟まれて、むしろカヴは上手く状況をコントロールする方を選んだ。首位通過=7位通過で最大9ptを懐に入れたマシューズに対して、次点カヴ8ptは、わずか1ptを失ったに過ぎない。パリまで4ステージを残し、両者はポイント差36ptで睨み合う。

スタート地点は多くの人で溢れた

スタート地点は多くの人で溢れた

直後に戦いの舞台は、ピレネーの難関3峠へと変わる。1つ目の山岳ペイルスルドの上りでは、メイン集団が動いた。もはや3人しか大会に残っていないアルケア・サムシックの1人、エリー・ジェスベールが登坂口で加速を切ると、同僚ナイロ・キンタナを連れて前方へと飛び出したのだ。2018年大会で今区間と同じ最終峠を制したコロンビア人の攻撃に、すかさず赤玉ワウト・プールスが後輪に張り付いた。3年前はゲラント・トーマス総合優勝のために尽くしたが、今はチームリーダーとして山岳賞を持ち帰る使命を帯びている。当然、山岳賞でわずか10pt差のキンタナを、1人で逃すつもりはなかった。山男たちの競り合いには、フレンチクライマーのピエール・ラトゥールも加わった。

ただし区間勝利を争いたいポガチャルは、山岳巧者たちにそれほど自由は与えなかった。13.2kmの長い山道が終わる前に……プールスとキンタナをきっちりと回収する。この後の2人に許されたのは、2つ目の山岳ヴァル・ルーロン・アゼの山頂での、メイン集団内におけるポイント収集スプリントのみ。プールス4位4pt、キンタナ5位2pt。最大60pt獲得可能だった1日に、両者が手にしたのは、最終的にこのわずかなポイントだけだった。またラトゥールだけは単独で逃避行を続けるも、2つ目の山岳で、やはりUAE列車に前方から引きずりおろされていく。

その2つ目の上りでは、今度は先頭集団が大きく動いた。すでに3人が脱落し、前方はゴドン、テュルジス、ぺレスのフレンチトリオだけになっていた。そして山頂まで約6km。地元の誇りを胸に、ぺレスが渾身のアタックを打つ。

「実家の近くからスタートしたステージで、なにもしないわけにはいかなかった。絶対に上手くやりたかった。普段の練習ルートだったし、たくさんの応援の声をかけてもらえた。アタッカーとして、ヴァル・ルーロン・アゼでは攻撃に転じたよ。あまりに力を込めたものだから、山頂では、もはや脚はガクガクだった」(ぺレス)

だからダウンヒル中はあえて体力回復に充てた。後ろから一旦ゴドンが追いついてきたが、おかげでむしろ休憩できた。残り16km、最終山岳ポルテ峠の麓で、ぺレスは脚の調子が戻ってきたことを実感する。後続メイン集団とのリードはいまだ4分残っていた。「総合勢がステージを獲りに来なければ、行けるかもしれない」と、素直に考えた。

ひまわり畑

ひまわり畑

しかし、背後では、UAEがさらにテンポを上げていた。残り13.5kmで再びゴドンを振り払い、ぺレスは独走態勢に持ち込むも、タイム差は急速に縮まっていくばかり。命がけの闘争は、山頂まで8.5kmで終わりを告げる。革命は成功しなかった。王侯たちの直接対決に、止めを刺された。

「最高の一日だったかって?うん、最高に厳しい一日だったよ。でも最高に美しい一日でもあった。7月14日に先頭を走り続けられるなんて、とてつもなく素敵な事だった」(ペレス)

ステージ序盤から区間勝利目指して仕事を続けてきたUAEにとっては、仕上げの時がやって来た。10%越えの激勾配が続くポルテ峠の序盤では、ダヴィデ・フォルモロとブランドン・マクナルティが順番に先頭牽引を行い、集団を少しずつ小さく削っていく。さらに残り13kmからは、ラファウ・マイカが強烈なテンポを刻んだ。22歳のポガチャルが心から信頼する31歳ベテラン山岳最終アシストは、どうやら第13ステージの落車から完全に復活したようだ。なにしろ元コンタドールの山岳護衛が引き始めた途端に、総合8位エンリク・マスと9位ギヨーム・マルタンは吹き飛ばされた。7位アレクセイ・ルツェンコもついには脱落していく。

そして残り8.5km、マイカが最後の力を振り絞った直後だった。ポガチャルが自ら攻撃へと転じた。哀れなぺレスを大急ぎで追い越しつつ、2位リゴベルト・ウラン、3位ヴィンゲゴー、4位カラパス(とアシスト役ジョナタン・カストロビエホ)、5位ベン・オコーナー以外をすべて後方へと葬り去った。最終峠突入直前に落車した6位ウィルコ・ケルデルマンは、慌てて穴を埋めに走ったが、ポガチャルがすかさず打ち込んだ2発目に完全に沈められた。

そもそもこの2発目で、ポガチャルについて行けたのは、ヴィンゲゴーとカラパス、ウランだけ。つまり総合トップ4が肩を並べたことになる。しかし、この状況も、それほど長くは続かない。ほんの数百メートル先で、ウランが脱落して行ったからだ……!

