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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第15ステージ】今大会11人目のグランツール区間初勝利!アグレッシヴなロードレースライダーに変貌したカンペナールツ「みんながいるから僕がいる」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかチームジャージに描かれた「手(hand up=救いの手)」をアピール
スタート直後の混乱も、フィニッシュ直前の大雨も、ヴィクトール・カンペナールツの決意を乱さなかった。毅然と一騎打ちスプリントを制し、「ロードレーサーへの完全転向」を成功させた。大好きなチームにもう1つ勝利を献上し、フィニッシュラインでも、表彰台でも、チームジャージに描かれた「手(hand up=救いの手)」を大きくアピールした。
「『ウブントゥ』、つまり『みんながいるから僕がいる』の精神でレースに挑んだ。チームとして戦った。だから僕の勝利であると同時に、チームみんなの勝利なんだ」(カンペナールツ)
短くて、長い1日。ステージ距離は147kmと、2021年ジロのラインステージとしては、2番目に短かった。翌日の長距離&超難関&午前中スタートという三重苦に備えて、できる限り手短に戦いを終わらせる予定だった。
ところが、たった1.8kmのパレード走行を終え、スタートフラッグが振り下ろされてから3km。強い追い風が吹き抜ける、海の上の一本道で、飛び出した20人ほどが猛スピードで前進している最中に..プロトン後方で集団落車が発生。多くの選手が激しく地面に叩きつけられた。わずか数十秒後に開催委員会はレースの一旦停止を決定。スタートから5km地点前後で、プロトンは完全にストップした。
残念ながら4人が途中棄権を余儀なくされた。2週目に入り調子が右肩上がりだったエマヌエル・ブッフマンは、軽度の脳震盪で、総合6位のまま大会を去ることに。ヨス・ファンエムデンは肋骨5本骨折と肺挫傷で、ナトナエル・ベルハネは肩鎖関節脱臼で即時リタイア。ルーベン・ゲレイロは一旦は走り出したものの、肋骨の痛みを訴え、最終的に自転車を降りた。
一旦停止中には、巻き込まれたたくさんの選手たちが治療や自転車交換、さらには破れたジャージの着替えを行った。選手や車列が並び直し、救急車を前方へと送り出して..。ジロ一行は、徐々に秩序を取り戻していく。
そして再スタート。「まずはゆっくりと」との指示の下、154人に小さくなったプロトンは、極めてスローペースでペダルを回した。その2kmほど先で、改めて全力疾走へのゴーサインが出された。
同時に飛び出していったのは、0km地点とまったく同じ。つまりヴィクトール・カンペナールツとマキシミリアン・ヴァルシャイドという、クベカ・アソスの2人だった。さらに同僚ルーカス・ヴィシニオウスキーも、すぐに前へと飛び乗った。
「チームには山頂フィニッシュを争える選手はいないし、この先はものすごく厳しい日々が待っている。だから、みんなで、今日のステージにすべてを注ぐことに決めた」(カンペナールツ)
しかもチームのエーススプリンター、ジャッコモ・ニッツォーロは嬉しい1勝を手に、この日の朝ジロを離れていた。つまり6人になったチームの半分が、逃げへと突き進んだ。
こんなクベカ3人組と運命をともにしたのが12人。アルペシン・フェニックス(ドリース・デボント、オスカル・リースビーク)、モビスター(ダリオ・カタルド、アルベルト・トレス)、そしてすでに今大会に3人しか残っていないロット・スーダル(ステファノ・オルダーニ、ハーム・ファンフック)も、それぞれ2人ずつ前に送り込んだ。やはり今大会「スタート直後の1発目」常連のクイントン・ヘルマンスに、2日連続で逃げたバウケ・モレマ、さらにはシモーネ・コンソンニ、ニキアス・アルントにフアン・モラノというスプリント巧者も紛れ込んだ。
15人が飛び出すと、再開からほんの3kmほどで、メイン集団は素早くカーテンを閉じた。イネオス・グレナディアーズが交通整理に乗り出し、エスケープとのタイム差は急速に開いていった。慌てて4選手がブリッジを企てたが、もはや遅すぎた。30kmほど「芋掘り」を続けたが、ついには諦め、プロトンへと帰っていった。
再スタートから約40km、つまり残り100km地点で、逃げ集団のリードはすでに9分半。イネオス7人全員が淡々とリズムを刻むプロトンとの差は、その後一旦は12分前後で留まった。しかしステージ終盤に雨が降り出すと、この数字はさらに拡大していく。
今大会3度目の逃げに乗るデボントが1度目の中間ポイントを楽々と、序盤2回の山岳ポイントはモレマと争いながら、いずれも先頭通過を果たした。他の選手はほとんど副賞には目をくれなかった。唯一の目標はステージ優勝。かなり早い段階で逃げ切りを確信した前方集団は、残り40kmを切った時点で、さっそく警戒合戦を始めた。
焦点は国境の向こうのスロベニアで待ち構える4級山岳。この日3度登場し、すでに2度目の通過は終えていた。まるでコロナ禍「以前」の世界を思い出させるような、そんな熱狂的なファンたちで埋め尽くされた小さな山は、勾配がとびきりきつかった。問題の3度目はフィニッシュ手前16.5km。平地で飛び出し山で先行したい派と、山まで待って上りで引き離したい派が、軽いジャブを打ち合った。
