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【クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ 第1ステージ:レビュー】昨年の落車リタイアのリベンジ果たした“ニュー・デヘント”ファンムール「自分がどこまで行けるか試してみたい」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介マイヨ・ジョーヌを着てインタビューを受けるブレント・ファンムール
このステージ最後にして、7つ目のカテゴリー山岳を前に、チーム無線での指示は「上りの入口から全力で踏め」だった。
フィニッシュまでは12km残っていて、すでにスピードが上がっていたメイン集団は1分を切るタイム差まで迫っていた。だから、最後の上りに力を込めなければすぐに追いつかれてしまうことは明白だった。
指示に忠実に、上りの入口から加速した。すると、一緒に逃げ続けてきた2人は遅れ、頂上では集団とのタイム差が再び開いたことを知った。それに、まだ体力的に余裕がある。フィニッシュまで残すはダウンヒルとわずかな上り。23歳のブレント・ファンムールにとってプロでの勝利は未知なる領域だったが、そんな彼でも「このままいけば勝てる」と悟ることができるほどに、レース展開と自身の好調さが見事なまでにマッチした。
ここしばらくはジロ・デ・イタリアに沸いたサイクルロードレース界。マリアローザに象徴される“バラ色”の日々からバトンタッチされるように、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネは幕を開けた。同時に、レースシーンはツール・ド・フランスに向けた関心でいっぱいになる。長年、「ツール前哨戦」としての役割を果たすドーフィネは、その格好のターゲット。ここで得られる選手たちの動向は、そのままツールへとリンクしていく。
きっと今年も、この大会で活躍した選手がツールの主役に名乗り出るはずだ。3年ぶりの覇権奪還に燃えるゲラント・トーマスは、テイオ・ゲイガンハートやリッチー・ポートらを従えてやってきたし、地元フランスチームからは、ダヴィド・ゴデュやギヨーム・マルタン、ナイロ・キンタナといった“チームの顔”をきっちりとエースに立ててきた。完全復活に燃えるクリス・フルームも最終仕上げの場として乗り込んできた。
また、ツールのメンバー入り当落線上の選手たちも、この大会をいかに走るかがポイントになる。寸分でもチームの戦力として計算できないと見なされれば、最高の舞台に立つことなど許されるはずもない。ドーフィネには、そんな無常さもはらんでいる。
そんな緊張の8日間。昨年は新型コロナ禍の大混乱で開催時期が変わり、ステージ数も5つに減ったが、今年は本来の開催時期に戻ってステージ数も通常通りに。山岳や丘陵がメインではあるが、途中では2年ぶりの個人タイムトライアルも設けられ、総合力が試される構成に整った。
小高い丘を7つ越えるコースセッティングになった第1ステージ。4人がリードし、最大で5分ほどのリードを得た。その後、人数を1人減らして3選手の逃げ態勢がしばし続いたが、最後の上りでファンムールが渾身のアタック。
逃げるファンムール
一方で、メイン集団は着々と前との差を縮めていたが、ところどころで誤算が生じた。トレック・セガフレードはスプリントを狙えるはずだったマッズ・ピーダスンが早々に遅れ、UAEチームエミレーツもアレクサンダー・クリストフが粘り切れず。さらには総合成績を見込まれていたブランドン・マクナルティまで脱落。そうこうしているうちに、先々を見据えてセーフティを選びたいチームと是が非でもスプリントを狙いたいチームとが混沌。意思統一が図られないまま、ファンムールの逃げ切りを許す形になった。
最後の12kmを1人で走り抜いたファンムールはというと、プロトン内ではまだまだ無名とはいえアンダー23時代の2018年には、ロード世界選手権の個人タイムトライアルで2位になった実力者。プロ入り後はタイムトライアルでの実績はないものの、たびたび逃げにトライしているヤングライダーである。先週はベルギーのレースで逃げ切りのチャンスがありながら失敗。さらにいえば、昨年のドーフィネでは第1ステージで逃げに入りながら落車してリタイア。
「今日はとにかく逃げに入りたいと思っていた。本来の目的は山岳賞ジャージだったのだけれど、調子が良かったので逃げ切りに挑戦してみようと思い直した。昨年のリタイアでドーフィネのことを思い出したくない時もあったけど、それを忘れられるくらい今は幸せさ」(ブラント・ファンムール)
予定通り山岳賞のポルカドットジャージを手に入れたばかりか、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール、マイヨ・ブランまで手に入れる想定外の4賞独占。だけど、こうなったらやれるだけのことはやってみたい。
「ドーフィネはとてもタフなレース。でもできるだけジャージを守っていきたい。そのために戦うつもりだし、自分がどこまで行けるか試してみたい」(ファンムール)
ドーフィネでの逃げといえば、4年前の第1ステージで現チームメートのトーマス・デヘントが逃げ切って、4日間マイヨ・ジョーヌを守り続けたことがあった。ファンムールはどこまで行けるだろう。今大会は第4ステージに個人タイムトライアルが控えるが、そこまでトップで乗り切ることができれば、デヘントに並ぶことができる。今回の勝利によって、同じチームで、なおかつ逃げを得意とする走りから“ニュー・デヘント”の呼び名まで授かったが、果たして“本家”に肩を並べることはできるだろうか。
第2ステージも1級山岳を含む5つのカテゴリー山岳越えが待つ。特にフィニッシュまで10kmを切って迎える2級と4級の上りがカギになる。総合争いが活性化するのはもう少し先のこと。このステージは逃げる選手たちと、リーダージャージへその気になるファンムールの走りに注目だ。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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