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サイクル ロードレース コラム 2021年6月29日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第3ステージ】ティム・メルリールが歓喜の区間勝利!落車続きの展開にエフデジGM「我々は変えなければならない」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第3ステージ|Cycle*2021

あまりにクレイジーで、残酷な。そんな終わりが待っていた。ようやく平和な1日が訪れるはずだった。スプリンター向けのブルターニュ巡り3日目は、目も当てられないほどのカオスに襲われた。区間優勝候補から総合優勝候補まで、無数の有力選手が高速で地面に叩きつけられた。アルペシン・フェニックスは2日連続で台風の目となり、ティム・メルリールが区間勝利を、マチュー・ファンデルポールがマイヨ・ジョーヌ保守を成し遂げた。

指にキスしてフィニッシュするティム・メルリール

指にキスしてフィニッシュするティム・メルリール

「まるで夢を生きているような気分だよ。ジロで区間を勝ったことだけでも、すでにとてつもない事なのに、ツールでも勝ってしまった。信じられない。でもこれは現実に起こったこと……だから夢じゃない!」(メルリール)

ブルターニュの天気は猫の目のように変わりやすく、急にお日様が照りつけたかと思えば、一瞬後には厚い灰色雲が雨を連れてくる。当然ながら路面はところどころ濡れ、選手たちの足元を脅かした。スタートから37km地点の落車が、ロベルト・ヘーシンクを帰宅に追い込み、ゲラント・トーマスは20km近い追走の果てに無事に集団復帰を果たしたものの……昨ジロ3日目の悪夢を思い出させた。後に肩脱臼をしていたことが判明する。ただし、こんな事故も、数時間後に訪れる惨事の序章に過ぎなかった。

それでもステージ前半は、大会3日目にしてようやく、グランツール序盤戦らしいクラシカルな展開が繰り広げられた。すなわちスタートと同時に逃げ集団が出来上がる。前線へ飛び出したのはミヒャエル・シェアーにイエール・ワライス、今ステージが繰り広げられたモルビアン県に本拠地を置くビーアンドビーホテルズ所属のマキシム・シュヴァリエとシリル・バルト、さらには初日から3日連続で飛び出したイーデ・スヘリンフの5人。最大3分半ほどのリードを奪いつつ、開幕2日間に比べればいくばくか平坦な道を突き進んだ。

正式な山岳賞保持者として走った前日とは違って、「代理」の赤玉ジャージをまとっていたスヘリンフの狙いは、ずばり、山岳ポイント収集。朝の時点で、総合首位にして山岳賞首位のマチュー・ファンデルプールとは、同点4ptで並んでいた。コース上にたった2つだけ組み込まれた4級峠で、1ptでも手にすれば、つまり自動的にマイヨ・ア・ポワは戻って来る。スヘリンフにとって幸いだったのは、この2日間激しく競り合ってきたアントニー・ペレスが逃げに滑り込まなかったこと。それでも因縁の宿敵のチームメート、ワライスに警戒しつつ、91.8km地点の1つ目の4級峠に向けて遠くから飛び出した。約1kmの努力は楽々実った。単独先頭通過で1ptを回収し、これにてミッション成功。

しかも翌第4ステージには1つも山岳ポイントが登場しないし、第5ステージの個人タイムトライアルも起伏はゼロ。ついでに言うと第6ステージさえ4級峠が1つしか設置されていないから、ファンデルプールがなにかとてつもないことを企まない限り……スヘリンフの山岳ジャージは金曜日第7ステージの半ばまでは安泰だ。だからこそ1つ目の4級峠を終えると、スヘリンフは笑顔で後方プロトンへと帰って行った。逃げの友4人を前線に置き去りにして。

「逃げた3日間のうち、最も簡単な1日だった。他の選手たちは、親切にも、僕に点を取らせてくれた。脚を止めたのはプロトン内のチームメートたちを助けるただったんだ。明日は静かに走るよ……僕にとっては休息日さ」(スヘリンフ)

フィニッシュ直前に落車したカレブ・ユアン

フィニッシュ直前に落車したカレブ・ユアン

残された4人はその先も勇敢に逃げ続ける。しかし2日間お預けを喰らっていたスプリンターの、脚の疼きは防ぎようがなかった。今大会最初の機会をものにすべく、誰もが前のめり気味で突進した。残り64.6km地点の中間ポイントから、早くも俊足たちは火花を散らした。ちなみに3日連続で、メイン集団内の中間スプリントは、カレブ・ユアンが制した。

ひとたび上がったスピードは、もはや収まりようがなかった。ひどく曲がりくねった不安定な細道では、せわしなくポジション争いが繰り返され、ぴりぴりと一触即発の雰囲気がプロトンを覆いつくし。逃げる4人もがむしゃらにペダルを回し続けたものだから、なおのこと後方プロトンはスピードを上げた。残り15kmほどで前からシュヴァリエは脱落したが、シャール、ワライス、バルトは最終的に残り5.5kmで吸収されるまで、渾身の力を振り絞った。

後半の恐怖劇場は残り12kmほどで幕を開ける。荒野の平坦な直線で、まずはヴァランタン・マデュアスが転び、初日の巨大落車の犠牲者の1人でもあるミゲルアンヘル・ロペスも巻き込まれた。

続いて残り10.5km。荒れた野っぱらの細道で、プリモシュ・ログリッチが道路から押し出された。昨大会総合2位は左半身からもろに倒れ込み、マグナス・コルトも地面に転がった。すでにステージ前半の落車でヘーシンクを失ったユンボ・ヴィスマは、できる限りの要員を集結させた。初日に観客の不注意によりメッセージボードに激突し、いまだあちこち包帯でぐるぐる巻きのトニー・マルティンや、同じ落車で傷だらけのマイク・テウニッセンが、先頭に立って総合エースの救済に必死で努めた。

