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サイクル ロードレース コラム 2021年7月9日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第12ステージ】ついに手に入れた生まれて初めてのツール区間勝利!ニルス・ポリッツ「この勝利が僕に自信をもたらしてくれる」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第12ステージ|Cycle*2021

いつだって真っ先に戦いへ飛び出し、強風の中、最も惜しみなく最前列を突っ走った。正直者が報われた。ニルス・ポリッツが凄まじい脚力でラスト12kmを独走すると、生まれて初めてのツール区間の栄光を勝ち取った。風の後には凪が訪れ、プロトンは静かに1日を終えた。総合上位に変動はなく、タデイ・ポガチャルは5日連続でマイヨ・ジョーヌを肩に羽織った。

ニルス・ポリッツ

ニルス・ポリッツ

「信じられない。ツールのステージを勝てるなんてとてつもないことだよ。独走で終えられたのも信じられない。嬉しいし、誇らしい。キャリアで最高の瞬間だ。この勝利が僕に自信をもたらしてくれる」(ポリッツ)

雨雲は遠くへと消え去り、多くの選手を震え上がらせたモン・ヴァントゥ二重登坂も、すでに思い出に変わった。早くも次なる勝負地ピレネー山脈への移動を始めたツール一行は、南フランスの光の中で、ゆっくりと深呼吸した。

恐ろしい筋書きとなる可能性だってあった。ローヌ平野には地方風ミストラルが吹き抜ける。仮スタート後のパレード走行中でさえ、多くの総合勢が前へ詰めかけ、ひりひりとするような緊張感が満ち溢れた。しかも横風区間でスタートフラッグが振り降ろされたものだから……最前列に陣取っていたニルス・ポリッツの大加速と共に、一気にとてつもない加速合戦が巻き起こった!

ただ大多数の選手たちにとっては幸いなことに、20kmほど走った先で、目まぐるしい時間は打ち切られた。小さな塊が大急ぎで前方へと遠ざかっていくと、後方に残されたプロトンは自然に減速していく。13人の逃げが許された。

逃げ集団からステージ勝者が誕生することは、誰もがすぐに理解した。なにしろスプリント区間3勝マーク・カヴェンディッシュ擁するドゥクーニンク・クイックステップから、ジュリアン・アラフィリップが滑り込んだ。マイケル・マシューズの補佐役ルカ・メズゲッツや、ナセル・ブアニの同僚コナー・スウィフトも飛び乗ったし、そもそもアンドレ・グライペルとエドワード・トゥーンスというスプリンター本人さえ逃げ出した。エーススプリンターを失ったアシストたち、つまりはシュテファン・キュング、ブレント・ファンムールにハリー・スウェニー、そしてこの日の朝ツールを離れたペーター・サガンの牽引役ニルス・ポリッツの姿もあった。さらにはセルヒオルイス・エナオ、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン、シュテファン・ビッセガー、イマノル・エルビティという、名うてのルーラーたちが勢ぞろいして……。

逃げ遅れたアルペシン・フェニックスが、ヤスパー・フィリプセンでスプリント勝負に持ち込もうと、しばらくは猛烈な追走を試みた。ただ彼らが脚を止めた後は、集団制御を務めるスプリンターチームなどもはや皆無だった。先頭集団で総合最上位はエナオの50分57秒差だったから、つまり総合争いを脅かす選手もいない。ただ「マイヨ・ジョーヌの責任」として、UAEチームエミレーツがメイン集団前方で隊列を組んだ。逃げ集団のリードはみるみるうちに広がった。

残り50kmでタイム差は12分40秒。とっくの昔に逃げ切りを確実にしていた先頭集団は、早くも区間勝利への争いに突入した。きっかけはやはりポリッツ。シンプルに、大胆に、とてつもなく大きな一撃を振り下ろした!

ジュリアン・アラフィリプ

ジュリアン・アラフィリップ

瞬時に飛び乗ったスウィフトと、力ずくで追いついてきたメズゲッツとを引き連れて、ポリッツは凄まじい突進を続けた。目的は集団内のスプリンターを振り落とすこと。一方で取り残された後方集団内では、追走の責任を巡るぎりぎりの駆け引きが繰り広げられた。パリ~ニースで個人タイムトライアルを制したビッセガーはひとり風の中を漂い、世界王者アラフィリップは我慢しきれず自ら追いかけた。ポリッツと同じドイツ人であり、昨季は同じチームでエースと牽引役の関係だったグライペルが、スプリンター持ち前の爆発力で先頭集団をひとつにまとめあげたことも。

