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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第2ステージ】同郷の亡き友に捧ぐ《W》の文字。初勝利のティム・メルリール「彼にこの勝利を捧げることが出来て、心から嬉しく思う」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか両手で「W」の文字を描いたメルリール
生まれて初めて出場したグランツールの、初めてのスプリントチャンスを、28歳ティム・メルリールは逃さなかった。並み居る有名スプリンターを押しのけ、パワフルに初勝利をもぎ取った。創立12年目、プロ化3年目の所属アルペシン・フェニックスにとっても、嬉しい初GT初勝利となった。
「すごくハッピーだし、本当に誇らしい。とにかく速く、もっと速く、もっともっと速く突き進むことだけを考え続けた。素晴らしい勝利だ」(メルリール)
大会初のラインステージは、初めての逃げ機会でもある。出場全23チームのうち、主催者ワイルドカードで出場権を得た3つのUCIプロチームが……特にヴィーニ・ザブの参加辞退を受けてわずか3週間前に招待状が届いたアンドローニジョカトリ・シデルメクが、やはり心意気を見せた。スタートフラッグが振り下ろされると、前日の個人タイムトライアル第一走者フィリッポ・タリアーニが、この日も真っ先に前方へ飛び出していく。ウンベルト・マレンゴとヴィンチェンツォ・アルバネーゼもすかさず後に続いた。
メインプロトンに最大5分15秒のリードを奪った3人の目的は、単なるジャージアピールだけではない。なにしろ今区間たった1つだけ待ち構える4級山岳で、先頭通過を果たせば、青い山岳ジャージが手に入る。95.2km地点に待ち構えた急な坂道では、3人は熾烈な上りスプリントを繰り広げた。先行したアルバネーゼがそのままてっぺんをさらい取り、2021年1枚目のマリア・アッズーラを手に入れた。グランツール初出場の所属チーム、エオーロ・コメタにとっては、正真正銘初めてのGT賞ジャージだ。
そのアルバネーゼは直後のメカトラで最前線からあっさり脱落するも、他の2人はもうしばらく冒険を続けた。中間ポイントを1つ争い(タリアーニが1位通過)、ぎりぎりまで粘りフーガ賞の逃げ距離を154kmにまでのばした後、残り26kmで巨大な集団に飲み込まれていった。
2日目もマリア・ローザを守ったガンナ
メインプロトン内では、スタート直後は、マリア・ローザ擁するイネオス・グレナディアーズが主導権を握った。途中からはスプリンターを抱えるロット・スーダル、ユンボ・ヴィスマ、アルペシン・フェニックスが、それぞれ1人ずつ最前線に送り込むと、長時間に渡って黙々と集団制御に励んだ。
この3つのスプリンターチームがひたすら区間勝利に向け邁進したのだとしたら、上記「以外」のチームのスプリンターたちは、1つ目の中間ポイントで残されたポイントを取りに行った。残り40kmのアーチに向け、うっかり4選手が全力疾走してしまったのはご愛嬌。2011年ブエルタ第20ステージで、ボーナスタイムが欲しいクリス・フルームが残り20kmの横断幕の下でスプリント……という懐かしい逸話が思い出される。結局600m先の本物の中間ポイントでは、力なく流したままフェルナンド・ガビリアが首位通過=全体の3位通過を成功させた。
残り24.3km地点、逃げが吸収された後に迎えた2つ目の中間ポイントは、少々趣向が異なる。ここではマイヨ・チクラミーノ用のポイントだけでなく、上位通過者3人にはボーナスタイムも配分される。だから前日区間7位19秒遅れのレムコ・エヴェネプールが発射台付きで飛び出していったのを見るや……、ピンクジャージ姿のフィリッポ・ガンナ当人がすぐさまスプリントに打って出た!
