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サイクル ロードレース コラム 2021年7月10日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第13ステージ】偉大なる「カニバル」の記録に並ぶ歓喜の勝利!カヴェンディッシュ「苦しんで手に入れた1勝であり、思い出深い1勝だ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第13ステージ|Cycle*2021

史上最強の自転車選手エディ・メルクスが、1975年大会で区間34勝目を上げてから46年。史上最強のスプリンター、マーク・カヴェンディッシュが、偉大なる「カニバル」の誇るツール史上最多区間勝利数に並んだ。フィニッシュエリアの底ではアシストたちが歓喜の雄叫びを上げ、祝福のクラクションがあたりに鳴り響いた。

仲間と抱き合うカヴェンディッシュ

抱き合って勝利を喜ぶカヴェンディッシュ

「僕にとっては、単にツールで新たに手にした1勝に過ぎないんだ。初優勝の時と気分は変わらない。記録を作った特別な1勝だという実感はまだない。でも区間勝利数が並んだことで、子供たちが自転車に興味を持ってくれて、将来ツールを走るような選手になってくれたら……それこそが僕にとって一番大切なこと」(カヴェンディッシュ)

長くて暑い移動ステージだった。前日はあえて「一回休み」を選んだドゥクーニンク・クイックステップ隊列は、この日は勇んで狩りへと走り出した。スタート直後の熾烈な飛び出し合戦を巧みに制御すると、30kmほど走った先で、たった3人の小さな逃げを先に行かせる。

オメル・ゴールドスタインとショーン・ベネット、ピエール・ラトゥールが前方へと遠ざかった後は、しばらくプロトンは静かにペダルを回した。マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャルに言わせると「退屈」な時間だった。ただカヴを支えるウルフパックの面々と、今大会1つ目のスプリントステージを制したアルペシン・フェニックスだけが、黙々とタイム差コントロールに勤しんだ。極めて慎重に、最大でも4分半ほどしか余裕を与えなかった。

ステージ半ばの中間スプリントでは、いまだマイヨ・ヴェールを諦めきれない者たちが、勇んでスプリントを争った。つまりポイント賞2位マイケル・マシューズ、3位ヤスパー・フィリプセン、4位ソンニ・コルブレッリが競り合い、それぞれにカヴェンディッシュより「前」でラインを越えた。肝心のカヴは、老獪な発射台ミケル・モルコフーー昨大会はサム・ベネットのために中間ポイント収集大作戦を先導ーーに連れられて、ライバルたちの背後で流す程度に抑える。

いまだフィニッシュまで70kmも残っているというのに、タイム差は早くも1分半に縮まっていた。もはや逃げ集団は風前の灯火……。ところがベネットの突然のアタックをきっかけに、3人はやたらとハイテンションな加速合戦へと雪崩れ込んでいく。しかし激しく攻めすぎたせいか、最初に脱落したのがベネットだ。力を貯めていたゴールドスタインの大きな一発に、脚が止まった。

前に留まった2人は、その後もまるでスポ根漫画のような、熾烈なタイマン合戦を繰り返す。残り53kmで、笑い合い、肩を組み合いプロトンに吸収されていくまで。

逃げ集団が打ち合いを始めたのとちょうど同じ頃、後方プロトンも突如として活気付いた。火をつけたのはフィリップ・ジルベール。雪崩のように小さな謀反が多発し、当然のようにドゥクーニンクの誰かがチェックに向かう。必ずアルペシンも穴を埋めに走った。スピードは恐ろしいほどに上がり、プロトン内は急激に緊迫感で満ちていく。

残り62km。蛇のようにうねる細い下り坂を、プロトンは時速75km超で走っていた。その時だ。集団落車が発生し、30人近い選手が地面に転がり落ちた!

犠牲者の中にはドゥクーニンク牽引隊長ティム・デクレルクや、ポガチャルの山岳アシスト役ラファウ・マイカの姿もあった。道路脇の崖下に投げ出された選手も多かった。幸か不幸か、生い茂る低木がクッションになり、おそらく最悪の事態だけは避けられたのだろう。それでもロジャー・クルーゲとサイモン・イェーツが傷ついた体で大会を離れた。初日から落車続きの2021年ツールから、早くも33人が去り、5月のジロをたった2人で終えたロット・スーダルは、今ツールでも残るは4人しかいない。

大量落車の直後も、プロトンの火照った雰囲気は一向に収まらなかった。小さくなったメイン集団で、アタックの試みは相変わらず繰り返された。しかし世界王者ジュリアン・アラフィリップが最前線にどっしりと居座り、ほぼ全ての企てを潰して回った。マイヨ・ジョーヌ擁するUAEチームエミレーツも慎重を期して前線で隊列を組んだ。徐々にスピードは緩まっていき、落車分断で遅れた選手の大部分がメインプロトンへの合流を果たした。

前と後ろを回収し、大きな塊となった集団から、監視の目をかいくぐりカンタン・パシェが抜け出したことも。一時は1分半ほどの差をつけるも、残り19km、やはりドゥクーニンクが希望を握りつぶした。

