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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第5ステージ】ポケットスプリンターが人生4度目のジロ区間勝利「僕の役割はスプリンター」(ユアン)
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか区間勝利を手にしたカレブ・ユアン
前半のリラックスモードを帳消しにするような、緊迫感あふれる最終盤。あらゆる罠を巧みに切り抜けたカレブ・ユアンが、他の追随を許さぬスプリントで1勝目を手に入れた。密集しきったプロトン内ではいくつかの落車事故が起こり、前日の山で存在感を示した総合優勝候補ミケル・ランダが、無念にも負傷リタイアに追い込まれた。
「ほっとした。チームメートたちは自己を超越するほどの仕事をしてくれたし、最後には、僕こそが最高の脚の持ち主なのだと証明することできた」(ユアン)
前日の雨と起伏に大いに苦しめられたプロトンは、しばらくは静かな時を過ごすことに決めた。幸いにも全長177kmのコースはほぼ一本道で、行く手に起伏さえ存在しない。0km地点でフィリッポ・タリアーニとウンベルト・マレンゴが飛び出していくと、もはや誰1人として動こうとはしなかった。
後方では来たるべきスプリントフィニッシュに向け、ロット・スーダルがひたすら淡々とテンポを刻んだ。イスラエル・スタートアップネーションも、マリア・ローザチームとして集団制御の責任を引き受けたが、5日目にしてすでに3度目のエスケープに乗り出したタリアーニと、2度目のマレンゴに、軽々と最大5分半のタイム差を許した。おかげで途中ボローニャ通過時には、地元っ子ロレンツォ・フォルトゥナートが、故郷のファンにたっぷり手をふる時間さえあった。
平和な時間はそれほど長くは続かなかった。たった60kmほど走っただけだと言うのに、タイム差は急激に縮まっていく。一本道に吹き付ける強風のせいだった。不測の事態を避けようと、多くの総合チームが位置取りに神経質になった。その上、70km地点には、1度目の中間ポイントが待ち受けている。スプリンターチームにも加速する理由があった。
逃げる2人は、どうにかぎりぎり先頭で、中間ポイントに滑り込めた。タリアーニが望み通りに1位通過を果たし、中間スプリント賞で首位に躍り出た。ただし直後にプロトンに回収され、フーガ賞(大逃げ賞)の区間記録はたったの70kmで打ち止め。もちろんメイン集団内ではスプリンター数人がバトルを繰り広げ、フェルナンド・ガビリアが先頭を取った。
集団がひとつになり、レースが一旦振り出しに戻った後、しばらくはなにも起こらなかった。その後40km近くも、大きな塊のまま移動を続けた。新たな動きが起こったのは、ようやく残り69kmに差し掛かってから。
飛び出していったのはまたしても..前半と同じくアンドローニジョカトリ・シデルメク&バルディアーニCSFファイザネの2人組。しかし今大会3日目に逃げたシモン・ペローと祝・初逃げのダヴィデ・ガッブロのデュオは、リードは最大でも1分20秒しかもらえなかった。もはや残り距離は少なく、風は強く、しかも最終盤はカーブやロータリーの連続だ。
だからこそ第3ステージの逃げの友アレクシー・グジャールは、ブリッジを仕掛けた。ラスト21kmで前方の2人に追いついた。
逃げに追いつくアレクシー・グジャール(左)
「道がひどくテクニカルだったし、集団内は緊迫した睨み合いが続いてたから、なにか仕出かさない理由なんてないと思ったんだ。トライしなきゃ、面白くない。なにも試さなければ、なにも手に入らない」(グジャール)
粘りに粘って、最終的には残り3.5kmで吸収されてしまうのだが..3人の背後ではたしかに事件が発生した。
残り15km地点では、幅の広い真っ直ぐな道にも関わらず、端に追いやられたパヴェル・シヴァコフが単独で道路に転落。イネオス・グレナディアーズのサブリーダーは、なんとか最下位で完走は果たした。しかし以前の手術で固定した鎖骨の状態が思わしくなく、当夜、翌第6ステージ不出走を発表した。
交通島の存在を喚起するための立哨員に、残り4.5kmで衝突したのが、前日の区間勝者ジョセフロイド・ドンブロウスキーだ。山岳ジャージ姿で地面に投げ出され、そのままミケル・ランダとフランソワ・ビダールをなぎ倒した。ドンブロウスキー本人は幸いにも先を続けられたが、8分以上タイムを失い、総合2位・22秒差の座から一気に陥落。一方のランダは肋骨や鎖骨の骨折で、救急車で大会を離れた。ビダールも完走後に左鎖骨骨折の診断が下り、やはり帰宅を余儀なくされた。
