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サイクル ロードレース コラム 2021年7月1日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第5ステージ】怪物的速さでポガチャルがライバルを蹴散らしステージ制覇!マイヨ・ジョーヌを守ったマチュー「自転車人生の中でも最高の1日」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第5ステージ|Cycle*2021

怪物はやはり怪物だった。9カ月前の個人タイムトライアルをさらい取り、57秒差を引っ返して戦後最年少ツール・ド・フランス総合覇者に輝いたタデイ・ポガチャルが、再び超常現象を起こした。並み居るTT巧者を蹴散らして、32分00秒83の堂々たるトップタイムを記録。もちろん総合ライバルたちにはとてつもないタイム差を押し付け、始まったばかりのマイヨ・ジョーヌ争いで有利な位置につけた。ただしマイヨ・ジョーヌはいまだおあずけ。祖父を愛したフランスの大声援に背中を押され、マチュー・ファンデルプールが8秒差で大切な黄色い衣を守り切った。

タデイ・ポガチャル

タデイ・ポガチャル

「本当に最高の1日だった。僕は一切ミスを犯さなかった。天候も気温も僕にとっては完璧だったし、僕のツール序盤戦はパーフェクトだ」(ポガチャル)

気まぐれな雨雲が、ブルターニュからついてきた。雨が降る前に走り出した26番出走ミッケル・ビョーグが、真っ先に好タイムを叩きだした。しかも2017年から2019年まで3年連続でアンダー23世界選手権個人TTを制したスペシャリストは、長々とホットシートを守ることになる。ビョーグがフィニッシュラインを駆け抜けた約10分後に、雨が降り出したせいでもある。濡れた路面では落車やヒヤリとさせられるような場面が相次いだ。同い年22歳のシュテファン・ビッセガーもやはり、滑りやすい道に苦心し、パリ~ニースやツール・ド・ロマンディで見せたような本領を発揮できなかったひとり。

ビョークから約2時間半後、ようやく記録が更新される。雨が上がり、徐々に乾き始めた路面で、マティア・カッタネオが6秒上回る。そこからさらに36秒上回ったのが、欧州TTチャンピオンにして、昨世界選手権3位という現役屈指のスペシャリスト。そのシュテファン・キュングは、2つの中間計測地点でも、フィニッシュラインでも、力強くトップタイムを塗り替えた。「たしかに起伏は多かったけど、あれくらいはなんてことない」と、頼もしい脚を大いに見せつけた。所属チームの伝説的ゼネラルマネージャー、マルク・マディオの地元マイエンヌ県で、栄光をつかむ準備は出来ていた。

ところが、ツール区間初優勝まであと6人……に迫ったところで、この1日にすべてをかけてきたキュングは、非情にも台座から引きずりおろされてしまう。たった1日ではなく、3週間全体の成功を追い求めているはずのポガチャルに、19秒もの差をつけられて!

「自分にできるすべてを尽くした。僕はすごく、すごくいいパフォーマンスをしたんだ。自転車は完璧に準備されていたし、スタッフも最高の仕事をしてくれた。責めるべき部分など一切ない。自分にできることをやったのだから。もちろん失望している。僕は勝つために戦ったのであって、2位になるためではなかった。2度目のタイムトライアルステージでリベンジするさ」(キュング)

22歳の王者には誰もがお手上げだった。第1中間地点を1位通過でぶっ飛ばしたあとも、決してそのスピードは衰えなかった。たとえば同じ地点をポガチャルの次点=7秒遅れで通過した「区間大本命ナンバーワン」ワウト・ファンアールトや、「ジャージ保守に全力を尽くす」と宣言していたマチュー・ファンデルプールを、第2地点ではそれぞれ21秒と22秒、フィニッシュではさらに30秒と31秒……とほぼ同じようなペースで引き離していった。昨ツール総合覇者は、プランシュ・デ・ベルフィーユの時とまるで変わりなく、火の玉みたいにフィニッシュラインへと突っ込んできた。

「これまで走って来たタイムトライアルの中でも、今日のステージはかなり上出来だよ。調子は最高で、脚も上手く回った。フィニッシュまでなにも余計なことを考えず走り抜けることができた。体調は昨ツールとほぼ同じくらいのレベルに達している」(ポガチャル)

ちなみにこれほどの好走が出来た理由は、自己分析によると、自転車の上で最適なエアロポジションを見つけだせたこと。ティレーノ~アドリアティコの後、バスク一周の前、つまり3月末から4月序盤にかけて、ポガチャルはタイムトライアルに特化したトレーニングを行った。

