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サイクル ロードレース コラム 2021年5月16日

【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第8ステージ】今ジロ5人目のグランツール区間初優勝!ヴィクトル・ラフェ「もっともっと全力を尽くしたい」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ヴィクトル・ラフェ

両手を広げてフィニッシュするヴィクトル・ラフェ

最初と最後の熾烈な飛び出し合戦をかいくぐり、ヴィクトル・ラフェがプロ人生で初めて両腕を空に突き上げた。前半は総合上位陣にあわやの大混乱が起こりかけたが、マリア・ローザチームの奮闘で無事に秩序を取り戻した。

「信じられないよ。だってワールドツアーで、グランツールで勝ったんだから!」(ラフェ)

幕開けはまるで嵐のようだった。スタートフラッグが振り下ろされると同時に、めくるめくアタック合戦が巻き起こった。しかも、わずか3km地点で飛び出した30人ほどの大集団に、エガン・ベルナルが滑り込んでいたものだから……大騒ぎになった!

前方の選手たちは2019年ツール覇者に退却するよう懇願し、メイン集団はがむしゃらに追走を仕掛けた。強い横向かい風の中、なかなか距離は縮まらない。レムコ・エヴェネプール護衛のレミ・カヴァニャが猛烈に牽引することで、ようやく事態は収集する。……と思ったら「クレルモンフェランのTGV」の加速で分断発生。今度はマリア・ローザのアッティラ・ヴァルテルを筆頭に、総合上位数人が後方に取り残されてしまう。

「僕自身のミスなんだ。位置取りの問題ではない。逃げのコントロールはチームメートたちに託し、僕はできる限り集団内部で体力温存しようと考えていた。周りのGCライダーの動きにただ集中するように努めて、そもそもバルデやニバリがすぐ側にいたからかなりリラックスしていたんだ……。そしたら分断が起こってしまった」(ヴァルテル)

幸いにも、数キロ先で、集団はひとつにまとまった。しかし集団内に充満した緊迫感は、その後も簡単には消えなかった。勇敢なる飛び出しと、厳しい回収作業が、飽きることなく繰り返された。

1時間半分近くの追いかけっこの果てに、スタートから55km、とうとう小さなグループの抜け出しが許された。いまだウズウズが収まらないメイン集団の前列で、ピンクを擁するグルパマ・FDJが全員で隊列を組み上げると、ようやく静かな時間が集団内に訪れた。

出来上がったのは、まずは8人の逃げ集団。今大会2度目の逃げに乗ったアレクシー・グジャール、ネルソン・オリヴェイラ、フランチェスコ・ガヴァッツィ。初逃げのジョヴァンニ・カルボーニ、ヴィクトル・ラフェ、コービー・ホーセンス、ニキアス・アルント。前日のフィニッシュで500m近いスプリントを試みたフェルナンド・ガビリアさえ滑り込んだ。

ところで最後はどのチームも血まなこになって代わる代わる飛び出したせいか、グジャールやアルントのように「本来なら逃げる予定ではなかった」「自分がたまたま前に出たタイミングで決まっちゃった」選手も前に居合わせたようだ。それなのに……この日1番にアタックを打ち、その後もトライを続けたヴィクトール・カンペナールツが逃げ遅れた!だからこそ単独で追走に向かった。10kmの「タイムトライアル」で、無事に合流を果たした。

無我夢中でもぎ取ったエスケープの切符は、区間勝利バトルへの参加券でもあった。総合15分09秒遅れのオリヴェイラを擁するエスケープは、最大7分40秒のリードを許された。

「プロトンが大きなタイム差をくれたのは助かった。おかげで少し体力を回復することができたからね」(ラフェ)

最初の中間ポイントは、2017年マリア・チクラミーノのガビリアが当然獲りに行ったし、2級峠の山頂では小さな争いをホーセンスが制した。その下りでガビリアが落車するアクシデントも発生したが、それ以外の時は誰もが淡々とペダルを回した。

激しいアタック合戦の末、逃げに乗った9選手

激しいアタック合戦の末、逃げに乗った9選手

再び忙しい時間がやってくる。残り19km、最後尾から放ったカンペナールツの強烈な一発が、合図だった。ステージ前半の壮大なドンパチをかいくぐってきた9人だからこそ、誰も簡単には諦めようとはしなかった。道が平坦なうちに飛び出したい派と、最終登坂に勝負を持ち込みたい派とが、執拗に駆け引きを繰り広げた。追いかけ、カウンターを打ち、顔を見合わせ、馬鹿しあい……。

