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ついに、エスケープが勝利をつかみとった。5度目のスプリントゴール、5度目のジョン・デゲンコルブ(チーム アルゴス・シマノ)の1人勝ち……の構想は大きく覆された。前ステージ終了後にポイント賞ジャージを失ってしまったデゲンコルブの、ポイント収集にかける意気込みは凄まじかったにも関わらず。
逃げ切れそうで、逃げ切れなかったステージの翌日。それでもチャンスを信じる選手たちが、世界最大級の巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラに祈願をかけて、スタート直後から無数のアタックを巻き起こした。数人が飛び出してはマイヨ・ロホ擁するカチューシャ チームが潰しにかかり、大量の集団ができつつあればスプリンターチームが回収に向かう。追いかけっこは1時間ほど続き、42km地点でようやく7選手がグループを作り上げた。
メンバーには実力派ルーラーが揃っていた。ツール・ド・フランスで大逃げ勝利の経験を持つフアンアントニオ・フレチャ(スカイ プロサイクリング)とリーナス・ゲルデマン(レディオシャック・ニッサン)。逃げの果てに今ジロ総合3位の座を仕留めたトーマス・デヘント(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)。トラック競技出身で、数々のタイトルを手にしているキャメロン・メイヤー(オリカ グリーンエッジ、世界タイトル6個!)にスティーブ・カミングス(BMCレーシングチーム)にエリア・ヴィヴィアーニ(リクイガス・キャノンデール)。そしてなによりも、第4ステージで貴重な大逃げ勝利を決めているサイモン・クラーク(オリカ グリーンエッジ)。
前日も逃げ、そして逃げ切りに失敗したメイヤーは、ツイッターでこんな風につぶやいていた。「どうやってこのグランツールで区間を勝てるのか、サイモン・クラークに聞いてみよう」。だから同じチームの2人は、一緒に逃げ出したのだろうか!?とにかくメイヤーとクラークだけでなく、逃げ集団の全員がきっちり先頭交替の務めを果たし、協力し合って先を急いだ。
もちろん後方プロトン内では、アルゴス隊列が追走を請け負った。土井雪広も自らのブログに「まさに廃人。人生で経験したリミットを超えましたね」と綴ったほど、長時間に渡って激しい牽引が続けられた。エスケープ集団には最大でも3分50秒しかリードを許さなかった。ゴール前20kmではついに1分差に近づき、吸収も時間の問題か……と大部分の選手たちは信じたに違いない。
ところが、ここからの粘りが驚異的だった。ギリギリまで7人は協力体制を止めなかった。ルートが全くの平坦ではなく、上りや下りが織り交ぜられているのも、エスケープに味方した。後方集団ではロット・ベリソルも追走に協力し始め、ラスト10kmではなんとか30秒差にまで追い詰めた。しかしプロトン前方で、アップダウンを利用してのカウンターアタック合戦が勃発。これがスプリンターチームの隊列を大きくかき乱してしまう。デゲンコルブ自らがアタック潰しに対応する姿も見られたが……。
ゴール前6km。ここまで一致団結して働いてきたエスケープの7人が、ついに、区間勝利へと向けて自我をむき出しにした。きっかけを作ったのは、フレチャのアタックだった。スプリント勝負に持ち込めばおそらく最強だったヴィヴィアーニは、ここで早くも脱落。それ以外の5人は、一瞬顔を見合わせたせいで少々突き放されたものの、問題なく英国チームのスペイン人へと追いついた。次に仕掛けたのは米国チームの英国人だ。
「勝ちたかったら、自分でアタックする以外に選択肢はなかった。でもできる限りギリギリまで待つ必要もあったんだ」(スティーブ・カミングス)
こうして残り3.5km、カミングスが上手くライバルを出し抜いた!
「カミングスがアタックを仕掛けたとき、ボクはちょうど前を引いている状況だった。彼は絶好のタイミングで、ボクを罠にかけたのさ」(フアンアントニオ・フレチャ)
すぐさまフレチャとメイヤーが2人で追いかけたが、ほんのわずかな距離を、もはや埋めることができなかった。カミングスはたったの4秒差で逃げの友の追い上げをかわし、40秒差でプロトンを振り切った。デゲンコルブは集団内のスプリント首位=区間7位で満足するしかなかった。緑ジャージまでは7ポイント足りなかった。
「チームは今日も素晴らしい仕事をしてくれた。でも結果が出せなくて残念だ。グリーンジャージを取り戻せなかったから、なおのことがっかりしている」(ジョン・デゲンコルブ)
肩を落とす選手たちを横目に、カミングスは人生最高の勝利を味わっていた。ツールでは第17ステージの下りでひどい落車を起こし、体のあちこちに絆創膏やテーピングを巻きつけながら、なんとかシャンゼリゼまでたどり着いた。そして約1ヶ月には、生まれて初めてのグランツール区間勝利をつかみとった。
「子どものころ3大ツールをテレビで見ては、区間勝利を夢見ていたものさ。でも現実には、チームのための仕事がある。ボクが自分のために区間勝利を取りにいけるチャンスは、限られている。だからこそ、これぞキャリア最大の勝利なんだ。本当に嬉しい。ハードな1年だった。ツールの落車のせいで、ツールとブエルタの間はほとんど何もできなかった。でもブエルタの1週目を何とかやりすごせば、徐々に調子は上がっていくはずだと分かってた」(スティーブ・カミングス)
少々波乱含みだった1日を、総合表彰台を争う4人は揃って40秒遅れの集団で終えた。翌第14ステージからは、いよいよアストゥリアス難関ステージ3連戦。これまでの短い激坂は姿を消し、長く、厳しい、本物の峠が選手たちを待ち受ける。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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