包帯だらけの身体で牽引するトニー・マルティン(中央)

包帯だらけの身体で牽引するトニー・マルティン(中央)

残り4km、下りカーブで、またしても痛々しい落車が発生する。昨大会覇者タデイ・ポガチャルは幸いにもすぐに走り出したが、スプリンターのアルノー・デマールは早くもスプリントの望みを絶たれた。バーレーン・ヴィクトリアスは数人が犠牲となり、特に前日まで総合6位につけていたジャック・ヘイグは、路上に倒れたまま動けない姿が今大会の見納めとなってしまった。

プロトンは滅多切りにされた。「タイム救済措置」の発動する残り3km地点に入る頃には、前線はもはや40人ほどしか残っていなかった。無我夢中でロット・スーダルが行軍を続け、総合勢の中では数少ない生き残りのリチャル・カラパスを連れ、イネオスのアシストも前線に踏みとどまった。

なにより複数を残していたアルペシンが、隊列を組みあげた。残り2kmからは光輝くようなマイヨ・ジョーヌが、獰猛なまでの牽引を披露する。前日チームメートの献身に支えられたファンデルプールは、この日はフラムルージュどまで、自らの持てる力を友たちのために存分に使った。あまりに凄まじい引きだったものだから、さらに集団は小さく引き千切られた。

世界最高峰ワールドチームではなく、プロチーム、いわゆる「2部チーム」のアルペシン列車は、最後まで最前列を突っ走った。しかも昨ブエルタのスプリント区間勝者のヤスパー・フィリップセンが、今ジロの初スプリントステージを制したティム・メルリールを引っ張るという、ハイレベルな組み合わせ。あらゆるビッグチームのスター選手がメルリールの後輪を争った。マイヨ・ヴェール7回のペーター・サガンに、グランツール区間11勝ユアン、ジロポイント賞経験者ナセル・ブアニ、さらにはツール現役最多通算30勝マーク・カヴェンディッシュ……。

ラスト300mは下り気味で、スピードメーターは上限まで降り切れていた。そして残り150m。今ステージ最後のクラッシュが起こる。右への緩いカーブを利用してサガンを追い抜きにかかったユアンが、突如として地面に滑り落ち、サガンもろともなぎ倒した。

おかげで2人の「後ろ」にいたその他全員は、当然ながら微妙な軌道修正を余儀なくされる。ただ2人の「前」にいたアルペシン2人組だけが、悠々とフィニッシュラインを先頭で越えることができた。朝のチームミーティングで決めた通りに、メルリールが区間勝利を獲りに行き、フィリップセンとのワンツーフィニッシュを果たした。総合で8秒差につける「ジュリアン・アラフィリップが先頭集団に踏みとどまっていたせいで、最後まで力を抜けなかった」というファンデルプールも、フィニッシュラインで右の拳を高く突き上げた。

「スプリント準備の仕事は好きだし、チームメートたちにお返しができたことに満足している。今日の僕らチームが成し遂げたことは、とてつもないこと。僕らのツールはすでに成功したと言ってもいい」(ファンデルプール)

プロチーム(旧プロコンチネンタルチーム)がツール1大会で区間2勝以上を上げるのは、2012年のユーロップカー以来9年ぶり。また今年のジロ&ツールで最低1つずつ区間を制した初めてのチームとなり、もちろん今年のジロ→ツールを連戦した21選手の中で、今のところメルリールこそが両大会で両手を上げた唯一の選手である。

本来ならば今年のジロ・ツール・ブエルタで1つずつ勝つ予定だったユアンは、この日の落車で、目標達成は不可能となった。フィニッシュラインにたどり着けぬまま、救急車で大会を離れたが……大会ルール第20条に則り、事故の時点で所属していた集団と同じフィニッシュタイムと区間最下位の順位が与えられた。ただし右鎖骨の骨折が判明し、すでにチーム側により第4ステージの未出走が発表されている。

もちろん同時に落車したサガンも、メルリールとの区間タイム差は0。そしてタイム救済の対象となったのは、このライン手前150mで転がり落ちた2人だけ。敢闘賞シャールが「ラスト10kmの道は細すぎた。スタンダードなサイズとは言えない」と批判し、ポガチャルが「ラスト8kmからレースをニュートラルにすべきだった」と声を上げたが、救済対象3km圏外で落車した犠牲者に、救いの手は差し伸べられなかった。

つまりフィニッシュラインにたどり着いた実際のタイムが、機械的に記録された。ポガチャルやトーマスは26秒遅れで、ログリッチやロペスは1分21秒遅れで1日を終えた。おかげで今ステージの朝に総合勢としては最上位総合3位につけていたポガチャルは、6位に順位を下げ、1秒差4位だったログリッチは、20位まで大きく後退した。1秒たりとも失わなかったカラパスは、総合18位から一気に3位へとジャンプアップを遂げた。

「幸いにも五体満足で、どこも折れたりはしていない。たしかに最高の1日ではなかったね。何が起こったのかさえ分からないんだ。とにかくこの先も走り続ける。レースに留まり続ける限り、戦うことは可能なんだ」(ログリッチ)

それにしても、果たして、何が起こったのか。「いまだかつて見たことがない」という声があちこちで聞かれ、グルパマ・FDJゼネラルマネージャーのマルク・マディオは、すぐさま怒りの声を上げた。

「こんなのはもはや自転車レースではない。こんなことを続けてはならない。物事を変えねばならない。変えるべきはマテリアルや練習法であり、無線にコースだ。我々は変えなければならない。選手、開催委員会、チーム、すべての関係者の責任だ。もうこれ以上は無理だ。もしも変わらなければ、死人が出る。そんなの我々のスポーツには相応しくない」(マディオ)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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