合流と同時にイネオス・グレナディアーズが、風に乗って加速分断を企みた。コルブレッリやを全地形型ワウト・ファンアールトを筆頭に、多くの選手が賭けに飛び乗った。すでにたっぷり働いたアラフィリップは、あっというまに後方へと吹っ飛ばされたが、幸いにもカヴェンディッシュの脇にはいまだ4人の仲間が残っていた。そもそも「北クラシック精鋭軍」はこの程度の風にはびくともしなかった。ちなみに黄色ポガチャルは「脚が良く回って楽しかった」そうだし、赤玉ナイロ・キンタナは「明日の山岳ポイント収集に向けて体力温存」と割り切りさっさと脱落していった。

フラムルージュを3人のアシストの背後で潜り抜けたカヴにとって、今ステージ一番の危機は、残り600mで訪れた。左カーブを抜けた直後に、発射台モルコフの後輪を、マシューズとナセル・ブアニに奪われてしまったのだ。

メルクスの記録に並んだカヴェンディッシュ

メルクスの記録に並んだカヴェンディッシュ

「スプリント中は誰もが僕を押しのけようとしているのが分かった。僕はモルコフについていこうとしたけど、後輪を一瞬失ってしまったんだ。前輪が滑って、パンクしたのかと思ったよ」(カヴェンディッシュ)

しかしウルフパックの最後から3番目の男が、カオスを作り出す。自らもスプリンターであるダヴィデ・バッレリーニが、「2%くらいの軽い上り坂(byカヴ)」で大胆に前方へと飛び出していったものだから、ライバルたちは大慌て。数人が必死で穴を埋めに走り、なによりイバン・ガルシアが強烈に後を追いかけると、カヴへの警戒が一瞬薄れた。

その隙に、マイヨ・ヴェールは、自分のいるべき場所に収まった。あとは驚異的な速さで駆け上がっていくモルコフについていくだけ。いつもの後輪から、記録に向けてスプリントを切るだけ。

「ボーイズは信じられない仕事をしてくれた。ひどい暑さと風の中、220km近く走った後だったから、僕はもはや死にかけだったよ。でも僕はスプリントしなければならなかった。だってチームのみんなが、僕のために、あれほどまでに働いてくれたんだから」(カヴェンディッシュ)

ガルシアを抜き去り、追いすがるフィリップセンを躱し切った。極めてシンプルなガッツポーズで、カヴは今大会ステージ4勝目、そしてツール区間34勝目を手に入れた。自分の背後でモルコフがハンドルを投げ、区間2位に飛び込んでいたことを知った時、喜びは一層大きくなった。

小さなガッツポーズでフィニッシュラインを越えたカヴェンディッシュ

小さなガッツポーズでフィニッシュラインを越えたカヴェンディッシュ

「チームがいつ何時も僕のために力を尽くしてくれることは、大いなる幸運だ。それがプレッシャーにもなる。時には辛く感じることもある。でも今日のように……発射台役とワンツーフィニッシュを決めるというのは、ひどくスペシャルな気分さ。素敵な勝利だよ。苦しんで手に入れた1勝であり、思い出深い1勝だ」(カヴェンディッシュ)

2008年7月9日に人生初めてのツール区間勝利を手にしてから、ちょうど13年。175人の大集団スプリントから8人の小集団スプリントまで、ひたすらスプリントだけでカヴェンディッシュは勝利を積み上げてきた。チームは6回変わり、その5つでツール区間勝利の歓喜を味わった。専用発射台もマーク・レンショー、ゲラルド・ツィオレク、ベルンハルト・アイゼル等々と顔ぶれを変え……。

「今まで僕のために走ってくれた全てのチームメートと、この記録を分け合いたい。問題は明日以降もまだまだやるべき仕事が残っていること。今のところこの記録について頭を巡らせる時間はないんだ。でも『僕ら』が成し遂げたことについて、『僕ら』が作った歴史について考える時間は、この先の人生にはたっぷりあるだろう」(カヴェンディッシュ)

ちなみにカヴ曰く「史上で最も偉大な男性自転車選手」のメルクスは、フランス日刊紙『パリジャン』に「彼は非常に素晴らしい選手。しかも難しい年月の後に復活してきた。脱帽だ!彼に対して大いに敬意を表したい」と発言を寄せている。

今大会5度の大集団スプリント中、4つで勝利をつかんだカヴェンディッシュは、マイヨ・ヴェール争いでも2位以下に101ptという大量のポイント差を押し付ける。そして総合2位以下にやはり5分18秒という大量のタイム差を有するマイヨ・ジョーヌのポガチャルは、マイカの落車負傷に心を痛める以外は、極めて快適にスプリントステージを終えた。

「明日はハードな1日となるだろう。どんなことも起こりえる。もしかしたらスタート直後から大きな逃げが飛び出して行くかもしれない。とにかく僕らはピレネーに挑みかかり、マイヨ・ジョーヌを守る準備は出来ている」(ポガチャル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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