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サイクル ロードレース コラム 2021年7月7日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第10ステージ】エディ・メルクスの誇る34勝まで後1つ。今大会3勝目のカヴェンディッシュ「チームがすべてお膳立てしてくれた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第10ステージ|Cycle*2021

36歳の快進撃は止まらない。感動的な涙の復活劇からわずか7日間で、マーク・カヴェンディッシュが区間3勝目を手に入れた。強靭な狼橇を乗りこなしての、完璧な勝利だった。マイヨ・ジョーヌのタデイ・ポガチャルは何事もなく、静かな1日を過ごした。今大会最大の目玉区間モン・ヴァントゥ二重登坂を翌日控え、総合トップ15に一切の変動はなかった。

マーク・カヴェンディッシュ

マーク・カヴェンディッシュ

「はっきり言うと僕は何もしていない。チームがすべてお膳立てしてくれた。僕はただ最終150mに向けてスピードを保ち続けただけ」(カヴェンディッシュ)

高い山の上でのどかな休息日を過ごした164選手は、アルプスにたった2日間で別れを告げ、南仏プロヴァンスへと向かって走り出した。ブルターニュ開幕からツール一行を悩ませ続けてきた灰色雲は、いまだ頭上に付きまとい、ところどころで強い雨を降らせた。幸いにも気温は上がった(そうは言っても例年の平均気温を4度ほど下回る)。この地方特有の強風「ミストラル」も、すでに不運なら嫌というほど味わってきた2021年ツールのプロトンに、それほどの意地悪はしなかった。

スタート直後にトッシュ・ファンデルサンドとユーゴ・ウルが飛び出すと、プロトンはあとほんの少しだけ、休息日を延長することに決めた。ゆっくりとペダルを回し、わずか15kmほど走っただけで逃げ集団に6分ものリードを許した。その後は静かにドゥクーニンク・クイックステップがタイム差制御に乗り出した。昨年末3年連続でベルギー最優秀アシスト賞を手にしたティム・デクレルクが、いつものように完璧な牽引役を務めた。

あくまで「マイヨ・ヴェールは狙っていない」というカヴェンディッシュを横目に、スタートから82.3km地点の中間ポイントでは、その他スプリンターたちが熾烈な戦いを繰り広げる。休息日前の山岳2日間で中間スプリント先頭通過をもぎ取り、さらに第9ステージではそのまま逃げ続け山頂フィニッシュ3位に食い込むという……もはや「上れる」スプリンター以上の新脚質に進化しつつあるソンニ・コルブレッリが、メイン集団内でトップ通過=全体の3位通過を果たす。バイクエクスチェンジのチームメートを働かせたマイケル・マシューズは、またしても次点に甘んじた。

プロトン

プロトン

南西へと真っすぐに突き進む道の上では、終盤へ向けて、徐々に、しかし着実にスピードは上がっていく。フィニッシュまで残り50kmで、逃げ2人の余裕は早くも1分を切った。もちろん平坦ステージのセオリーに従って、プロトンはすぐに飲み込んでしまうつもりもない。20秒から1分ほど後方で、あとしばらくは2人を監視し続けた。

ただし残り39km。道の両脇が大きく開け、風の通り道が出来上がる。それに合わせてマイヨ・ジョーヌ擁するUAEチームエミレーツが、メイン集団先頭で隊列を組み上げると……いよいよ吸収へのカウントダウンが始まった。残り38kmでファンデルサンドは自ら匙を投げた。ウルの奮闘も2km先で打ち切られた。突如としてバイクエクスチェンジが猛烈に引き始めたからだ!

