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サイクル ロードレース コラム 2012年8月21日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2012 第3ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ジロ開催委員会もツール開催委員会も、軽いジェラシーを覚えたに違いない。ばら色のコースも世界最高峰のレースも、今年は随分とアタック不足に悩まされてきた。ところがスペイン入りしてわずか3日目。全長5.5km・平均勾配7.8%とほんの控え目な山頂フィニッシュにも関わらず、アタックの大豊作だったのだから!

そもそもマイヨ・ロホ争いに向けた、実践テストになるだろうと予想されていた。アルベルト・コンタドール(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)もスタート前にこんな風に断言していた。「誰もがこのステージを勝ちに行くだろうし、誰もが勝ちたいはずだ」

こんなステージは、いつも通りに、逃げの形成から始まった。まずは1km地点でセルヒオ・カラスコ(アンダルシア)とドミニク・ロラン(FDJ・ビッグマット)が口火を切る。4km地点で2人のベルギー人、ニコ・セイメンス(コフィディス ルクレディアンリーニュ)とフィリップ・ジルベール(BMCレーシングチーム)が追いついた。さらに7km地点ではマルケル・イリサール(レディオシャック・ニッサン)、アンドレイ・ゼイツ(アスタナ プロチーム)、ピム・リヒハルト(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)、クリストフ・リブロン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)の4人が合流。こうして8人に膨れ上がったエスケープ集団は、最大4分半のリードを奪って先を急いだ。

もちろんジルベールという危険人物が紛れ込んでいた先頭集団を、マイヨ・ロハ擁するモヴィスターが見逃すわけはない。なにしろ2011年世界ランキングナンバーワンと総合首位ヨナタン・カストロビエホとのタイム差はわずかに10秒。モヴィスターは全員で隊列を組み、1日中タイム差コントロールに明け暮れた。それでもステージ終盤の2つの中間ポイントでジルベールが2秒+6秒=8秒のボーナスタイムを手に入れ、首位までついに2秒差に迫ったこともあったが……。2つ目の中間ポイント直後に、ジルベールを含む全ての逃げ集団はきっちりと回収された。

吸収前から総合勢の熾烈な戦いは始まっていた。スカイ プロサイクリングがモヴィスターから主導権をもぎ取り、チーム サクソバンク・ティンコフバンクも前線へと競り上がった。スカイのクリス・フルームとサクソのアルベルト・コンタドールが、互いに警戒し、睨み合った。さらにゴール前7.1km、ニキ・テルプストラ(オメガファルマ・クイックステップ)が試みた軽い飛び出しが、スカイとサクソの加速合戦に拍車をかけた。つい数キロ前まで大きな塊だったプロトンは、あっという間に細く長くなり、ついには切れ切れになっていった。

最後の峠に入るとマイヨ・ロホがたまらず落ち、昨大会マイヨ・ロホのフアンホセ・コーボ(モヴィスター チーム)さえも脱落して行った。2人の守るべきチームメートが一気に消えてしまったからなのかだろうか。ゴール前4.5km、アレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)が攻撃に転じた。

……と、コンタドールがはじかれたように飛び出した!3大ツール全制覇の王者のカウンターアタックに、すかさず反応できたのはバルベルデとホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)だけ。フルームは一瞬出遅れた。ただし、すぐに前を行く3人をとらえた。コンタドールの勢いはなおも留まることを知らない。続いてゴール前4.2kmで、さらに3.4km、2.7km、2.4km、1.2kmと畳みかけるようにお馴染みのダンシングスタイルを繰り返す。最初のカウンターアタックと、ゴール前800mの小さなスピードアップを含むと、加速はなんと全部で7回!

そしていずれのアタックも、ついていけたのは前述の3人だけ。しかもロドリゲスとバルベルデが瞬時に張り付き、フルームがじわじわマイペースで追いくという、ほぼ同じパターンが繰り返された。

「感触は良かった。脚がしっかり動いたことが、一番大切なこと。それにボクが元気の良いところを証明することができた。この『テスト』には満足している。たしかにステージ勝利は取れなかったし、タイム差もほとんどつけられなかったけれどね」(アルベルト・コンタドール)

そうなのだ。執拗に加速を繰り返したのにも関わらず、コンタドールは3人を振りほどくことができなかった。またその他の有力選手たちに関しても、ゴールではわずか6秒しか突き放すことができなかった。「最終峠の前に難しい峠があったわけじゃないから、ほかの選手たちもまだまだ元気だったんじゃないのかな」と本人は分析する。しかし、ステージ勝利どころか、結局はボーナスタイムさえも手に入れることができなかったのだ。

「ステージのプロファイルはよく分かっていたんだ。特に最終盤は!」と語るロドリゲスが、ライバルたちを出し抜いて、ラスト500mのカーブへと先頭で切り込んだ。「最後にカーブがあることはよく分かっていたけれど、かれこれ3年この山でレースをしていなかったから」と言うバルベルデも後に従った。ほんの数週間前に急遽出場を決めたせいで、当然下見などしていない、そんなバルベルデの過去の記憶によれば「普通ならば最終コーナーを真っ先に曲がった選手が、ステージを勝つはずだったんだけど」

しかし勝ったのは、2番目にカーブを曲がったバルベルデだった。極々僅差でロドリゲスを出し抜いて。

「勝利をこの手にほぼつかんだと思ったのに。自分自身に対して腹立たしい思いだ。パーフェクトに位置取りしていた。でもゴールラインの5m手前で、ペダルをこぐのを止めてしまった。だからバルベルデにも追い越されてしまった。ボクが弱いから負けたんじゃない。ボクがバカだから負けたんだ」(ホアキン・ロドリゲス)

失意にくれるロドリゲスの背後では、フルームが3番目に、そしてコンタドールが4番目にフィニッシュラインを通過した。フルームが当然のようにボーナスタイム4秒を獲得した。もちろん12秒のボーナスタイムを手に入れたバルベルデが、総合首位に躍進した。。2009年のマドリードで総合優勝を祝ったときはマイヨ・オロ=ゴールデン・ジャージだったから、バルベルデにとっては生まれて初めてのマイヨ・ロホだ!またロドリゲスは8秒のボーナスタイムと共に、総合3位・19秒差へ浮上。フルームは20秒差の総合4位、コンタドールは24秒差の総合5位につけた。

赤いジャージと共に、緑のポイント賞ジャージと、純白の複合賞ジャージさえもバルベルデが独占した。ただ山岳ジャージだけは、「エル・インバティド=無敵男」の手を逃れた。エスケープに乗って3つの峠を先頭通過したリヒハルトが、青玉ジャージをいそいそと着込んだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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