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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第11ステージ】総合ライバルに新たなタイム差を突きつける圧巻のアタック劇!ピンクのエガン・ベルナル「この先も両足を地につけて、戦い続ける」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかエガン・ベルナル
予想通りに、白い道が、2021年ジロの総合争いをかき回した。もしかしたら予想以上だったかもしれない。総合上位20人の順位とタイム差は、ただ1人を除いて、すべて変動した。その1人とはもちろん、他でもない、エガン・ベルナル。最初はチームが、最後は本人が凄まじい攻撃力を発揮し、マリア・ローザをさらにしっかりと着込んだ。スタート直後に逃げ出した11人から、ネオプロ21歳マウロ・シュミットが、嬉しいプロ初勝利を手に入れた。
「信じられない。ほんの開幕2週間前にチームからジロに招集されて、しかもシーズン開幕時には、今年グランツールを戦えるとさえ思ってもいなかったのに!」(シュミット)
休息日明けの、総合を左右しかねない1日。なにしろステージ後半には全4ヶ所、通算35.2kmの未舗装路が待ち構えていた。
だからこそ、スタート直後に11選手が逃げ出すと、総合首位擁するイネオス・グレナディアーズはすぐに蓋を閉めた。しかもメインプロトン最前列で隊列は組んだものの、タイム差については気を配らなかった。なにしろ後半の勝負地に向け、体力をできる限り温存しなければならない。総合を脅かす選手の一切いない前方集団に、与えたリードは最大14分半!
「今日は最初から逃げる予定だった。そもそもジロ参加が決まった時から、このステージに印をつけていたんだ。今春のストラーデ・ビアンケに参加し、すごく楽しかったからね。ただ、あまりに簡単に逃げに乗れたからびっくりした。それにすぐに理解した。僕ら逃げ集団でフィニッシュを争うことになるのだ、と」(シュミット)
おかげで区間の争いは、完全に逃げグループに絞り込まれた。第3ステージ覇者タコ・ファンデルホールンに、ジロ区間3勝エンリーコ・バッタリーン、ジロ区間優勝経験者ロジャー・クルーゲ、ブエルタ区間勝者のフランチェスコ・ガヴァッツィとベアトヤン・リンデマン、ベルギー国内王者ドリース・デボントという実力者6人に、さらにはプロ初勝利を追い求めるハーム・ファンフック、ローレンス・ナーセン、シモン・グリエルミ、アレッサンドロ・コーヴィ、そしてシュミットの5人は、フィニッシュ手前69.2kmでいよいよ未舗装路に突入した。
もうもうと巻き上がる白い砂埃の中で、しかし逃げ集団内では長らく均衡状態が続いた。リンデマンだけは2つ目の未舗装路で完全に脱落したが、その他10人は少し飛び出したり、少し遅れたりをひたすら繰り返す。
最終的に逃げ集団の運命を左右したのは、残り10km、4つ目の未舗装路で発生した落車だった。ここで集団が割れ、シュミット、コーヴィ、デボントが抜け出した。さらに最後のグラベルを終えた直後の、最大勾配12%に達する3級峠では、デボントも力尽きた。つまり勝負はグランツール初出場の2人、21歳シュミットと22歳コーヴィに絞り込まれた。
「上りではコーヴィの後輪についていくよう努力した。とにかく生き残ることだけを考えた。決して簡単じゃなかったし、それに前を引かないのは、少しリスキーでもあったんだ。だって、誰が後ろから追ってきているのかまるで分からなかったし、タイム差がどれだけ残っているのかも分からなかった。でも僕は前を引くのを止めた。スプリントに備えた」(シュミット)
