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分断の試みと、それに伴う落車が、レースの流れを大きく変えた。後には取り残された者の怒りと、失望が残された。首謀者に抗議にさえ出かけた。ただしルールブックには何ひとつ抵触していない。結果が変わることはない。
スタート直後に逃げ集団が出来上がると、しばらくは、むしろ退屈な時間が流れた。サイモン・クラーク(オリカ グリーンエッジ)、トニー・マルティン(オメガファルマ・クイックステップ)、ルイス・マテマルドネス(コフィディス ルクレディアンリーニュ)、ヘスス・ロセンド(アンダルシア)、アッサン・バザイエフ(アスタナ プロチーム)の5人は、非常に快調にリードを開いて行った。エスケープ集団内で総合タイムトップ(3分36秒差)のマテマルドネスは、あっという間に「暫定」マイヨ・ロホへと駆け上がった。しかもゴールまで50kmほどに迫っても、後方とのタイム差は13分もあり……。逃げ切り勝利はもちろん、思いがけないマイヨ・ロホ交替劇さえも大いに期待された。
その赤いジャージを1日目から守り続けてきたモヴィスター チームは、この日はアレハンドロ・バルベルデを保護するために、プロトン前方で隊列を組んでいた。ところが補給地点を過ぎても、タイム差は縮まるどころか開いていくばかり。こんなグズグズした展開に、スカイ プロサイクリングは自らで動くことを決意したと言う。こうしてじわじわと集団前方へと競り上がり、追走体制を整えた。
そしてゴール前約30km。ちょうど頃合よく横風も吹いていた……その時だ。スカイのフアンアントニオ・フレチャとイアン・スタナードが、突如として猛烈な加速を切った。急激なスピードの切り替えに、プロトン全体が慌てふためいた。そして集団の前から10番目程度で、落車が発生。地面に横たわる数人のリクイガス・キャノンデールやチーム サクソバンク・ティンコフバンクのジャージと共に、そこにはマイヨ・ロホの姿があった!
アルベルト・コンタドール(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)はこう証言する。
「ボクはモヴィスターのすぐ後ろに位置していた。突然スカイが右側でスプリントを切った。すぐにモヴィスターのアシストたちは『前に行け』と叫んだ。そして、落車が起こったんだ。ボクの左側ではチームメートが落車した。バイクが脚に触れたけど、本当に幸いなことにボクは転ばなかった」
「リーダージャージが不測のハプニングに襲われた場合は、待つべし」という不文律が自転車界にはある……と言われている。しかしスカイは、待たなかった。理由は「すでにアタックの行為に入っていたから」であり、しかもチームのリュングクヴィスト監督の談話にによれば「バルベルデが遅れていると分かったときには、すでに50秒ほどタイム差がついていたから」だという。この意見には、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)も同意する。
「最初はバルベルデが落車に巻き込まれたなんて、気がつかなかったんだ。ベナト・インサウスティがボクのところに来て、加速をやめてくれないか、って言われて初めて気がついたんだよ」
なによりスカイの加速は、あっという間にプロトンを分断した。強い横風の中、見事に4つの斜め隊列が出来上がった。はるか後方に取り残されたバルベルデは、チームメートと共に必死の追走を余儀
当然のように逃げ集団との距離も、みるみるうちに縮まって行く。ほんの少し前までは余裕で逃げ切り可能だと思われていたのに、全長13.5kmの最終峠に入る頃には、5人のリードはわずか4分にまで縮まっていた。その峠の入り口で、すぐに先頭集団は加速合戦へと移行した。するとマイヨ・ロホに一番近いはずのマテマルドネスがあっさりと脱落した。さらに個人タイムトライアル世界チャンピオンのマルティンが畳み掛けるように幾度か力強くペダルを踏み込むと、しがみ付くことができたのは元団体追い抜きジュニア世界チャンピオン(マシュー・ゴスと共に)のクラークだけだった。
2人になったマルティンとクラークは、背後から追いかけてくる強豪たちを振り払うために、協力し合って先を続けた。それこそ最後の1kmのアーチをくぐる直前まで。ラスト1kmに入るとスプリント力のないマルティンが、加速したり、減速したり、後ろを振り返ったり、蛇行したり……と様々な努力を繰り返した。ゴール前300mで真っ先にロングスプリントを切ったのもマルティンだった。
