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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第4ステージ】ピンクへの秘めた想いを叶えたデマルキが「最後は古来からの法則が完璧に作用したのさ。そう、ネバーギブアップ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマリア・ローザに袖を通したデマルキ
賢く出力を制御したジョセフロイド・ドンブロウスキーが、最後の山岳ですべてを後方へ置き去りにした。その背後では、惜しみなく力を尽くしたアレッサンドロ・デマルキが、ピンクへの秘めた想いを叶えた。悪天候と連なる起伏に苦しめられた1日の終わりに、総合本命たちは軽い力比べに乗り出し、大会4日目にして早くも「誰がジロを勝てないのか」が浮き彫りとなった。
「実は2日前から、もしかしたらマリア・ローザが取れるかもしれないと、考えていた。このことは誰にも言わなかったけどね!」(デマルキ)
逃げへの切符をつかむまでが、第一の試練だった。スタート直後にクイントン・ヘルマンスとヴィクトール・カンペナールツが矢のように飛び出した後、2人の10〜20秒背後では、追いかけたい派と逃したくない派とのせめぎあいが長時間に渡って繰り広げられた。なにしろ雨の日は、レインコートに紛れて、思わぬ伏兵を見逃してしまうことがある。2004年ツールののトマ・ヴォクレールのマイヨ・ジョーヌ10日間も、2010年ジロでダビデ・アロヨが総合2位を成し遂げたのも、すべては大雨の中のロングエスケープがきっかけだった。
この様子をチャンスととらえたのは、第3ステージ終了時点で首位から33秒差につけていたデマルキだ。大逃げでブエルタ区間3勝を手にしてきたベテランは、「3、4人による単純な逃げにはならない。大きな逃げが出来る」と察知した。ドンブロウスキーはこのチャンスを逃したくなかった。UAEチームエミレーツが抱える3人のエースのために働くクライマーにとって、自由にカードを切れる機会はそれほどないからだ。
「地形的な面では、本当の意味では、僕向きではなかったかもしれない。逃げ切りの可能性もフィフティ・フィフティだと思っていた。でもチャンスというのは、与えられた時に、自ら取りに行かなければならないんだよ」(ドンブロウスキー)
この2人を含む少集団が、約30kmほど先で、ついにプロトンからの分離を成功させる。その後もいくつかのグループが飛び出しを許され、スタートから40km、ヘルマンス&カンペナールツのもとに大人数が集結した。合わせて25人!
出場23チーム中17チームが参加し、5チームが複数選手を揃えた大きなエスケープは、すぐにメイン集団から6分半ものリードを奪った。前方に人員を送りそこねたアスタナ・プレミアテックがすぐにタイム差制御に乗り出し、マリア・ローザをまとうフィリッポ・ガンナ本人も、イネオス・グレナディアーズの総合エースたちのために集団牽引役を買って出た。
ただドンブロウスキーが指摘するように、大きな集団だからこそ「全員が協力し合うわけではないし、アタックに警戒し続けなければならない」。デマルキを筆頭に総合首位まで1分以内につける選手が10人、さらに1分半以内も4人潜り込んでいたからなおのこと。フィニッシュまで75kmを残し、早くも逃げは分裂する。この日最初の山岳を利用して、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオの2人組が攻撃を仕掛けたのだ。
前日はタコ・ファンデルホールンがチーム史上初のGT区間優勝をもたらしたが、この日は総合で53秒遅れのヘルマンと57秒遅れのレイン・タラマエが、チーム史上初の「総合リーダージャージ」に意欲を燃やした。総合ではすでに10分以上遅れており、単にチームから「大きな逃げに乗るように」と命じられていたクリストファー・ユールイェンセンも、すかさず2人の賭けに共謀した。悪天候得意なシクロクロススペシャリストが、グランツール山頂フィニッシュ2勝タラマエのために精力的に引いた。ユールイェンセンの高い下り技術も、後続を引き離すのに役立った。残り50kmで、ドンブロウスキー&デマルキが取り残された集団には、約2分差をつけた。
ちょうどこの頃、ドンブロウスキーは、逃げの中から区間勝者が生まれると確信した。たしかに前方の3人には遅れを取ったが、後方メイン集団との差は最大8分にまで広がったからだ。一方のデマルキは、ここで全力の追走を決意する。
「3人が前に飛び出した後、もしかしたらチャンスを失ってしまうかもしれないと、怖かった。それなのに集団は妙に落ち着いていた。だから手遅れになることを恐れたんだ」(デマルキ)
完璧な戦術やパワーメータの数値に従うだけではなく、「ロマンチックな」、つまり情熱的で勇敢な走りを信条としてきたデマルキは、背後に張り付くライバルたちの動向さえ気にしなかった。自らよりマリア・ローザに1秒近いネルソン・オリヴェイラに、第2中間ポイントで1秒を奪われてしまった後も、駆け引きなど一切しなかった。
