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サイクル ロードレース コラム 2021年7月14日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第16ステージ】サガンを失ったチームに贈る歓喜!国際大会初勝利を手にしたコンラッド「チームは常に僕を信じ続けてくれた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第16ステージ|Cycle*2021

降り続く雨も、荒れ狂う突風も、勝者の喜びに水を差すことなどなかった。パトリック・コンラッドが37kmの勇敢な独走を成功させ、ツール・ド・フランスで初めての、なによりプロ生活で初めての国際大会勝利を手に入れた。「上れる」スプリンターたちの奮起でマイヨ・ヴェール争いはますます混戦となり、大会最終週の初日、マイヨ・ジョーヌはなんら変わらず圧倒的大差のまま。

両手で顔を覆いながらフィニッシュするパトリック・コンラッド

両手で顔を覆いながらフィニッシュするパトリック・コンラッド

「僕にとってのワールドツアー初優勝が、世界最大の自転車レースで起こるなんて!言葉にならない。この勝利を家族に、友達に、僕を信じてくれたすべての人に捧げたい。本当に誇らしく思う」(コンラッド)

ピレネーの山奥で2度目の休息日を終え、いよいよパリ到着まで残すは6日。2週間前に北西ブルターニュから184人で走り出したプロトンは、早くも145人に小さくなっていたし、季節外れの冷たい雨雲が再びツール一行の頭上へと舞い戻って来たけれど……戦いの熱さは変わらなかった。標高2000m超のスタート地からの19.1kmの長い長い「ダウンヒル」パレードランを経て、防寒具を脱いだら、大急ぎで戦いへと走り出した。

スタートフラッグが降り降ろされた直後に、カスパー・アスグリーンが飛び出した。来る東京五輪ではデンマーク代表として個人タイムトライアルにも出場する強脚ルーラーは、まるで独走の練習であるかのように……そのまま50km近くもひとり黙々と走り続けた。

ようやく逃げの仲間を見つけたのは、この日1つ目の山岳2級ポール峠の終盤に差し掛かってから。アスグリーン後方で延々と続いた熾烈なアタック合戦をかいくぐり、チームメートのマティア・カッタネオとミハウ・クフィアトコフスキが、2分差を一気に縮め合流してきたのだ。しかし総合11位カッタネオの謀反も、すでに今大会5ステージ=全体の3分の1を勝ち取って来たドゥクーニンク・クイックステップの独占も、プロトンが許すはずはない。執拗に加速を続け、ダウンヒルの途中で3人をまんまと回収する。

65km地点で一旦振り出しに戻ったレースでは、さらに激しく突進が繰り返された。総合5位ベン・オコーナーや6位ウィルコ・ケルデルマンさえ抜け駆けを試みた。しかし最終的に先行を始めたのはヤン・バークランツ、クリストファー・ユールイェンセン、ファビアン・ドゥベの3人組だった。

いまだ諦めきれない11人が、追走集団を作り上げた。革命記念日前日に祖国に栄光をもたらしたいフランス人たち……ダヴィド・ゴデュ、ブノワ・コスヌフロワ、フランク・ボナムール、ピエールリュック・ペリションに、なにより「上れる」スプリンターたち。マイヨ・ヴェールのマーク・カヴェンディッシュが早々とグルペット行きを決めていたせいであり、2つ目の山岳1級コールの登坂口手前に中間ポイントが設置されていたからでもあった。追走集団の中で86.7km地点に向けてスプリントを切ったのは、もちろん、緑ジャージ争い2位マイケル・マシューズと3位ソンニ・コルブレッリ!

プロトン

プロトン

白熱の一騎打ちはマシューズに軍配が上がった。それにしても、もしもジロのように中間スプリント賞があったなら、間違いなくこの2人はトップ争いをしていたはずだ。なにしろ個人TTを除くここまでの全15ステージで、マシューズは13回、コルブレッリは11回、中間ポイントに向けて全力ダッシュを行ってきた。マシューズのポイント総計242ptのうち、なんと141ptが中間で収集したもの。コルブレッリも139/195pt。一方のカヴが中間でポイントを獲ったのはたったの7回で、全279ptのうちの76ptにしか過ぎない。

先を急ぐ理由のある11人から、しかし、最前線への合流を成功させたのはただ1人だけ。パトリック・コンラッドだ。コール峠の山道で加速を切ると、 脱落していったユールイェンセンの代わりに先頭トリオに加わった。

すでに第7ステージ(7位)、第9ステージ(16位)、第14ステージ(2位)と3度の逃げを打ち、3度ともライバルの独走勝利を見送ったコンラッドは、この日は自分こそが主役になると決めていた。ちなみに今大会ここまで、平坦での大集団スプリント5区間と個人タイムトライアル区間以外の9ステージは、すべて「独走」で勝利が決まってきた。小集団スプリントや一騎打ちフィニッシュはいまだ実現せず。しかも開幕後の2日間が最終盤のアタックによる単独勝利だったとしたら、それ以外の8日間はいわゆる序盤からの逃げ切り勝利なのだ。ひとりでフィニッシュまで突き進んだ距離は第14ステージのバウケ・モレマ43kmが最長で、たとえ最短でも第12ステージのニルス・ポリッツ12kmとかなり長い。