マウンテンバイク経験者にして、「技術スキルはシクロクロスで、パワーはトラックで身につけた」と語る多才な新人は、しかも監督から的確な指示を受けていた。最後のカーブは先頭で抜けろ。そこからのラストストレートはかなり短いから……と。そしてシュミットは指示通り先頭でコーナーに突入し、そのまま全力で抜け出すと、残り150mを一気に駆け抜けた。
スイス期待の星マウロ・シュミットが区間勝利
「全力を尽くした。フィニッシュラインが見えた時、もはや脚にはなんの感覚も残っていなかった。ただラインへと突き進んだ」(シュミット)
国内ではU23ロード選手権を制しているし、トラックでは団体追抜代表として東京五輪行きも決めている。こんな「スイス期待の星」にとって、ジュニア、U23カテゴリーを含めて、初めてのロード「国際」大会勝利だった。また今ジロここまでの11日間で実に6人がグランツール初勝利を手に入れ、早くも5度目の逃げ切り勝利が決まったことになる。
はるか後方のイネオス隊列は、未舗装路ギリギリまで速度を上げなかった。むしろのろのろペースで、入念すぎるほどのポジション取りを行ってから、突入直前に突如として恐ろしい猛攻に転じた。
「スタート前から、最初のセクターには先頭で入ること、そのままセクター全体を全速力で突進することに決めていた。だって下りを厳しい速度で走れば、後方の選手は、前についていくのがきつくなるからね」(ベルナル)
埃の中を走る選手たち
やはり東京五輪でイタリア代表として団体追抜出場予定のフィリッポ・ガンナが、ベルナルを後輪に乗せ最前列で突っ込んだ。集団に凄まじいスピードを強いた。くねくねと曲がりくねる白い道の上で、プロトンは細く長くのび、ところどころで亀裂が生まれていく。そしてグラベルセクター中盤からの長い下りで、ついには集団が完全に割れた。
9.1kmの長い砂煙を抜け出したとき、ベルナルの周りに残っていたのは20人ほどだけだった。なんと総合トップ10のうち7人が後方へと置き去りにされ……中でも総合2位レムコ・エヴェネプールが遅れていた!
実はエヴェネプール側の計画も、やはり「最初のセクターには先頭で入ること」だった。だから指示通りにTT巧者レミ・カヴァニャがガンナとポジションを奪い合い、牽引役自身は、ほぼ横並び先頭で最初の未舗装路に突入していたのだが。
「でもレムコは僕の後輪にいなかった。だから少し減速するしかなかったし、その隙にイネオスはさらに締め付けを強めた。そこからはひたすら遅れを取り戻すために走るしかなかった」(カヴァニャ)
1つ目の白い道を抜け出した時点で、エヴェネプール集団の遅れは約25秒。ただ幸か不幸か、遅れた選手が多かったせいで、追走にはそれほど手間取らなかった。総合3位アレクサンドル・ウラソフや総合6位ヒュー・カーシーのアシストたちも協力してくれた。おかげで15km先の2つ目の未舗装路が始まる前に、無事に合流を成功させた。
そこではイネオスは動かなかった。代わりにレースを激化させたのはアスタナ・プレミアテック。ジョージ・ベネットが総合18位トビアス・フォスを連れて一時的に飛び出したのを横目に、ルイスレオン・サンチェスが厳しいテンポを刻む。エヴェネプールは最後尾付近を、まるでヨーヨーのように行ったり来たり。
「2つ目のセクターはすごく苦しかった。そして、3つ目で、また分裂が始まった時、もはや脚は空っぽのように感じた」(エヴェネプール)
3つ目はまたしてもイネオスが大鉈を振るう。第9ステージの未舗装激坂でもとてつもない牽引を披露したジャンニ・モスコンが、破壊的な加速に転じる。エヴェネプールはたまらず後方に吹き飛ばされた。あまりのカオスのせいか、集団に留まっていたジョアン・アルメイダの救出に駆けつけるタイミングが遅れたり、一旦は先に行かせてまた呼び戻したり。少々のごたごたの末に、2人は被害を最小に食い止めるための、長く苦しい追走の旅にでる。