区間勝利のジョセフロイド・ドンブロウスキー
「逃げ集団内にマリア・ローザ目指して走る選手が数人いたのは、僕にとって有利だった。だって彼らはジャージを着ようと積極的に前を引く。おかげで僕は彼らの後輪で、少し守備的に走ることが出来た」(ドンブロウスキー)
残り45kmでヘルマンが仕事を終え、2人になったタラマエとユールイェンセンは、徐々に貯金を減らしていった。しかも最後の山は、距離こそ4.25kmと短かったが、勾配はひどく厳しかった。一心不乱に登り続けるデマルキと、最後まで冒険をともにしたドンブロウスキーとの距離は、みるみるうちに縮まっていく。麓で1分あった差は、残り4.5km、山の中腹で0になった。
合流とほぼ同時に、ドンブロウスキーは加速を切り、生まれて初めてのグランツール区間勝利へと向けて飛び立った。本当は3週目の難関山岳のほうが自分向きかも..と打ち明けるクライマーは、マリア・ローザのこともほんの少しだけ考えたようだ。朝の時点で総合の遅れは1分12秒、デマルキに対する遅れは39秒。
もしもの場合に備えて、「とにかく後悔のないようフィニッシュラインまで全力で走った」が、終わってみればステージタイム差は13秒。ボーナスタイムの10秒(2位デマルキは6秒収集)を含めても、総合ではデマルキとの差を17秒縮めるに留まった。
「まあ実際にステージ優勝してみると、マリア・ローザが獲れずに残念、なんていう気持ちは起こらないものだけどね」(ドンブロウスキー)
ドンブロウスキーが30歳の誕生日前日に歓喜を味わったのだとしたら、8日後に35歳の誕生日を迎えるデマルキは、11年目のプロ生活で、初めてのグランツール総合リーダージャージを手に入れた。創設6年目、ワールドチーム昇格2年目のイスラエル・スタートアップネイションにとってもまた、初めてのグランツール総合リーダージャージだった。
「最後は古来からの法則が完璧に作用したのさ。そう、ネバーギブアップ」(デマルキ)
ばら色の喜びにベテランが感涙にむせび、メイン集団内では、最終マリア・ローザを狙う者たちによるバトルがいよいよ勃発した。
フィニッシュまで約40kmを残して、ガンナが持てる力を出し尽くした後、総合3位ジョアン・アルメイダと4位レムコ・エヴェネプールを擁するドゥクーニンク・クイックステップが集団制御に乗り出した。ところが残り30kmを切ると、バーレーン・ヴィクトリアスが主導権をむしり取る。上りでも下りでも恐ろしいハイペースを強い、集団の規模を急速に削っていく。最後の山に入ると総合2位トビアス・フォスが千切れ、さらには昨大会4位アルメイダさえ脱落した。
バーレーンの猛攻は、単なるふるい落としだけで終わらなかった。最終山岳の頂上まで約1km、フィニッシュまで残り約4km。総合エースのミケル・ランダ自らが、強烈なアタックを打った。少し先で単独仕掛けていたジュリオ・チッコーネをすぐに回収し、後方を突き放しにかかる。
ミケル・ランダ
「アップダウン続きだし、この天候だし、難しい1日だった。でも最終盤に周りを見渡したら、顔色のいいライバルなんてひとりもいなかった。だからトライしたのさ」(ランダ)
そんな顔色の良くないライバルたちも、黙ってはいなかった。山頂間際でのアレクサンドル・ウラソフの加速をきっかけに、エガン・ベルナルがカウンターを打ち、ヒュー・カーシーもきっちり穴を埋めた。この3人は大急ぎでランダ&チッコーネに合流すると、ドンブロウスキーから1分37秒後にラインへとなだれ込んだ。
その11秒後にエヴェネプール、ロマン・バルデ、サイモン・イェーツ、ダニエル・マーティンが、34秒後にドメニコ・ポッツォヴィーヴォ、エマヌエル・ブッフマン、ヴィンツェンツォ・ニバリ、パヴェル・シヴァコフ、ジャイ・ヒンドレー、マルク・ソレルがフィニッシュ。ジョージ・ベネットとフォスは2019年ツール総合覇者から1分29秒遅れで、アルメイダは4分21秒遅れで雨と起伏に苛まれた1日を終えた。
自ずと総合争いの眺めは一変した。総合6位までは本日の逃げ選手の名が並び、賞ジャージもデマルキがマリア・ローザ、ドンブロウスキーが山岳ジャージ、総合5位アッティラ・ヴァルテルが新人ジャージと、やはり逃げメンバーが独占する。
大きく後退したフォスやアルメイダに代わって、総合勢でトップに立つのは、総合7位・1分24秒遅れのウラソフ。初日個人タイムトライアルのおかげで、エヴェネプールはウラソフから4秒遅れの総合8位に留まった。さらに総合10位カーシー、11位ベルナル、15位ランダと、今区間で好調さを示した3人が続く。ランダと同タイムでイェーツが16位につけ、18位チッコーネは、同チームの25位ニバリを19秒上回る。
もちろんジロはまだ始まったばかり。ウラソフから1分以内に、「総合表彰台候補」と呼べる選手は、いまだ17人もひしめいている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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