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サイクル ロードレース コラム 2021年6月27日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第1ステージ】暴力的な努力の果てに掴んだ栄光。アラフィリップ「だからこそ勝利はよりいっそう美しいものになった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第1ステージ|Cycle*2021

まるで自分のために描かれたようなフィニッシュで、威風堂々、ジュリアン・アラフィリップが大きな一発を振り下ろした。大急ぎで虹色から黄色に衣替えし、いきなりフランスを熱狂の渦に巻き込んだ。難解なブルターニュのコースでは、いくつかの大きな集団落車が発生し、初日で早くも数人の総合勢が貴重なタイムを失った。

「言葉にならない。正直言って、クレイジーだよ!世界チャンピオンジャージで今ツールに乗り込むことだけでも特別なことなのに、それをツールのマイヨ・ジョーヌと取り替えただなんて……信じられないような気分だ」(アラフィリップ)

肌寒いブルターニュに、ツール・ド・フランスが熱気を連れてやって来た。本来であれば6月末まで維持される予定だったありとあらゆる制限が、想像以上に順調な状況改善のおかげで、6月半ばに一部解除された。おかげで多くの観客が、たった15分で判明する無料抗原検査の結果を携えスタートエリアに詰めかけ、帰ってきた広告キャラバン隊のお土産を目当てに、沿道には子供たちの黄色い歓声が飛んだ。フィニッシュエリアで観客がガンガンと両手で広告パネルを叩く音さえ、懐かしく耳に響いた。

誰もが「いつもの」ツールの回帰を喜んだ。……喜びすぎて、少し興奮が過ぎてしまった者たちもいた。「観客が戻って来たことは良いことだけれど、つまりは騒動も戻って来た」と、落車に巻き込まれた1人、ワウト・ファンアールトも語ったように。

開幕ラインステージとしては珍しく、大会初の逃げはすぐには出来上がらなかった。ひたすらへこみとでっぱりしかない200km弱のコースに、山岳ポイントが6つも待ち受けていたのだから当然だ。スタートフラッグが振られた瞬間から全速力で始まったアタック合戦は、1つ目の凸を乗り越え、15kmほど走ったのちに、ようやく少しずつ実を結び始めた。ついには20km過ぎに6人のエスケープが完成した。

逃げたイーデ・スヘリンフ、アントニー・ペレス、コナー・スウィフト、クリスティアン・ロドリゲス、ダニー・ファンポッペル、フランク・ボナムールは、メインプロトンからそれほどの余裕は許されなかった。本日の優勝候補を擁する2チーム、アルペシン・フェニックスとドゥクーニンク・クイックステップが責任を持って集団制御を行ったせいだ。ただ3分半から4分ほどの差で、延々と前を泳がされた。

レーススタート前の選手たち

レーススタート前の選手たち

その間にスプリンターのはずのファンポッペルが山頂を1つ手に入れた。昨大会2日目に山岳賞首位に立ちながら、赤玉を羽織る前に落車事故で大会を去ったぺレスもまた、リベンジのポイント収集を行った。その背後で2位に甘んじたスヘリンフは、残り約84km、4つ目の坂道めがけてがむしゃらに飛び出した。

「僕よりスプリントに強い選手がいると悟ったから、次の上りでは遠くから仕掛けようと決めた。すぐに差がついて、しかもその差が大きいことに気が付いたから、自分にこう言いきかせたんだ。……レッツゴー!」(スヘリンフ)

完全なる独走態勢に持ち込んだスヘリンフの、赤玉獲りの奮闘の背後では、残り62.7km地点で緑に向けた最初の戦いが繰り広げられた。残された中間ポイントを巡ってスプリンターたちがしのぎを削り、マイヨ・ヴェール経験者のペーター・サガンやマイケル・マシューズを退けたカレブ・ユアンが2位通過=集団内先頭通過。大会3日目にやってくる大会最初の本気スプリントの前に、上々な脚の調子を見せつけた。

そしてこのスプリントをきっかけに、メインプロトンは徐々に最終盤の戦闘モードへと切り替わっていく。総合本命を擁するチームがこぞって前線に競り上がり、狭く曲がりくねった道で、隙間なく隊列を組んだ。約3週間前にプロ初勝利を上げたばかりのスヘリンフが、5つ目の山岳でも先頭通過をさらい取り--頂上では思わずガッツポーズさえ飛び出した--、23歳でツール・ド・フランスで初めての山岳ジャージを確定させた喜びの直後に……同じ場所が混乱の舞台に変わる。

まさにドミノ倒し。道路右端で前から2番目を走っていたトニー・マルティンが、観客が手にしていたメッセージボードに接触し、激しく地面に転倒。当然のように背後のユンボ・ヴィスマ隊列数人も巻き込まれ、プロトンの半分以上がなぎ倒された。しかも前線で被害を免れたのはほんの20人程度だったというのに、前に5人残していたドゥクーニンク・クイックステップがすぐには加速を止めなかったせいで……無数の犠牲者たちは時には小集団で、時には1人で追走を余儀なくされた!