「あれは他チームの総合エースによるボーナスタイム収集を妨げるためなんだ。この先エガン(ベルナル)やパヴェル(シヴァコフ)の総合争いの助けになるはずだから。もしかしたら将来的に、3秒を取ったか取らないかでジャージの行方が変わるかもしれないし」(ガンナ)
もちろん「明日もジャージ保守にトライしたい」と正直に打ち明けるガンナは、首位通過でまんまと3秒を懐に入れた。2秒収集レムコはもちろん、あらゆるライバルたちとの差を改めて開いた。イネオスのチームメートで昨日10位のジャンニ・モスコンも反応し、1秒枠をきっちり潰すことも忘れなかった。
もしもの事態を避けるため、その後もガンナとイネオスの仲間たちは最前列に留まった。落車分断やメカトラブルに対してタイム救済措置が採用されるラスト3kmどころか、急カーブの連続が終わるラスト1km間際まで、ピンクのジャージが総合エースを率いる姿は目撃された。おかげでベルナルは総合勢としては最上位の区間16位で、安全に1日を終えている。
スプリンターチームの覇権争いをリードし、残り1kmのアーチを先頭でくぐったのはコフィディスとUAEチームエミレーツだった。つまりジロ区間通算5勝エリア・ヴィヴィアーニにとっては、「残り700mには最前列へ出ていること」との指示通り。アルペシン・フェニックス発射台はその背後につけ、メルリールにとってもまた理想的なポジションだった。
ティム・メルリール
「遠くから飛び出した。まだ250m残っていた。でも最終的には十分だったね」(メルリール)
ヴィヴィアーニの背後から左側にスプリントを切ったメルリールは、自らの後輪に飛び乗った欧州王者ジャコモ・ニッツォーロの逆転も、反応がワンテンポ遅れてしまったヴィヴィアーニの追随も許さなかった。地元ベルギーでワンデー3勝と好調な春を過ごしてきた勢いそのままに、シクロクロススペシャリストがピュアスプリンターたちを蹴散らした。
ベルギーにとって感慨深い1日となったに違いない。フィニッシュ地ノヴァラは、1968年にベルギーが誇る史上最強エディ・メルクスが、生まれて初めてグランツールのリーダージャージを身にまとった土地だ。なによりこの5月9日は、ベルギー人ワウテル・ウェイラントが、レース中に命を落としてちょうど10年目。ジロの永久欠番「108」に想いを馳せ、フィニッシュラインを越えながら、メルリールは両手で「W」の文字を描いた。
「僕はベルギー人だし、なにより同じトレーニンググループにいたから、ウェイラントのことは知っていた。それに彼はスプリンターだし、僕もスプリンターだしね。小さな頃にはよく練習で一緒になった。10年前のあの日は、僕はトレーニングキャンプ中だった。すごく悲しい1日だった。だから彼にこの勝利を捧げることが出来て、心から嬉しく思う」(メルリール)
ウェイラントの命を奪ったのは、下りの単独事故だった。昨8月のツール・ド・ポローニュでは、ディラン・フルーネウェーフェンが集団スプリントで事故の起点となった。大怪我を負ったファビオ・ヤコブセンはこの4月に晴れてプロトン復帰を果たし、フルーネウェーフェンも出場停止処分明けの初戦ジロで、初めてのスプリントを争った。4年前のシャンゼリゼ勝者は一度踏み止めてしまったせいもあり、結果は4位。
「9ヶ月の空白を経ての4位という結果には、満足すべきなんだろうね。でもやっぱり少しがっかりしている。もっと早く飛び出すべきだったのかもしれないし、もしかしたら、もう少しためらわず行くべきだったのかもしれない。かつての感覚と、自信とを、取り戻さなきゃならない」(フルーネウェーフェン)
その背後でガビリアが落車しなかったのは幸いだった。メルリールの加速に合わせて、唯一右側に突破口を求めた。反応直後の速さだけなら、あらゆるライバルを上回っていた。しかし自らの発射台フアン・モラノに行く手を阻まれた。そのままフェンスと接触。失速を余儀なくされた。
ちなみにフェンスは衝撃等で動かないよう固く連結され、さらにラスト400mは隙間のないよう広告パネルが張り巡らされていた。もちろんこの最終区間に限って、脚がコース側に出ないタイプのフェンスが使用されている。これはUCI国際自転車競技連合が定める……そして前述のツール・ド・ポローニュ事故を受け2021年4月1日付で強化された安全ルール(2.2.017条)に則ったもの。だからこそ堅固なパネルに身体をこすりつける羽目にはなったものの、ガビリアは引っかかったりぐらついたりすることもなく、落車を回避できた。周囲を高速で走る選手たちが、巻き込まれることもなかった。
全183選手中177人が同タイムでフィニッシュラインを越え、ガンナが予定通りに2日目のマリア・ローザ表彰台に臨んだ。途中回収したボーナスタイム3秒のおかげで、総合2位エドアルド・アフィーニとのタイム差は13秒に拡大した。そのアフィーニは大会2日目をマリア・チクラミーノで過ごしたが、キング・オブ・スプリンターの証は、区間覇者メルリールの手に渡った。つまり3日目のアフィーニは、ガンナがもう1枚保有するマリア・ビアンカを借りて、走ることになる。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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