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サイクル ロードレース コラム 2021年5月11日

【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第3ステージ】圧巻の逃げ切り勝利!初のグランツール区間勝利を掴んだタコ・ファンデルホールン「なんてこった!俺はやってのけたぞ!」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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タコ・ファンデルホールン

表彰台で笑顔を見せるタコ・ファンデルホールン

圧巻の逃げ切り勝利!初のグランツール区間勝利を掴んだタコ・ファンデルホールン「なんてこった!俺はやってのけたぞ!」

1日の終わりには、どでかいサプライズが待ち受けていた。上れるスプリンターか、アタッカーか。はたまた総合争いの選手が動くかもしれない。……そんな大方の予想を裏切る、開幕3日目の逃げ切り勝利。タコ・ファンデルホールンが衝撃を作り出し、初めてのグランツール出場で、初めての区間勝利をもぎ取った。

「今日の最大の目標は逃げに乗ることだった。僕抜きの集団は逃さないぞ、と決めていた。ただ、こんな風にフィニッシュまで逃げ切るのは、計算外だったんだけどね」(ファンデルホールン)

スタートアーチをくぐると同時に飛び出したのが、まさにファンデルホールンだ。すぐには決まらなかったが、執拗に加速を繰り返した。「ジロ全体を通して、逃げて、アグレッシブに走りたい」との心意気通り、なにより狙うステージは第3、4、5、6、8、9、10、11、15、18ステージ……と開幕前に宣言していた通り、降りしきる雨など構わず前進を止めなかった。

運命を共にしたのは7人。2015年ブエルタで逃げ切り独走勝利の経験を持つアレクシー・グジャールを筆頭に、2日連続で逃げたヴィンチェンツォ・アルバネーゼ、サムエーレ・リーヴィ、ラルス・ファンデンベルフ、サムエーレ・ゾッカラート、シモン・ペロー、そして最後に追いついてきた大会最年少18歳アンドリー・ポノマル。もちろん前日同様、3つの招待チームはきっちり先頭集団に潜り込んだ。なによりアンドローニジョカトリ・シデルメクとエオーロ・コメタが2人ずつ前に揃えたのが、逃げにとっては好都合だった。特にアルバネーゼの山岳少首位を守りたいエオーロ2人は、コース後半に3つ待ち構える山岳へ、着実に先頭で挑みたかったはずだ。こうして逃げの仲間たちは積極的に先頭交代に勤しみ、メイン集団との距離は順調に開いた。わずか30km走った先で、リードは6分半にまで広がった。

後方のメインプロトンは最初から少し消極的だった。雨のせいか、それともピュアスプリンターには難しすぎる地形のせいか。集団制御に名乗りを上げるチームがすぐには現れなかった。マリア・ローザ擁するイネオス・グレナディアーズはまるで動こうとせず、最終的に作業に取り掛かったのはボーラ・ハンスグローエ。区間の大本命と目されていたペーター・サガンのために、残り160km地点から責任を一手に引き受けた。

いつしか雨は止み、山岳ポイントの待つ起伏地帯と足へ踏み入れると、逃げ集団ではエオーロのリーヴィがさらに精力的にリズムを刻んだ。チームメートの働きに応えるため、アルバネーゼは山頂スプリントでライバルたちをねじ伏せた。全部で3つある山岳のうち序盤2つで先頭通過を果たし、さらにはリーヴィが力尽きた3つ目の山でも3位通過でポイントを収集。2日連続の努力が実り、あと少なくとも1日は、マリア・アッズーラ姿で過ごすことができる。

この3つ目の山頂、つまりフィニッシュまで残り36.2km地点で、タイム差は1分半。5人に人数を減らした逃げ集団は、いまだ協力しあって前方へ突き進み、後方では相変わらずボーラだけが6人体制で追走を仕掛けていた。前区間覇者ティム・メルリールやカレブ・ユアン、ディラン・フルーネウェーヘン、ジャコモ・ニッツォーロ等々の俊足ライバルを後方へ突き落とすことには成功したものの、手持ちのアシストたちの脚も間違いなく削られていく。

残り17.5km。最後の出っ張りがやってきた。山岳カテゴリーには指定されておらず、むしろ頂上には中間ポイントが設置されていたのだが、勾配15%ゾーンさえ待ち構えるいわゆる激坂だ。「何かが起こる」と、多くの関係者たちが口を揃えていたこの坂で……効果的な動きを見せたのもまた、逃げ集団だった。ペローが真っ先にアタックを打ち、そこにファンデルホールンが共鳴する。上りはクライマーのスイス人がペースを作り、下りはルーラーのオランダ人が牽引を請け負った。