残り8km、カンペナールツが4度目のアタックを試みた。すかさず後輪に飛び乗ったカルボーニにと共に、今度こそライバルたちとの距離を開いた。グジャールは単独で追いかけてきたものの、いつしか力尽きた。取り残された数人には、15秒差をつけた。慌ててオリヴェイラやアルントが追走を仕掛けた。そこまで数度、自らも穴を埋めに走ったラフェだったが、この時ばかりは他人の背後にピタリと張り付いた。

「オリヴェイラや他の強い選手に、あまりにも距離を与えてしまわぬよう気をつけた。かなり上手くコントロール出来たと思うよ。そして残り3km、僕がアタックすべき時が来た」(ラフェ)

全長3kmの最終登坂は、距離こそ短いものの、上り始めた直後に勾配11%の険しいゾーンも控えていた。そもそも道が上り始める直前で、前半の奮闘がたたり、カンペナールツは力尽きた。カルボーニは1人で山を上り始めたが、もはや長くは続かなかった。残り2.7kmの最難関ゾーンで加速を切ったラフェが、非情にも、あっさり追い抜いていった。

「すごくハードだった。10分間の全力疾走だった。でもこれぞ僕が一番得意な時間帯。だから集中して臨んだんだ」(ラフェ)

厳密に言えばラスト3kmの山道を7分で上り切ったラフェが、単独先頭でフィニッシュラインへと駆け込んだ。後続に30秒以上ものタイム差を付けていたおかげで、残り500mから、たっぷりと喜びを爆発させる余裕さえあった。

3年前のU23欧州選手権ではマルク・ヒルシに次ぐ2位に入り、約1ヶ月前のバレンシア一周の上りフィニッシュではエンリク・マスに次ぐ2位に食い込んだ25歳が、ついに1等賞を手に入れた。今ジロ8日間で5人目のグランツール区間「初優勝」選手でもあり、また所属チームのコフィディスにとっては、2010年のダミアン・モニエ以来……実に11年ぶりのジロ区間勝利!(ただし2011年〜2019年は出場していない)

「一昨日は(シルキュイ・ド・ワロニーでクリストフ・)ラポルトが、昨日は(マヨルカトロフィーでヘスス・)エラダ勝って、そして今日は僕の番!チームはポジティヴなスパイラルに乗っているね。チームの誰かが勝つたびに、チーム全体の雰囲気が上がる。もっともっと全力を尽くしたい、そんな意欲が湧いてくる」(ラフェ)

ラフェから4分48秒後、30人ほどに小さくなったメインプロントがフィニッシュ地にたどり着いた。ステージ序盤の「トンネル内の落車」で手を痛めたルイス・フェルファークは、最後の上りで耐えきれず25秒を失い、総合5位から10位へと陥落。また残り1.5kmを切った地点での落車で、地面に落ちたペリョ・ビルバオが30秒遅れ、この時の分断でレイン・タラマエも18秒失った。両者ともに総合順位をほんの少し下げた。

集団内のマリア・ローザ

集団内のマリア・ローザ

これ以外の総合上位選手には変動はなかった。ステージ序盤のミスを教訓に、チーム全員で集団前方に留まり続けたヴァルテルは、3日目のマリア・ローザ表彰台に臨んだ。

「もちろんいつジャージを失うか分からない。そのことは考えないようにしている。ただ自分のパフォーマンスに集中していく。2位との11秒差は、たしかにそれほど大きなリードではない。それでもジャージ保守の可能性はまだ残っている。足の調子はいいし、守りたいという意欲もある。明日もただベストを尽くすだけ」(ヴァルテル)

ちなみに2日前の記者会見で名前の読み方を質問されており、どうやら発音は「ワルテル」が最も近そうだ。表彰式のスピーカーは「ヴォ〜ルテ〜ル」と絶叫しているが、これに関しても「aは『オ』とは読みません」と言及している。

ピンクジャージは移動しなかったが、マリア・チクラミーノは持ち主が変わった。前日ステージ2勝目を上げ、ポイント賞トップに踊り出たカレブ・ユアンが、ステージ前半に膝の痛みを訴えリタイア。前日までの2位ティム・メルリールが、自動的に首位に繰り上がった。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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