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サイクル ロードレース コラム 2021年6月28日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第2ステージ】大好きな祖父に捧げる渾身の勝利。マチュー・ファンデルプール「あなたこそ僕にとって最大のチャンピオンです」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第2ステージ|Cycle*2021

大会の祖国が36年間待ち続けているフランス人マイヨ・ジョーヌは、今年も誕生するかどうかは分からない。ジュリアン・アラフィリップの天下は、一旦は1日で幕を閉じた。

代わりにフランスが45年間、胸の奥に抱き続けてきた小さな後悔が、とうとう消え去った。14回のツール参戦で8度の総合表彰台に上りながら、1日たりとも黄色いジャージに袖を通したことのないレイモン・プリドール。そんな「国民的ププ」の孫マチュー・ファンデルプールが、王者の衣を身にまとった。ミュール・ド・ブルターニュの2度の登坂を、2度とも先頭で駆け抜けて。

「残念ながら、祖父はもうこの世にはいない……。でも、もしも彼が生きていたら、どんなに僕のことを誇りに思ってくれたことだろう!」(ファンデルプール)

勝利の雄叫びをあげるファンデルプール

勝利の雄叫びをあげるファンデルプール

たくさんの包帯と、少し疲れた表情。早くも4人が大会を去り、2日目にしてプロトンは180人に小さくなった。朝のスタート地には、いまだ前日の2つの巨大落車のざわつきが残り、誰もが静かな1日を過ごしたいと願ったはずだ。

しかしブルターニュの道がそれを許さなかった。前日同様、道はひたすらアップダウンの連続で、しかもステージ後半には6つの山岳ポイントが待ち受けている。中でも24時間前に赤玉ジャージを奪い合ったイーデ・スヘリンフとアントニー・ペレスが、この日もスタートから睨み合いを繰り広げた。敵対する2人に割り入るように、エドワード・トゥーンス、サイモン・クラーク、ヨナス・コッホ、ジェレミー・カボも逃げ出した。

スヘリンク3pt、ぺレス2ptで始まった争いは、驚くほどに過熱した。まずは72.8km地点4級峠で、遠くから仕掛けたぺレスが1位通過を果たす。これで3対3の同点。続く103.2kmの4級峠では、両者ともに山頂へ向けてスプリント。あまりに真剣勝負なものだから、まるで区間勝利をかけているのかと錯覚するほど。最終的にはスヘリンクの粘り強さが実り、再び4対3と敵を引き離した。してやったり。そんな表情さえマイヨ・ア・ポワ着用者は見せた。

しかしスヘリンクとぺレスが忘れていたのは、山岳賞レースをしているのは決して2人だけではないこと。残り72km、3つ目の4級峠の5kmほど手前で、トゥーンスがポイント収集の野心を胸に加速を切ると……、2人は動けなかった。お互いを警戒しすぎたせいなのか、ついには共に自滅の道を進んだ。そのままプロトンに吸収され、ポイント収集合戦はあえなく終了。

それにしても、スヘリンクは、この3つ目の山まで粘ってあと1pt手に入れておくべきだった。この1ptさえあれば、少なくとももう1日は、山岳ジャージを着ていることができたのだから。

先を急いだトゥーンスと、しばらく先で追いついたカボもまた、それほど多くは望めなかった。最大4分まで広がったリードは、すでに2分を切っていた。背後ではいくつもの有力チームが隊列を組み上げ、吸収に向けスピードを上げていた。だからこそ残り21km、トゥーンスは改めて加速する。カボを振り払い、独走態勢に持ち込んだ。山岳賞が取れないのであれば、せめて敢闘賞は確保せねばならない……と。

この日4つ目の4級峠を通過した直後に、残り18kmでトゥーンスの奮闘は打ち切られた。望み通りに、赤ゼッケンを背負って第3ステージを走る権利は、手に入れた。

残す山岳は2つ。つまりはミュール・ド・ブルターニュの2重登坂だ。ところで2018年大会でもこの「ブルターニュのラルプ・デュ・エズ」を2回よじ登ったが、1回目の登坂がいわゆる「淡々」と繰り広げられた3年前とは、まるで様子が違った。なにしろファンデルプールが、頂までいまだ1.7kmを残した地点で--つまり全長2kmの坂道をわずか300m上っただけで--大きな一撃を振り下ろしたのだ。マイヨ・ジョーヌ擁するドゥクーニンク・クイックステップ隊列や、複数の総合本命チームの横をすり抜けつつ、とてつもないスピードで飛び出して行ったものだから……一気に集団内はカオスと化した!

フィニッシュまで17km地点のこの攻撃は、ただし、勝利に向けたアタックではなかった。だからこそ何度も振り返り、後方の位置を常に確認した。燃え尽きてしまわぬように、最低限の距離だけを保ち続けた。理由は単純。1つ目のてっぺんでは、上位通過者3名に8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが与えられる。初日を終え総合18秒差につけるファンデルプールにとって、これぞ絶対に不可欠なアイテムだった。

「ボーナスタイムを収集したかった。それが今大会でマイヨ・ジョーヌを手にするための、唯一にして最後のチャンスだと分かっていたから。このタイムが必要だった」(ファンデルプール)

大胆に、そして賢く8秒を回収したファンデルプールの背後では、やはり首位まで18秒差につけていたタデイ・ポガチャルが、アシストと共に集団牽引に努めた。ちなみにステージ序盤に本人から「1回目にアタックするかも」と聞かされていたが、冗談だと思っていたらしい。「あれは本気だったんだね。ビックリした」というポガチャル自身も、山頂では2位争いのスプリントを制した。総合14秒遅れプリモシュ・ログリッチ、マイヨ・ジョーヌのアラフィリップ、さらには23秒遅れリチャル・カラパスを蹴散らし、5秒を懐に入れた。