残り25kmでは、ちょっとしたアクシデントも発生する。カンペナールツが最後尾から飛び出そうしているのを察知し、オルダーニが思わず進路を妨害してしまったのだ。邪魔された側は猛烈に抗議し、審判団はオルダーニに「他選手を危険にさらす行為」があったとして200スイスフランの罰金とUCIランキングからの10ポイント削減を課した。幸いにもカンペナールツには、仕切り直す時間が残されていた。2km先で、やはり最後尾から、改めてロケットのように飛び出していった。
一気に飛び出すヴィクトール・カンペナールツ
55.089kmという現アワーレコード世界記録保持者の渾身の一発に、モビスターのマジソンで元世界王者・現欧州王者トレスが、慌てて追いかけた。世界屈指のルーラー2人についていけたのは、昨夏ど平坦レースで独走優勝をさらった強脚リースビークだけ。山岳巧者カタルドを待ちたいトレスは先頭交代を拒否するが、それでも後方のライバルたちに20秒ほどのリードをつけて山に乗り込んだ。
少し前からメイン集団を困らせていた大粒の雨が、山に入ると、逃げ集団にも降り注いだ。雨と風の国から来たフランドル人カンペナールツは、悪条件など構わず黙々と山道を上った。山頂付近では邪魔なトレスを振り払った。後方ではモレマやカタルド、さらには数人のスプリント巧者たちが猛烈に追走を続けていた。タイム差は延々と15秒から20秒を行ったり来たりし、少しも気を抜くことは許されなかった。だから濡れた路面も恐れず、下りでも果敢に攻めた。
コロナ禍「以前」を思い出させる盛り上がり
フィニッシュ手前4.5kmからの上りも、無印ではあったけれど、やはり勾配15%が控えていた。リースビークは上り前に敵を引き離そうと、2度ほど加速を試みたが、いずれも無駄に終わった。するとカンペナールツは、首に青筋が出るほどの猛烈さで、激坂最終盤をアウターで踏み倒し..ほんの数十メートルほど距離を開いた。そのまま下りも先行した。
「僕はミスを犯した。いや、僕自身がミスを犯したのかどうか、分からない..」とフィニッシュ直後に混乱したようなコメントを残したリースビークは、そのわずかな距離を埋めるのに、雨の中、まるまる2kmもかかった。だから残り1kmでついに後輪をとらえると、そこからラスト250mまでは、決してカンペナールツの前には出ようとはしなかった。
残り1kmで追走との差は相変わらず20秒。目の前の敵の出方を伺いつつ、後方との距離も確認しつつ、とてつもない緊張感が2人を包んだ。濡れた石畳と、残り500mから待ち構えていた小さな連続カーブも、スリリングな雰囲気を煽り立てた。ついにアスファルトの最終ストレートにたどり着くと、残り250m、リースビークが真っ先にスプリントを切った。
しかしカンペナールツは驚くほど上手く切り抜けた。U23時代から手に入れてきた勝利はすべて個人タイムトライアルによる成果で、2019年ベルギーツアーでプロ人生初めてラインステージを..しかも3人によるスプリントで勝ち取った29歳は、残り100mで抜き返した。そのままフィニッシュラインへと先頭で駆け込んだ!
「このシーズンを始める前に、いつもとは少し違うアプローチをしようと考えた。だって個人TTで成績を出すことが、僕にとっては難しくなったから。ガンナ、レムコ、ワウト..。だから僕は目標を変えた。アグレッシヴなロードレースライダーを目指したんだ」(カンペナールツ)
世界戦銅メダル1回、グランツール区間3位以内5回と、個人タイムトライアルではあと一歩で大きな結果に届かなかった。しかし「アグレッシヴロードレースライダーとして戦った生まれて初めてのグランツール」で、とうとう生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。
つまり今大会グランツール区間初勝利を祝った11人目の選手であり、8人目の逃げ切り勝利。また昨季末は解散の危機に脅かされた所属チームのクベカ・アソスにとっては、今大会3勝目。南アフリカ籍の同チームがグランツールで年間3勝以上を手にするのは、マーク・カヴェンディッシュが所属していた2016年以来5年ぶり。
「昨季チームの生き残り問題は本当に難しかった。自分がプロ選手を続けられるのかどうかさえ、分からなかったからね。だから今、このチームで走り続けられていることが、最高にハッピーだ。今の時点で来季のチームスポンサーは決まっていない。このジロ区間3勝で、素晴らしい宣伝ができたと思ってる」(カンペナールツ)
リースビークは2位に泣き、7秒後に追いかけてきた5人がラインへと駆け込んだ。モレマは7位とまたしても勝利は逃したが、メイン集団に大量のタイム差をつけてフィニッシュしたおかげで..トレック・セガフレードのチーム総合首位浮上に貢献した。
そのメインプロトンは17分21秒後に短くて長い1日を終えた。マリア・ローザのエガン・ベルナルは「簡単な1日だった」と手短に振り返った。ただし「チームメートが区間中ずっと働くことになってしまって、疲労してなきゃいいんだけど」と、翌日の難しいステージを前に、記者会見では少し顔を曇らせる場面もあった。
またステージ序盤のレース停止措置を受けて、スタートラインからフィニシュラインまで実際に要したタイムから31分引いたものが、公式なレースタイムとして記録されている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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