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2012年ブエルタ中日。全長39.4kmの個人タイムトライアルには、3つの小さな驚きが待っていた。その1。フレデリック・ケシアコフ(アスタナ プロチーム)が52分36秒のトップタイムでステージ優勝を手に入れたこと。その2。クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)がアルベルト・コンタドール(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)から、タイムを失ったこと。その3。ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)がマイヨ・ロホを守りきったこと。
ケシアコフの好パフォーマンス自体は、しかし、特に驚くべきことではなかった。マウンテンバイク出身選手は高い独走力に定評があるし、この6月のツール・ド・スイスでは34.3kmの個人タイムトライアルを制している。しかも、あのファビアン・カンチェッラーラ(レディオシャック・ニッサン)を2秒差で破っての大快挙だった。
「でも、やっぱりちょっと驚いているんだ。だってタイムトライアルに特化した練習はしたことがないから。ただ今日のステージは、ボクの脚質にぴったりだったね。でもコンタドールとフルームの走りを見て、区間勝利の望みをほぼ失いかけたことだってあったんだよ」(フレデリック・ケシアコフ)
13.5km地点での第1計測は、ケシアコフが16分24秒で暫定1位通過を果たしていた。それをコンタドールがあっさり2秒上回った。フルームも、ケシアコフからわずかに2秒遅れでポイントを通過した。ゴール地で成り行きを見守っていたケシアコフが、少し諦めかけてしまったとしても無理はない。
2009年ツール・ド・フランスの第18ステージ、真ん中に起伏が待ち構える40kmの個人タイムトライアルを、当時マイヨ・ジョーヌを着ていたコンタドールは制している。だから、同じように真ん中に起伏が待ち構える今ステージで、コンタドールが好走を見せるのは至極当然だった。しかも出走台を滑り降りた瞬間から、極めて攻撃的に走り始めた。第1計測ポイントから本格的な3級峠に突入すると、独特のダンシングスタイルを織り交ぜながら、さらにリズムよく駆け上がった。23.5km地点の山頂計測ポイントでは、残念ながら、ケシアコフから2秒の遅れを喰らってしまったが。
「総合を争う選手たちは、スリリングな戦いを繰り広げてきたわけだからね。それとは違って、ボクは、1週間も前からこのタイムトライアルのことだけを考えてきたんだから」(フレデリック・ケシアコフ)
ただし、山頂で失望したのは、むしろフルームのほうだったに違いない。なにしろスタート前には「コンタドールより2012年ロンドン五輪個人TT銅メダリストが有利なのではないか」、「スペイン勢を大きく突き放すのでは」との呼び声が高かった。しかし山に入ると、前を行くコンタドールとの距離がじわじわと開き始めた。それでも中腹までは、GPS計測によれば、なんとか9秒差ほどに食い止めていた。ところが山頂では、直接的ライバルとのタイム差は16秒にまで開いていた。
しかも下り……道が細く、急カーブの多い下りで、ケニア生まれの英国人はまるでスピードに乗ることができない。一方のコンタドールが、なんと「8回」も下見を行っていたおかげで、効果的なライン取りで果敢なダウンヒルを披露したというのに。
最終的にこの日のフルームvsコンタドールは、コンタドールの勝利(22秒リード)で幕を閉じた。すなわち総合では、前日までのフルーム上位(7秒差)から、コンタドール上位(15秒)へと立場を逆転したことになる。
「正直に言うと、思ったようなスピードに乗ることができずに、大いに苦しんだんだ。それでも、できる限り速く走ったんだよ。だから後悔はしていない。もっといい成績を出したかったけれど、失望はしていない」(クリス・フルーム)
対するコンタドールは「いいパフォーマンスに満足している。大切なのは成績ではなく、好感触を得られること」と、いつも通りの優等生的な答えに終始した。ただ残念なことに、ケシアコフから最終的には17秒を失って、喉から手が出るほど欲しかったはずの復帰後初勝利はまたしてもお預け。さらにはマイヨ・ロホだって、指の間からすり抜けてしまった。コンタドールとロドリゲスの前日までの総合タイム差はちょうど1分。そしてコンタドールのゴールタイム52分54秒。ロドリゲス53分53秒。つまり、わずか1秒足りなかった!
「TTはボクの得意分野じゃない。でもハードなトレーニングを積んできた。TTバイクのポジション取りをコーチが指導してくれたし、TT中の補給のやり方なんかも教えてくれた。上達が見られて、本当に嬉しい」(ホアキン・ロドリゲス)
過去2回のブエルタでは、個人タイムトライアルのせいで総合表彰台争いから放り出された。2012年ジロでは、最終日の個人タイムトライアルでマリア・ローザを失った。しかし今ブエルタのロドリゲスは、堂々とマイヨ・ロホを守り通した。つまり「the race of truth(真実のレース)」は、総合優勝候補をまるで絞り込んではくれなかった。結果として出来上がった1位ロドリゲス‐2位コンタドール‐3位フルームの三つ巴は、16秒差でひしめき合い、むしろ前よりもはるかに接戦だ。やはり好走を見せたアレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)だって、総合59秒差で、あいかわらず4番目の位置に付けている。大会後半戦は、さらに白熱した戦いが期待できそうだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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