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【Cycle*2021 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ:プレビュー】3年前の再現目指すトーマス、絶対エース温存のユンボ・ヴィスマとUAEチームエミレーツは山岳アシスト陣の底上げ狙う
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ツール・ド・フランス前哨戦 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ
ツール・ド・フランス前哨戦。観る者にとっても、このフレーズだけで「クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ」をイメージできるくらいに両大会の関係性は完全なものとなった。かつては「ドーフィネに勝った者はツールで苦戦する」などと囁かれたこともあったが、2012年にブラッドリー・ウィギンスがドーフィネとツールの両方を制してジンクスを打ち破ると、この10年で5度、両大会の制覇者が生まれている。
そのうちの1人、ゲラント・トーマスは2018年の再現を目論み、ドーフィネに戻ることを決めた。あの時はチームタイムトライアルで総合順位を上げ、その後の山岳ステージを淡々とこなしているうちにリーダージャージを手にしていた。ただ今回は、リッチー・ポートやリチャル・カラパス、さらには昨年のジロ・デ・イタリア覇者のテイオ・ゲイガンハートも合流。そのままツールへとスライドしていくであろうメンツで乗り込んで、大会序盤から主導権を握ろうと考えているようだ。先のボルタ・ア・カタルーニャとツール・ド・ロマンディで強さを見せつけたトーマスにとっては、計算できるアシスト陣のお膳立てのもとトップでフィニッシュへ到達することが大事なミッションだ。
「打倒イネオス」最右翼の2チームは、総力戦となるツール本番を見越してアシスト陣の底上げを図る。タデイ・ポガチャルが地元レースでの調整を選択したUAEチームエミレーツは、ラファウ・マイカ、ダビ・デラクルス、ブランドン・マクナルティが絶対エースの代役を務める。また、プリモシュ・ログリッチを温存するユンボ・ヴィスマも、最強アシストのセップ・クスが何かアクションを起こすはず。スロベニアが誇る2強を欠く中で彼らがイネオス勢に迫ることがあれば、ツールに向けた勢力図はより混沌となってくる。
確かにチーム力ではイネオス、UAE、ユンボが群を抜いているが、そんな空気感に風穴を開けようと躍起になる選手たちの姿も見ることができるだろう。経験ならば他を凌駕するナイロ・キンタナや、ルタ・デル・ソルを勝っていよいよ軌道に乗ってきたミゲルアンヘル・ロペスのコロンビア勢。アスタナ・プレミアテックの新エース候補アレックス・アランブル、クライマーとして存在感を徐々に見せているAG2Rのベン・オコーナーといった伏兵も狙いを定めているはず。根気強く大けがからの復調を目指し続けるクリス・フルームは、スペイン・テネリフェ島でチームメートとトレーニングを行ってドーフィネにやってくる。
前回大会の第5ステージで勝利したセップ・クス
そして、ダヴィ・ゴデュやギヨーム・マルタンのフレンチクライマーも総合戦線に加わってくる。ともに今年のツール開幕地であるブルターニュ出身だから、ドーフィネで勢いづくとその先への期待も高まる。
今年も山岳比重が高めのステージ構成となっているため、スピードマンの出番は限られる。パスカル・アッカーマンやマッズ・ピーダスンといったフィニッシュ前の勝負に強い男たちは、数少ないスプリントチャンスを模索するというよりは、ツールに向けた足慣らしが主目的となりそうだ。
昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で会期が変わり、ステージ短縮もなされるなど混乱の中行われたレースだったが、今年は何とか予定通り開催できそう。フランスも依然不安が続いているが、選手や関係者は前向きにツール前哨戦へと向き合おうとしている。
5月30日 第1ステージ 182km
フランス南東部が舞台となる8日間。大会初日はイソワールが発着地となる。時計回りに大きく1周したのち、イソワールを基点とする北向きの周回コースを約3周。平坦ステージにカテゴライズされるが、勾配5~6%の3級と4級の山岳をそれぞれこなす必要があり、集団にどの程度選手が残れるかがポイント。ともすると、逃げメンバーがそのまま先着する可能性も。
