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大会3度目の山頂フィニッシュに向けて、開幕以来始めて、スタート直後にはほんの少しだけ攻撃と吸収が繰り返された。それでも12kmを過ぎたころ、5人に逃げが許された。
スペインにて、オランダ語を話すエスケープ集団が出来上がった(フラマン語はオランダ語の方言のひとつ)。つまりマルティン・マースカント(ガーミン・シャープ)、ヨースト・ファンレイエン(ロット・ベリソル チーム)、ピーター・ウェーニング(オリカ グリーンエッジ)のオランダ人3人と、クリストフ・ヴァンデワール(オメガファルマ・クイックステップ)、トーマス・デヘント(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)のベルギー・フランドル人の2人が、3〜4分のタイム差をキープしながら長い逃げを続けた。
「5人で3分程度のタイム差しか開けなかったから、ジロのステルヴィオステージと同じことができるとは信じていなかった」
5月のイタリア一周で最終日前日に見事な逃げを実現させ、総合表彰台をかっさらったデヘントは、あらかじめ悟っていた。それでも「ジロのボクが150%なら、今のボクは100%」と語る新婚さんは、逃げ集団の中で最後まで驚異的な粘りを見せた。ゴール前18km、3級オロエル峠の上りで、エスケープの仲間たちを置き去りにして。
ただしメイン集団はすでに、わずか45秒後ろに迫っていた。ほんの10kmほど前までは、それでも3分近いリードを保っていた。マイヨ・ロホのホアキン・ロドリゲス擁するカチューシャ チームが、じわり、じわりとタイム差を縮めにかかっていた。ところがゴール前30km。チーム サクソバンク・ティンコフバンクの4選手が、突如として集団の前方に競りあがった。さらには、とてつもない加速を始めてしまったのだ。10kmでタイムを2分も縮めてしまうほどの勢いだった。
アルベルト・コンタドールとサクソボーイズたちの目的とは。最終峠突入前にライバルたちの体力をそぎ落としたかったのだろうか(第3ステージゴール後に「最終峠の前に厳しい山がなかったから、ライバルたちは元気がよかったに違いない」と語っている)。それとも、オロエル峠からのひどく危険な下りで、クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)を千切ろうと企てたのか。とにもかくにも、サクソバンクの猛進は下りが終わるまで続いた。そして13のヘアピンカーブが待ち受ける最終峠への突入前に、デヘントの果敢な逃げも終わりを告げた。
全長3.8kmの短い山に入ると、今度はスカイが主導権をがっちりとつかむ番だった。7月のツール・ド・フランスでリッチー・ポルト+マイケル・ロジャース+フルームがブラドレー・ウィギンスのためにレースに鍵をかけてしまったように……、この日は2人のコロンビア選手、セルジオルイス・エナオモントーヤとリゴベルト・ウランがフルームを従えて、上りで高速リズムを刻みつけた。
たまらず山岳巧者イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)が落ち、総合4・5位に付けていた「ラボバンクコンビ」のバウク・モレッマとロバート・ヘーシンクが遅れだした。ラスト1kmまでしがみついていたディフェンディングチャンピオン、フアンホセ・コーボ(モヴィスター チーム)も離れて行った。
エナオがひっぱり続け、ゴール前600mでウランが畳み掛けるようにスピードを上げ、そしてラスト400m地点でフルーム自らがアタックをかけると……さらにはコンタドールの脚さえも止まってしまった!
「コンタドールの脱落には驚いた。フィニッシュまでずっと、『彼に追い越されるかもしれない』と考えていたんだ。もしかしたら、この先の難関峠に向けて体力を温存したのかな……?」
結局はコンタドールに追い越されなかったフルームは、こんな風に分析する。ただしコンタドール本人の説明によると、理由は脚の痙攣だという。
「ひどい暑さのせいで、最終峠はずっと脚の痙攣に苦しんでいたんだ。だから自分に言い聞かせ続けた。『おい、アルベルト、行けるところまでついていけ』ってね。かなり上手くやり過ごせたと思うよ。それにしても、フルームのアタックは気に入ったね。アタックや動きが活発に見られてこそ、レースは面白くなる。ボクにもチャンスが巡ってくるんだ」
そう、ツールでのフルームは、ウィギンスの最終護衛役だけに専念した。それでも思わず加速してしまい、うっかりリーダーを置きざりにしてしまいそうになったことも2回あった。だからこそ、ファンもメディアも謎の答えを知りたがっていた。「山でのフルームは、どれだけ強いのか?」。そして今ステージのアタックが、謎の一部を解き明かしてくれたのかもしれない。
とりあえず激坂に関しては――最終1kmは平均勾配10%、最大14%――、やはり「プリト」の方が一枚上手のようだった。ロドリゲスはフルームの加速に瞬時に反応すると、自慢の爆発力を生かしてラスト250mのカーブで先頭に踊り出た。ライン5m前で力を抜いたせいで、優勝を横取りされてしまった第3ステージの反省を生かして、フィニッシュラインまで全速力で駆け抜けることも忘れなかった。
「自分よりも強い選手がいるときには、頭を働かせなきゃならないんだよ。スカイとサクソバンクはすごい仕事をやってのけた。だからボクに選択肢はなかった。賢く立ち振る舞って、好タイミングが訪れるのをひたすら待ったのさ」(ホアキン・ロドリゲス)
フルームは5秒遅れで2位ゴール。「コンタドールの後ろにいたせいで、ちょっと出遅れた」というアレハンドロ・バルベルデが、10秒遅れの3位に入った)。コンタドールは19秒遅れでフィニッシュラインを越えた。もちろんフルームがロドリゲスから失ったタイムは単純に5秒ではないし、コンタドールがフルームから失ったタイムは単純に14秒ではない。なにしろロドリゲスが12秒、フルームが8秒、バルベルデが4秒のボーナスタイムを手に入れており……。
マイヨ・ロホのロドリゲスは、2位以下とのタイム差を、前日までの1秒から一気に10秒にまで広げた。つまりフルームが10秒差で総合2位につける。コンタドールの総合3位は変わらないが、タイム差は5秒から36秒へと大きく開いてしまった。「元1位」バルベルデは、9位から6位へ浮上。ただし36秒→54秒とマイヨ・ロホは遠のいた。また4位にはフルームの守護神ウランが割り込み、前日まで4位だったモレッマは8位へ陥落。ヘーシンクは5位をキープしている。さらに前日までは1分以内に17人がひしめいていたが、一気に6人にまで削られている。
総合勢にとって次の勝負地は2日後のアンドラゴール。ピレネー山脈の小国に暮らすロドリゲスは、「アンドラでもマイヨ・ロホを着たい!」と意気込んでいる。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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