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【クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 第5ステージ:レビュー】トーマスの奇襲攻撃成功!「これでTTの失敗から立ち直れそうだ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介インタビューに答えるゲラント・トーマス
計画していたわけではなかったという。ただ、集団内の状況を見て勘が働いた。ソンニ・コルブレッリのスプリントのためにアシストに人数を割いていたバーレーン・ヴィクトリアスの様子を探っているうちに、残り1kmで自然と心と体が動いた。
残り1km。敢然と先頭に立つと、変則的なペアピンコーナーを抜けて一気のフルスロットル。
「コーナーがトリッキーであることは事前に把握していた。無線ではタイム差が広がっていると告げられて、そうなったら全力で踏み続けるだけだった」(ゲラント・トーマス)
トーマスの番手に入ったミハウ・クフィアトコフスキもファインプレーだった。意識的にトーマスとの間隔を開けると、慌てた集団は完全に混乱した。ギリギリまで我慢したコルブレッリが残り200mから猛然と追いかけたが、ほんの数センチ間に合わなかった。
誰も予想していなかったトーマスの奇襲攻撃が成功した。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネは後半戦へ。第5ステージは、主催者発表では175.4kmの平坦ステージとされたが、中盤以降に4つのカテゴリー山岳が集中。どれも登坂距離こそ長くないが、傾斜は決して緩くないものばかり。とりわけ、最後の上りである2級山岳コート・ドゥ・モンルビュは状況を難しくするもので、平均勾配が12%、最大勾配は15%というが、瞬間的に20%を超える急斜面が待ち受けている難所だ。頂上からフィニッシュまでは約12km。ここで遅れてしまうようだと、前へ戻ることは困難になる。
最大で8人に膨らんだ逃げは、リーダーチームのボーラ・ハンスグローエにとって想定の範囲外だった。マイヨ・ジョーヌのルーカス・ペストルベルガーから総合タイム差9秒で3位につけるカスパー・アスグリーンが入ったからだ。
「スタート直後から逃げ狙いのアタックには注意していたが、アスグリーンが行ってしまった。これで僕のスプリント狙いから、メイン集団のコントロールにチームの意識を切り替えざるを得なかった」(ルーカス・ペストルベルガー)
アスグリーンには中間スプリントポイント1位通過によるボーナスタイム3秒を許すことになったが、ボーラ・ハンスグローエはこの状況にしっかり対処した。アスグリーンがチームメートのヨセフ・チェルニーを先行させて、自身は集団に戻る判断をしたこともあって、ひとまず総合が大きく動く可能性は低くなった。
結局逃げはさして強力なものとはならず、チェルニーも、その後単独で集団から飛び出したスヴェンエリック・ビストラムも、集団からすると脅威にはならなかった。
レース終盤は、複数の丘越えや強風を利用して集団を崩そうという動きも見られたが、バーレーン・ヴィクトリアスが中心になってプロトンを統率。コート・ドゥ・モンルビュではイネオス・グレナディアーズやグルパマ・エフデジも加わって集団の人数を絞り込んだが、上り終えると再びバーレーン・ヴィクトリアスが主導権を奪取。前で泳がせていたローソン・クラドックを捕まえて、最終局面へと向かった。
こうなると、コルブレッリの勝ちパターン…かに思われた。だが、それを覆したのがトーマスのアタックだった。残り1kmを合図に先頭へ出て、あとはフィニッシュへと猛進。さすがにトップスピードを維持し続けることは難しく、最後の直線では一杯になったが、懸命に追い込んだコルブレッリをわずかにかわしてトップでフィニッシュに飛び込んだ。
イチかバチかの攻撃。失敗すれば大暴走となりかねない仕掛けには、トーマスのある見立てが関係していた。
「特に計画していたわけではなかったのだけど、バーレーン・ヴィクトリアスが長時間の牽引で人数を減らしていることは分かっていたんだ。残り1kmでトライしてみたら、何かが起こるかもしれないと思った」(トーマス)
ただ、勝てる確信はなかった。仮に集団に飲み込まれても、トップと同タイムフィニッシュなら御の字。それでも、勝ったのだから儲けもの。前日のタイムトライアルでは失速した分を、ボーナスタイム10秒で取り返した。
「昨日の自分にはガッカリしたけど、今日の勝利で立ち直れそうだよ。この先の山岳ステージが楽しみになってきたし、ツールに向けた良いテストの機会とするよ」(トーマス)
牽引するバーレーン・ヴィクトリアス
一方、わずかに抱えていたマイナス要素を見抜かれてしまったバーレーン・ヴィクトリアス。最後の数kmは、コルブレッリを支えられるのがジャック・ヘイグ1人だけだった。それでも、エーススプリンターはこの日のレースを予定通りだったと強調する。
「みんな素晴らしい仕事をしてくれた。本当に感謝しかない。トーマスがアタックした時も、ジャックが全力で僕を導いてくれたんだ。今日はこれが精いっぱいだったよ」(ソンニ・コルブレッリ)
劇的決着の後ろでは、予定していたスプリントをあきらめたマイヨ・ジョーヌの姿が。ルーカス・ペストルベルガーはジャージを脅かされることなく、もう1日黄色をまとうことが決まった。そう、もう1日。
「あと1日マイヨ・ジョーヌを着られるので満足だよ。明日からは総合系ライダーが活躍する日だから、ウィルコ(ケルデルマン)とパトリック(コンラッド)のために仕事をするよ。僕自身がポディウムに上がることはないと思う」(ルーカス・ペストルベルガー)
第6ステージから、いよいよアルプスへ足を踏み入れる。167.5kmのコースは後半に上りが集中しており、3級山岳のル・サペ=アン=シャルトルーズが今大会最初の山頂フィニッシュ。1つ手前の3級山岳コート・ド・ラ・フレットと合わせると、最後の約10kmはひたすら上り続ける。このステージを走り終えた頃には、総合争いの輪郭が大なり小なり見えていることだろう。
「もう1日」マイヨ・ジョーヌを着るペストルベルガーは、チームメートにその座をバトンタッチできるか。自信を取り戻したトーマスはもちろん、着々と総合順位を上げているベン・オコーナーやミゲルアンヘル・ロペスといったクライマーたちもアクションを起こすはずだ。今大会の覇権争い、そして先に待つツール・ド・フランスへの道筋が、少しずつ鮮明になってくる。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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