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サイクル ロードレース コラム 2021年4月27日

【Cycle*2021 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:レビュー】息を飲む心理戦の果てに現役ツール王者が最年少優勝!ポガチャル「言葉にならない」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ポガチャル

最年少で大会を制覇したポガチャル

ラ・ドワイエンヌに、若き王が君臨した。129年もの長き歴史を誇るリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを、22歳のタデイ・ポガチャルがさらい取った。あらゆるアタックに飛び乗り、疲れ知らずの体力を披露し、スプリントでは経験豊富な先輩たちを手玉に取る老獪ささえ発揮して、ツール・ド・フランス現役チャンピオンがモニュメント覇者となった。
4月最後のよく晴れた日曜日。スタートとほぼ同時に7選手が飛び出し、すぐに最大10分近いタイム差を奪った。コース最南端バストーニュを折り返し、リエージュへ向けて北上を始めると、しかし急速にリードは縮まっていく。なにしろ全長259.1kmのうち、最終100kmには、9つの急坂が詰め込まれている。コースに吹き付ける強い風も曲者だった。

フィニッシュ手前87km、ワンヌ坂でのルイスレオン・サンチェスの急加速をきっかけに、メイン集団の熾烈な戦いは幕を明けた。アスタナやロット・スーダルは交代でアタックを仕掛け、人生50回目のモニュメントを戦うグレッグ・ファンアーヴェルマートが猛烈に突進したり、コフィディスのレミ・ロシャスが高速テンポを刻んだり。あらゆる不穏な動きに対応したのは、ジュリアン・アラフィリップ擁するドゥクーニンク・クイックステップだった。

「今日の作戦は、アシストはあらゆるアタックに反応し、僕自身は動かずに最終盤に向けて体力を温存すること。だから攻撃が多発したのは、僕にとっては、有利だったんだ。上手くチーム全体でレースをコントロールできたと思ってる」(アラフィリップ)

残り62kmのロジエ坂を利用して3人がまんまと抜け出した時も、2つ先のラ・ルドゥット坂へ向けて、やはりウルフパック隊列がきっちり追い上げた。

かつて審判の地として名を馳せたラ・ルドゥットで、イネオス・グレナディアーズが主導権をむしり取る。昨ジロ総合覇者テイオ・ゲイガンハートが、背後にリチャル・カラパス、アダム・イェーツ、ミハウ・クフィアトコフスキを引き連れて凄まじい加速を強いたのだ。

あっという間に集団をずたずたに切り裂き、13人の集団を作り上げた。ポガチャルはもちろん、この日最後の5人のメンバーであるやアレハンドロ・バルベルデ、マイケル・ウッズは、まんまと中に滑り込んだ。昨大会覇者プリモシュ・ログリッチも前にいた1人だった。

「計画通りに事を進めた。もしも何人かの選手が乗り遅れていなかったら、おそらく後続に追いつかれることはなかったはずだったろうね」(クフィアトコフスキ)

そう、残念ながらアラフィリップもダヴィデ・ゴデュも、一昨年王者ヤコブ・フルサンも前にいなかった。だからイネオス4人が引っ張る強力な集団は、ほんの5kmほど先であっさり回収されてしまう。

それでも英国チームは攻撃の手を緩めなかった。次の難関フォルジュ坂で、再びゲイガンハートが凄まじい脚を見せた。今度はAイェーツとカラパスを前に送り出し、朝からの逃げの残党を回収しつつ、12人の先頭集団を作り上げた。またしてもポガチャルは上手く立ち回り、ゴデュとウッズも前にいたが、今度はアラフィリップとバルベルデが取り残された。

残り21km、2つの坂の谷間で、カラパスがたった1人で先行を始める。当然ながらイネオスは仕事の脚を止めた。ポガチャルだけは精力的に牽引役を買って出たが、他は誰も前を引きたがらなかった。後方ではモビスターが「41番」のエースのために熱心に追走を行った。こうしてカラパスを除いて、またしても集団はひとつにまとまった。

しかも最大20秒差をつけたカラパスさえ、最後の難関ロッシュ・オ・フォーコン坂で吸収されてしまう。いずれにせよダウンヒル中にほんの一瞬ながらうっかりトップチューブに腰を下ろしてしまい--4月1日付けUCI国際自転車競技連合のルール改正により、同ポジション、いわゆるスーパータックは禁止された--、最終的には失格処分が下されることになるのだが。

早めに仕掛けたイネオスの奮闘虚しく、2年前のフィニッシュ地移転に伴い最終坂に昇格したロッシュ・オ・フォーコンが、2021年も大きなセレクションの役目を果たした。そもそもゴデュは「2日前からこの坂のことしか頭になかった」そうで、ウッズが放った決定的アタックに真っ先にしがみついた。ここまで2度の攻撃に完璧に反応してきたポガチャルは当然3度目も難なく動き、「チームメイトたちのおかげで好位置に戻れた」バルベルデも機を逃さなかった。「風や展開ではなく、ロッシュ・オ・フォーコンでの『脚』こそがレースを左右する」と予言していたアラフィリップも、無理には動かなかった前回2回とは違って、フィニッシュまで残り約13km、ためらわず前へと飛び出した。

