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前日のマイヨ・ロホ置き去り事件は、ちょっとした議論を巻き起こした。ただしスカイ プロサイクリングが主張を変えるはずもなく、しかも最大の犠牲者であるアレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)が「昨日のことは過ぎたこと」と対話を打ち切った。
2日連続の厳しい山頂フィニッシュの戦いも終わり、打って変わって今ステージは21km×8周のフラット周回ステージ。激しくやりあった総合勢はもちろん、苦手な山で脚を使ったスプリンターたちも、この日は、せめて前半くらいは静かな時間を過ごしたい……と心底考えていたに違いない。だからスタート直後に飛び出したハビエル・チャコン(アンダルシア)を、そのままノーリアクションで送り出した。誰も動かず、誰も追わず。
すでに第2ステージで逃げを打ち、わずか1日ながら山岳賞と複合賞のリーダーにも立ったチャコンは、おかげでとログローニョの観客に存在をたっぷりアピールすることができた。タイム差も最大11分40秒まで突き放した。残念ながら山岳ポイントはなかったけれど、ステージ途中に2ヵ所設けられていた中間ポイントをいずれも先頭で通過した。敢闘賞ももらった。賞金も中間ポイント(135ユーロ×2回)+敢闘賞(200ユーロ)で470ユーロ(日本円で約4万7000円)を獲得!
プロトンも、逃げ選手がたったの1人だけだったおかげで、スタート直後の序盤1時間は時速30.7kmというのんびりムードでペダルを回した。ちょうど半分の4周目を走り終えた頃から、ようやく徐々に追走の手を強めて行った。とりわけ第2ステージにジョン・デゲンコルブを勝たせたチーム アルゴス・シマノが、中心になって隊列を率いた。
「予想よりも楽なステージになったね。大集団のエスケープは、絶対に避けなければならなかった。最大でも4人か5人の逃げに食い止めなきゃならない、と朝のミーティングで指示されていた。でも蓋を開けてみれば、たったの1人だったからね!」(ジョン・デゲンコルブ)
統制の取れたスピードアップで、着実にタイム差は縮まって行く。特筆すべき動きがあったとしたら、残り3周のフィニッシュライン手前に設けられた、2つ目の中間ポイント直前のことだろう。ガティス・スムクリス(カチューシャ チーム)が突如としてプロトンから飛び出したのだ。ただしアタック……ではなく、中間ポイントで2位通過を確実に果たすため。ボーナスタイム4秒を「潰すため」。なにしろマイヨ・ロホを身にまとうリーダーのホアキン・ロドリゲスと、2位クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)とのタイム差はわずか1秒差でしかない。もしもの事態を恐れての先制攻撃だった。エリア・ヴィヴィアーニ(リクイガス・キャノンデール)が3位通過を果たしたため、幸いにも、カチューシャの心配も杞憂に終わった。
大小スプリンターを擁する複数のチームが加速に加わったおかげで、最終周に入る前に、ゴール前28.5kmでチャコンの逃げは終止符が打たれた。吸収が完了すると、各チームは激しい先頭ポジション争いに集中した。予想外のアクシデントを避けるために、総合有力選手を抱えるチームも積極的に前にでた。ラスト4.5kmからは7つのロータリーとカーブが待ち構えていたが、スプリンターにとって幸いにもアタックは起こらず、あらゆる選手にとって幸いなことに集団落車も起こらなかった。つまり、パーフェクトな状態で、集団はゴールスプリントへと雪崩れ込んだ。
土井雪広はもちろん、中国人として初のグランツールを走るジ・チェンを含むチーム総動員で働いてきたアルゴス・シマノのトレインに、ロット・ベリソル、オメガファルマ・クイックステップ、リクイガス・キャノンデール、オリカ グリーンエッジ等々、複数のチームが張り合った。とりわけ最後の数キロは、レディオシャック・ニッサンが主導権を奪いとった。それでもラスト500mで、デゲンコルブを背中に引き連れたアルゴス・シマノの最終発射台が、先頭の座を取り戻し……。フィニッシュラインまで250m。しかし真っ先にスプリントを切ったのは、レディオシャック・ニッサンのダニエーレ・ベンナーティ!
約1ヵ月後に32歳になるベテランは、ちょうど1年前のブエルタで3年ぶりのグランツール区間勝利を上げたものの、どうやら、いまだかつての勢いを取り戻してはいなかった。シャンゼリゼとマドリードで両手を上げた経験を持つ“ビッグネーム”を、23歳の若き俊足は、するりと追い越した。3日前にグランツール区間初勝利を上げたばかりだというのに、早くも2勝目を手に入れた。
「簡単な勝利に見えたかもしれないけど、そんなものは絶対にあり得ない。去年はドーフィネでエドヴァルド・ボアッソンハーゲンを倒した。その時にビッグネームを倒す味をしめたんだよ。今日はベンナーティだ!」
また3日前にはポイント賞ジャージを着込んだものの、わずか1日で失ってしまった。今回またしても緑色のマイヨを手渡されたが……?
「グランツールのポイント賞ジャージを勝ち取ることは、やっぱり夢だよ。でも、今大会の目標に定めてしまうには、まだ早すぎる。なにしろ山が多いから。もちろん、この先はポイント獲得を目指して走っていく。このマイヨ・プントスのために闘う」
マイヨ・ロホを巡る闘いは、さっそく翌第6ステージから再開する。首位ロドリゲスから総合5位までのタイム差は9秒、10位までは46秒。1分以内に17選手がひしめいている状態だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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