あくまでポガチャルは先頭を突っ走った。区間勝利目指して、全力疾走の姿勢を崩すつもりもなかった。ただ総合ですでに5分18秒も離れているウランから、これ以上タイム差を奪う必要性にはそれほど迫られていなかったはずだ。むしろウランに対して14秒遅れのヴィンゲゴーと、15秒遅れのカラパスに、先を急ぐ理由があった。

だからこそマイヨ・ジョーヌは、自らの後輪に張り付く2人に先頭交代を促した。デンマーク人はすぐに協力体制を受け入れた。一方のエクアドル人は、頑なに前を引こうとはしなかった。

ヴィンゲゴーとカラパスを牽引するポガチャル

ヴィンゲゴーとカラパスを牽引するポガチャル

「別に秘密でも何でもないし、大したことではないんだ。ヴィンゲゴーは僕に『カラパスははったりをかましてるだけさ』と言ってきたし、僕もそう考えていた。異常事態でもなんでもない。これも自転車レースの戦術のひとつだよ」(ポガチャル)

だったら振り払うまで、とばかりポガチャルは畳みかけるように何度も加速を繰り返した。ヴィンゲゴーも力を尽くした。しかし2019年ジロ総合覇者は、常に苦しそうな顔をしつつ、いつも2人の背後にぴたりと張り付いていた。なんと7kmにも渡って壮大に演じ続けた挙句、残り1.5kmで、カラパスは突如としてアタックに転じた。

ポガチャルは素早くカラパスの背中に飛びついた。ヴィンゲゴーは一瞬出遅れながらも、「マイペースで走り」、残り200mでぎりぎり両者へと追いついた。区間の終わりには、この三者が総合上位3位を占める。パリの上位3位になるかもしれない。すなわち2021年ツール三強による、標高2215mへと向けた山頂スプリント。

「最終的に僕は最終50mをスプリントしただけ。それで十分だった」(ポガチャル)

正確に言えばもう少し長めの、最終100mからポガチャルは急加速に転じた。一気に2人を突き放すと、ヴィンゲゴーに3秒差、カラパスに4秒差をつけてフィニッシュラインへ飛び込んだ。初出場の昨ツールで3つ勝利を重ね、今第5ステージでも圧倒的優位を示した早熟な才能にとって、早くも人生5つ目のステージ優勝。ただしマイヨ・ジョーヌ姿でフィニッシュラインを一番に越えたのは、正真正銘、この第17ステージが初めてだった。黄色いジャージの胸に燦然と輝くチーム名を、ポガチャルは大いに誇示した。あらゆるメディアから繰り返し「ポガチャルの唯一の弱点はチーム」と批判されてきたことに対する、これはひとつの答えだったのかもしれない。

2位に飛び込んだヴィンゲゴーは、そのままウランの抜けた穴、つまり総合2位へと昇格を果たした。ポガチャルとの総合差は5分39秒。3位カラパスとの距離は前日の1秒差から、この日の終わりには4秒差に広がった。また4位後退のウランは、総合首位までの遅れが7分17秒に大きく拡大したのはもちろん、総合表彰台までも1分34秒差と遠くなった。フランス最後の希望の星、ダヴィド・ゴデュは単独で前方3人を追いかけたが、区間4位で満足するしかなかった。

2021年のマイヨ・ジョーヌを巡る戦いはあと4日。うち2日間はスプリンター向けで、1日はストップウォッチ相手の独走だから、すると総合勢が「直接」対決でライバルを蹴落とすチャンスはあと1日。翌日の第18ステージの、今大会最終山頂フィニッシュだけ。

「いやいや、ツール・ド・フランスの戦いは、シャンゼリゼの最終周回の最終ストレートを抜けて、フィニッシュライン上で終わるんだ。自転車レースとは、常に不運が襲い掛かる可能性がある。何が起こるかわからない。僕はひたすら祈るだけだよ。とにかく、ツールが『終わった』などと、まだ考えてはいない」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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