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サイクル ロードレース コラム 2012年9月3日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2012 第15ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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難関山岳3連戦の中日、ブエルタ一行は伝説的コバドンガへと走り出した。今大会の激坂・山頂フィニッシュは、第4ステージ以外、全てマイヨ・ロホを争う選手たちが先を競うように奪い合ってきたものだ。前日だって、チーム サクソバンク・ティンコフバンクが逃げ形成直後から厳しいコントロールを続けた。ところが今ステージの有力者たちは、追走や区間勝利、ボーナスタイム獲得にはまるで執心しなかった。

スタート直後に大量20人が飛び出したときには、それでも逃げに選手を送り込めなかったチームが厳しく前に詰め寄った。ただその20人が半分に割れて、10人に数を減らすと、もはやプロトン内で異論を唱えるものはいなくなった。

こうしてルーベン・ペレス(エウスカルテル・エウスカディ)、ビセンテ・レイネス(ロット・ベリソル チーム)、セルゲイ・ラグティン(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)、ロイド・モンドリー(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、パブロ・ラストラス(モヴィスター チーム)、シモン・ゲシェケ(チーム アルゴス・シマノ)、ケヴィン・シールドラーエルス、アンドレイ・カシェチキン(共にアスタナ プロチーム)、そしてダビ・デラフエンテ、アントニオ・ピエドラ(ともにカハルラル)は順調にタイム差を開いて行った。奪ったリードは、ゴール前42kmで最大15分10秒!神秘の山コバドンガ――今日は幸いにも(残念ながら?)、有名な「霧」は立ち込めていなかったが――の麓でも、タイム差はいまだ13分半も残っていた。

全長13.5kmの上り坂に突入すると、10人はすぐに区間勝利へ向けた戦いを始めた。口火を切ったのはアスタナの2人。数的優位を利用してまずはカシェチキンが、続いてシールドラーエルスが畳み掛けるようにスピードを上げた。もちろん2006年ブエルタ総合3位と、2009年ジロ新人賞という危険人物の攻撃に、ライバルたちは喰らいついた。

ところがゴール前11.2km、やはり2人で逃げに乗っていたカハルラルの1人が飛び出すと、今度は誰一人として反応しなかった。アタックを打ったのは、2006年ツールのスーパー敢闘賞を取った超有名人デラフエンテ……じゃない方。無名のピエドラを、他選手たちは過小評価していたのかもしれない。慌てて数人が追いかけ始めた時には、すでにピエドラは遠くへ行ってしまった後だった。デラフエンテの潰し工作も、アシストとして効果的だった。

「上りは難しかったし、最難関ゾーンはちょっと心配だった。他の選手たちが追いついてくるんじゃないか、って怖かった。でも実際はリードは広がる一方で、ようやく『ボクは現実に勝利に向かって走っているんだ』って分かったんだ。でもまだ実感がわかないや。すごく嬉しいけれど、これが現実に起こったことだとは信じられない」(アントニオ・ピエドラ)

山頂では観客に思う存分投げキスを撒き散らし、生まれて初めてのグランツール勝利を満喫した。2008年にプロ入りして以来、ずっとスペインの小さなプロコンチネンタルチームで走ってきた。26歳のピエドラにとって、ブエルタは3度目の挑戦だった。また2010年に誕生し、今回が初めてのブエルタ出場となるカハルラルにとっては……第4ステージでマルコス・ガルシアが優勝を信じて歓喜のジェスチャーをしてしまったこともあったけれど、今回こそが正真正銘のブエルタ初勝利だった。

ピエドラのはるか後ろのメイン集団は、コバドンガの登坂口が近づくにつれて、スピードを上げて行った。特に朝から姿を潜めていたサクソバンクが、突如として5人でプロトン前方に乱入してくると、猛烈な加速を切った。さらに上り序盤、サクソボーイズは不思議な行動を取る。まずはダニエル・ナバーロが飛び出した。しばらくすると、ヘスス・エルナンデスがアタックを打った。さらにはラファル・マイカさえも、チームエースのアルベルト・コンタドールを集団に置いて前方へと走り出して行ってしまった!