「最初のうちはなかなか上手くいかなかった。エアロダイナミクスは向上した代わりに、ペダルが上手く踏めなくなったんだ。でもポジションに試行錯誤を重ね、最高のバランスを見つけ出した。最終的にタイムトライアルバイクで好感触を得られたのは、ツール開幕のほんの1週間前。おかげで今日は全力を出すことができた」(ポガチャル)

ただしマイヨ・ジョーヌには、ほんの少し手が届かなかった。前日まで「あまり早く獲るつもりはない」と宣言していたけれど、この日の終わりに漏らした「そりゃあ取れたら嬉しかったけど」が本音だったのだろうか。8秒差でひとまず黄色いジャージはおあずけ。自身にとって4つ目のツール区間勝利と、初日から身にまとい続けている新人賞の白いジャージで、今のところポガチャルは満足している。

「ファンデルプールがジャージを守れて、僕も嬉しいんだ。彼はマイヨ・ジョーヌに相応しい選手だし、ジャージを守るために彼が戦う姿を見るのは興奮するよね。なにより今日の彼は、とてつもなく素晴らしい走りを成し遂げた」(ポガチャル)

インスタグラムで時々メッセージを交換したり、レースで一緒になった時は冗談を言い合ったり。そんな仲良しの2人は、表彰エリアで互いの奮闘をたたえ合った。ほんの数分前までは、数秒差を巡る熾烈な戦いを繰り広げていたというのに。ファンデルプールが残り1kmのフラムルージュをくぐり抜けた時、もはや「ププの孫」に……余裕は3秒しかなかった!

マイヨ・ジョーヌを守ったファンデルプール

マイヨ・ジョーヌを守ったファンデルプール

「限界を超える力を振り絞った。自分のことが最高に誇らしい。フランスで、このマイヨ・ジョーヌを着て走っていると、観客から信じられないほどの後押しを受ける。本当に凄いんだ。おかげで自転車人生の中でも最高の1日を過ごすことができた」(ファンデルプール)

31秒差の区間5位に飛び込んだファンデルプールの好走の秘密もまた、どうやらポジションにあった。ポガチャルが約3カ月かけて理想形にたどり着いたのだとしたら……ファンデルプールはほんの数時間で調整を成功させた。そもそも今年タイムトライアルバイクで走るのは、ツール・ド・スイスに続くたったの2回目でしかなかった。

「僕のポジションのエアロダイナミクスを向上させるために、チームスタッフが昨夜12時まで調整を続けてくれた。チーム監督とゼネラルマネージャーが、僕にはジャージを守る能力があるはずだ、と信じてくれたおかげなんだ。何を変えるべきなのかあれこれと検討した。最終的に変えたのはハンドルに、ヘルメットに、ホイール……」(ファンデルプール)

また逆転マイヨ・ジョーヌを期待されていたジュリアン・アラフィリップは、「走り出してすぐに今日は僕の日ではないと分かった」と振り返った。8秒差の総合2位から、48秒差の4位へと後退。ファンアールトは「因縁のライバル」ファンデルプールよりかろうじてコンマ90秒速いタイムを記録したものの、ポガチャルにも、マイヨ・ジョーヌにも届かなかった。

スタート直前、集中力を高めるログリッチ

スタート直前、集中力を高めるログリッチ

プリモシュ・ログリッチは2日前の落車で全身傷だらけながら、44秒遅れの区間7位でフィニッシュ。あらゆる総合系ライダーの中では、ポガチャルを除けば、最上位で走りえ終えた。前夜は「このタイムトライアルにはなんの期待も抱いていない」と語っていたというのに、終わってみれば「自分の中から完全に全てを絞り出した。そんな自分が最高に誇らしい」と思える走りができた。またユンボ・ヴィスマはヨナス・ヴィンゲゴー3位、ファンアールト4位、ログリッチ7位と、トップ10に3人を送り込んでいる。

ただし、この結果はもちろん、ログリッチがポガチャルから新たに44秒を失ったことを意味する。つまり祖国の後輩に対する遅れは、大会5日目にして、早くも1分40秒差に広がった(ファンデルプールの1分48秒差)。そもそもパリ表彰台候補の中では2番手につける総合7位リゴベルト・ウランさえ、ポガチャルに対しすでに1分21秒の遅れを有している。続くリチャル・カラパスが1分36秒遅れ。ゲラント・トーマスは1分46秒差、ウィルコ・ケルデルマンは1分48秒差、エンリク・マスは1分50秒差。過去10年間のツール・ド・フランスのうち、6回で、総合覇者と2位のタイム差は1分50秒以内で収まっている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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