「グライペルとは大の仲良しなんだ。逃げ中に互いの作戦についても話をした。彼は僕が何をするつもりなのか分かっていたし、僕に『君が集団内では最強だ、なにかトライすべきだ』って言ってくれた。彼がいてくれて本当に最高だった」(ポリッツ)

全チームの中で唯一、逃げに2人を送り込んでいたロット・スーダルが、次の攻撃を仕掛けた。残り41km、軽い横風の中で、スウェニーが突然スピードを上げる。今度はキュングが後輪に張り付いた。出来上がりつつあった穴をポリッツが単独で埋め、エルビティも流れを逃さなかった。

後方が顔を見合わせている隙に、4人は一気に距離を開いた。やはりビッセガーやアラフィリップが追走を仕掛け、どうにかスプリントに持ち込みたいトゥーンスも加速を試みるも、パリ~ルーベ逃げ切り2位のポリッツや個人タイムトライアル欧州王者キュングが先導する強脚ルーラー軍団は、ただ遠ざかっていくばかり。

「大きな集団には、絶対に誰か1人が飛び乗るよう指示されていた。つまり逃げが決まった時に、たまたま自分が前にいただけ。優勝を争える逃げに入れたのは嬉しかったけど、顔ぶれを見た時に、これは戦術的に上手く立ち回らなきゃならないと悟ったんだ。最後は最高のタイミングで飛び出されてしまった。しかもすぐに差が大きく開いた。もはや『チャオ!』と見送るしかなかったよ」(アラフィリップ)

置き去りにした者たちに1分差をつけても、4人はまるで脚を緩めなかった。あまりにも激しくペダルを回し続けたものだから、残り15kmで「自己の限界に達した」キュングが、脚の痙攣で脱落してしまったほど。

両手を上げてフィニッシュするポリッツ

両手をあげてフィニッシュするポリッツ

そして残り12km。この日最後の、緩やかな上りに差し掛かった。初めてのグランツールの初めての区間勝利争いに「なんて非現実的なんだろう」と22歳スウェーニーはどぎまぎし、すでにブエルタで逃げ切り区間2勝の経験を持つ37歳エルビティは「スプリントに向け絶対に張り付いていかなきゃならない」と覚悟していた。しかしポリッツが背後から全力で飛び出した時、2人はぴくりとも反応することはできなかった。

「背後のチームカーには監督と僕のトレーナーが乗っていたんだ。彼らは僕のデータをよく把握していて、僕にこう声をかけた。『OK、ニルス、今がフィニッシュに向け飛び出す時だ。ここから800mは上り坂。とにかくトライしてみろ。後ろは振り返るな』と。だから僕は加速した。無線からは10秒差、15秒差、20秒差……と聞こえてきた。つまり後ろの2人をゲームオーバーに追い込んだ」(ポリッツ)

スタート0mで飛び出したポリッツは、単独先頭でフィニッシュへとたどり着いた。後続2人には31秒差をつけ、悠々と、歓喜の瞬間を満喫した。実力者として良く知られるポリッツにとって、ついに手に入れた生まれて初めてのツール区間勝利であり、少々意外にもプロ2勝目。また第3ステージの落車で右ひざを痛めたサガンの不出走で、この朝「作戦の変更を余儀なくされた」チームに、士気の上がる今大会1勝目を献上した。

「ツール区間勝利は自転車選手にとっては最大級の夢なんだ。だってツールこそ世界最大のレースだから。パリ~ルーベの2位も嬉しかったけど、ツールの区間勝利のほうがはるかに大きなこと。もちろん今の目標は10月にルーベを勝つことだけどね」(ポリッツ)

ポリッツの歓喜から15分33秒。過去3度のフィニッシュは大集団スプリントの舞台となったニーム市街地に、メインプロトンがゆっくりと帰ってきた。横風区間でにわか雨に襲われ、そのタイミングでイネオス・グレナディアーズが集団前方に集結したものだから……ほんの一瞬ヒヤリとさせられたこともあった。ただしポガチャル親衛隊が慎重に前を取り戻し、結局はなにも起こらなかった。

マイヨ・ジョーヌのポガチャル

マイヨ・ジョーヌのポガチャル

「序盤数キロは横風でひどくクレイジーだったけど、その後はリラックスしたレースになった。たしかにずっと前線に留まり続けたから、チームは少しエネルギーを使ってしまったかもしれないね。でも僕自身にとっては良い1日だった」(ポガチャル)

2008年大会でこの町を制したカヴェンディッシュは、この日はメインプロトン内の小さなスプリントを獲りに行った。つまり14位通過を成功させ、マイヨ・ヴェール用のポイントをわずか3ptながら積み重ねた。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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