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【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第6ステージ】メルクスの誇るツール区間34勝まであと2つ!完全復活のカヴェンディッシュ「ここでの勝利はスペシャル」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか無料動画
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第6ステージ|Cycle*2021
相思相愛。2008年7月9日、自身にとって初めてのツール・ド・フランス区間勝利を、この町でつかんだ。2011年7月8日も、マン島特急は、同じ長い一本道を先頭で駆け抜けた。そして2021年7月1日。みたびフィニッシュラインで「頭を抱えた」。3戦3勝。マーク・カヴェンディッシュはシャトールーで無敗の王者となり、今大会2つ目にして、人生32回目のツールステージ勝利を手に入れた。総合勢の順位や4賞ジャージに入れ替わりはなく、マチュー・ファンデルプールは少なくともあと1日はマイヨ・ジョーヌで過ごす。
フィニッシュ後に笑顔を見せるカヴェンディッシュ
「それほどロマンチックなものではないんだよ。もちろんシャトールーがコースに組み込まれたのを知って、より一層ツールに戻って来たいという夢は大きくなった。でも他のあらゆる土地と同じように、僕はただひたすらスプリントを勝ちたかっただけなんだ」(カヴェンディッシュ)
ロワール川の南側はいつも晴れている。大昔からフランス人がこう語り継いできたように、7月最初の日、プロトンの上空にはお日様が顔を出した。気温も上がり、心配されていた風も吹かず、ようやくツール一行は真夏の空気に包まれた。しかもステージ距離は短く、行く先に難関は4級峠が1つだけ。総合争いに大きな影響を残した個人タイムトライアルの翌日の、スプリンターたちの祭典は、ところがリラックスした雰囲気の中……とは行かなかった。
その逆だ。スタート直後から、プロトンはとてつもない全力疾走を強いられた。なにしろ大逃げスペシャリストや平地クラシックハンターが、8人も前に飛び出したのだから(トーマス・デヘントやトムス・スクインシュ、セーアン・クラーウアナスン、カスパー・アスグリーン、ニルス・ポリッツ、ジョナス・リカールト、グレッグ・ファンアーヴェルマート、ゲオルク・ツィマーマン)。もちろんスプリンターチームは大慌て。特にアルノー・デマール擁するグルパマ・FDJが先頭に立ち、必死で企みの芽を潰しにかかった。おかげで序盤1時間は、49.9kmという凄まじい時速で平地を駆け抜けることになる。コース上に点在する美しい古城を、のんびり堪能している暇なんてちっともなかった。
前の8人は、残念ながら、協力体制は最高とは言えなかった。スプリントエース擁するドゥクーニンク・クイックステップとアルペシン・フェニックスが、1人ずつ逃げに紛れ込んでいたせいだ。先頭交代はまるでスムーズにいかず、後方からの圧力はどんどん高まっていく。
だからこそ34kmほど走った先で、ファンアーヴェルマートは単独走行に切り替えた。取り残された7人が、集団の大きなうねりに飲み込まれていく直前だった。
少なくともあと23日間は現役五輪ロード王者であり続けるファンアーヴェルマートは、しかし幸いにも、ひとりぼっちの時間をそれほど長く過ごさずに済んだ。後方からロジャー・クルーゲが追いかけてきて、しばらく先で合流したからだ。背負うべきスプリントエース、カレブ・ユアンが大会を去り、どうやら最終発射台役にも滅多にない逃げのチャンスが巡って来た。ちなみにクルーゲも2008年五輪ポイントレース銀メダリストであり、東京ではオムニウムとマディソンに出場する。
クルーゲと逃げるファンアーヴェルマート
「8人なら最後まで行けたに違いないんだ。でも逃がしてはくれなかった。その後は2人になったけれど、逃げ切りが難しいだろうことは分かっていた。それでもファンムールが数日前にあわや逃げ切りというシーンを目にして、インスピレーションを受けた」(ファンアーヴェルマート)
序盤8人の逃げでは、内部に潜り込むことで上手くレースの手綱を握ったドゥクーニンク・クイックステップとアルペシン・フェニックスが、今度はプロトン牽引を中心になって行った。