この日のコンラッドは、37kmでひとり飛び出すことを選んだ。3つ目の山岳1級ポルテ・ダスペの山道で、今大会2番目に長い独走勝利へと、打って出た。

「すでに今ツールでは3度逃げたけど、毎回ぎりぎり最後まで待った。でもこれってベストの選択ではなかったんだよね。モホリッチは早めに仕掛けたし、モレマも同じようにやった。だから今日は自分にこう言い聞かせたんだ。もしも同じ事が再び起こるなら、今度は僕こそが早く仕掛ける男になる、とね。そして全力で飛び出しにトライした」(コンラッド)

大胆な賭けは報われた。モン・ヴァントゥ区間の熱射病からようやく立ち直りつつあるゴデュと、逃げ&追走集団内で唯一チームメートの補佐を得られたコルブレッリとが夢中で追い上げ、ポルテ・ダスペ山頂では20秒差にまで詰め寄ったた、これ以上距離は縮まらない。

パトリック・コンラッド

パトリック・コンラッド

「逃げに乗るために大いに戦ってきたから、誰もが疲れていたんだ。だから一旦30秒差をつけてしまえば、遅れを埋めるのはひどく難しくなるだろうと分かってた。あとはひたすら自分のリズムで突き進むだけだった」(コンラッド)

風雨にも負けずフィニッシュエリアで我慢強く待っていたファンの歓声を、独り占めしながら、最終的には42秒差でラインを越えた。過去2度のオーストリア選手権を制した経験はあるが、国際レースで両手を上げたのはプロ生活で初めての体験。ジロで総合ひと桁入り2回、2年前のツール・ド・スイス総合3位と「常に総合争いに集中してきた」というコンラッドにとっては、生まれて初めて目標をステージ争いに切り替えて臨んだツールで手にした栄光だった。またマイヨ・ヴェール7回のペーター・サガンを負傷棄権を失った所属チームのボーラ・ハンスグローエにとっては、第12ステージのニルス・ポリッツに次ぐ2勝目だ。

「僕はこのチームでプロ入りし、チームは常に僕を信じ続けてくれた。『君にはグランツールで区間を勝てる脚がある、才能がある』と繰り返し言い続けてくれたんだ」(コンラッド)

追い上げ叶わず、最終的には9人の第2集団で1日を終えたコルブレッリは、かろうじて2位争いのスプリントは制した。当然のようにマシューズは3位に飛び込み、ついにカヴェンディッシュとの差を37ptにまで詰め寄った。マイヨ・ヴェールもいよいよ射程圏内か。翌2日間は難関山頂フィニッシュではあるけれど、ステージ前半はいずれもほぼ平坦で……その平地部分に中間スプリントが設置されている。それぞれ首位通過の満点は20pt。緑を巡る三者の動きが大きく注目される。

「ジャージに接近しつつあるけれど、まだ十分に接近は出来ていない。今大会は2回の大集団スプリントチャンスが残っている。そしてカヴがその2度共に制した場合、さらなる100ptを手にすることになる。すべての努力は無駄に終わるかもしれない。でも僕はファイターなんだ。パリまで全力で戦い続けるさ」(マシューズ)

逃げを見送った後、マイヨ・ジョーヌと総合上位勢たちは、UAEチームエミレーツの制御のもと比較的静かに過ごしてきた。この日最後の、そして今大会最短800mの小さな4級峠も、15分以上遅れてよじ登った。ところがフィニッシュまで7km、山頂間際で、突如としてコフィディス2人組が前線へと競り上がる。コンラッドと同じく生まれて初めて目標を区間勝利に切り替えながらも、結局は総合争いに集中することにしたギヨーム・マルタンが、サイモン・ゲシュケに連れられ急速な加速へ転じたのだ。

「レースの主役になれたのは気分が良かった。トライするのはタダだからね。それに集団内に混乱を引き起こせた。あくまでも目標はなにかをトライすることだったんだ」(マルタン)

ただし本当に混乱を引き起こしたのは、むしろワウト・ファンアールトの方だったのかもしれない。マルタンの攻撃に素早く反応し、最前列に駆け上がった。総合3位ヨナス・ヴィンゲゴーを補佐するための動きだったはずだが、あまりにスピードが速すぎて……全員を一瞬で置き去りにしてしまったという!山頂で振り返り、誰1人として自分についてこれなかったことを知ると、ファンアールトは少し速度を緩める羽目になった。

この2つの加速により、メイン集団は15人ほどにまで絞り込まれた。ただ総合トップ10選手は全員がきっちりと危険を回避し、同集団でフィニッシュへたどり着いた(首謀者マルタンだけが4秒遅れ)。当然ながら総合順位もタイムにも(ほぼ)変動はなく、総合2位以下に5分18秒という大差を有したまま、総合首位ポガチャルは2021年大会勝負の山頂フィニッシュ2連戦を迎える。

インタビューに応じるポガチャル

インタビューに応じるポガチャル

「最終峠の加速は果たしてなにが起こったのかよく分かっていないんだ。ただ流れについていっただけ。とにかく明日に向けて良いウォームアップになった。だって明日は今ツールで最も難しいステージだ。うん、コースの下見は済ませてあるし、上りも知っている。山を恐れてはいない。ただ厳しい1日になるだろうことは、覚悟している」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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