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第2ステージで頭角を現した四天王が、大会1週目を終えた今ステージでも、圧倒的な優位を見せ付けた。マドリードでのマイヨ・ロホ争いは、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)、クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)、アルベルト・コンタドール(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)、アレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)に絞り込まれたと。
すでに3つの山頂フィニッシュを終えていた今ブエルタだが、この日は、大会初めての「本格的な難関山岳フィニッシュ」との呼び声が高かった。だからこそ上位4人が所属するチームは、スタート直後から、逃げ集団の厳選に余念がなかった。
ゼロkm地点から当然のようにアタック合戦は開始した。しかし誰かが飛び出してはスカイが吸収し、別の集団が出来上がってはサクソバンクが追いかける。時速52.6kmという超高速で駆け抜けたレース1時間目だけで、7つの飛び出しが潰された。その後、またしても2つの企みが失敗。ようやく本日のエスケープ集団が出来上がったのは、スタートから75km地点。延々1時間ものおいかけっこの後だった。
逃げに乗ったのは6選手。スタート直後から何度もトライを続けたキャメロン・メイヤー(オリカ グリーンエッジ)に、大会開幕時から何度も逃げてきたハビエル・アラメンディア(カハルラル)、さらにアマエル・モワナール(BMCレーシングチーム)、ミカエル・ビュファーズ(コフィディス ルクレディアンリーニュ)、ハビエル・ラミーレス(アンダルシア)、マルティン・ケイゼル(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)。そしてひとたび逃げが決まってしまうと、あれほど猛スピードで攻め立てていたプロトンも沈静化する。タイム差は9分半ほどまで開き、総合勢を抱えるチームたちも、次なる攻撃のために静かに態勢を整えなおした。
エスケープが出来上がって40km、つまりゴールまで約60km。スカイ列車が、いよいよギアチェンジ。追走モードに切り替わった。ほんの1ヶ月ほど前はフランスの山地で恐怖を撒き散らした黒い戦車は、スペインとフランス国境の小さな公国、アンドラでも猛威をふるった。以降、順調にタイム差は縮まって行く。ゴール前16kmにそびえる2級峠の山頂では、2分34秒差にまで差は小さくなっていた。先頭集団からはケイゼルとアラメンディアが脱落し、4選手が先を急いでいた。
全長7.2kmの最終峠コリャーダ・デ・ラ・ガリーナは、後半の4.5kmが最も厳しい。道幅は細く、細かな九十九折が重なり、勾配は最大15%まで跳ね上がる……。
この最難関ゾーンに突入するや、前方では、モワナールがたまらず千切れた。続いてビュファーズが遅れだし、ラミーレスも耐えられなくなり……、メイヤー1人になっていた。一方の後方では、ついにリッチー・ポートやリゴベルト・ウラン(いずれもスカイ プロサイクリング)が力尽き、フルームを守る傭兵もセルジオルイス・エナオモントーヤ1人だけになった。そしてスカイが刻む高速の、しかし一定のリズムをぶち壊すように、ゴール前3km、バルベルデがアタックを仕掛けた!
それは第4ステージに英国集団に置き去りにされたスペイン人の反撃だったのだろうか。前方集団からすでに遅れ始めていたスペイン人のラミーレスは、バルベルデの飛び出しを感知するや否や、最後の力を振り絞って母国のチャンピオンを牽引した。後方ではスペイン人のコンタドールやロドリゲスはあえて動かず、フルームに追走の脚を使わせた。さらにフルームが加速し、ロドリゲスとバルベルデを突き放したときは……コンタドールはフルームとの先頭交替を拒絶した!
そしてまた、4人になった。ラミーレスは思う存分ペダルを回し、落ちていった。少し距離をあけられてしまったロドリゲスを、フルームの元まで渾身の力で連れて行ったダニエル・モレーノ(カチューシャ チーム)は、役目を追えて静かに立ち去った。追いつかれたメイヤーは四天王にしばらくしがみ付いたが、残り1.5km、ついに力尽きた。選び抜かれた4人が、仲良く、敵対しながら、標高1550mの山頂へ向かって駆け上がっていく。
「4人がこうして接戦を繰り広げるおかげで、すごくエキサイティングなレースになってるよね!この先の2週間、果たしてどうなっていくのか、まるで分からない状態だ」(クリス・フルーム)
スペイン人が3人、英国人が1人。その調和を、ラスト900mでまっさきに乱したのはフルームだった。沿道に詰め掛けた熱狂的なファンをかき分けて、猫背気味で前上方へと突進する。続く800mでは、コンタドールが――この日はここまで自らイニシアチヴを決して取らなかったコンタドールが――、はねるような軽やかなダンシングスタイルでアタックを打った。
「実はそれほど絶好調というわけではなかったんだ。でも、いいパンチ力を発揮できたね」(アルベルト・コンタドール)
伸びのある加速は、3人の仲間を一気に置き去りにしてしまった。とくにフルームは、完全に脚が止まってしまう。フルームが加速し、コンタドールが脚の痙攣でストップ……という2日前とは状況が完全に逆転してしまった。一方のロドリゲスとバルベルデと言えば?
「『プリト』がこの山のことを知り尽くしていることを、十分に理解していたんだよ。だから、ロドリゲスの後ろで様子をじっとうかがった。そしてロドリゲスの加速に、ボクも張り付いた」(アレハンドロ・バルベルデ)
完全なる独走態勢に入ったコンタドールが、胸元からいよいよピストルを出そうかという、そのときだった。3年前まで同じチームでリーダーとアシストという関係にあったバルベルデとロドリゲスが、まるで2本の弓矢のように山頂フィニッシュへと向かって飛びだしてきた!そして、ゴールラインまであとわずか10m。……ギリギリの地点で、エル・ピストレロの「復活勝利」の希望を奪い去ってしまった。
「最後の数メートルは、力が足りなかった。実のところ、バルベルデが追いついてくるのは見えていたんだ。でもボクはフルームの動きだけに警戒を払って、集中し続けた。だってフルームを突き放したいと願っていたから。だから結果には満足しているんだ。それに、想像していたよりもタイム差をつけられた」(アルベルト・コンタドール)
つまりバルベルデは今大会2度目の山頂フィニッシュ勝利をつかみとり(ボーナスタイム12秒)、ロドリゲスは2位ゴールでボーナスタイム8秒を手に入れた。足元をすくわれたコンタドールは、2人と同タイムの3位ゴール。ボーナスタイムは4秒に留まった。そして4人目のフルームは、トリオから15秒遅れて山頂へとたどり着いた。
「スペシャルな日になった。マイヨ・ロホを身にまとって、大勢の観客の前で、この山を登ることができたんだから。ボクの自転車人生の中でも、指折りの素晴らしい1日だったよ。思い切り満喫できた」(ホアキン・ロドリゲス)
生活の拠点を置くアンドラ公国で、ロドリゲスはリーダージャージを守り切った。しかも翌第9ステージでは、そのステキな衣装で、生まれ故郷のバルセロナへと凱旋を果たす。2位のフルームは33秒差に後退。コンタドールは3位40秒差。そして一時は総合9位まで後退したバルベルデは、50秒差の4位へと見事に這い上がった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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