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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第7ステージ】壮大な夢を掲げるカレブ・ユアンが区間2勝目でマリア・チクラミーノ獲得「最後には脚が悲鳴を上げた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマリア・チクラミーノを着たカレブ・ユアン
山の合間の静かで平和な1日は、予定通りに大集団スプリントで締めくくられた。爆発的なトップスピードに乗ってカレブ・ユアンが区間2勝目をさらい取り、キング・オブ・スプリンターの証、マリア・チクラミーノも身にまとった。総合上位20位は一切変動がなく、アッティラ・ヴァルテルは、マリア・ローザで過ごす生まれて初めての日を心から楽しんだ。
「予想よりも簡単ではなかったよ。むしろ予想以上に難しかった。最後には脚が悲鳴を上げた。だって基本的に450mのスプリントだったからね」(ユアン)
雨も降らず、風も吹かず、これといった起伏もなく。ハードな1週間を戦い抜いてきた選手たちにとっては、少しご褒美のようなステージだった。スタートが切られると同時に3選手が飛び出すと、プロトンはすぐにのんびりとしたサイクリングモードへと切り替えた。最終的な平均走行時速は38.483km。開催委員会が予想していた最も遅いタイムテーブルよりも、20分近く遅くフィニッシュへたどり着いた。
主催者から招待された3チームは、もちろん前方に選手を送り込み、しっかりレースをもり立てた。前日も逃げを試みながら果たせなかったマーク・クリスティアンが、この日1つだけ組み込まれた山岳ポイントに興味を示したのだとしたら、それぞれ3度目の逃げとなるシモン・ペローとウンベルト・マレンゴは、2つの中間ポイントでスプリント。2度ともにマレンゴが首位通過を果たし、ペローは中間ポイント賞首位に返り咲いた。また逃げ距離164kmを新たに加え、フーガ賞ランキングでも首位ペロー408km、2位マレンゴ388kmと上位2位を独占した。
そんな3人に、メイン集団は最大5分程度のリードを与えた。総合首位擁するグルパマ・FDJと、ステージ優勝を狙うスプリンターチーム……つまりロット・スーダルとクベカ・アソス、UAEチームエミレーツが仲良く1人ずつ人員を前線に配置し、極めて淡々とタイム差制御を行った。
リラックスした時間が流れた。ほんの24時間前には雨と起伏の中で猛烈に戦ったジュリオ・チッコーネとダリオ・カタルドには、生まれ故郷の道を走りながら、おかげで沿道の見知った顔に手をふる余裕がたっぷりあった。22歳ヴァルテルも、ピンク色の午後を満喫した。
マリア・ローザ
「天気が良くて本当にラッキーだったし、ナーバスなステージにならなくてハッピーだ。沿道のファンたちが僕の名前を呼ぶ声も聞こえた。信じられないような気分だったよ」(ヴァルテル)
唯一、1つ目の中間ポイントだけは、メインプロトン前方が騒がしくなった。クベカが3km以上前から仕掛け、ライバルチームを慌てさせた。ただし最終的に上手くやったのはボーラ・ハンスグローエで、ダニエル・オスに導かれたペーター・サガンが集団内で先頭通過を果たした(全体の4位通過)。ちなみにユアンは一切興味を示さなかった。また、もう1つの中間ポイントは、誰ひとりとして動かなかった。
アドリア海の淡い青を眺めながら、ゆっくりとプロトンは逃げを追い詰めていった。そして今大会いまだ逃げる機会のないトーマス・デヘントの、牽引距離が150kmを越えるころ、3人は大きな塊に飲み込まれていった。フィニッシュまで17km。静かな1日にふさわしく、なんの抵抗も見られなかった。
集団がひとつになった直後に、雰囲気はガラリと変わる。プロトン内には急速に緊迫感が充満していく。いよいよ待ちに待ったレースの始まりだ!
スプリンターチームも総合チームも隊列を組み上げ、集団前方で熾烈な場所取りを繰り返した。最終5kmに入るとロータリーやカーブがいくつも襲いかかった。前区間の結果を経て総合争い終了宣言を出したユンボが最前列を突っ走り、コフィディスやアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオも割り込みを仕掛けた。ロット隊列は常にユアンを背後に従えて、好ポジションを保ち続けた。
残り1.5km前後には、右直角カーブと勾配12%の短い坂も待っていた。ここでもまたロットが、先頭でペースを刻んだ。フランチェスコ・ガヴァッツィがアタックを仕掛け、オスが飛びついた時にも、ユアン発射台のジャスパー・デブイストが、急加速することなく一定ペースできっちりと穴を埋めた。
圧巻の走りで区間2勝目をあげたユアン
「チームは本当に素晴らしい仕事をしてくれた。僕にとって最も重要だったのは、前方で上りに入り、自分のペースで上ること。そうすれば体力を温存できるから。もしも後方から上がっていかなければならない場合、スプリントの力が削がれてしまっただろうからね」(ユアン)
ロット発射台が理想通りの働きを実現し、前を行く2人をとらえたタイミングだった。いまだフィニッシュラインまで500m近くも残っていたというのに、しかも発射台2人が側についていたというのに……フェルナンド・ガビリアがとてつもないロングスプリントに打って出た!
たしかに2016年パリ〜トゥールでは500mの賭けを成功させているし、2020年ジロ・デッラ・トスカーナでも、長い加速でライバルをまとめて置き去りにした。この日も一瞬で大きな空間ができた。今度こそはユアン自らが動いた。
「もしも飛び出したのが他の誰かだったら、おそらく少し待っただろう。それにガビリアは一直線に猛スピードで突き進んでいったからね。僕は戦略的に立ち回らなきゃならなかった。いきなり最初から全力で加速するつもりはなかった。ほんの少し、距離を残しておいた」(ユアン)
あえてほんの少し開けていた距離を、残り150mで一気に縮めると、ユアンはスリップストリームを利用してそのまま最前列へ飛び出した。「以前よりはエアロポジションをとらなくなった」とは言うけれど、やはり人一倍低い姿勢で前方へと突き進み、2位以下を大きく突き放してフィニッシュラインを越えた。
第5ステージに続く今大会2勝目を手に入れたユアンは、ポイント賞でも2位ティム・メルリールを23pt引き離し首位に立った。グランツール区間11勝にして、なんと生まれて初めてのグランツールのポイント賞ジャージ。ただ2021年は「史上4人目の同一年3大ツール全区間勝利」「しかもヨーロッパ人以外初」という壮大な野望を抱く26歳は、ジャージ保守は考えてはいない。「ツール・ド・フランスに向けた準備にベストを尽くす必要がある」ため、予定通り最初の休息日前後にスーツケースをまとめるつもりのようだ。
また2位ダヴィデ・チモライは今大会2度目の2位に「満足」し、第2ステージの覇者ティム・メルリールは3位で終えた。真っ先に飛び出したガビリアは6位に沈み、サガンはラスト200mのフェンス接触で、発射台オスが作り出したカオスを上手く利用できなかった。
最後の坂道では総合6位ヒュー・カーシーがトラブルに遭い、2分21秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いた。幸いにも、ラスト3km圏内の落車やメカトラブルでの遅れは、ルールに則って救済される。問題発生時に属していた集団と同タイム、つまりユアンと同じフィニッシュタイムがカーシーに適応された。体調不良で今区間スタートしなかったドメニコ・ポッツォヴィーヴォを除けば、山頂フィニッシュ2連戦の週末を前に、総合争いに一切の変動はなかった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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