ボーナスタイム用アタックを成功させると、ファンデルプールは一旦静かに集団へ吸収された。しかし休んでいたのはほんの10km弱だけ。イネオス・グレナディアーズが5人で隊列を組み上げ、厳しいテンポを強いる最前列に、4人隊列で殴り込みをかけた。元ジロ総合覇者テイオ・ゲイガンハートや昨ツール総合3位リッチー・ポート、元世界王者ミハウ・クフィアトコフスキーといったそうそうたる顔ぶれが引っ張る列車に、元パリ〜ルーベ2位シルヴァン・ディリエの先頭車両は堂々と張り合った。

クサンドロ・ムーリッセの残り1.7kmの猛加速は、どうやらタイミングが早すぎた。後輪にファンデルプールが張り付いていないことを悟ると、アルペシン・フェニックスのアシスト役はすぐに脚を緩めた。むしろ数百メートル先でのナイロ・キンタナのアタックは、エース本人が穴を埋めに走った。ジロ&ブエルタ総合覇者の攻撃に続いて、「上れるスプリンター」に分類されるソンニ・コルブレッリも加速を試みるが、ロード&シクロクロス&マウンテンバイクの3種目を網羅するオールラウンダーがきっちり動きを封じた。

残り800m。ファンデルプールがこの日2つ目の加速を切った。今度こそは勝利のためのアタックだった。もはや力を出し惜しみする必要などなかった。一気にライバルたちとの距離を開くと、ひたすら無我夢中でペダルを踏んだ。

「誰も僕についてこなかった。だから先を急ぎ続けた。残り500mはひどく身体が痛かった。でも勝つためには、全力で行かなければならないことは分かっていたんだ」(ファンデルプール)

マイヨ・ジョーヌに袖を通したファンデルプール

マイヨ・ジョーヌに袖を通したファンデルプール

祖父と同じ26歳でツール・ド・フランスデビューを果たしたファンデルプールは、初出場大会で第19ステージを制したプリドールよりも素早く、自身初のツール区間勝利を手に入れた。その祖父は、2019年の秋に83歳でこの世を去った。あの日は「あなたは僕の祖父であることをいつも誇りに思っていてくれました。でも僕はあなたの孫であることをもっともっと誇りに思っています。あなたこそ僕にとって最大のチャンピオンです」と手紙にしたためた。今区間は天にいる「大好きなパピー」に、勝利を捧げた。

また祖父プリドール区間7勝、父アドリ区間2勝と合わせて、三世代でツール区間10勝目。その父が1984年大会で1日だけ着用したマイヨ・ジョーヌが、果たしてファンデルプール家に帰って来るかどうかに関しては、後方のライバルたちの結果を待たねばならなかった。6秒後にはにポガチャルとログリッチ、さらにはウィルコ・ケルデルマンが、8秒後にはアラフィリップが滑り込んだ。もちろん1回目通過時のボーナスタイムに、フィニッシュのボーナスタイム(10秒、6秒、4秒)も大急ぎで計算する必要があった。結果はアラフィリップを8秒差で逆転しての……総合首位!

「僕のマイヨ・ジョーヌが100%確定したと告げられた時、感動が湧き上がって来た。強烈な瞬間だった。でもいまだに気持ちはごちゃごちゃなんだ。あらゆる思いを消化する必要がある。明日はきっと心から喜びを噛みしめることができるだろう」(ファンデルプール)

本人にとっても、所属チームのアルペシン・フェニックスにとっても、ツール・ド・フランス初出場・初ステージ優勝・初マイヨ・ジョーヌがいっぺんにやって来た瞬間だった。またボーナスタイム目的で2度ミュール・ド・ブルターニュを先頭で越えたおかげで、予期せぬ山岳ジャージまでついてきた。スヘリンクも同じ4ポイントながら、大会規則により、より格上カテゴリーの首位通過数が多いファンデルプールに軍配が上がった(ファンデルプールは3級峠×2回、スヘリンクは3級首位通過ゼロ)。1975年に誕生した赤玉ジャージに関しては、1985年大会で父アドリが5日間着用している。

一旦1日でマイヨ・ジョーヌを脱いだアラフィリップ

一旦1日でマイヨ・ジョーヌを脱いだアラフィリップ

家族でジャージコレクションを完成させつつあるプリドール&ファンデルプール家に対して、アラフィリップは1人でついに全色コンプリートを達成した。2016年のマイヨ・ブラン、2018年マイヨ・ア・ポワ、2019年〜2021年マイヨ・ジョーヌに続き、この第2ステージ終了後にマイヨ・ヴェール首位に躍り出た。マイヨ・ジョーヌは残念ながらたった1日で失ってしまったけれど……2019年大会ではジャージ喪失2日後にあっさり取り戻していることも忘れてはならない。

また2度の通過で2度とも2位に食い込んだポガチャルは、13秒差の総合3位に前進。2度とも3位のログリッチは14秒差の総合4位につける。起伏と落車の開幕2日間を終えて、昨大会の総合上位2人が、早くも総合争いでわずかながら頭一つ抜け出した。

そしてようやくスプリンター待望の平坦ステージ2日間がやってくる。予期せぬアクシデントが発生しない限り、総合順位の入れ替えは起こらないだろう。新生マイヨ・ジョーヌも「(第5ステージ)個人タイムトライアルまで守れると考えるのが現実的。でもそれ以上はないかな」と語っている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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