5月31日 第2ステージ 173km
この日から東に向けて少しずつ進んでいく。1級山岳コル・ド・ペラ・タイヤード(登坂距離8.3km、平均勾配7.4%)を皮切りに大小さまざまな変化に対応していく。中盤で一度フィニッシュ地ソーギュに立ち寄り、そこからは南北に時計回りする大周回を1周。終盤に連続する2級と4級の上りでメイン集団の人数がある程度絞られそうだ。
6月1日 第3ステージ 172km
丘陵ステージにカテゴライズされるが、スプリンターでも攻略可能なレイアウト。この日出てくる2つのカテゴリー山岳は前半のうちに上り終え、あとは下りと平坦基調。フィニッシュ前約2.5kmからは上り勾配となるが、集団を崩すほどのものにはならないと思われる。あとは風が強く吹いたり、雨が激しくなるようだと、コンディションを利用した不意の攻撃が奏功するかもしれない。
6月2日 第4ステージ 16.4km個人タイムトライアル
2年ぶりにタイムトライアルステージが復活する。全体的にわずかな上り基調だが、主役はタイムトライアルを得意とする選手たちになりそう。先々に待つ山岳ステージを前に、総合系ライダーが上位戦線に顔をのぞかせることだろう。
6月3日 第5ステージ 175.4km
4日ぶりの平坦ステージ。だが、そう易々とスプリント勝負へとつなげてはくれない。中盤以降集中する4つのカテゴリー山岳は、いずれも登坂距離こそ短いが勾配が厳しい。特にフィニッシュ前約12kmで頂上を迎える2級山岳コート・ドゥ・モンルビュは、平均勾配12%で上り半ばで最大15%に。残り距離を考えると、この急坂で遅れてしまうと集団復帰は困難か。一発に長けるパンチャーの仕事となるか。
6月4日 第6ステージ 167.5km
プロトンはいよいよアルプスへと踏み込む。カテゴリー山岳が後半に集中し、集団の人数を少しずつ減らしていく。今大会最初の山頂フィニッシュは、3級山岳のル・サペ=アン=シャルトルーズ。1つ手前の3級山岳コート・ド・ラ・フレットと合わせると、フィニッシュまでの約10kmを上り続ける格好となる。走り終えたときには、総合争いの輪郭が見えてくるか。
6月5日 第7ステージ 171.5km
今大会の総合成績をかけた争いは、実質この日と翌日に集約されている。中盤に上る超級山岳コル・デュ・プレ(12.6km、7.7%)、最後に上る超級のラ・プラーニュ(17.1km、7.5%)が双璧をなし、マイヨ・ジョーヌの有資格者を決める。頂上に近づくにつれて勾配が厳しくなるコル・デュ・プレで集団の人数がある程度絞られているはずだ。2級の上りとダウンヒルを挟んで迎えるラ・プラーニュは、8%前後の勾配が淡々と続く。一発のアタックよりは、消耗戦に生き残った選手のもとにマイヨ・ジョーヌが渡りそう。1984年のツールでのローラン・フィニョンや、1995年のアレックス・ツーレとミゲル・インドゥラインの激闘、2002年のマイケル・ボーヘルトの勝利など、数々の名場面が生まれた上りが今年はドーフィネの覇権争いを占う。
6月6日 第8ステージ 147km
ドーフィネは最後の最後まで分からない。最終日に何かが起こるのは、もはや恒例行事だ。今回も147kmに6つの上りを詰め込み、プロトンを混乱へといざなう。スタート直後から4級の上りに挑み、その後は連続する2級山岳と1級のコロンビエール峠(11.7km、5.8%)。きっとコロンビエールの頂上にたどり着くまでに、追う立場の選手たちはアシストとともに捨て身の攻撃に出ていることだろう。ただ、ここを過ぎてもレースはまだ半分残されている。3級山岳を経て、最後にそびえるのが超級山岳コル・ド・ジュ・プラーヌ(11.6km、8.5%)。中腹から急斜面へと変わり、10%前後の勾配が約5km続く。ここをクリアして、あとはフィニッシュへ…といきたいところだが、下った後に5km続く無印の上りが控えており、すべてが終わるまで気を抜かせない。レ・ジェに敷かれるフィニッシュラインを通過した時、誰が今大会の頂点に立っているだろうか。
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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