「ここ2ヶ月はスプリントゴールに重点をおいた練習を積んできたんだ。だからマルティンが先頭でラストコーナーに入るよう、上手く画策することができた。それから300mでマルティンが加速を切ったけれど、ちょっと長かったよね。ボクはギリギリまで待って、そして彼を追い抜いたんだ」
26歳にして初めてのグランツールを戦うクラークが、初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。ちなみに2008年に豪コンチネンタルチームの一員としてツアー・オブ・ジャパンに出場し、区間1勝を上げているが、本人の言によれば「4年前にプロ入りして以来、初めてのプロ勝利!」。もちろん今季誕生した祖国オーストラリアチームのオリカ グリーンエッジにとっても、嬉しいブエルタ初勝利となった。
クラークが山頂で両手を天につき上げてからわずか55秒後。つい数十キロ前までは13分も後ろにいたメイン集団の、最初の一団がフィニッシュラインへとたどり着いた。マルコス・ガルシア(カハルラル)が勝利を信じて歓喜のジェスチャー……を見せたのはお愛嬌として、共にゴールした選手の中にはニコラス・ロッシュ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)の姿があった。そしてこのロッシュこそ、ゴールの10km手前で、コンタドールがアタックを仕掛けたときに、上手く波に乗った1人だ。
一時は1分15秒ほどもライバルたちから遅れを取ったバルベルデは、山に入ると、自力で驚異的な追い上げをおこなった。脱落選手をどんどん追い越し、ついにはメイン集団のお尻が見え始めた。あと17秒にまで、迫ったその時だった。数選手と共に、ダニエル・ナバーロ(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)が飛び出した。コンタドールの山岳アシストの攻撃に、当然、集団スピードは上昇する。さらにはゴール前10kmを示すアーチの手前で、今度はコンタドールがアタックをかけた。「ロドリゲスが苦しそうだ」と感じたからだった。こうしてバルベルデは、合流のチャンスを完全に失ってしまうことになる。
このコンタドールのイニシアチヴに、付いてこれたのが前述のロッシュと、クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)。そしてナバーロを合わせて4人の集団は、ロドリゲスのいる集団を突き放そうと試みた。しかし前日の最終峠とは違って、この日の峠は「勾配が緩すぎたし、風もきつかった(コンタドール)」。だから前日は繰りかえしアタックを仕掛けたコンタドールだったが、今回は3kmほどでトライを放棄した。「たった数秒を稼ぐために、力を使いすぎてはならない」と。
コンタドールとフルームは静かに引き下がったが、ロッシュはその数秒を稼ぐために先を続けた。来季サクソバンクへの移籍が決まっているロッシュにとって、リーダーとして思い切りグランツールを走れるチャンスは、しばらくやって来ないかもしれないからだ……。幸いにもガルシアを含む4選手が後ろから合流してきたおかげで、最終的には強豪集団から9秒のリードを奪うことに成功した。総合順位も11位から8位へジャンプアップさせた。
少しだけ攻撃的に走ったコンタドールとフルームは、最終的にはロドリゲスや他の有力選手たちと共に山頂へたどり着いた。中には前日50秒もの遅れを喫したディフェンディングチャンピオン、フアンホセ・コーボ(モヴィスター チーム)の姿もあった。イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)はタイムを失った(表彰台ライバルから30秒)。とうとう最後まで追いつけなかったバルベルデは、前日区間勝利を競い合ったロドリゲスから54秒遅れてフィニッシュラインを越えた。
そして前日「バカな負け方」をしたロドリゲスが、この日、マイヨ・ロホのご褒美を手に入れた。フルームがわずか1秒差で総合2位、コンタドールが5秒差で3位と続く。ラボバンク サイクリングチームの2本柱、バウク・モレッマとロバート・ヘーシンクは9秒遅れでそれぞれ4位と5位。バルベルデはわずか1日でリーダージャージを脱ぎ、36秒差の総合9位へと陥落してしまった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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