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数日前からヨーロッパの西部全域がひどい熱波に襲われている。各地では高温注意報や山火事注意報が出され、各国政府やメディアは警戒を繰り返す。2012年ブエルタ・ア・エスパーニャ開幕の地、パンプローナも例外ではない。日中の気温は45度を超えた。各チームが走り出す頃には暑さも盛りを過ぎていたけれど、それでも、いまだ強烈な西日が選手たちを照らしつけていた。
現地時間19時03分、白地に赤い文字が映えるスーツ姿のカハルラルが、スタートラインに並んだ。普段は緑色のジャージで走る地元スペインのプロコンチネンタルチームが、開幕ステージ、チームタイムトライアルのトップバッター。以降、9人構成の全22チームが、4分間隔で、16.5kmのTTコースへと走り出していった。
カーブあり、幅の狭い路地あり、キツイ上りあり。とりわけラスト1kmからは、「牛追い祭り」の舞台でもある石畳のガタガタ道が続いた。とんでもなく難解なコースを超高速で紐解こうと、TTTスペシャリストのガーミン・シャープが落車を起こしてしまったほど……。こんなテクニカルな路上では、素晴らしくスリリングな僅差の戦いが繰り広げられた。なにしろ21チームが走り終えた時点で、1秒差に3チームがひしめきあっていたほど!
最初に好タイムを記録したのは、4番スタートのBMCレーシングチームだった。つい3日前にベルギーTTチャンピオンジャージを失ったばかりのフィリップ・ジルベールが、最後の石畳ゾーンで驚異的な牽引をみせて、19分01秒で首位に立ったのだ。今季いまだ勝ち星のない「2011年世界ランキングナンバーワン」にとっては、約1ヵ月後に控えた世界選手権に向けて、調子を上げつつあるという精一杯のアピールだった。
しかし11番スタートのラボバンク サイクリングチームが、コンマ差で首位を奪い取ってしまう。元シクロクロス世界チャンピオンのラース・ボームが、やはり石畳ゾーンを豪快に引っ張ると、チーム内での先頭通過を果たした。さらにTT巧者揃いのオメガファルマ・クイックステップも、同タイムゴールを果たすも……ラボバンクにコンマ何秒かが足りなかった。先導バイクが道を間違え、TT世界チャンピオンのトニー・マルティンがそこに付いて行ってしまうという痛恨のミスがたたった。こうしてラボバンクのメンバーはゴール脇の特等席に座り、クールダウン用のアイスベストを着込んで、暑い屋外で全チームが走り終えるのをひたすら待った。
約45分待ったところで、しかし無念にも、その座を追われてしまうことになる。町にゆっくりと夕闇が訪れはじめた頃、パンプローナからわずか10kmほど郊外に本部を置く地元チームが、ラボバンクを10秒も上回るタイムを叩き出してしまったのだ。つまり全22チーム中最後にスタートを切ったモヴィスター チームの、優勝記録は18分51秒。そしてつい数日前にエネコ・ツアーを総合6位で終えたばかりの好調ヨナタン・カストロビエホが、チーム内で一番にフィニッシュラインを越えた。
「チームの第一目標は、ここ、地元でのオープニングステージを制すること。今朝下見をしたときから、全員で勝利だけに集中してきたんだ。誰が1番にフィニッシュラインを越えるのか、特に指示はなかった。ただ最終盤は石畳で厳しいぞ、接線になるだろうからラストまで100%を尽くさなきゃならないぞ、とだけ考えて走ったんだよ」
こうしてカストロビエホが大会最初のマイヨ・ロホを身にまとった。しかもパンプローナが産んだツール5回総合優勝の大チャンピオンであり、1984年にプロ入りしてから1996年に現役を引退するまでモヴィスターの前身チーム(レイノルズ、バネスト)で変わらず走り続けてきた大先輩ミゲル・インドゥラインから、栄光のリーダージャージを手渡された。……チームメートであり、ディフェンディングチャンピオンのフアンホセ・コーボを押しのけて。
実のところ、コーボは石畳ゾーンでチームトレインからから遅れてしまった。ただ遅れはわずか。だからこそ他の5人は総合リーダーにお構いなく全速力で区間勝利を取りに行くことができたに違いない。最終的にコーボはチームメートから4秒遅れでゴール。すなわち他のあらゆる総合ライバルから6秒以上のリードを懐に入れたことになる(もちろん4秒前に隊列と共にゴールしたチームメートのアレハンドロ・バルベルデは除く)。すなわちラボバンクのロバート・ヘーシンクとバウク・モレッマから6秒、スカイ プロサイクリングのクリス・フルームとロット・ベリソル チームのユルゲン・ヴァンデンブロックからは8秒、チーム サクソバンク・ティンコフバンクのアルベルト・コンタドールから10秒、カチューシャ チームのホアキン・ロドリゲス〜デニス・メンショフ〜ダニエル・モレーノ3人組みから11秒のリードを奪った。
つまり、開幕から大いに注目されているコンタドール vs. フルームの、第1回戦は2秒差でフルームの勝ち。ただし6ヶ月ぶりにレース復帰したばかりで、グランツールは1年1ヶ月ぶりとなるコンタドールは、初日を無事に終えてほっと一息ついている様子だ。
「チームがどんな出来に仕上がっているのか、ちょっとハラハラしていたよ。長いこと一緒に走っていなかったし、たったの16kmとはいっても、グランツールにおいては毎日が非常に重要だからだ。でも、すごく、すごくいいタイムが出せた。チームメートは全力を尽くしてくれたし、モチベーションの高さを証明してくれた。本当に満足だよ」
また2年連続でスペイン一周に挑戦する全日本チャンピオン、土井雪広は、4人のチームメートと共にモヴィスターから59秒遅れでゴール。1年前のTTT13.5km@ベニドルムでは、最終盤にチーム隊列から千切れてしまったが、今年はチームの前から4番目できっちりと1日を終えている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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