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【Cycle*2024 パリ〜ルーベ:プレビュー】あまりにも厳しくあまりに特殊な北の地獄から、先頭で生還する豪傑は誰だ!?
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【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第4ステージ】ファンが待望した世界最速の帰還!嬉し涙に濡れたカヴェンディッシュ「僕の瞳には執念の炎が燃えていた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか無料動画
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第4ステージ|Cycle*2021
遠いところから帰って来た。2016年第14ステージ以来、止まっていた区間勝利カウンターが、再び動き出した。マーク・カヴェンディッシュが、ツール・ド・フランス区間31勝目をその手でがっちりとつかみ取った。36歳の偉大なるチャンピオンが嬉し涙にくれた背後では、23歳ツール初出場のブレント・ファンムールが悔しさに肩を落とした。落車も危険すぎるルートもなく、ただペダルにこめた力だけが、大会4日目の物語を作り上げた。
マイヨ・ヴェールを着たカヴェンディッシュ
「この場にいられることだけでスペシャルなんだ。このレースには2度と戻ってこれないかもしれないと考えていたから。信じられない。去年の僕は穴の底にいて、3週間でさえ、今の状況を夢にも見なかった。だから表彰台に上がったとき、とてつもない感激を覚えた」(カヴェンディッシュ)
まるで屠畜場のようだった第3ステージの翌日、177人の傷ついた戦士たちは、小さな抗議活動を行った。本スタートから1km地点で、1分間の完全停止。さらには10km地点まで、ノーアタック・ノーレースの態度で、ゆっくりとペダルを回した。
ここブルターニュの生んだ「アナグマ」ベルナール・イノーがかつて先導したような、本格的ストライキとは違う。1978年大会のプロトンは、「我々はサーカスの動物ではない」と労働環境の劣悪さを訴え、フィニッシュラインを全員が歩いて越えたのだ。実は今朝も、50km地点までレースを完全に放棄し、そこで一旦停止し、さらに50kmをのろのろ走ろう……という声も上がっていたとか。ただし遠くからわざわざ沿道に応援に来てくれるファンたちのために、レースを止めてはいけない。そんな思いがプロトンを思い留まらせたという。10km地点を過ぎ、マイヨ・ジョーヌを擁するアルペシン・フェニックスが加速をうながすと、普段通りにレースが始まった。
そうは言っても、リズムは急激には上がらない。前日の落車でスプリントエースのカレブ・ユアンを失ったロット・スーダルからブレント・ファンムールが飛び出し、そこに「毎日エスケープに乗る」ことがチーム全体目標のコフィディス所属ピエールリュック・ペリションが加わると、プロトンは至極あっさり逃げを見逃した。なにしろ激烈すぎた3日間で疲れた心身を癒す必要があったし、翌日の個人タイムトライアルを控え、総合優勝候補たちは出来る限り体力を温存したかった。そもそも山岳ポイントが1つもないステージに、関心を示す選手は多くなかった。2人の小さな逃げは、最大3分弱のリードが許された。
残り36km地点の中間ポイントをきっかけに、ようやく集団内に緊迫感が増していく。前日フィニッシュラインでスプリントできた者も、できなかった者も、逃げの背後で3位争いを繰り広げた。前日に比べて横幅の広い道の上を、何本もの隊列が走った。アンドレ・グライペルのためにツール総合4勝クリス・フルームが牽引するシーンさえ見られた。そして中間では3日連続で集団内2位通過に甘んじてきたマーク・カヴェンディッシュが、帰宅したユアンの代りに……悠々と先頭通過を果たす。
この時点でタイム差は1分20秒。もはや吸収は時間の問題のはずだった。ラスト20kmを切ると、いつものように総合系チームもプロトン最前線に競り上がり、スピードはただ上っていくばかり。残り15kmで、逃げる2人を33秒差へと追い詰めた。
ペリションと共に逃げるファンムール
ところが、ここから、プロトンは予想以上の抵抗に苦しめられることになる。ファンムールが一か八かの賭けに飛び出したせいだ。いつしか先頭交代に非協力的になったペリションを力づくで振り払うと、たった1人で先を急ぎ始めた。ちょうど1か月前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第1ステージで、衝撃的な逃げ切り勝利をさらった「トーマス・デヘントの後継者」は、この日も驚異的な脚を見せつけた。再びタイム差を1分以上にこじ開けると、桁外れのしぶとさを発揮した。残り10kmで1分04秒、5kmで52秒。
