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【Cycle*2021 フレッシュ・ワロンヌ:プレビュー】ログリッチ初参戦!立ちはだかる、あまりにも強大な激坂《ユイの壁》を制するのは誰か。
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかユイの壁
ただ来たるべき一瞬のためだけに。フィニッシュ手前200mの、胸がすくような大アタックを、選手たちも観客もひたすら待ち続ける。数あるクラシックの中でも、ひときわ特異なフレッシュ・ワロンヌ。2021年4月21日の水曜日も、勝負の審判を下すのは、おそらくただ「ユイの壁」だけなのだ。
もちろん毎年のように開催委員会は工夫を欠かさない。ユイの壁を3度上り、3度目がフィニッシュ……という基本形を保ちつつ、たとえば2015年は最終ユイ登坂の直前の上りを、1つから2つに増やした。2017年には3度のユイ登坂の間隔を狭めるため、コース最終盤を周回風に書きなおした。さらに昨季はユイ突入前の坂道を入れ替え、新たにコート・デュ・シュマン・デ・グーズ(日本語に訳すと娼婦の小道坂、登坂距離1.9km、平均勾配6.7%)を差し込んでみた。それでもなにひとつ根本は変わらなかった。小手先の変更などでユイの壁はびくともしない。全長1.3km、平均9.7%、最大26%の破壊力は、あまりにも強大すぎる。
2021年大会も全長193.6kmのコースには、ユイ×3回とシュマン・デ・グーズ×2回を含む12の上りが待ち受ける。それでも優勝候補たちが最前列に姿を現すのは3度目のユイ登坂の、きっと残り500mを切った直後のカーブから。伝統的に「シケイン」と呼ばれ、2015年には30年前に初めてユイフィニッシュを制した覇者の名にちなんで「クロディ・クリキエリオンコーナー」と命名された同カーブの内側には、最大26%ゾーンが潜む。その後も100mに渡って延々19%ゾーンが続く。
あまりにも厳しすぎる激坂で、ぶっ放せる持ち玉は各自1発だけ。だから早めに仕掛けすぎるのは禁物。フィニッシュ手前100mまで、勾配は決して12%を下回らない。……かといって早めに息をつくのも厳禁だ。たとえ勾配が緩んだからと言っても、最後の最後まで道は上り続けるのだから。
こんな絶妙なタイミングを、プロトン内で最も知り尽くしているのは、間違いなくアレハンドロ・バルベルデだろう。大会史上最多の優勝5回を誇り、2014年から17年まで4連覇を成し遂げてきた「ユイの壁スペシャリスト」は、しかも今季限りの現役引退を宣言している。つまり41歳の誕生日を迎える4日前に……人生最後のユイ攻略戦へと向かう!
バルベルデの背後で2度苦汁をなめ、その後2連覇を果たしたジュリアン・アラフィリップもまた、今大会こそが「アルデンヌ3連戦で一番得意」だと断言する。2010年カデル・エヴァンス以来となる、世界チャンピオンの証アルカンシェルジャージで、ユイのてっぺんをさらい取りたい。
前回大会で優勝したマルク・ヒルシ
2人の居ぬ間に昨大会の栄光を手にしたマルク・ヒルシは……しかも初出場で加速のパーフェクトなタイミングをつかんだ22歳は、2人の大チャンピオン相手に才能の再証明を誓う。しかも昨大会やはり初出場で9位に飛び込んだツール・ド・フランス総合覇者にしてやはり22歳のタデイ・ポガチャルと、今年はタッグを組む。
もしかしたらフレッシュ・ワロンヌのマンネリズムさえ、彼らのような若い選手はぶち壊してくれるかもしれない。なにしろ新世代の急速な台頭で、このところ自転車界の「常識」はどんどん塗り替えられつつある。1週間前のブラバンツ・ペイルでプロ初優勝、3日前のアムステル・ゴールドレースで2位に食い込んだトーマス・ピドコック21歳も、アムステルで示したように超強大なチーム力(カラパス、ゲイガンハート、A・イェーツ、クフィアトコフスキーと役者は揃っている)と確固たる個人力とを武器に、戦いを引っ掻き回してくれるはずだ。
また昨リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ覇者プリモシュ・ログリッチは、ユイの壁に初挑戦。1年前ならぬ半年前は残り200mで仕掛けながらも、フィニッシュ前75mでヒルシに最前列から引きずり降ろされたマイケル・ウッズも、リベンジを果たしにやってくる。さらには激坂が大好物のディラン・トゥーンスやアムステルで好調さを示したエステバン・チャベスやダヴィド・ゴデュ、負傷明けながら調子を上げつつある昨大会2位ブノワ・コスヌフロワと、ユイの激勾配はパンチ力自慢の強豪たちでごった返す。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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