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【クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 第6ステージ:レビュー】バルベルデがイネオス勢の連日の奇襲許さず「どの勝利も特別で、美しいものばかりだ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介区間勝利のアレハンドロ・バルベルデ
フィニッシュ前約10kmは連続する3級山岳。上りが始まるタイミングで、ミゲルアンヘル・ロペスはアレハンドロ・バルベルデにこの先どうすべきかを確認した。
「先頭を引く必要があるかと確認してきたから、実行してほしいと告げたんだ。完璧な仕事ぶりだったよ」(アレハンドロ・バルベルデ)
その時点で先行していたのはローソン・クラドックただひとり。すでに射程圏に捉えていたし、メイン集団内から繰り出されるアタックにもすべてロペスが問題なく対処した。あとは、バルベルデが作業を仕上げるだけだった。
残り500mでのテイオ・ゲイガンハートのアタックには、「ゲラント・トーマスが脚を止めたので、追うべきは誰かなのがすぐに分かった。そこからは全力を尽くすだけだった」。残り50mで先頭へ出ると、目に前にあったのはフィニッシュラインだけ。会心の勝利に胸がいっぱいになった。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネは、第6ステージでアルプス山脈へと踏み込んだ。上りはレース後半に集中し、最後の約10kmはコート・ド・ラ・フレットとル・サペ=アン=シャルトルーズ、2つの3級山岳を上ってフィニッシュ。今大会最初の山頂フィニッシュに設定され、いよいよ総合争いも本格化する。
ひっきりなしに続くアタックと追い風が作用し最初の1時間が50.3kmとハイペースで進んだレースは、難産の末に14人が先頭グループを形成。ただ、メイン集団はそのまま容認するわけはなく、タイム差は最大でも3分程度にとどめて、いつでもキャッチできる態勢を整える。
先頭グループでは、2級山岳の頂上でマシュー・ホームズが山岳ポイント加算を狙ったり、中間スプリントポイントでグレッグ・ファンアーヴェルマートが加速したりと、細かな動きが繰り返された。そうした中から、残り30kmを切ったタイミングでジュリアン・ベルナールがアタック。これを機に活性化し、カウンターアタックを決めたクラドックが単独で抜け出した。
着々と前とのタイム差を縮めていたメイン集団では、ここまで4日間マイヨ・ジョーヌを着続けたルーカス・ペストルベルガーが上りで遅れる。とはいっても、このステージでイエロージャージを手放すことは織り込み済みで、上りに入るまでは集団前方でチームメートのウィルコ・ケルデルマンやパトリック・コンラッドのための仕事に従事していた。
迎えた最後の上りル・サペ=アン=シャルトルーズでもクラドックが1人粘ったが、勢いに勝る集団から逃げ切ることはできなかった。その集団では、モビスター チームの総合エースであるロペスが猛烈な牽引。人数を絞り込むとともに、このステージをバルベルデで狙うことが誰の目にも明らかになった。途中、ルイス・メインチェスやダヴィド・ゴデュ、さらにはゲイガンハートまでがアタックを試みたが、すべてロペスの視界から消えることはできず。ほぼ1人で集団をまとめて、最終局面へと向かった。
ステージ優勝に向け動いたのは、残り500m。ゲイガンハートが一番にアタックすると、その後ろからスルスルと追いかけるのはバルベルデ。最後の50mで追いついてゲイガンハートの前に出ると、そのままトップでフィニッシュラインを駆け抜けた。積極的に動いたゲイガンハートは惜しくも2位。イネオス・グレナディアーズとしては、前日のトーマスに続く奇襲攻撃成功とはならなかった。
モビスタートレイン
4月に41歳になった、トッププロトン最年長のバルベルデ。今シーズン限りでの引退も噂されるが、勝利をどん欲に狙うその走りからはまったく老け込む姿は見られない。何なら、3月のボルタ・ア・カタルーニャをきっかけにレースごとに調子を上げてきているのだ。
「最高の気分! 大会の開幕から数日にわたって支えてくれているチームメートには感謝してもしきれない。今まで多くのレースで勝つことができているけど、どの勝利も特別で、美しいものばかりだよ」(バルベルデ)
この日会心のアシストを見せたロペス、さらには歓喜のバルベルデの後ろでガッツポーズをしていたエンリク・マスと、今大会もモビスター チームはお家芸ともいえるトリプルリーダー体制を敷く。まずバルベルデが目に見える結果を残したが、残る2ステージは果たして。
「総合成績についてはロペスやマスに任せるよ。彼らはいつだって頼もしいし、第7・第8ステージは2人にとってピッタリのコースだしね」(バルベルデ)
ロペスによる終盤の強力な牽引によって、メイン集団に残ったのは20人。この選手たちがそのまま総合争いへと駒を進める。ペストルベルガーが大きく遅れたこともあって、マイヨ・ジョーヌはこのステージを2位でスタートしていたアレクセイ・ルツェンコに回ってきた。彼自身、普通通り走ればイエロージャージが自分にめぐってくることを計算しながら走っていたという。
「ハードなステージだったけど、マイヨ・ジョーヌのために走ったんだ。今日の目標はその1つだけ。自分から攻撃するつもりはなかったし、モビスターとイネオスの動きを注視していれば、狙った結果は得られると思っていた」(アレクセイ・ルツェンコ)
目的通りスペシャルなジャージを手に入れ、残りの2ステージをいかにして乗り切るか。いまなお、総合タイム差1分以内に16人がひしめく大激戦である。
「ジャージを守るために戦うつもりだ。ヨン・イサギレも控えているから、いくつかのカードを切りながらレースを進められる強みもあるしね」(ルツェンコ)
報道陣からは「チームとしてはヨン・イサギレで総合を狙うの?」と問われたルツェンコだが、簡単に手放すつもりはないという。レースの流れからイサギレにジャージが渡るなら問題ないが、残るステージのスタート前からイサギレに任せる前提で走っているようでは戦術が狭まってしまう。もっとも、このままトップの座を守れるなら自分のものにしたい。ルツェンコは本気だ。
第7ステージで大会はヤマ場を迎える。頂上に近づくにつれて勾配が厳しくなるコル・デュ・プレと、8%前後の上りが淡々と続くラ・プラーニュ。趣きが異なる2つの超級山岳がプロトンの前に立ちはだかる。特に、頂上にフィニッシュが置かれるラ・プラーニュはローラン・フィニョンやアレックス・ツーレらが激走を見せた伝説の上りだ。数々の名場面が生まれた場で、今大会の覇権争いは大きな局面へと突入する。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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