カーブ続きのラスト3kmに突入すると、スプリンターチームの場所取りバトルはいよいよ熾烈さを増す。ロット・スーダルが真っ先にベストポジションをうばうも、直角コーナーを利用して、ボーラ・ハンスグローエとアルペシン・フェニックスが最前列に割って入った。第2ステージで痛恨の連携ミスを犯したUAEチームエミレーツも、2チームの背後につけた。ただ、あまりにも激しく争いすぎたせいか、5つのカーブを抜け出し、ラスト900mの最終ストレートに入る頃には、ほとんどの最終発射台とエーススプリンターは離れ離れになっていた。
だからこそ、長い長い一列棒状の前から4番目という「良いポジションかつ良いリズム」で走っていたにも関わらず、ペーター・サガンは「目の前の選手(UAEのマキシミリアーノ・リケーゼ)に減速されて」タイミングを逃した。結果は4位。そのリケーゼに引かれるはずだったフェルナンド・ガビリアは5位だった。一方で数少ない専用発射台(シモーネ・コンソンニ)の後輪にいたエリア・ヴィヴィアーニは、たしかに完璧な場所まで導かれ、残り200mで最前列へと解き放たれた。ただし「望み得る最高の仕事」をしてもらったとしても、勝てるとは限らなかった。無念の3位。
「最終盤のカーブ連続はひとりで切り抜けなきゃならなかった」と語るジャッコモ・ニッツォーロは、前から9番目、つまりユアンの後輪につけていた。そこから大胆にも大外から仕掛けると、やはり残り200mで風の中へと飛び出した。ジロポイント賞2回、イタリア選手権2勝、ヨーロッパ選手権1勝のジャージコレクターにして、今区間の終わりには晴れてマリア・チクラミーノを手にしたニッツォーロは、しかしジロの区間勝利にだけは縁がない。
「うん、また2位。今回こそは行けた、と思ったことは何度だってあるんだけど、うん、またしても2位だった。今日はまだその日じゃなかった。いつかその日が来ることを、そしてファンたちと勝利の喜びを分かち合えることを願ってる」(ニッツォーロ)
こんなニッツォーロを、今大会2度目の、人生11度目のジロ区間2位に押しやったのはユアンだ。レース最終盤はチームメートたちが盾となり、風から完璧に守ってくれたおかげで、極めてフレッシュな状態でスプリントへ臨んでいた。
白熱のスプリントフィニッシュ
「僕もチームも同じ目標を抱いている。ロットの目標はスプリントを勝つことだし、僕の役割はスプリンターだ。おかげでコンビネーションは最高だし、僕の目標をサポートしてくれる仲間に支えられて本当に幸運だ」(ユアン)
第2ステージのスプリントを完全に失敗してしまったからこそ(区間10位)、この日はチームメートの仕事を絶対に無駄にしたくはなかった。8番手で最終ストレートに入ると、まずは右側から急速に上がるコフィディス2人組の背後に飛び乗った。「ちょっと封じ込められてしまった」し、2日目の覇者ティム・メルリールと軽く接触しバランスを崩しかけもした(メルリールはその後サガンとも軽く接触しチェーン脱落、12位に沈んだ)。
器用に体制を立て直したユアンは、そこから「風の影響を最小に抑えるためのラインを選んだ」。こうしてヴィヴィアーニ、ニッツォーロの背後を斜めにかすめつつ、ポケットスプリンターは、残り75mギリギリまで待ってついにトップに躍り出た!
人生4度目のジロ区間勝利を懐にしまい込み、グランツール区間勝利数も通算10勝に伸ばした。なによりユアンにとって重要だったのは、2021年最初のグランツールで1勝目を手にしたこと。だって今年の目標は、3大ツールすべてに出場し、そのすべてで最低でも区間1勝することなのだ。
「まずは最初の目標を達成できた。だからといってジロから帰宅するには、まだ早すぎる。あといくつかスプリントしたいんだ。第10ステージ前後で..ジロ半ばで、自分の調子を見て考える。ただ、とにかく、明日は絶対に走るよ」(ユアン)
アレッサンドロ・デマルキは危なげなくマリア・ローザ1日目を終え、2度目の表彰式を満喫した。3日目を迎えるために、第6ステージは「最後までベストを尽くす」つもり。思わぬ落車続きで総合2位以下は順位が少しずつ繰り上がったが、落車を回避できた総合勢たちのタイム差に一切の変動はなかった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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