背後のプロトンも、たしかに動いた。トニー・ガロパンが弾かれたように飛び出し、ジュリオ・チッコーネもぴたり後輪に張り付いた。ただ「集団をバラバラにできるような地形だったのに、予想していたほど動きがなかった」と前者が振り返ったように、企みはこれっきり。

上りきった時点で、ペロー&ファンデルホールンのマイヨ・ジョーヌ経験者コンビに対するリードは15秒、プロトンに対するリードは30秒。このタイム差は縮まるどころか、再び広がるのだ。なにしろファンデルホールンは、つい1ヶ月半前のミラノ〜サンレモでエスケープに乗り、最後まで1人粘り続け、結局270kmも逃げた男だ。しかもプロ人生の3勝のうち2勝が、まさに平坦コースでのエスケープの果てのぎりぎり逃げ切りだったから、おそらくこんな状況には慣れていた。ペローの疲れを察知するや、残り8.8km、ついに独走体制に入った。

フィニッシュ直後に歓喜の表情を浮かべたタコ・ファンデルホールン

フィニッシュ直後に歓喜の表情を浮かべたタコ・ファンデルホールン

「フィニッシュまで逃げ切り、ステージを勝つのは、すごく難しいことだと分かっている。でも、たとえ1%、いや、0.5%であれ、チャンスとしては十分だ。そのチャンスを僕はつかみにいく。ペローを振り落とした直後に、無線でタイム差を告げられた。いまだ40秒差。フィニッシュラインまで全力で突き進んだ」(ファンデルホールン)

残り5kmまで来ても、ガロパン&チッコーネとの差はいまだ22秒あった。追走者のモチベーションを挫くのには、十分なタイム差だった。

「足の調子は良かったし、チッコーネとの協力体制は悪くなかった。ただ最終盤は向かい風が強かった。僕らは先頭交代の間隔を短くして凌いだけど、前の1人はとてつもなく強かった。残り5kmになった時点で、ああ、これはもはや2位争いだな、と悟ったら、途端にペダルに力が込められなくなった」(ガロパン)

その頃になってようやく、メイン集団にスプリンターを残すUAEチームエミレーツやコフィディスが、慌ててスピードアップに協力し始めた。イスラエル・スタートアップネーションも最前線に加わった。途中でガロパンとチッコーネを回収し、最終発射台たちが捨て身で前を引っ張ったが、残り1kmでもファンデルホールンはいまだ15秒先を走っていた。

「信じられない。ラスト1kmで後ろを振り返って、こう思ったさ。『なんてこった!俺はやってのけたぞ!』ってね。ほんと信じられないよ」(ファンデルホールン)

必死のプロトンを確認した後には、たっぷりと勝利を祝う時間さえあった。186km逃げた果ての、4秒差の勝利。2位争いの集団スプリントはダヴィデ・チモライが勝ち取り、長時間チームと共に働いたサガンは、3位に終わった。

2日連続でグランツール初出場選手がグランツール初優勝を飾ったのだとしたら、2日連続で所属チームにとってもグランツール初優勝。今季ワールドツアーに昇格を果たしたアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオは、過去3度のツール参戦で、最高成績は区間3位(2回)。昨季末はチームが見つからず、一時はコンチネンタルチームと契約したファンデルホールンを、ぎりぎりで救い上げたのは正解だった。これもまた、「最後まで粘ったおかげで、現チームに入るチャンスをつかんだ」と語るファンデルホールンの、逃げ切り勝利なのだ。

マリア・ローザのガンナ

マリア・ローザのガンナ

総合勢はところどころ危険回避のために隊列を組んだ以外は、特に動きを見せず、大会3日目を終えた。総合2位エドアルド・アッフィニが9分半以上遅れ、大きく後退したが、ミラノでの表彰台を争う強豪は誰1人としてタイムを失わなかった。昨大会は2日間でマリア・ローザを脱いだフィリッポ・ガンナは、今年は晴れて3日目を迎える。

「今日ジャージを守るのは重要な任務だった。明日からいよいよ本格的な上りが始まるから、チームカー隊列で『1番』の座を守る必要があったんだ。明日以降も『チーム内』にマリア・ローザが留まるよう、そして最後まで守れるよう、願ってる」(ガンナ)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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