右斜め後方からの風に乗ったオージー集団の加速は、しかし不発に終わる。集団にちょっとした緊張感をもたらしただけで、カヴを振り払うことも、分断を作り出すことも出来なかった。

続いてジュリアン・アラフィリップが先頭に立つと、残り30km、ゆるい下りを利用して急激な加速に転じた。まさにそのタイミングでコルブレッリがパンク。一時は40秒ほど離され、イタリアチャンピオンはナーバスなまでの追走を余儀なくされたが、むしろ集団側が加速を止めた。分断を作り出すほどの風は吹いていなかったからだ。

もう1度だけ、プロトンは風に運命を託す。ラスト16km、進行方向を北に転換するタイミングだった。またしてもウルフパックの世界王者が最前線でがむしゃらにペダルを回し、今度はボーラ・ハンスグローエやEFエデュケーション・ファーストも積極的に企みに加わった。総合4位ヨナス・ヴィンゲゴーも果敢に先頭交代へと飛び込んだ。ついに……集団にほころびが生まれ、残り12km、ついに小さな斜め隊列がいくつもでき上った!

「最終盤は凄くスピードが速かった。小さな登りと風のせいで大混乱だったよ。でも僕はチームメートのおかげで常に良いポジションにいられたんだ。こういう展開は大好き。すごく楽しかった。単純なスプリントに向かうストレスより、こういう動きがあった方がおもしろいよね」(ワウト・ファンアールト)

メイン集団は約半分に数を減らしたが、結局のところ、重大な犠牲者はいなかった。有力スプリンターも、総合を狙う選手たちもほぼ全員が前線に留まった。

最後までウルフパックの威力は弱まらなかった。残り4km、満を持して再び最前列に競り上がる。アラフィリップ、カスパー・アスグリーン、ダヴィデ・バッレリーニ、ミケル・モルコフ……すなわちカヴの解説によると「世界王者、ツール・デ・フランドル王者、オムループ・ヘット・ニュースブラット王者、そして東京五輪マジソン優勝候補」が、緑ジャージのカヴのために最高のリードアウト列車を走らせた。

特にラスト1kmは圧巻だった。フラムルージュを潜り抜けても、いまだ3人のアシストが強烈に仕事を続けていた。ほかの誰にも1度も先頭を譲ることさえなかった。カヴェンディッシュをさらにその先へと送り出した。

レース後に笑顔を覗かせたカヴェンディッシュ

レース後に笑顔を覗かせたカヴェンディッシュ

「昔ながらの、慣習に則った、まさに自転車雑誌に載っているような、教科書通りのリードアウトだった」(カヴェンディッシュ)

もちろん最後はカヴがきっちり勝利で締めくくった。ファンアールトとヤスパー・フィリプセンの追い上げを悠々と交わし、今大会ステージ3勝目を手に入れた。1勝目フジェール、2勝目シャトールーとは違って、ここヴァランスでは初勝利。ちなみに2015年大会は区間151位に沈んだし、2018年大会は数日前のタイムアウトでたどり着くことさえ出来なかった。

「このフィニッシュは知っていたんだ。2015年は脱落し、泣きべそをかいて、勝ったのはグライペルだった。でもそこで学んだんだ。最終コーナーを大きく曲がれば、スピードをそのまま保てるということをね」(カヴェンディッシュ)

そして2008年大会第5ステージから積み上げてきたカヴェンディッシュのツール区間勝利数が、ついに33勝に達した。つまり史上最強の自転車選手エディ・メルクスの誇る34勝に肩を並べるまで、あと1勝。また山の2日間で38pt差に詰められたマイヨ・ヴェールを巡る争いも、再び59ptへと広がった。

黄色いジャージを巡る争いにも一切の変動はなかった。ポガチャルは「長くて、暑くて、タフな」モン・ヴァントゥ越えの前日を、特に問題もなく乗り切った。

「たった1度だけモン・ヴァントゥに行ったことがある。今ツールの直前だよ。平日なのにたくさん人がいた。だから明日はどれだけの観衆が集まるのか想像もつかない。あの場で走るのを楽しみにしているよ」(ポガチャル)

ちなみに第10ステージのフィニッシュ直後、辺り一帯は土砂降りの雨に襲われた。一方モン・ヴァントゥ山頂では日中に瞬間風速22m(秒速)を記録。どうやら「人家にわずかの損害がおこる」程度の風だったらしい。気になる11日目は雷雨の予報だ。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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