「今日は調子が良くなかった。チームメートたちにアタックかけるよう命じたのは、そのせいなんだ。戦いが激化しないように、先手を打ったつもりだった」(アルベルト・コンタドール)

この奇妙な戦術にはナイロ・クインターナ(モヴィスター チーム)が対応に当たる。またイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)の数度のアタックを誘発した。総合10位アントンの飛び出しを許すまいと、6位ロバート・ヘーシンクと9位ローレンス・テンダムのラボバンク サイクリングチームがスピードを上げた。この加速のせいで、総合3位クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)が喘ぎ始めた。そのフルームと同タイム総合4位のアレハンドロ・バルベルデ(モヴィスター チーム)は、ライバルの苦しむ姿を見て、ゴール前6.3km、飛び出した。

もちろん、不調とは言いながらも、ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)と共にコンタドールはきっちり反応を見せる。ただし大切な瞬間に、前に行ったはずのサクソ山岳アシスト3人は、すでにメイン集団へと引き戻されてしまったあと。マイカだけは慌てて追いかけようともがくも、もはや力は残っていないようだった。むしろクインターナが前方に残っており、以来、ゴール直前までバルベルデを助けることになる。ちょうど前日ダニエル・モレーノが、献身的にロドリゲスに尽くしたように。

そして、やはり不調とは言いながらも、コンタドールは自らアタックに転じずにはいられなかった。いつも通り、何度となく。「コンタドールは何度アタックしたんだろう?」とロドリゲスも苦笑いしたほど。ちなみにゴール前5.5kmで1回、4.5kmで2回、3.9kmで3回、2.8kmで4回、2.3kmで5回目。1.9kmでちょっと出かかり、すぐに止めたものも含めると全部で6回だ。

「彼のアタックに応えるのはすごく苦しかったけれど、幸いにも、今日のボクは調子が良かった。抵抗することができたんだ」(ホアキン・ロドリゲス)

そう、コンタドールが飛び出すたびに、ロドリゲスは自らの脚で追いついた。しかも追いつくたびにライバルの横にピタリと並び、無言の圧力をかけることも忘れなかった。一方のバルベルデとクインターナは、ペースを崩さずに走り続けた。ときには2人の横を高速ですり抜けていったことさえあったが、むしろ、フルームからできる限りタイムを奪うために駆け引きに参加している場合ではなかったに違いない。

クインターナはラスト500mまでバルベルデの風除けとなって見事な牽引を見せた。コンタドールは6度目の試みの後は、もはや動こうとはしなかった。10人が先にゴールしていたおかげでボーナスタイムも残っていないため、ロドリゲスもラスト200mでアタック……などと体力を使う必要もなかった。バルベルデ、ロドリゲス、コンタドールは、一緒にフィニッシュラインを通過した。スペインの3人のタイム差は何も変わらなかった。つまりロドリゲスがマイヨ・ロホ、コンタドールが22秒差、バルベルデが1分41秒差。この現状維持にコンタドールは小さな失望を覚え、バルベルデはさらに気合を引き締める。

「6ヶ月もレースに出ていなかったから、思い描いているような『プラス』の力がどうも出せない。一方でホアキンはかつてないほどに調子がいい。でも今日に関して言えば、体調が良くなかったから、それほど期待もしていなかったんだ。明日はもっといい走りができるよう願ってる。いずれにせよ、最後の1mまでトライを続けるまでだ」(アルベルト・コンタドール)

「アルベルトとプリトは互いに攻撃しあっていたけれど、ボクは自分のリズムを守り続けた。おかげで現時点では、ボクがマドリード表彰台に上れる場所にいる。でもこの先まだ何が起こるか分からないよ?フルームが表彰台から完全にずり落ちたとは、絶対に言えないんだ」(アレハンドロ・バルベルデ)

ロンドン五輪ロード銀メダリストのリゴベルト・ウランの必死の仕事にも関わらず、五輪個人TT銅メダリストのフルームは、バルベルデから35秒遅れで山頂へとたどり着いた。総合では4位に陥落。ツール・ド・フランスの疲れが、いよいよ英国人の体を蝕み始めたのだろうか。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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