残り56.3km地点の中間ポイントで8選手が熾烈なスプリントを繰り広げ、ソニー・コロブレッリが集団内先頭通過=3位通過を果たした時点では、最大2分ほどあったタイム差はすでに30秒にまで縮まっていた。かといって、続くカウンターアタックを避けるためには、あまりに早く吸収してもならぬ。そんなセオリーに則って、ウルフパックの名補佐役ティム・デクレルクの采配の下、30秒から50秒ほどの間で延々コントロールが行われた。残り20kmで15秒にまで追い詰めた後でさえ、ウルフパックは決して一飲みにしようとはしなかった。むしろ再び少々手綱を緩め、吸収までの時間を出来る限り遅らせたほどだ。
もちろん追い風に助けられて、2人が驚異的な粘りを続けたせいでもあった。それでも残り2.5km。ファンアーヴェルマートとクルーゲの奮闘はむなしく打ち切られた。全長1600mの最終ストレートへと滑り込む、ほんの直前だった。
このシャトールー自慢の長い長い直線には、ジュリアン・アラフィリップが先頭で突っ込んだ。短い上り坂区間を、チームの3人を従え、先頭で駆け上がった。世界チャンピオンが牽引役を買って出た直後には、マイヨ・ジョーヌも猛烈な発射台役を務めた。ドゥクーニンク列車と、マチュー・ファンデルプールが送り出したアルペシン隊列は、激しいつばぜり合いを繰り広げた。
残り350m、ついにアルペシン3人組が先頭を奪い取る。さらには第3ステージ区間勝者ティム・メルリールが、ヤスパー・フィリプセンのために驚異的な加速を切ると……マイヨ・ヴェールがすかさずフィリプセンの後輪へと飛び移った。自らの嗅覚に従って、カヴェンディッシュは自らの発射台ミケル・モルコフの元をあえて離れることに決めた。
「風は右方向から吹いていた。だからミケルは道路の左端から離れ、僕に左側への抜け道を作ってくれた。でも僕は、スプリントを切る前に、ほんの数秒でも長く誰かの後輪につけていたかったんだ。だから列車を切り替えて、そこから飛び出した」(カヴェンディッシュ)
つまりライバルチームのスプリンターを、自らの最終発射台に仕立て上げた。そして残り200m、カヴェンディッシュはあえて右側へと躍り出た。最初のひと漕ぎでライバルに大きく差をつけると、そのまま悠々とラインを先頭で越えた。ここシャトールーでの1勝目と2勝目で披露したのと完全に同じウィニングポーズ、つまり「思わず頭を抱える」ジェスチャーを再現する余裕さえあった。
「シャトールーという地名を耳にするたびに、僕は自分のツール区間初勝利を思い出す。ここでの勝利はスペシャルなんだ。1998年にはここでチポッリーニも勝ってるし、スプリンターにとっては重要な土地。ボルドーやパリと並ぶ、いわばツールの『オールドスクール』なスプリントタウンだよ。そしてこの3つの町すべてで勝利を手にしてきたことは、僕にとってはとてつもない名誉なんだ」(カヴェンディッシュ)
マイヨ・ジョーヌのファンデルプール
感激的な復活勝利の2日後に、改めて36歳の大ベテランは、若き後輩たちを完膚なきまでに蹴散らした。2位フィリップセンも3位ナセル・ブアニも、今大会ここまでの3度のスプリントステージで3度とも3位以内に喰い込んでいるけれど、いまだ「ツール区間1勝目」の壁を破ることができない。一方でこの伝統のスプリント地で自らのツール1勝目、17勝目、32勝目を記録したカヴェンディッシュは、とうとうエディ・メルクスの誇るツール区間34勝まであと2つに迫った。
「お願いだからその話はしないで!そのことについてはなにも考えてない。ただ僕はツールの区間をまた1つ勝っただけ。1勝目だろうが32勝目だろうが、区間を1つ勝ったことには変わりはないんだから。ただ僕は勝利がすごく嬉しいだけ。もしも僕が50勝できるような強い選手なら、50勝するだろうし、もしも僕がもう2度と勝てないのなら、2度と勝てない。それがツール・ド・フランスというものさ」(カヴェンディッシュ)
最終的にプロトンは、時速48.785kmという超高速で160.6kmを駆け抜けた。おかげでわずか3時間17分で1日の仕事を切り上げた。翌第7ステージはそうもいくまい。なにしろステージ距離は今大会最長の249.1kmで……しかも最終盤に5つの気難しい起伏が待ち受ける!
「明日はきっと難しいステージになる。果たしてどうなっているかは分からない。約1週間マイヨ・ジョーヌを着られたことは本当に嬉しいけれど、これまで起こってきたことと、これから起こることとは、まったく別物なんだ。ジャージを守ることは、おそらく簡単ではないだろう」(ファンデルプール)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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