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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第21ステージ】ツール・ド・フランスの頂点に立ったコロンビアの若き至宝が復活の総合優勝!エガン・ベルナル「失ってしまったなにかを再び見つけられた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか仲間に抱えられて総合優勝を喜ぶエガン・ベルナル
ばら色のハッピーエンド。アルカンシェル姿のフィリッポ・ガンナが、本人曰く「ちょっとしたスパイス」を効かせつつ、大会の初日と最終日を勝ち取った。チームメートのエガン・ベルナルは、マリア・ローザを身にまとい、大会最後の30.3kmを心の底から楽しんだ。22歳でツール・ド・フランスの頂点に立った王者は、24歳でジロ・デ・イタリアを制覇し、「終わりのないトロフィー」に自らの名を永遠に刻みつけた。
「すごくスペシャルだった。いたるところでコロンビアの旗が揺れていて、誰もが僕を応援していた。そしてフィニッシュラインにたどり着いた時、自分は勝ったのだ、そう実感した。信じられないような感動だった」(ベルナル)
いつもどおり、ジロらしく、最後までサスペンスが待っていた。
全143選手中、24番目に颯爽とスタートを切った個人タイムトライアル世界チャンピオンは、コースの途中に2つ設けられた中間計測地点を、いわゆる「圧倒的な」リードで駆け抜けた。9.2kmの第1計測では2位以下に11秒94差、15.7kmの第2計測では5秒06差。第1ステージの平坦8.6kmで時速58.748kmを叩き出したガンナは、20日間の疲れをまるで感じさせぬほどのパワフルさで、この第2地点まで54.280kmで突っ走った。
ところが最後の最後に思わぬアクシデントが起こる。後輪のスローパンク。ガンナは自転車交換を選んだ。残り1.3kmほどの地点で、ブレーキをかけると……新しいバイクに飛び乗った。
「パンクに気が付いた時、ああ、今日はついてない、僕の負けだ、と思ったんだ。自分がかなりのリードを付けているのは分かっていたし、自転車も猛スピードで交換できた。まるでF1並の速さでね。でもフィニッシュを越えた時点で、今日はカヴァニャの勝ちを覚悟してた」(ガンナ)
こうしてガンナは33分48秒60という、暫定1位のタイムでフィニッシュラインを越える。最終走行時速53.787km。ちなみに第2区間からフィニッシュまでの10.6kmのみで考えると、22.39秒遅れの8位に過ぎない。
レミ・カヴァニャの出走時間は、ガンナからちょうど50分後だった。当然ライバルの身になにが起こったのかも把握していた。現役フランスTTチャンピオンは、控えめに走り出し(第1計測は13秒29秒遅れ)、徐々にスピードに乗っていった(第2計測は5秒06遅れ)。イタリアTTチャンピオンが自転車交換で失った時間を考えれば、もはや優勝は約束されていたはずだった。
なんと残り500m、左にカーブを切るべきところで、カヴァニャはまっすぐ進んでしまった。そのままフェンスに一直線。地面に転がり落ちた。
「実は最後のカーブの存在を忘れていたんだ。無線で『気をつけろ!左に曲がれ!』って言われたけど、全速力で走っていたから、そのまま突っ込んで転んだ。とにかくすぐに立ち上がって走り出した。最後まで諦めたくなかったから」(カヴァニャ)
レース後に優しい表情を浮かべるガンナ
残念ながら失ったタイムは大きすぎた。「クレルモンフェランのTGV」は、「トップガンナ」に12秒12届かなかった。最終的にカヴァニャは区間2位に泣き、ガンナが栄光を手に入れた。
「結局のところ、僕らは同じカードで戦ったことになるね。僕はパンクで、彼は落車。このパンクと落車がなかったとしても、同じ結果がでていたと思う」(ガンナ)
ガンナにとっては初日に続く今大会2勝目であり、2020年ジロ第1ステージから数えて個人タイムトライアルステージ5区間連続優勝。昨大会もたしかにテイオ・ゲイガンハートの総合優勝のために「最終盤だけ」働いたが、今大会は9日目にベルナルが早くもマリア・ローザを手にしたため、ほぼ2週間丸々牽引作業に打ち込んだ……その果てにつかみとった大きな勝利だった。
「2つ目のタイムトライアル勝利を、エガンのマリア・ローザと共に祝えるなんて、とてつもないご褒美だよ。この3週間、大いに苦労してきた。でも自分が支えてきたリーダーが、最終日に両手を天に突き上げた時、また次へのやる気がわいてくるんだ」(ガンナ)
最終盤に走り出した総合上位勢は、幸いにも、実力「以外」の要素ではらはらどきどきさせられることはなかった。
