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【クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 第8ステージ:レビュー】仮想ツール制したリッチー・ポート「ツールに十分匹敵する勝利。次は僕がGやテイオをサポートする番だ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ポディウム
大会のリーダーを示すマイヨ・ジョーヌ。本家ツール・ド・フランスと、このクリテリウム・ドゥ・ドーフィネとでは、主催者が同じA.S.O.とあってほぼ同じデザインを採用する(ドーフィネは胸に青いラインが入る)。
だから、というわけではないだろうが、8日間の激戦を制したリッチー・ポートはマイヨ・ジョーヌに袖を通した気持ちを問われて「ツール・ド・フランスに十分匹敵する勝利だ」と喜んだ。
もっとも、ポートにとってドーフィネはパリ~ニースと並んで自身に最も適したレースだという。
「過去2回、個人総合2位を経験していて、勝利に近づいていた。ついにこの大会の歴史に名を刻むことができる。僕にとっても、チームにとっても夢の実現だ」(リッチー・ポート)
これで、心おきなくツールへと向かうことができる。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ最終日は、例年に違わずタフな山岳コースが用意された。147kmと比較的短めなレースに対して、6つのカテゴリー山岳を詰め込んだハードなレイアウト。特に最後の上り(フィニッシュ前も無印の上りだが)となるのが、超級山岳コル・ド・ジュ・プラーヌ(登坂距離11.6km、平均勾配8.5%)。アルプスのレースでは常連でもあるこの上りが、マイヨ・ジョーヌの最終的な方向性を定める。
そんな運命の1日は、大人数の逃げで幕を開けた。一時は25人が先行したが、メンバーの入れ替わりや人数の絞り込みを経て18人で落ち着く。この中に、総合で2分51秒差につけるパトリック・コンラッドが入ったことで、メイン集団は完全な容認ムードとはならなかった。
加えて、ドーフィネ最終日といえば、チーム戦や奇襲戦の応酬となるのが常。すったもんだの末に大会の覇者が決まる傾向にあるから、マイヨ・ジョーヌを守りたいイネオス・グレナディアーズは徹底して集団のコントロールに勤しんだ。
とはいっても、やはり簡単にはこのレースが終わるわけがない。コル・ド・ジュ・プラーヌに入りイネオスのアシスト陣が1人、また1人と減っていくと、次々とアタックがかかった。幸いにしてそのほとんどが脅威とはならなかったが、アシスト陣の脚は削られた。頂上手前でのジャック・ヘイグのアタックには、テイオ・ゲイガンハートとゲラント・トーマス、2人のリーダー格がチェックに動いたほどだった。
さらに、直後の下りでは総合タイム差17秒で追うアレクセイ・ルツェンコが仕掛けた。同様に下りを得意とするヨン・イサギレとのコンビプレーでグングンと加速する。これをトーマスが抑えに走るが、肝心のポートは「ここのダウンヒルは何度も経験していて、下り方は熟知していた」という割にはどうにも付ききれない。セーフティーを選択したとはいえ、あまりに慎重に下りすぎた。
この状況に追い打ちをかけるように、ルツェンコをチェックしていたトーマスが落車。素早くバイクに戻ったとはいえ、局面は下りである。完全にスピードに乗ったルツェンコたちをポートは自ら追いかける必要に迫られた。
しかし、そんな時こそ結束力が高まるのが一大勢力の強みである。
ポートを支えるイネオスの選手たち
「周りにオーストラリア人ライダーが数人いたことがプラスに働いた。ジャック(ヘイグ)は終始僕を助けてくれていたし、ベン(オコーナー)は下りで前(ルツェンコたち)との差を詰めてくれたんだ」(ポート)
もちろん、マイヨ・ジョーヌを争うライバルだけど、後ろに取り残されかけた者同士で利害が一致していた。それも同胞で。
「最後の6kmは理想的ではなかった」というように、単騎になったポートを出し抜こうと、次々とアタックがかかった。何度も自らがチェックに走ったが、耐えているうちに牽制状態となり、さらには傷を抱えながらトーマスが戻ってきた。さすがはツール覇者である。最後はその走りと存在感で総合勢ひしめくグループをまとめ上げ、ポートの大会制覇をお膳立てした。
「ただただ素晴らしい。いつかはこのレースに勝ちたいと思っていた。妻と幼い2人の子供から離れて過ごした時間が報われた。本当に価値ある勝利だ」(ポート)
36歳まだまだ健在をアピール。そして向かうはツール・ド・フランスである。さて、こうなってくると話はまたしても例の方向へと進んでいく。そう、「イネオス誰がリーダーか論争」である…。そんな周囲の見方を予測してか、はたまた本心か、ポートの一言が“ひとまず”の答えである。
「いや、ツールについては幻想を抱くつもりはないよ。G(トーマス)やテイオ、そしてチームメートが僕を助けてくれたように、今度は彼らをサポートする番だ。彼らに恩返しがしたい。それだけははっきりさせておくよ」(ポート)
イネオス・グレナディアーズへの復帰条件とされた「ツールでの山岳アシスト」。そこは自身も、チームも揺らがない。真相は、近いうちに必ず明らかになる。
かたや、マイヨ・ジョーヌを賭けた争いのはるか先では、ニュースターが誕生していた。マーク・パデュン、前日のステージ覇者がまたも驚異的なクライミングを見せたのだ。
「プランは逃げに入って、ジャックのために前待ちをすることだった。最後の上りで仕事をする準備をしていたのだけれど、チームカーから山岳賞が狙えるぞ、と言われて…」(マーク・パデュン)
自身のために走ることをチームから許可されると一気に勢いづいた。カテゴリー山岳の頂上ではポイントを次々と確保し、コル・ド・ジュ・プラーヌの入口では一緒に逃げてきた選手たちを全員振り払った。この時点であったメイン集団との2分30秒差は、頂上に到達すると3分以上の開きに。もはや、逃げ切りへはトラブルを避けるだけだった。
「最後の上りの途中で後ろとは2分差あると聞かされて、すべてが楽になったよ」(パデュン)
前日の勝利では「夢なら醒めないで!」と気持ちをストレートに語った24歳は、この日も喜びを体いっぱいに表した。残り1kmを切ってからは、チームカーに拳を掲げ、沿道には両手を振り、その表情は破顔一笑。高地トレーニングの失敗で体重を落としきれず苦しんだ日々を払拭する、会心の逃げ切り。
すっかり今大会の顔で、今季好調のバーレーン・ヴィクトリアスを象徴する1人ともなったウクライナ人ライダーに、ツールメンバー選出の芽はあるだろうか。「苦労もあったけど、今大会で脚の良さは実感できたよ」との素直な言葉は、チームに対して、そして観る者への最大のアピールだ。
日替わりでヒーローが現れ、日本勢唯一の参戦となった中根英登の献身的な姿に沸いたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。ツール前哨戦との長年の呼び名にふさわしい、ハイクオリティのレースが展開された。チームへの忠誠を語るポートに、総合力という新たな可能性を示したルツェンコ、そして3年ぶりの王座奪還に向けてエンジンの動きは問題ないトーマス…本番に向けた楽しみが膨らむ8日間だった。
ツール・ド・フランス本番まで、あと2週間。勇者たちはドーフィネを足掛かりに、ロードレース最高峰の舞台へと突き進んでいく。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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