今度こそ正しい勝ち集団だった。5人全員が精力的に先頭を牽引した。後方では過去2大会の覇者、ログリッチとフルサンが必死の追走を仕掛けたが、ポガチャルの同僚、昨フレッシュ覇者マルク・ヒルシと元リエージュ2位ダヴィデ・フォルモロが極めて効果的な重石役を務めた。まるでデジャヴのように、2年連続でマテイ・モホリッチも突進を試みたが、すでに遅すぎた。

残り2km、後続との差は30秒。5人が仲良く協力しあう時間は終わりを告げる。ここで最も積極的に立ち回ったのがアラフィリップだった。スプリントが苦手なウッズが早掛けを仕掛けると、すかさず勢いを潰した。「自分1人で飛び出すつもりはなかったし、他の選手に飛び出されるのも嫌だった」から。残り1kmのアーチ手前では、自称「5人の中で一番遅い」ゴデュが賭けに出る決心をするも、やはりアラフィリップに目ざとく見咎められ諦めた。

しかも、そこまで平然と先頭を走っていたというのに、アラフィリップはこの日最後の直角カーブでわざわざ外側に大きく膨らむと..ライバルたちを巧みに先に行かせた。スプリントの脚で知られる41歳を、絶対に自分より前に押し出しす必要があった。なにより全長800mの最終ストレートには、強い向かい風が吹いていた。できる限りギリギリまで風の抵抗を避けねばならなかった。

フィニッシュ

息を飲む心理戦が繰り広げられたフィニッシュシーン

こうして前から順にバルベルデ、ウッズ、ゴデュ、アラフィリップ、ポガチャルが連なった。つまりバルベルデとウッズが入れ替わる以外は、この日の最終結果の逆の順番だった。

「他の4人は僕の両肩にスプリントの全責任を押し付けてきた感じだったね。ずっと最前列に押し上げられたままだった」(バルベルデ)

誰もが後ろを振り返り、じりじりとした警戒合戦を繰り広げた。ついには耐えきれずに残り250mでバルベルデがスプリントを切ると、残す4人もいっせいに全力疾走へと打って出た。

ちなみに、この「後ろを振り返る」行為を最も繰り返したのは、先頭にいたバルベルデではなく、4番目につけていたアラフィリップ。後ろにはポガチャル1人しかいなかったというのに。たしかに右側から何度も振り向くアラフィリップの目をまるで欺くかのように、ポガチャルは常に世界チャンピオンの左後方の死角に潜んでいた。

「自分のトップスピードには自信を持っていた。でもポガチャルが僕の後輪からあえて少し外れてることに気が付いた。でも一度後輪に入ったら、スリップストリームとパワーさえあれば、はるかにスピードが出る。だから何度も僕は振り向いたんだ。でも彼は非常に賢く立ち振る舞った。今回はこれこそが必須だったのかもしれないな」(アラフィリップ)

バルベルデの加速と同時に、ポガチャルはアラフィリップの背後にぴたりと潜り込んだ。そして残り約100mで世界チャンピオンが向かい風の中に飛び出し、75mで最前列に並ぶのを待ってから、自らも右手から抜け出した。

「ジュリアンが非常に速いことは分かっていた。僕は上手く風を避けつつ、トップスピードに乗ることが出来た。おかげで彼をフィニッシュラインぎりぎりで追い抜くことができたんだ」(ポガチャル)

1980年ベルナール・イノー以来となるフランス人優勝ではなく..、1980年ベルナール・イノー以来となるツール・ド・フランス「現役」王者のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ制覇。またそのイノーが22歳162日で勝ち取った1977年大会以降での最年少覇者となった。22歳217日の若きモニュメント勝者の誕生だった。

「言葉にならない。このレースが大好きだし、偉大なるチャンピオンたち相手に勝てたことが信じられない」(ポガチャル)

PCR検査結果の影響で4日前のフレッシュ・ワロンヌ欠場に追い込まれた無念を、ポガチャルが見事に晴らしたのだとしたら、昨大会のスプリント2位→降格5位の悔しさを、アラフィリップは完全に払拭することはできなかった。今回は両手を上げる代わりにハンドルを投げたが、1枚の虹色ジャージで2度リエージュに挑む幸運を栄光に変えることは出来なかった。「まだ今年ではなかった」と、28歳アラフィリップは来年に再びリベンジを誓う。

生まれて初めてのクラシック表彰台に笑顔が止まらない24歳ゴデュの背後で、プロトン最古参バルベルデは、41歳の誕生日当日に、リエージュ5勝目のチャンスを逃した。史上最強の自転車選手エディ・メルクスと並ぶ史上最多記録には、届かなかった。来年以降があるかどうかは、いまだ定かではない。

文:宮本あさか

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【ハイライト】リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ|Cycle*2021

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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