アルペシン・フェニックス、ドゥクーニンク・クイックステップ、そしてグルパマ・FDJが中心となり必死に追い上げるメイン集団の前方では、ロット・スーダルの2人が居座り、ブレーキ役を務めた。チームメートの後方支援を受けつつ、ファンムールの必死の逃走劇は続く。残り3kmのアーチの下では、いまだ33秒のマージンを残していた。
トレック・セガフレードやバーレーン・ヴィクトリアス、DSMもがむしゃらに前を引いた。集団は恐ろしいほどに細長くなった。残り1.3kmの緩やかな上り坂では、世界王者ジュリアン・アラフィリップが集団の最前線に滑り出ると、チームメート2人を背後に従え猛烈な作業を請け負った。残り1kmで10秒。
手に汗握るサスペンスは、フィニッシュラインまで200mを切った直後に、非情にも打ち切られた。吸収を待たずにスプリントを始めた俊足たちに、一気に飲み込まれた。ファンムールは49位で区間を終え、「たいへんよくがんばりました」の証の赤ゼッケンだけで満足するしかなかった。
「フィニッシュラインに一番にたどり着くのは難しいと分かっていたけれど、全力で走り続けた。だって僕はいつだって自転車の上で100%を尽くしてきたし、息の根を止められるまで戦い続けてきたからね。ただ最後の上りが僕の脚にはきつすぎた。……勝利まであと200mだったのに!」(ファンムール)
代わりに勝利の雄たけびを上げたのはカヴェンディッシュだった。6年前に同じジャージを着て、同じ町の、まったく同じフィニッシュラインを制した。そんな勝手知ったる道で、前日の覇者ティム・メルリールから発射されたヤスパー・フィリップセンの後輪に一瞬飛び込むと、完璧なタイミングで最前列へと飛び出した。並み居る若造たちを蹴散らし、自身にとってプロ通算152勝目を手に入れた。
「僕の瞳には執念の炎が燃えていた。前回ここでフィニッシュを争った時もやはり、執念に燃えていた」(カヴェンディッシュ)
かつては「世界最速」の名をほしいままにし、4年連続でシャンゼリゼ区間も制した。まさにこの世の春を謳歌してきたカヴは、しかし、ここ数年間はまさにどん底ではいつくばってきた。エプスタイン・バール・ウイルスの感染症による不調が続き、幾たびもの怪我に苦しみ、昨秋はチームが見つからずに「もしかしたらこれが現役最後のレースになるかもしれない」とインタビュー中に泣き崩れたことも。あれから8か月。ウルフパックの一員となったカヴェンディッシュは、フィニッシュエリアで号泣した。今度は嬉しい涙だった。自分を信じ、力を尽くしてくれたチームメートを、スタッフを、1人1人力いっぱい抱きしめ、特別な瞬間を分かち合った。
フィニッシュ後にマイケル・マシューズに祝福されるカヴェンディッシュ
「新たな一発を繰り出せたことは、単純に、幸運なこと。このレースが僕に今の人生を与えてくれたし、僕はこのレースに自分の人生を捧げてきた。2008年に初めて区間を勝った日から今日まで、僕は夢の中を生きている」(カヴェンディッシュ)
カヴェンディッシュにとってはツール区間31勝目。エディ・メルクスの保持する史上最多34勝まで、ついにあと3つに迫ったことになる。またグランツールでは49勝目。2011年に持ち帰ったマイヨ・ヴェールも、2016年に6日間着用して以来、5年ぶりに袖を通した。
「ツールで区間を勝つことがどれほど難しい事なのか、みなさん忘れかけていたよね。だって僕は30回も勝ったから。でも決して簡単ではないんだ。最も難しかったのは、この30ステージを勝つために僕がどれだけの犠牲を払ってきたのかを理解しようとしない人々と、付き合っていかねばならなかったこと」(カヴェンディッシュ)
4日目にして初めて、プロトンはひとつの大きな塊のままフィニッシュ地に帰って来た。全身包帯だらけで「ミイラ男」とのあだ名されたプリモシュ・ログリッチも、前日の落車で肩脱臼に苦しんだゲラント・トーマスも、無事に先頭集団で1日を終えた。主要な総合争いに変化はなく、マチュー・ファンデルプールが3日連続でマイヨ・ジョーヌ表彰台に臨んだ。
「明日はスペシャリスト向けのステージだ。一方の僕は、タイムトライアル用バイクに乗ることはあまりない。タイムトライアルではエアロダイナミクスが非常に重要で、この点に関してはあまり練習したことがない。だから難しいだろうな。でも、もちろん、このジャージを守るために、出来る限りの努力を尽くす」(ファンデルプール)
ちなみに1時間ほどの全力疾走を常とするシクロクロスやMTBの選手は、個人タイムトライアルに強いことで知られている。ファンデルプールが色々な自転車を乗り分ける能力を持っていることもまた……公然の事実なのだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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