幸いにもしばらく先でウルフパックはスピードを落とす。またスヘリンフを残り27kmで吸収したこともあり、集団内は徐々に統制を取り戻していく。ステージ優勝候補に名を挙げられたファンアールトやソンニ・コルブレッリは先頭集団に復帰し、総合優勝を狙うミゲルアンヘル・ロペスも、この時は40秒近い遅れを無事にゼロまで戻した。

それでも、すぐに、集団内の雰囲気は再び過熱していく。残り15kmを切るとポジション争いは熾烈さを増し、否応なしにスピードも上がっていく。

2つ目の巨大落車はそんな中で発生した。今度はまるでビリヤードの球がはじけ飛ぶように、四方八方に選手たちは投げ出された。ツール総合制覇4度のクリス・フルームや昨季ジロ総合覇者テイオ・ゲイガンハートも巻き込まれたが、フィニッシュまでわずか7kmしか残っていない。誰かを待つために集団全体が減速する、そんな段階にはもはやなかった。

なにより「本命」たちはほぼ全員が前に揃っていた。つまり区間争いの本命も、総合争いの本命も。3kmの最終登坂へ向けて、とりわけドゥクーニンクが猛烈な突進を行った。「狼たちの穴」と呼ばれるこの坂道へ4人隊列を組んで飛び込むと、麓の9%超ゾーンを恐ろしい勢いでぶっ飛ばした。さらには坂道最終発射台ドリス・デヴェナインスが畳みかけるように加速を繰り返し、ついにはその後輪から、アラフィリップが最前線へと躍り出た。残り2.3km。勾配が緩くなる前の一発だった。

「ドリスが脇によけた後、余計なことを考えずに全力で加速した。一旦飛び出してからは、ライバルの人数を絞りこもうと考えた。でも小さな差が生まれたのに気が付いて、悟ったんだ。みんないっぱいいっぱいなんだ、と」(アラフィリップ)

ライバルを試すためのジャブは、終わってみれば決定打となる。アラフィリップはそのまま努力を続けることに決めた。先頭で追いかけていたファンアールトは一定テンポを刻み続けるしかなく、じりじりと間隔を離されていった。すかさず同僚プリモシュ・ログリッチが追走に動き、そこに反応したピエール・ラトゥールがじりじりと追い上げるも、残り1.8kmからのアラフィリップの畳みかけるようなダンシングで、やはり後方へと突き放された。一昨秋に天へ旅立った祖父の果たせなかった夢、マイヨ・ジョーヌに向けてマチュー・ファンデルプールも後方で激しい努力を見せたが、虹色ジャージは前方へと遠ざかっていくばかり。

「乳酸がたまってきつかったし、フィニッシュラインまではひどく長かった。一瞬ふとこれは自殺行為なんじゃないかとさえ本気で考えた。とてつもなく暴力的な努力だった。だからこそ勝利はよりいっそう美しいものになった」(アラフィリップ)

頭を何度も振ったのは、「想像さえしていなかったシナリオ」だったから。右手の親指を口で加えたのは、もちろんほんの10日ほど前に生まれた「モン・プチ」長男ニノ君に捧げるため。最後は天を仰ぎ、それからたくさんのガッツポーズ。

アラフィリップ

アラフィリップ

「すでに僕のツールは『成功した』と言ってもいい。だって美しい勝利とマイヨ・ジョーヌで今大会をスタートすることができたんだから。本当に満足だ」(アラフィリップ)

アラフィリップにとってはツール通算区間6勝目。区間を2018年から4年連続で競り落としてきたのだとしたら、マイヨ・ジョーヌは3年連続で身にまとった。また2003年に設立されたドゥクーニンク・クイックステップの発表によれば、どうやら記念すべきチーム通算グランツール区間100勝目だったらしい!

勝者の雄叫びが鳴り響いた8秒後、マイケル・マシューズが小集団スプリントを制し、ログリッチが3位でボーナスタイム4秒を回収した。もちろんアラフィリップ本人も10秒のボーナスタイムを手に入れ、総合では2位マシューズに12秒差を付ける。2019年14日間、2020年3日間とまとってきた黄色い衣を、すると、今回は……どれくらい守れるだろうか。

「僕の目標はタイムを稼ぐことではなく、勝つこと。もちろん明日の第2ステージもフィニッシュは僕向き。心の底から全力を尽くすつもり」(アラフィリップ)

アラフィリップは例のごとく「総合は狙わない」そうだから、本気の総合勢では、ログリッチが14秒差3位でトップにつける。18秒差にタデイ・ポガチャルやゲラント・トーマス等々の強豪がひしめき、リチャル・カラパスは23秒差で追いかける。ロペスが1分59秒差、ゲイガンハートが5分43秒差と大きく出遅れ、イスラエル・スタートアップネイションはダン・マーティン5分43秒、マイケル・ウッズ8分59秒、フルーム14分47秒と早くも総合系3人が脱落した。

また1つ目の巨大落車でヤシャ・ズッタリンが大会リタイア1号となり、2つ目の落車ではシリル・ルモワンヌとイグナタス・コノヴァロヴァスが大会を去った。フィニッシュエリアに設置された移動レントゲン室はフル稼働で、入れ代わり立ち代わり傷ついた選手たちが診断を受けた。

ステージ後にツール開催委員会は、1つ目の落車の原因となった観客の女性を訴えるつもりであることを発表した。「ツールの主役や英雄は選手たちなのだ。自分がテレビに写るために沿道に来てはならない。あの態度は決して受け入れられないし、許されるものではない」と、大会委員長クリスティアン・プリュドムも厳しく言及する。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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