3週目に素晴らしい山の走りを見せたジョアン・アルメイダは、得意の個人タイムトライアルでも予想通り区間5位の好走を実現させ、総合8位から6位へと繰り上がった。またコロンビアTTチャンピオンジャージをまとうダニエル・マルティネスも、着実な走りで総合6位から5位へ浮上。また「100%リーダーとして走った初めてのグランツール」で、山もTTも手堅くまとめ、アレクサンドル・ウラソフは総合4位の座を守りきった。
サイモン・イェーツは、出走前からすでに2位からも4位からも遠く、つまり総合3位から動きようのない位置につけていた。2018年大会で13日間マリア・ローザを着用した後、調子の急降下で総合21位に泣いたイェーツにとって、生まれて初めてのジロ総合表彰台となった。
総合トップ3
まさに英雄的な活躍の24時間後、ダミアーノ・カルーゾは区間17位と、またしても堂々たる走りを実現させた。3位イェーツとのタイム差を1分24秒→2分51秒に押し開き、首位ベルナルとの差は1分59→1分29秒へと縮めた。2019年にはヴィンチェンツォ・ニバリのジロ総合2位をお膳立てしたベテランアシストは、その2年後、自らが総合2位の座に立った。
しかも所属チームのバーレン・ヴィクトリアスがフェアプレー賞……つまり3週間通して最も警告や罰金が少なかったチームに贈られる同賞を、「減点ゼロ」で勝ち取った。5日目に本来のリーダーであるミケル・ランダを、9日目にはマテイ・モホリッチを、そして12日目には第6区間勝者ジーノ・マーダーを失い、たった5人で戦ってきたチームにとっては、残された全員でミラノ表彰台に上がる最高の機会となった。
14度目のグランツールでカルーゾが生まれて初めての表彰台に乗ったのだとしたら、やはり14度目のグランツールで、我らが新城幸也も、生まれて初めてチームメートの総合表彰台乗りに貢献した。ステージ序盤のアタック合戦のカオスの中で、平地区間の最終盤で、さらには山の序盤で、カルーゾを背後に引き連れ前線を守り続けた新城の、シーズンこの先の戦いも楽しみにしたい。
そして、この日最後に出走台から走り出していったエガン・ベルナルは、マリア・ローザでフィニッシュラインへと帰ってきた。もちろん「ミスをしないよう、コーナーでジロを失ってしまわぬよう」、序盤約30kmは慎重に走った。そして最後のカーブを曲がり、残り約250mで最終ストレートにはいると、両手を大きく広げた。美しき記念写真と共に、3週間の戦いを締めくくった。
「これが僕にとっては2度目のグランツール優勝だ。冷静なように見えるかもしれないけれど、僕の内側では、幸せの感情が爆発している」(ベルナル)
2019年にコロンビア人として初めてツール・ド・フランスを制し、2021年には初出場ジロ・デ・イタリアで王座に上り詰めた。24歳の若者は、第9ステージでは、生まれて初めて「涙」のグランツール区間優勝も手に入れた。もちろんマリア・ローザと共に、新人賞マリア・ビアンカも持ち帰った。
トロフィーにキスをするベルナル
「(2020年夏以降抱えた)背中の問題のせいで、思うような走りができずに来た。自分の中に疑念を抱えていた。果たして自分がかつてのレベルに戻ることができるのか、勝利への意欲を取り戻せるだろうか、とね。だから今回ジロで、僕が失ってしまったなにかを再び見つけられたと思ってる」(ベルナル)
また所属イネオス・グレナディアーズにとっては、2年連続3度目のジロ制覇。チーム総合成績でも堂々たる首位に立つ。
184人でトリノを走り出したジロ一行は、143人でミラノへとたどり着いた。相次ぐ落車や悪天候で、誰にとっても決して簡単な3週間ではなかった。出走選手8人全員が完走を果たしたのは、全23チーム中、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオとバルディアーニCSFファイザネだけ。コフィディスは4人で、ロット・スーダルはたったの2人で大会を終えた。
ペーター・サガンは7枚のマイヨ・ヴェールに続き、初めてのマリア・チクラミーノを獲得した。ジョフリー・ブシャールは、26歳で少々遅めのプロ入りを果たしてからわずか3年目で、ブエルタ山岳賞に続き、ジロ山岳賞も手に入れてしまった。連日逃げで魅せた2人、ドリース・デボントは中間ポイント賞と総合敢闘賞を、シモン・ペローは計783kmで大逃げフーガ賞を持ち帰った。
全21日間で逃げ切り10回、グランツール区間初優勝13人という、新鮮なサプライズに満ちたジロ・デ・イタリアはまた、表彰台の3人全員が区間優勝を上げ、実力者たちの競演を堪能できた大会でもあった。そのベルナルはブエルタで3大ツール全制覇を目指し、カルーゾは東京五輪代表入りを視野に入れる。そしてイェーツは……4週間後、ツール・ド・フランスのスタートラインに立つ予定だ!
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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