最終4つ目の未舗装路の突入時には、メイン集団はいまだ21人残っていた。あらゆる方面から攻撃が巻き起こった。総合12位マルク・ソレルが下りで加速し、ウラソフもアタックを繰り出した。3人残すEFエデュケーション・NIPPOは、すでに疲弊しきった集団に、非情な速度を強いた。やはり2人が留まったバーレーン・ヴィクトリアスも、精力的に前を引く。未舗装路を出る頃には、集団は15人にまで小さくなり、ベルナルはすべてのアシストを剥ぎ取られていた。
その直後だ。総合勢たちの中から、エマヌエル・ブッフマンが急坂を利用して飛び出した。1分47秒遅れの総合15位を「少し泳がしても大丈夫」と判断したベルナルは、しばらくはEFに仕事をさせておいた。カーシーやウラソフの加速には、厳しく目を光らせた。そしてフィニッシュ手前3.8km、山頂間際で、満を持してピンクの衣がアタック。すぐにブッフマンと合流すると、そのまま猛然と突き進んだ。
前日休息日の記者会見で「ミラノの個人タイムトライアルの前には、エヴェネプールに少なくとも1分半差をつけていたい」と語ったベルナルは、脇目もふらずに前を引いた。残り100mではブッフマンさえも置き去りにして、フィニッシュまでの急坂を全速力で駆け上がった。この春のストラーデ・ビアンケでは3位表彰台に入ったが、この日は「総合勢」の中では、1位でステージを終えた。つまり総合ライバルに、ひとり残らず、新たなタイム差を突きつけた。
「未舗装路のおかげで、タイム差がつけられるだろうと予想していた。大きなタイム差がね。実際にたくさんの選手がタイムを失った。僕自身は一番前でフィニッシュできたことが、本当に嬉しい」(ベルナル)
ベルナルから3秒遅れてブッフマンがフィニッシュ。ウラソフは23秒に被害を食い止めた。26秒後にカルーゾ、サイモン・イェーツ、フォスが滑り込み、最終峠まで2人アシストを残していたカーシーは32秒失った。また「バッドデー」だったというジュリオ・チッコーネは、最終峠での遅れが1分57秒にまで拡大。4つ目の未舗装路で脱落したバルデは、エヴェネプールやアルメイダと同じく、ベルナルから2分02秒遅れで1日を終えた。
総合ではウラソフがひとつ順位を上げ2位45秒差につけ、カルーゾは総合7位から3位1分12秒差へとジャンプアップ。つまり前区間終了時で上位9人がマリア・ローザから1分以内に詰めていたが、今ステージの結果、3位以下はすでに1分圏外に押しやられたことになる。4位にカーシー1分17秒差、5位イェーツ1分22秒差と続き、ブッフマンは15位から一気に6位1分50秒差へ。
またエヴェネプールは総合2位から7位2分22秒差へ後退。1978年ブエルタでベルナール・イノー以来となるグランツール初出場・初総合優勝の夢が、少し遠ざかった。1週目に連日好調さを示したチッコーネも、4位から8位2分24秒差へと順位を落とした。第1セクターで早くも遅れたダニエル・マーティンとダヴィデ・フォルモロは、トップ10圏外へと陥落した。
「まだライバルはたくさんいる。まだイェーツもいるし、カーシーもいるし、ウラソフも、カルーゾもいる。今日は少しタイムを稼いだけど、ジロがどれだけ厳しい大会であるかを誰もが知っているし、残す10日間がどれだけ厳しくなるかも分かってる。この先も両足を地につけて、戦い続ける」(ベルナル)
また休息日の前日に行われた600件のPCR検査は全員陰性だったが、第2ステージ勝者のティム・メルリールが、数日前からの体調不良で大会を離れた。第1未舗装路で落車したヨナタン・カイセドは、即時病院へと搬送された。チーム発表によると幸いにも目立った負傷はなく、脳震盪を警戒し病院で一晩過ごすとのこと。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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